契約
シェスカと名乗った猫族の女にネイドは約束どおりに干し肉をシェスカに食べさせてあげた。
1切れの干し肉では足りないのだろう、シェスカは名残惜しいそうに干し肉が無くなった唇を舐めている。
「フフ~ン。どうじゃ、猫娘よもっと欲しいか?」
キュルルル~、とシェスカのお腹が鳴るのでウズメはニヤリと笑う。
ネイドはもう1切れ干し肉を取り出すとシェスカの目の前にに差し出す。
「シェスカ、次に聞きたいのは君が会っていた男の事だ。アレは誰だ」
彼女の中で葛藤があるのだろう、直ぐには答えず黙って干し肉を見ている。
「…………名前は知らない。私達の支援者だと聞いている」
搾り出す様に答えるシェスカに嘘は言っていないように思えたので、ネイドは干し肉を与えた。
勢いよく食べるシェスカを見ながら更なる質問をする。
「シェスカの目的は何?この国をどうしたいの?」
流石にこの質問には答えるのを躊躇している。
ネイドは先程の食事で残しておいたステーキをシェスカに差し出す。
それを見たシェスカは目を見開きネイドの顔を見る。
溢れ出るシェスカの涎を不憫に思いネイドはステーキをあげようとするがウズメがそれを止める。
「主様よ、そこで情けをかけてどうするのじゃ。猫娘も耐えんかい!」
「うっ、済まないウズメ。余りにも可哀想でつい」
「…………可哀想じゃない。その程度の肉ぐらい毎日食べてたの」
と言いつつシェスカの視線はステーキに釘付けである。
この破壊力にシェスカの心が揺れ動く。
それを敏感に感じとったウズメは一口パクリとステーキを食べた。
「あ~!私の肉を…………許さない」
「まだお主のステーキでは無いぞ。言いたい事はわかるのぅ」
「ううぅ~、…………分かったの。全てを語るの…………」
緋波の鞄の中で動けずに項垂れるシェスカの見えない所でガッツポーズをとるウズメ。
ネイドはヤレヤレと頭を振って2人を見ていた。
ネイドは先にステーキをシェスカに食べさせてやった、ネイドの指まで食いちぎらんばかりの勢いでステーキを口の中に頬張り美味しそうに食べた。
ネイドから水を貰い一息ついたシェスカは改めてネイドを見る。
シェスカは目を閉じてネイドに語る。
シェスカは帝国のある街にある身寄りの無い者の達が集められる孤児院の出身で、幼い頃に預けられた。
その孤児院では大人から子供まで生きていく為に戦闘訓練をやらされていた。
生きていく為に孤児院の仲間の為に腕を磨き、気がついたらシェスカは一人前の戦士になっていた。
そんなシェスカの前に現れたのが、ある貴族の守備兵になって孤児院から出ていった人だった。
シェスカの名前は裏の筋の人には名が広まっていたらしく、それを聞き付けシェスカを誘いにきたとの事だった。
シェスカは世話になった孤児院に多くのお金を渡せると聞きその人に着いていった。
着いていった先でシェスカは自分と同じ様な境遇の人達と共に生活をすることになった。
そこでは困っている人を助ける為に腕のたつ人を集めた集団だという説明を受けシェスカはその組織に属する事になった。
そこでシェスカは色々な事をやらされた、見知らぬ村や町に行き非道な行いを強いる権力者を強制的にシェスカ達が排除した。
時には返り討ちに会った仲間もいたが、シェスカは成功する度に貰える多額のお金を孤児院に送る事が出来たので喜んで仕事をやった。
幾年か時がたち、シェスカ達も帝国内での活動に支障が出てきていた。
そこで今回の仕事が最期の仕事になると組織のリーダーから言われて、このハートミーツの町に来たのだと言う。
ネイドはステーキ1枚でここまで話すシェスカにこの娘、大丈夫かなと逆に心配してしまう。
「うう。シェスカさん素直ないい人です」
「えぇ。同じニオイを感じます」
いつの間にか緋波とレヴィがお風呂から戻り、部屋の中でくつろいでいた。
「ネイド様、ここは私に任せてお風呂をどうぞ」
スゥ~と近づいて来た緋波はシェスカを見て微笑む。
ネイドはゾクゾクと背筋が震えるのを感じた。
「そうだね、緋波さん。少しの間、シェスカを見ていてくれる?」
「はい。お任せをネイド様」
ここで緋波がシェスカの相手を申し出た事に何か思惑があるのだろうとネイドは考えて緋波の言う通りにお風呂に向かうことにした。
同性が相手の方が話しやすいのかも知れないとの思いもあり緋波に任せる。
自分では意識をしていなかったが、かなり疲労をしていたらしく思いがけず長風呂になってしまった。
湯船に入って、くつろいでいたらウトウトとしてしまった。急いで風呂から上がり部屋へと戻る、途中でメイドさんに会ったので飲み物を人数分頼み緋波達のいる部屋に戻った。
部屋に戻りネイドが見たのは、レヴィとウズメがベットの脇で怯えた顔で緋波を見ている姿と緋波の影でシェスカの姿は解らないけども鞄がガタガタと震えている光景だった。
「あの~、緋波さん何を話したの?」
異様な光景を前にネイドは緋波に確かめる。
ウズメやレヴィに聞いても答えてくれないだろう、シェスカの様子を見ると鞄が揺れるほど怯えているから無理に聞き出せない。
となると緋波しかいないので、ネイドは思いきって聞く。
「ネイド様、お戻りになられたのですね。今、この方にネイド様の素晴らしさを教えていました」
「それだけ?」
「はい。それ以上の事が必要ですか?」
緋波は涼やかな目でネイドを見つめる。
そこには嘘をついている色はなく本当の事を言っているのは解ったのだがウズメ達が怯えている理由が解らない。
これ以上の事は知らない方が良い気がしてネイドは話題を変える事にした。
「えっと、緋波さんシェスカは他に何か話した?」
「いいえ。ですがシェスカはネイド様に着いてきたいと申しています」
「へっ。仲間になりたいの?なんでまた」
「ネイド様に話しを聞いてもらって、私の話しを聞いた事で目が覚めたのです」
チラリとウズメ達を見ると全員に目をそらされた。
「シェスカはそれでいいの?」
ボ~と前を見ていたシェスカはネイドを見て頷く。
「いい、どうせ最期の仕事だったし。この稼業も潮時だった、リーダーに話しを通して私を買い取って」
諦めた様なシェスカの顔を見てネイドはこのままでは仲間にできないと思った。
「緋波さんやウズメは自分の意思で仲間になってくれた。
レヴィは自分の村に帰る為についてきてくれる。
シェスカはどう?仕方無しでは僕はいらない」
「…………」
ネイドの言葉に押し黙るシェスカにもう一度、問う。
「このまま朝になる前にシェスカを解放しても良い。
条件は二度と僕の前に現れないこと」
「…………」
「どうなのじゃ?主様は甘い男じゃが、信じるにたる男じゃぞ」
「…………わからない。私は命令される立場だったから、でも緋波の話しが真実なら選ばなくてはならないの」
「本当。嘘は言ってない」
何故ここまで、シェスカの心が開いているのか疑問が残るが仲間にできるなら引き込みたいとネイドは思う。
何故かネイドはシェスカが何らかの鍵を握っているのではないかと考えていた。
「じゃあシェスカ、君を買うよ。リーダーの人に繋ぎをつけて、僕の名前を出せば裏の人なら無視はできないはずだよ」
「…………お前は何者なの、何故そこまで首を突っ込むの?」
「さぁ、君に興味があるからか…………」
ネイドは途中で言葉を止めた、3方向から殺気を込めた視線を感じた。
あのまま話しをしていたら身に危険がおよぶ、ネイドはチラリとシェスカを見ると彼女の顔が赤くなっている。
何処かで選択を間違えたらしい事を感じてネイドは最初からやり直すことにした。
「え~と、シェスカさん。とりあえず待遇面の話しをしようか」
後ろから感じる殺気を無視してネイドは改めてシェスカと話しをする事にした。
「待遇?なんの事なの?」
先程の事など忘れてシェスカはキョトンとした表情を作る。
「シェスカは雇われている形の方がやり易いだろうと思って」
「あぁ~、そういう事ね。私は高いわよ一流だから」
「そう。幾らが相場?」
「そうね…………金貨7枚は最低ほしいわ」
「…………お主、安い女じゃたんだな」
「そんな金で命を狙われた人は憐れね」
「お姉さんは可哀想なんですか???」
女性陣からの憐れみの視線を受けてシェスカは狼狽した。
「なっなな、何なのよ私をそんな目で見ないでよ…………」
緋波達から憐れみの視線を向けられて耐えられないシェスカは下を向く。
「はぁ~、シェスカさん。僕なら月に金貨20枚と三食付きを提示するけど…………どう?」
ガバ!と顔を上げて ネイドを見つめるシェスカは驚いて声が出ないようで、コクコクと首を立てに振った。
それを見てネイドはシェスカと契約が結ばれたと判断して拘束していたワイヤーを外した。
「契約成立だね、ベットは好きなのを使っていいよ。難しい話しは明日にして、もう休むといい」
シェスカは体を拘束していたワイヤーが外されたので、大きく背伸びをして空いているベットに横になる。
「明日、リーダーに連絡をつける。どうなるか分からないけど宜しくなの」
シェスカはそれだけを告げる。
ベットで寝始めたシェスカを見てネイドは頼んであった飲み物を緋波達に配り明日から忙しくなりそうだと感じた。




