緋波さんぽ
緋波はネイドと別れ 徒歩で目的の道具屋に向かう事にした。
口煩い幼女はいるが基本的に緋波に合わせてくれている。
ウズメを連れ夕暮れの大通りを歩く。
珍しく静かなウズメを不信に思いながらも街中を進む。
宿から歩いて30分、目的の道具屋のあかりが見えてきた。
「静かなウズメは気味悪いね。
食あたり?」
「アホか!妾は何も食うてないやろ!
何処に食あたりの原因があるのじゃ」
「ウサ耳のお姉さん」
「なっ!
確かに良い手触りじゃたし、糧としての 情報も悪くはないがの。
食あたり原因にされるウサ耳は不憫じゃな」
「どうしたの?
元気が無い。食あたり?」
「そうじゃ。
じゃなくって何故に 二回言う?
たまには大人の魅力を振り撒いているだけじゃ」
「そう」
「あっさりと肯定しおって。
緋波よ、何やら警備の者か多くないか?」
ウズメは周りの人達に紛れ、あきらかに目付きの鋭い者は達が複数、行動しているのを注意して見ていた。
「関係ない。用事を済ますだけ」
「まぁ、そうなんじゃがの。
主様に害が及ぶかもしれんぞ?」
「何故?」
「妾達と出会ったのもそうだが、主様は 厄介事を引き寄せる体質じゃろ?
ならば妾達が早めに動けば主様を守る事になるやもしれん」
ウズメの言葉に応えず、軽く頷き道具屋へ向かう。
「おや、ウズメさん いっらしゃい。
この時間に来るとは珍しいですね」
「おぅ、店主殿。
儲かっておるかの?」
「えぇ。お陰様で店を続けられてますよ。
今日は何が入り用で?」
「妾は本を物色するが、必要な物は緋波が注文する。
高価な物を売り付けると良いぞ」
「ハハハ。ウズメさんは人が悪い。緋波さん相手では難しい事ですよ」
「店主。冒険者用の鞄と回復系の魔法薬は何がある?」
緋波が真っ直ぐに店主を見つめ問いかける。
「鞄は背負うタイプと肩に掛けるタイプ。
後は変わり種の引いて歩くタイプが有りますが、どうします?」
「引いて歩く?
どんな物?見せて」
店主がその言葉に奥から実物を持ってくる。
見せられたのは、
通常の2倍は入る大きい鞄に車輪が付き、片手で楽に引ける用に設計された物だった。
「良い。この鞄の強度は?
殴り倒しても大丈夫?」
「緋波にしては珍しいのぅ。
そんなに気に入ったのか、その鞄。
武器として使用するのはどうかとは思うがの」
「人が相手なら問題ない。剣を使うより楽そう」
緋波の言葉に顔が引きつるのを感じる店主だが、商売魂をはっきし対応する。
「その商品はオリジナルでして、職人が腕によりをかけて創作した物でございます。
強度は勿論、大きさまでお客様の好みに作る事も可能です」
「そう。明後日の朝までに、これの2倍の大きさで馬車に当たっても原型を留めている使用で!」
「はぁ!緋波様!
それですと緋波様の腰ぐらいの大きさになりますが?
それに明後日までとなると特急料金で5倍の値段を貰わないと…………」
「構わない。
言い値を払う。
明後日の朝までに作って。
出来なければゴミになるだけ」
ゴクリと唾を飲み込む店主。
ウズメは呆れ顔でやり取りを見ていたが、店主に同情した。
緋波の食付きぶりには驚いたが、店主が値段の話しをした時点で緋波の勝ちだった。
店主が緋波に席を外す断りを言って店の奥に急いで消える。
作った職人は不眠不休の作業になるだろとウズメは思った。
「…………店主、遅い。他にも必要な物が有るのに」
かれこれ30分近くの時間がすぎ、
緋波達も暇を持て余し気味で店主の戻りを待つ。
「お主が注文したのが悪いわ、諦めて待つのが良いぞ。
妾も退屈だが色々つまみ食いができるので悪くはないがの」
「ウズメ、行儀が悪い。ネイド様に報告するから」
「待つのじゃ!
本当はそんな事、意識してしておらん。
手に触れると無意識に吸収しとるだけじゃ」
「なお、悪質だね。
悪さをしないように首輪を付けよう」
「嫌じゃ!犬畜生に身を落とすなど我慢ならん」
「ネイド様は喜ぶかも?
動物好きだから」
「ふむ、そうじゃった。主様の趣味は特殊じゃたな。
首輪か、試しに付けてみるかのぅ。
主様の視線を妾が1人占めじゃ」
「何を言ってるの? ウズメ。
私は首輪に猫耳も付けるから、ウズメは常に2番手」
「…………いい加減止めぬか。
最後は服まで脱ぎそうじゃ。
ツッコミをしないと行くとこまで行くのぅ。
それに店主殿も帰ってきたしな」
店のカウンターの奥から戸の閉まる音がして店主が緋波達の前に戻ってきた。
「はぁはぁ。
お待たせしました。
緋波様のご要望通りに明後日の開店までにお渡しできるように話しをつけて参りました」
「有り難う。
じゃあ残りを済ませる。
ネイド様には肩から下げる鞄を。
ウズメの選んだ本と回復系は何がある?」
「今、有るのは。
体力回復薬C級が11本。にD級が16本。
毒消しが8本。
麻痺治しが5本。
それと精神回復薬C級が7本ですね」
「うん。じゃあ全部頂戴」
緋波の笑顔の要求に頬が引きつる店主。
「緋波よ、それは欲張りじゃろ?
店主殿にも商売があろう。
他の冒険者にも残さねば店主殿の顔を潰す事になるぞ」
「言ってみただけ。
冗談。たまに本気で売る店もあるから」
緋波の言葉に安堵の息を吐き、店主が改めて注文を聞く。
「体力回復薬を両方4本。
毒消しと麻痺治しが 2個。
精神回復薬が5本で。
本と肩掛け鞄と薬の代金と注文した鞄の代金の半分を今、払うけど、どう?」
「結構です。注文の鞄ですが、まだ値段が決まってないので、先程お見せした引き鞄の代金分を貰って、残りは完成品の受け渡しの時に支払って下さい」
「それで良い。
本は肩掛け鞄に入れて持って帰る。
薬は注文の鞄の中に入れて置いて」
「分かりました。
では、品物を用意してきますので、お待ち下さい」
店主が言われた通りに品物を用意して、緋波が会計。
道具屋を後にする。
「少し、遠回りをして帰りたいのじゃが?」
「そんなに気になるの?
ウズメの危険センサーはどっちに向いてるの?」
「そうよな。
やはり、ちと歩くが歓楽街に行くかのぅ。
治安が良くない場所で何も無ければ、それで良い」
「そう。なら行きましょう」
2人は並んで歩き出した。
近くで乗り合い馬車に乗り、南エリアの歓楽街に到着。
馬車で15分。
予想より早く着いた、緋波達は陽が落ちて夜となった歓楽街を歩く。
東西南北、中央と五つのエリアで区切られているターナ。
緋波達が住んでいた中央エリアは、
一般より割りと裕福な人が暮らしている。
南エリアは中央エリア程では無いが、
海側に造られており、観光客や貿易船など多い為、港が拡張整備され続けている。
その為、各国の料理を出す店や貴金属を扱う店など大変賑わっている。
勿論。夜のお店も多く、いろんな人種が集まり、
トラブルも多い。
「ほう~。賑やかじゃな。主様は興味無いのか、縁が無かったのぅ」
「ネイド様は大人に興味ありません。
だからいいのです」
緋波のあんまりな発言にウズメは緋波が見ていた場所を見ると、
肌の露出の素晴らしい女性の集団が通行人を誘惑していた。
「あの程度は普通じゃろ。
ほれ、彼処など露骨に客を誘惑しておるわ」
夜もまだ早い時間。
あちらこちらで客取り合戦が始まっている。
そんな歓楽街の様子を見るに、この様な状態が普通らしいと悟と2人は興味の惹かれるままに歓楽街を楽しそうに歩いた。
かれこれ40分ぐらいは歩いただろうか、途中の露店で飲み物を買い、絡んで来た酔っ払いはウズメが丁重に眠らせた。
「ふむ。帰るかの、 何も起こらんし酔っ払いの相手は面倒じゃ」
そう言う、ウズメに同意して緋波は早く歓楽街を出る為に人通りの少ないルートを選んで帰途につく。
歓楽街も人通りが少ないと違う場所に見える2人は足早に移動しているとガラの悪い男が4人、
緋波達を取り囲む形で道をふさぐ。
「へっへぇ~。
可愛いじゃないか。俺達に付き合えよ」
男達の内、見映えがいい男が声をかける。
「どいて!邪魔!」
緋波は嫌悪感をむき出しに拒否をするが 男は気にした風も無く、尚も声をかける。
「おいおい。俺達が優しく相手をしている内に着いてこいよ」
「あぁ優しくしてやるぜ。なぁ皆」
男の仲間が更に緋波達を取り囲む輪を狭くして言い寄る。
緋波もウズメもいい加減、殴り倒してやろうかと思った時に、男達の輪の外から不機嫌な声が飛ぶ。
「おい!軟派なら後にしろ!
お頭に殺されるぞ!」
その言葉に男達が怯えた表情になり、
緋波から離れる。
「また今度な可愛い子ちゃん」
男達が離れる中、
最初に声をかけた男が緋波にだけ聞こえる声で囁いて離れていった。
「無礼な男。
次は喋る前に黙らせる」
「そうじゃな。
妾の事など眼中に無い様子じゃた。許せん」
緋波達は次は必ず貼り倒すと、心に強く刻み帰途を急ごうとすると物陰から全身をローブで隠した小柄な者が飛び出し、緋波達の前に倒れ動かなくなった。




