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『しーちゃんと記憶の図書館』第106話

忘れかけたパレット



展覧会の絵を見つめて、

一人の老婦人が立ち止まっていた。



白髪をきちんとまとめ、

ベージュの帽子をかぶっている。



「……この色の置き方、懐かしいわ」

小さくつぶやくと、

目が遠くを見ているようになった。



しーちゃんがそっと近づき、

声をかけた。


「絵を描かれていたんですか?」



老婦人はゆっくりとうなずいた。

「ええ、若いころ、友達と毎週スケッチをしていました。

 でも、結婚して引っ越して……

 気づいたら、パレットも筆も手放していたの」



その“友達”の名前を口にした瞬間、

老婦人の声が少し震えた。



「もう何十年も会っていないけれど……

 あの人、まだ描いているかしら」



しーちゃんは、図書館の奥を指さした。

「もしかしたら、ここに手がかりがあるかもしれません」



奥の棚には、古いスケッチ帳や作品集が眠っていた。

老婦人はその中から一冊を手に取り、

震える指でページをめくった。



そこには、かつての友のサインと、

あの日と同じ空の色が描かれていた。



老婦人の目から、

一筋の涙が静かにこぼれ落ちた。


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