異変の兆候
ネイド達が4階層に降りて最初に目にしたのが、辺り一面を覆う霧だった。
部屋の中は薄明かるい感じからして夜明け後の早朝みたいだった。
「主様よ、どうするのじゃ。
帰還の石はあるが次に来るための階層転移の石が無い、この様子じゃと歩き回るのはちと危険じゃよ」
「転移の石ですか?」
「うむ。レヴィは帰還の石は見たのぅ、アレとは逆の性質を持つ石じゃ。
数字が刻まれている同じぐらいの大きさの石なのじゃが探すのが手間での、様々な場所に擬態しておるから厄介じゃ」
さも面倒くさい表情で渋い顔のウズメ。
それを見て、レヴィがウズメに問う。
「もしかして、コレです?」
レヴィがウズメに見せたのは間違いなく4階層に戻れる転移の石だった。
「なっ……、どこで見つけたのじゃ?」
「階段を降りて直ぐ、目の前に落ちていました」
余りの事に言葉が出ないウズメは近くにいた水玉を見る。
「お主じゃな、アレを拾ってきたのは」
「…?」
「拾ってないらしいわね」
「そうか…………疑って悪かったのぅ」
「これで、何時でも帰れるけど…………どうしようか?」
「撤退を支持します」
「うむ。前が見えん状態では致し方ないのぅ、緋波に賛成じゃ」
「お兄さんの言う通りにするです」
この低階層での気象の変化はネイドでも初めての事だったので戸惑いを感じていた。
ならば引き返す事に否はない、ネイドは引き返すべく4階層の階段下で全員をネイドの周りの集める。
辺りは濃霧の為に真っ白で先が見えない、いつ魔物が攻撃をしてくるかわからない為にネイドは慎重に周囲に気を配り帰還の石を使うべく取り出す。
全員が効果範囲にいる事を確認してネイドが帰還の石を使用しようとした時だった。
「おやおや~、もうお戻りですか?ネイド様。折角の演出でしたのに残念です」
霧の彼方から男の声がした。
明らかにネイドを知っている男に全員に緊張が走った。
「誰だ!何故、僕を知っている。お前は何者だ!」
霧の奥の姿が見えない相手に叫ぶ。
だが、未知の相手はネイドの叫びに答えを返さずに一方的に言ってくる。
「今日は挨拶だけに致します。
次に来られる時は更なる歓迎を致しましょう。
ネイド様、お送り致します」
その声と同時にネイドの周囲に帰還の陣が形成されてネイド達の姿が迷宮から消えた。
ネイドの目には帰還する直前に霧の中で霞む人?の何かを見た気がした。
突如あらわれた謎の声の人物?に強制帰還をされたネイド達は全員が無事に迷宮の扉の前に帰ってきていた。
ネイドは全員にいったん屋敷に帰り落ち着こうと提案する。
皆が頷いてくれたので、洞窟を出て領主の屋敷に向かうことにした。
迷宮の扉に変化は無く、洞窟を出てみると既に深夜になっていた。
迷宮での探索時間が現実と、ここまで狂うとはネイドの体験でも初めての事だった。
深夜、遅くに帰宅したこともありネイドは武器を鍛冶屋に預けるのは陽が昇ってからにする事にして、簡単な食事を緋波に頼み部屋で休む。
食事が出来る間に迷宮内で起こった事をウズメと確認する。
「あれは何だったんだ」
「わからんよ主様よ、なにせ初めての事じゃ。アヤツが何者かなど知る者はおらんよ」
「そうだね、僕も初めての事で気が焦っているみたいだ」
「お兄さん、あの声の人は人間さんじゃない感じを受けました。
私に近い古い種の力を感じました」
レヴィの言う古い力にネイドはある記憶を思い出させる。
それは遠い記憶。
自分でもよく思い出せない迷宮での記憶。
何故…………。
「ネイド様、お食事の用意ができました」
深く考えこんでいたネイドの耳に緋波の声が飛びこんできたため、意識が目覚め緋波の方へ視線を向けた。
人数分の料理を厨房を借りて作ってきた緋波にお礼を言って皆で頂くことにした。
深夜なのだけど、コッテリとした味付けの料理が多い。
全員の体感時間が夕食時の思いだったこともあり、たいした苦もなく平らげた。
お腹も一杯になり、急に睡魔が全員を襲う。
眠たい頭を無理矢理に働かせてシャワーだけでも浴びて寝る事にした。
その日は全員が昼近くまで起きることはなかった。
最初に目が覚めたのは緋波だったらしい、ネイドが起きた時に緋波がまだ着替えもしていなかったので驚いた程だ。
恥ずかしそうに目を伏せる緋波に挨拶をする。
レヴィはまだベットで気持ち良さそうに寝ているのでそのままにしておく、ウズメはネイドが起きるのと同時に起き始めていた。
時間をメイドさんに聞いてみると昼前だと言うので、メイドさんに昼食を頼みその間に中庭の鍛冶屋に行って武器の補修を頼む事にした。
レヴィを部屋に残して緋波とウズメを連れて中庭の鍛冶屋の元に行く、今回は緋波の大剣は予備があるのでレヴィのレイピアを優先して補修をしてもらう。
「で、このレイピアを先にやればいいのか、見たところ夜には新品同様にできるがいいか?」
「えぇ。お願いします、緋波さんの大剣は預けておくのでお願いします」
「わかった。どちらにしろ時間のかかる仕事じゃねぇ、終わったら部屋に運んでおくように言っておく」
すんなりと交渉が纏まり、ネイド達は鍛冶屋を後にする。
部屋に戻るとレヴィが起きていて、メイドさんが運んでくれた昼食と一緒に待っていた。
「おかえりなさい。
ご飯が来てますよ、温かいうちに食べましょう」
部屋に入りレヴィの笑顔で迎えられて、ネイド達は各々の席に座り食事を始める。
「皆、今日は休息日にして休んでほしい。迷宮には準備を整えて挑もう」
ネイドは皆を見渡して言った。
「ふむ。休息はよいが準備となると思い浮かばんの」
「まぁ、最後がアレだったから気分転換をしてくれればいいよ。
迷宮には行かないといけないからね」
やはり、昨日の今日だとレヴィの疲労が抜けておらず体が重そうだ、緋波にレヴィの体調管理を任せネイドはソニア達が戻ってきているか確認することにした。
昼食を食べ終わり、緋波達と別行動をする。
ネイドは領主に会いソニアの事を確認しようとしたのだが、領主は不在だった。
仕方なく駐留戦士団の詰所に行きソニア達の事を聞いてみると一度は戻ってきたらしいのだが、直ぐに迷宮に戻ったらしい。
ソニアに会った人に話しを聞いても普段と変わった様子はなかったと聞いてネイドはひとまず安心した。
冒険者ギルドがとりあえず有る程度のハートミーツでは集まる情報や資料は限られている為に今のネイドには役に立たない。
それならばターナに戻る事も考えねばならないなと思う、それも皆に相談してから決めればいいかとネイドは考えていると領主の屋敷に行く道の途中で辺りを警戒しながら歩く頭までフードを被った怪しい人間がいた。
「なんじゃ?見るからにじゃな。どうする主様よ」
「誘い?の割には目立ってるよね。…………後をつけよう」
フードを被った怪しい人間を追いかけて ネイドは町を歩く。
アッチにコッチに移動をして町を見ている人間を追いかけるのは意外に疲労する警戒心の強い相手なのかと思ったら時間を潰しているだけなのかもしれない。
相手の真意が分からない為にネイドはウズメと共に陽が沈むまで追いかけた。
勘違いをしたのかと思い屋敷に戻ろうかと考えていると、追いかけてる相手が領主の屋敷の裏手に回る道を歩いていったので、ネイドは慌てて追いかける。
薄暗くなりつつある道を相手に気づかれない様に尾行をする。
領主の屋敷の裏手にある人気の無い小屋の中に入って行く相手にネイドは近くの木の影で息を潜めて小屋を見つめる。完全に陽が落ちて闇が支配する一帯を明かりもつけずに待ち構えていると、遠くから微かに足音が聞こえてきた。
息を潜めて小屋を見つめるネイドの目にソニアと共に迷宮に行っているはずのサイトーが現れて小屋の中に入っていった。
「あやつは…………何やらきな臭い事になってきたようじゃぞ主様よ」
「そうだね。サイトーが小屋を出たらあいつを捕まえよう」
小屋に明かりは無く、人がいるのはネイド達のみが知っている。
ネイドは覚悟を決めて事態に関わる事を決めた。




