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『しーちゃんと記憶の図書館』第114話
色と光の手紙
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女子生徒は、丘で描いた絵をそっと図書館に持ち帰った。
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しーちゃんはその絵を見て、
一瞬だけ息をのんだ。
「……この色、知っているわ」
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絵の奥には、
柔らかな金色の光が差し込んでいる。
それは、かつて図書館に寄贈された
古い水彩画とそっくりだった。
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翌日、女子生徒は丘で出会った男性を連れてきた。
男性は、その古い絵を見て静かに頷いた。
「これは……友の絵です。
若い頃、二人でこの丘を何度も描きました」
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友はもうこの世にいない。
でも、その色と光は、別の手を通じて
再びキャンバスに戻ってきたのだ。
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しーちゃんは二枚の絵を並べて展示した。
タイトルは── 「色と光の手紙」。
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訪れた人々は、
二つの時代を行き来するような不思議な温かさを感じていた。
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「言葉じゃなくても、想いは届くんだね」
ある少年がそうつぶやき、
展示室は静かに微笑みで満ちていった。