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『しーちゃんと記憶の図書館』第105話
クレヨンの小さな展覧会
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女の子が描きためた絵が、
いつの間にかスケッチブックのページをいっぱいにしていた。
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クマ、ウサギ、ゾウ、
そして見たことのない空色のトリ。
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しーちゃんはそのページを一枚ずつ眺め、
ふっと思いついた。
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「これ、みんなにも見てもらおうか」
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女の子の目がまんまるになった。
「……私の絵を?」
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数日後、図書館の一角に
色とりどりの絵が並んだ。
棚の上には「クレヨンの小さな展覧会」の札。
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訪れた人たちは、
「かわいいね」「この色、きれい!」と足を止めた。
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青年もやってきて、
自分の父のスケッチブックと女の子の絵が
並んでいるのを見て、静かに笑った。
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「父さん、また新しい画家がここで育ってるよ」
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夕方、女の子はしーちゃんに言った。
「ありがとう。わたし、これからもずっと描く」
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その言葉は、
小さな展覧会の一番の宝物になった。