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第20話 出都、そして仙人との邂逅へ

都を出る朝、龍諂が馬屋に執り成しをしていた。


「聞け。馬を五十一匹、借り受ける。

 端数などの些末な銭に拘泥するな。

 我が甥がために、千里を駆ける健脚を揃えよ。

 この宮中朗である龍諂の面目を潰すような真似はせぬな?」


馬屋には申し訳ない気持ちもあったが、

正直ありがたい話であった。

俺は屯長に馬屋の支払いを任せた。


持ってきた財貨は底をついたわけではないが、

随分と身軽になっていた。


馬屋との商談に意識が割かれて気付いていなかったが、

龍諂の近くに、一人の男性が立っていた。


それは、俺が龍諂りゅうてんの子息として設定した

龍噸りゅうとんだった。

疲れていたので適当になったのを覚えている。

名前はテンの次だからトン。

体型は龍諂が細いから太く。


そんなことを考えていると、親子が俺に近づいてきた。


「阿刀、紹介しておこう。我が長子、待詔を務めておる龍噸だ。

 本日まで役目に追われ、お主を迎えることができなくてな。

 さあ、挨拶をせよ。」


「拝謁叶わず、誠に不調法いたしました。

 改めまして、それがし、龍噸にございます。

 遠路はるばる都へお越しいただいた若君を

 出迎えもできませぬ不調法、何卒御容赦くだされ。」


俺は豪族の次男として挨拶を返す。


龍噸兄上あにうえ、御丁寧な御挨拶、痛み入ります。

 公務は国の柱です、気になさらないでください。

 兄上と相いまみえ友誼を結べた事こそが天の配剤。

 兄として、これからも至らぬ私を何卒導きください。」


一通りの挨拶を終えると、龍諂が続けた。


「穆山への道中、恙なきようにな。

 峻険なる山なれど、志を高く持てば必ずや道は開けよう。

 無事に帰った暁には、再び都へ立ち寄るがよい。

 健勝を祈っておるぞ。」


俺は龍諂に感謝の言葉を述べ、都を後にした。


予算と日程の都合で編成と移動はこうなる。


俺を含めた騎馬隊五十一名。

残りの三十八名と壮は歩兵として後詰をする。


穆山麓まで馬で駆け抜けた後、

三十一名で穆山中腹の山林を目指す。


残りの二十名は、俺達が穆山から下りるまで

麓付近にある邑で馬の世話をしながら後詰と合流。


大まかな計画で、予定通りに行くかはわからない。

だが、やるしかない。


恆祥の都を北側から抜けると、そこには──


死臭と沈黙の灰土。

人の世の終わりが広がっていた。


恆祥で出た「死体」や「塵」が投棄され、

木々は薪として切り尽くされている。


疫病に罹り、都を追い出された人々は

医者不在のまま、ただ泥を啜りながら死を待つ隔離地帯。


世界の中心となり、贅と雅を尽くした恆祥で英気を養った。

だが、一つ壁を隔てれば、そこには一切の富が与えられない。


この世界は、

壁の内側に住む権利を与えられた人間と、

そうでない人間の差が激しすぎる。


もう驚きはなかった。

「ただ世界は、根元から間違っている」という確信だけがあった。


今この場にいる人々が、

俺のこの思いを聞いたら──

きっとこう言うだろう。


“親父の庇護下で何不自由なく過ごしているお前も同類だ” と。


そう考えて、俺は……

今は何もすることができない。


この目の前の、終わった世界を

ただ馬で一気に駆け抜けた。


野営や、時には道中に点在する邑で宿泊をしながら、

六十一日目──俺たちは穆山麓に辿り着いた。


予定通り、ここで隊を分けて残る兵達に馬を預ける。

俺は屯長と、屯長が選んだ兵──

俺を含めた総勢三十一名で、穆山麓にある樹海へ足を踏み入れた。


黒い針葉樹林に覆われたその場所は、

音が消える「黒の領域」。


巨大な古松の隙間を縫うように進む。

外界の情報は遮断され、

自分たちの足音だけが、湿った土に沈んでいく。


巨木の根元(樹洞)(じゅどう)や、

枝を組んだだけの即席の小屋で野営を重ねる。


辛くても──

仙人の神薬を手に入れるため。


懐に入れた双魚佩に祈りを込めながら、

俺たちは一歩ずつ、闇の奥へと進んでいった。


七十二日目──穆山中腹に着いた。


樹海を抜け、視界が開けた瞬間、

現れたのは天を突く白銀の絶壁。


氷の世界は、絶えず声をかけあわなければ

意識が遠のいてしまうほどの極寒。


野営は、雪を壁にして耐える岩陰の小穴。


そして──八十一日目。


中腹の山林へ一歩足を踏み入れた瞬間、

そこは風の吹かない、暖かい森だった。


雪の中に花が咲き、鳥が歌う。

幻想的な空間。


気が付けば、屯長たちの姿は見当たらず、

俺ははぐれ、一人になっていた。


そして──とうとう、俺は仙人との邂逅を果たした。

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