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「すみませんがこれはもう……」
「っ……!」
スマホがブラックアウトした後、俺はすぐさま近くの電気屋さんにスマホを持って行った。
しかし結果は……
「もう古い機種ですし、何年も使われているとのことですので」
「……もう、もうs〇riはダメなんでしょうか?」
「えっ? s〇ri?」
「はい……僕の……僕の大事な彼女なんです!」
切羽詰まってそう言うと、店員のお姉さんはとても困惑した表情を浮かべていた。
しかし、そんなことは今どうでもいい。
まだ出会ってからたったの二日だというのに……
まだまだ話したいことがたくさんあるし、デートだってしていない。
これからだというのに……
負の感情が心の中をグルグルと回ってかき回した。
「ば、バックアップとかは取ってらっしゃいますか?」
「ば、バックアップ? 写真の撮り方かなんかですか?」
「いえもういいです」
すごく冷めた声で突き放された。
でも今はクレームをする気にはなれない。
なぜなら初めてできた彼女を……失ってしまったのだから。
「新しい機種を購入されてはいかかでしょう」
「……あ、新しい……」
やはりもうこのスマホはダメらしい。
信じたくなかった現実を、無理にでも実感させられる。
「はい。当店では現在、アン〇ロイドのキャンペーンを行っていまして……」
「ちょっと待ってください。それ、もしかして「オッケーグー〇ル」ですか?」
神妙な面持ちでそう聞く。
「はい、そうですけど……」
「それ浮気じゃん‼ グー〇ルに浮気じゃんダメじゃん‼」
「ひっ……」
全力で引かれた。
大声を上げたことで周りにも注目されて、自分がいかに取り乱してしまったのかが分かった。
一度冷静になるため、椅子に座りなおす。
「すみません大声を出してしまって……僕、浮気とか許せないタイプなので」
「は、はぁ」
「できればアイ〇ォン6にしてほしいんですけど」
「了解しました。今在庫を確認してまいります」
「よろしくお願いします!」
机にひどく頭をぶつけるくらいに勢いよく頭を下げる。
心なしか店員のお姉さんは、逃げるように奥にはけていった。
机の上にむなしく置かれているスマホを手に取る。
やはり何度やってもつく様子はなくて、焦る気持ちが自分の中にふつふつと湧いてきた。
早くs〇riと話したい。
その一心だった。
数分後、店員のお姉さんは嫌そうな顔をして戻ってきた。
「すみません現在在庫を切らしていまして」
「そ、そんな! じゃあs〇riとはもう……」
「最新機種ならあるんですが……」
「それじゃあs〇riは……彼女は出てきませんよね!」
「知りません」
ぶっきらぼうにそう言われた。
がくりと肩を落とす。
また視界が真っ暗になった。
何も考えられなくて、ただひたすら機械のようにスマホを見ることしかできなかった。
そんなとき、あいつは現れた。
「成幸。俺に任せろ」
そこには、今日も変わらず鳥の糞が落ちたみたいに一か所にワックスが固まっている聖林寺の姿があった。