第1話 転生、そして自作一族の世界へ
歴史シミュレーションゲームが大好きな大学生・蒼谷龍輝は、
勢いで三百人もの一族キャラを作成してしまう。
その夜、目を覚ますと――そこは自分が作った中華風の世界。
しかも自作一族の次男「阿刀」として転生していた。
“自分の設定通り”の異世界に心を躍らせる龍輝
果たして彼の設定は現実となった世界でどう影響していくのか。
よし……これで三百人まで登録完了っと。
俺の名前は蒼谷龍輝。歴史シミュレーションゲームをこよなく愛する大学生だ。
特に、当時の文化や情勢を追体験できるタイプのゲームには目がない。
気がつけば何時間も画面に張り付いてしまう。
ゲームでは実在の武将を選んで遊ぶこともできるけど、俺は断然“自作キャラ派”。
自分を投影して、歴史の歯車のひとつとして物語を紡いでいく――それがたまらなく好きなんだ。
ただ、問題がひとつある。
歴史上の人物には父母も子も兄弟もいるのに、俺のキャラだけがポツンと独りぼっち。
ゲームとはいえ、孤独ってのは意外と堪える。
だから俺は、いつも血縁関係まで含めて一族を丸ごと作る。
親、兄弟、婚約者、甥姪……設定を盛りに盛って、家系図が作れるレベルで登録するのが恒例だ。
――で、だ。
さすがに三百人はやりすぎたか?
いや、分かってる。完全にノリと勢いだった。
「もう一人」「あ、このキャラには妹が必要だな」「この家系は分家も作っとくか」なんてやっていたら、
気づけばとんでもない大所帯になっていた。
……まあいい。明日から本格的にプレイするとして、今日はもう寝よう。
ふぁぁ……あー、疲れた。さすがに作りすぎたな……。
「阿刀……! 阿刀、起きなさい!」
……んだよ、朝からうるさいな。昨日はキャラクリで疲れたんだよ……。
――って、あれ?
俺って一人暮らしだよな。誰が俺を起こしてんだ?
意識がはっきりした瞬間、俺はガバッと飛び起きた。
目の前には、三十歳くらいの綺麗な女性が立っていた。
え……誰?
ていうか、その服……深衣に襦裙……だよな?
「何を寝ぼけているの。今日は先生が来て経典を学ぶ日ですよ。その後は武術の鍛錬もあるんだから、早く起きなさい。饔を取るために皆が待っていますよ」
饔……ああ、朝食のことか。
「それで、えっと……あなたはどなた様でしたっけ?」
女性の顔が一瞬で青ざめた。
「な、なんてこと……! 母に向かって何という口の利き方を! 夫君! 夫君、来てください!」
「どうした。何をいつまでモタモタしている!」
ズカズカと入ってきた筋骨隆々の男が、俺の頭をゴツンと殴った。
「いってぇ……!」
……あれ?
このおっさんの顔、どこかで見たことある。
よく見ると、さっきの女性も――
え、ちょっと待て。
龍健。
麋寧。
これ、昨日俺がゲームで作った“親父”と“母親”じゃん。
ってことは……その息子の俺は――
「……ゲームの中に、生まれ変わった……?」
身支度を済ませて朝食の席についた俺は、目の前の料理をまじまじと見つめた。
粥に肉、味付けは……タレか。
よかった、普通に食えそうだ。
親父が箸をつけると、それを合図に家族全員が食べ始める。
俺も箸を動かしながら、ふと頭の奥にざわりと何かが流れ込んできた。
この身体の“阿刀”としての記憶……生活の断片……そんなものが薄く滲んでくる。
試しに聞いてみる。
「親……阿父よ。今は何年でしたでしょうか?」
「まだ寝ぼけているのか。蘇瑛十二年だろう」
蘇瑛十二年。
……ってことは、俺は今年で十二歳か。
ゲームだと将として動けるのは十五~十六歳だったはず。
つまり、あと三年~四年の猶予がある。
それだけあれば――育成期間としては十分すぎる。
最近のシミュレーションゲームは、
好感度、能力アップアイテム、スキル習得、イベント発生……
やれることが山ほどある。
無駄にするわけにはいかない。
本来なら十六歳になってから解禁されるはずの要素も、
この世界ではどうなっているのか……試す価値はある。
ただ、そのためには自由な時間が必要になる。
……さて、どうやって捻出するか。
飯を食い終えたあと、俺は屋敷の中を歩いてみることにした。
阿刀としての記憶があるおかげで迷うことはない。
こうして改めて見ると……でかい。立派すぎる。
屋敷というより、ほぼ城じゃないか。
やっべぇ……。
好きだったゲームの世界に本当にいるんだって実感が湧いてきて、胸が高鳴る。
そんなことを考えていると、どこからか弦楽器の音色が聞こえてきた。
音のする方へ向かい、そっと部屋を覗くと――
そこには、かわいい女の子が琴を弾いていた。
「二兄!」(にけい)
あ、この子は妹の龍玉。今は幼名で阿玲だ。
「やぁ、阿玲。琴の練習か?」
「そうよ、二兄。こんなところで何してるの?」
「ちょっと屋敷の見回りをね。朝食後の腹ごなしだ」
「ふーん……また何か変なこと企んでない?
悪い子連れて遊んでると、またお父さんとお母さんに怒られるよ?」
……ん?
口の動きは“阿父・阿母”って言ってるのに、俺の耳には“お父さん・お母さん”って聞こえた。
阿刀の記憶と俺の記憶が混ざって、脳内で自動変換されてるのか。
正直、聞き慣れない言葉ばかりだと大変だから助かる。
ちなみにこの子も、もちろん俺が設定したキャラだ。
一つ下の妹で、兄が大好き。琴や楽器が得意な長女。
課金して顔グラ買っただけあって、めちゃくちゃ可愛い。
「はいはい、大丈夫だよ。今日はこのあと先生に経典を学ぶんだ。楽しみだぜ!」
「えっ!? 二兄が経典を楽しみだなんて……頭でも打った?
いつもは逃げるか、渋々受けるかのどっちかなのに!」
「ふふっ、お兄ちゃんは生まれ変わったんだよ」
「……? よく分からないけど、頑張ってね」
「おう。阿玲も琴の練習、頑張れよ!」
妹との出会いを果たし、屋敷の空気を肌で感じて――
俺は改めて、この世界で始まる物語に胸を躍らせていた。




