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可愛い女の子?

 受け取った思いをしっかりと胸に抱けば、ダリオはくるりと振り返ってさっぱりと笑う。


「ま、こうなったからには我も引き続き力を貸してやろう。最強師弟タッグの結成だな、シオン?」

「えっ? いや、むしろ師匠は大人しくしててもらえると助かるんですが……?」

「だはは、そう遠慮するな! ともあれそういうわけで……」


 素でうろたえるシオンをよそに、ダリオは己の襟に手を掛ける。

 そうしてあろうことか、服を勢いよく脱ぎ捨てた。

 スカートもブーツも、何もかも。残ったのはトレードマークの髪飾りと――。


「退屈なシリアスパートは終了だ! 我もひと泳ぎするぞ!」

「ひえっ……!?」


 シオンは悲鳴に近い声を上げてしまう。

 何しろダリオの格好がほぼ裸だったからだ。

 その滑らかな肌を守るのは、ヒモにしか見えないギリギリの水着である。


「言いたいことは山ほどありますけど……その水着、さっき俺が燃やしたはずですけど!?」

「ふふん、こんなこともあろうかと二着買っておいて正解だったな」

「なんでよりにもよってそれを!? まだレティシアの水着の方がマシじゃないですか!」

「何を言う、我の玉体だぞ? しまい込む方がこの世の損失だろう」

「自意識がのびのびと育ちすぎている……!」


 ここまで来るといっそ清々しい。

 しかし、それを見せつけられる方としては堪ったものではなかった。

 顔を覆うシオンをつんつんしつつ、ダリオは意地の悪い笑みを浮かべてみせる。


「くっくっく。おまえは弟子ゆえ、特別に拝観料は取らずにいてやる。存分に鑑賞するがいいぞ」

「ぐうっ……無茶言わないでくださいよ!?」


 その自信に裏打ちされるダリオの体は、たしかに芸術的と呼んでいいだろう。

 胸は両手で収まりきらないほど大きいし、すらりと長い手足は見る者を圧倒する。しなやかな体つきは磨き抜かれた宝石を思わせる。柔らかそうだし、すべすべしてそうだ。


 レティシアもすごかったが、ダリオは輪を掛けてすごい。

 完全にシオンのキャパシティを超えていた。真っ赤な顔で叫ぶしかない。


「師匠、ワガママで横暴だし無神経ですけど……見た目はめちゃくちゃ可愛い女の子なんですから! 直視できるわけないです!」

「は……?」

「へ?」


 ダリオがぽかんと目を丸くして黙り込む。

 そこで、シオンははたと気付いた。


(うん……? 今の俺、相当酷いこと言わなかったか……!?)


 ちょっとは褒めたが、大部分は悪口だ。

 追い詰められたせいで、思わず本音がこぼれてしまったようだ。

 それに気付いた瞬間、シオンは地面に額が付くほど頭を下げた。


「す、すみません! 弟子の分際で失礼なこと言いました! 今のはなかったことに――」

「……う」


 その命乞いを遮ったのは、か細い声だった。

 シオンは恐る恐る顔を上げる。そうして言葉を失うはめになった。


「うっ……ううううう……!」

「……は?」


 ダリオが顔を真っ赤にして固まっていたからだ。

 それはどこからどう見ても、花も恥じらう乙女といった有様で。

 もちろんそんな師の姿は初めて目にする。シオンもまた無言で固まるしかない。


 しばし師弟は無言で睨み合った。やがて獣の遠鳴きが風に乗って運ばれてきて――ダリオがしゅたっと動いてシオンの肩をばしばしと叩きはじめる。


「わ……わははははは! やはり汝は我が弟子よ! 我の本性を知った上で『可愛い』などとほざいた男、これまで皆無であったぞ! さすがの命知らずだなあ! 恐れ入ったわ! わはははははっ、がふっ、げふがはごほぉっっっ!」

「ちょっ、大丈夫ですか師匠」

「うぐっ……さ、触るな! 弟子の分際で!」


 大声でまくし立てたせいで、ダリオが勢いよく噎せる。

 その背をさすろうとシオンは手を伸ばしたものの、ばしっと弾かれた。

 ダリオはそのまま思いっきり顔を背け、ずかずかと泉へ入っていく。


「あーあ、暇だなあ! よし、我もボール遊びに興じるとするか! レティシアよ、ともに清らかな汗を流そうではないか!」

「わっ、お師匠さんも修行ですか? ぜひぜひご一緒させてください!」


 レティシアは満面の笑みを浮かべてダリオを迎える。

 こうして、際どい水着の女子ふたりがきゃっきゃと水遊びにふけることとなった。

 泉のほとりにひとり残されて、シオンは目を瞬かせるしかない。


「えっ、何だったんだ今の……」


 あんな反応は初めて見た。

 豪放磊落な傑物はあそこにいなかった。あれではまるで普通の女の子のようで――。


「……うん?」


 と、そこまで考えてシオンは首をひねる。

 森の奥から、かすかな声が聞こえてきたのだ。しかも複数。

 それが妙に気になって、泉のふたりへ声をかけた。


「師匠ー。俺、ちょっと向こうを見てきます。レティシアのこと頼みますね」

「お、おう、任せておけ。ついでにその辺で果物をもいでくるがいい」

「行ってらっしゃい、シオンく――きゃうっ!」

「き、気を付けてね……?」


 ボールを顔面で受けたレティシアに見送られ、シオンは森の中を歩く。

 森の中は静かだ。おかげで声の方角が分かりやすく、まっすぐそちらを目指す。

 しかし、とある木立の裏でシオンはふと足を止めた。

 その場にしゃがみこみ、目をこらして地面をじっと見つめる。


「これって……狼の足跡か?」


 よく見れば、周囲には獣の痕跡がぽつぽつと刻まれていた。

 普通の生物ではない。明らかに魔物の大きさだ。足跡はまだ真新しく、下手をするとまだこの近辺をうろついている可能性すらあった。

続きは明日更新します。

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