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『しーちゃんと記憶の図書館』第123話
もうひとつのかけら
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港町の瓶が展示されてから数日後。
図書館に、ひとりの青年が訪れた。
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背中には、くたびれたリュック。
手には、小さな缶の箱を持っていた。
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「これ……置かせてもらえませんか?」
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しーちゃんが箱を受け取ると、
中には、小さな写真が一枚と、
くしゃくしゃになった切符が入っていた。
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「これ、祖父が若い頃に乗った夜行列車の切符なんです。
話を聞くと、あの旅が人生で一番の宝物だったって……」
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青年は少し照れながら続けた。
「でも祖父は、もうその話をする相手がいないんです。
だから、ここに置いたら、誰かの物語と出会える気がして」
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しーちゃんは、静かにうなずいた。
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その日から、瓶の隣に缶が置かれた。
名札には**「もうひとつのかけら」**と書かれていた。
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二つの小さな容れ物は、
まるで寄り添うように並び、
訪れる人の心に静かな波紋を広げていった。