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「ヘイs〇ri。俺と結婚してくれ!」『はい、喜んで』   作者: 本町かまくら


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「聖林寺……」


「成幸。ここで話すのは時間がもったいない。とりあえずついてこい」


「ちょ、おい!」


「話は移動しながらだ」


 聖林寺に引っ張られて電気屋さんを出る。

 しばらく腕を掴まれたまま聖林寺の後について行った。


 頭の整理が少しついたところで聖林寺の手をほどいて、横に並んで歩く。


「どうしてお前があそこに?」


「いや実は俺もs〇riちゃんを探してたんだよ」


「えっ? s〇riちゃん?」


「あぁ。s〇riちゃんだ」


 何もおかしいこと言ってないよな? と言わんばかりの表情だったので、「なんでちゃん付けしてんだよ」というツッコみは胸の奥にしまっておく。

 追求しない方が良いこともある。臨機応変に、だ。


「あの時俺、s〇riちゃんに相手もされなかっただろ? それが悔しくってな」


「やっぱり響いてたのか」


 あの後授業を受けることができず、保健室で寝込むくらいだったから相当なショックを受けてると思っていたが……まさか電気屋さんに赴くまでとは思ってもいなかった。

 

「それに……お前があまりにも幸せそうだったから、羨ましくってよ」


「聖林寺……」


 照れ隠しに、聖林寺は鼻頭を触った。

 照れているときに鼻頭を触るのは、昔からの癖だ。


「でもアイ〇ォン6しか出ないんだな、s〇riちゃん」


「いや、そうとは限らないんだが……俺の勘が、これじゃないとダメだって言ってんだ」


 手の中にあるスマホに視線を向ける。

 ただのガラクタになってしまったスマホが、痛々しく目に映る。


 思わず力強くスマホを握っていた。


「そうか。実はな、俺の家電気屋なんだ」


「そうなのか⁈」


「あぁ。でも最新機種なんて親父わかんなくて置いてねーから、最新機種探しに別の電気屋行ってたんだよ。そこで、取り乱すお前を見つけたんだ」


「そう……だったのか。ってことは……」


「あぁ。お前の想像通り、俺の家の店に連れて行ってやる。アイ〇ォン6くらいたぶんうちにならあるぜ」


「っ……! 聖林寺ッ!」


「泣くんじゃねーよ。男はドンと構えるもんだ」


 また鼻頭を触った。

 普段はこんな風にイカしたセリフなんて言わなくて、下ネタか下世話な話しかしないからきっと恥ずかしいんだろう。

 

 だけど、俺には確かに響いた。

 たとえ、鳥の糞に似たものが頭にあろうとも。


「あぁそうだな」


 目に溜まった涙を拭って、駆け足で聖林寺家に向かった。




   ***




「アイ〇ォン6だぁ? ちょっと待っとれ」


「よろしくお願いしますッ‼」


 聖林寺家についた俺は、すぐに聖林寺の親父さんに在庫を確認した。

 ちらほらスマホはあって、期待が持てる。


 聖林寺に温かく見守られる中、そわそわする気持ちを落ち着かせて待つ。


 数分後、箱を持って親父さんが出てきた。


「最後の一個だったべー。ついとんなぁお前さん」


「ほ、ほんとですか⁈ ありがとうございます!」


 目の前に現れる、埃をかぶったアイ〇ォン6。

 俺にはどんな高級品よりも輝いて見えた。


 しかしここでふと思う。

 これが最後の一個だということを。


「聖林寺……」


 聖林寺も又、アイ〇ォン6という宝を求めていた。

 だけど今ここにあるのは一つだけ。

 つまりはどちらかがこれを諦めなければならない。


 それは聖林寺もわかっていて、だけど決して表情を歪ませたりしなかった。


「お前が持ってけよ、それ」


「えっ……」


「大事なもんなんだろ? 運動なんて大っ嫌いなくせに、汗かきながら走って探して……そんなお前の頑張りが、俺は報われてほしいと思うんだ」


「聖林寺ッ……!」


「なんだべこいつら」


 もはや親父さんのツッコみなど聞こえないほどに、聖林寺の勇ましい姿に感動を覚えた。

 鳥の糞も一周回ってカッコよく見えてきて、女だったら好きの五歩手前くらいには好感度を持つだろうなと、確かに思った。


「じゃあ親父さん。それください」


「あいよ。5万円頂戴すんべ」


「ん? 五万?」


「だべ」


 ……


 凍り付いた。

 俺の貯金残高は現在89円。加えて財布の中身はタイの通貨のみ。

 

 これじゃあ……買えないッ……


「親父ー」


 聖林寺が何かを親父さんに向かって投げる。

 それを中指と人差し指で挟んだ親父が、驚いた様子で聖林寺を見ていた。

 


「カードで」


 

「お、お前……」


「友の幸せのためなら、金くらい惜しくない」


「しょ、聖林寺ッ……!」


 前言撤回。大きく前言撤回だ。

 もし俺が女ならば、きっと好きになる四歩手前くらいの好感度を聖林寺に抱いたと思う。


「早くいけ」


「すまん……」


「そういうときは、ありがとうって言うもんだぜ?」


 ……聖林寺。


「あぁそうだな。ありがとう聖林寺! このご恩はいつか絶対に返す!」


 新品のスマホを持って、急いで家に向かう。

 俺たちが出会った、あの場所へ。


 あの場所だったきっと、新しくなっても出会えるような、そんな気がした。





「俺の分も、頼んだぜ」


「おいおめぇ」


「深くは聞かないでくれよ親父。今感傷に浸ってるところな——」



「12円しかねーべ。全然5万もねーべ」



「……頑張れよ、成幸」


「一年間お小遣いなしだっぺ」


「……あと俺も」


 


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― 新着の感想 ―
[一言] んん!?s〇riちゃんは!? なんてこった…
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