少女の名前はレヴィ 前編
緋波達は突然、目の前に現れ、倒れた人物を保護する事にした。
全身をローブで隠してはいたが、助け起こすと少女の顔がローブの隙間から覗いた為である。
暗い繁華街を人と出会わないように少女を担いで走る緋波。
その後を周囲を警戒して追走するウズメ。
二人は少女が先程、出会った男達に追われていると本能で感じた。
緋波達は人気の無い店の裏手に隠れる。
袋小路だが、人が来ると分かる為、前方を緋波に警戒させて ウズメは少女を視る。
何かしらの罠や制約がある場合を考え、
慎重に少女に触れるウズメ。
幸い少女が気絶しているので楽に調べられると踏んだのだが 強固な壁に阻まれ上手くいかない。
それでも少しずつ探っていくと、
少女の種族と置かれている状況は読み取れた。
「この娘、竜人族のハーフじゃ。
親の目を盗んで誘拐されたらしいのぅ。
今はあの男達の仲間に与えられ薬で身動きがとれないようじゃ」
「でも動いて私達の前に来た」
「竜人族は抵抗力が格段に強いからのぅ、ハーフのこの娘もその能力で薬の効果が弱まった時に逃げ出したのじゃろ?」
「治せる?」
「ここじゃ無理じゃ。主様の元に連れて行こう。
じゃがこの娘が意識を戻った時に暴れられても面倒じゃ、薬の効果が弱まった時に娘の意識が戻ったら敵じゃない事を知ってもらわんとな」
「う~ん、ネイド様に連絡を取りたいけど無理そう」
裏手の物陰から表通りを覗き見る緋波。
賑わう表通りは変わった事など無い様子だが、時折ガラの悪い男達が辺りを気にしながら通り過ぎるのが確認できた。
「そうじゃな、無理に動けば見つかるじゃろな。
主様にはちと待ってもらうしかないのぅ」
「だけど長くは隠れられない」
「じゃな。完全に人目を避けるのは無理じゃ。
この娘が意識を取り戻せば動きようもあるのじゃが」
二人は意識を失っている少女を見つめ息を潜めた。
二人が店の裏手に隠れている時に歓楽街を仕切る男は怒り狂っていた。
「おい!まだ見つからないのか!
薬で動けない小娘を何時まで見つけられない!」
「ひっ。…………お頭、今は繁華街中を 探しています。
夜が明けるまでには見つけますのでどうか…………」
「遅せえよ!あの小娘の価値はお前ら全員を処分しても足りないくらいの金づる なんだよ。
何の為に苦労して誘拐したと思ってるんだあぁ!」
怒りに身を任せ、近くにいた部下を殴り倒す。
「すみません。すみません。
必ず見つけます。
この命に掛けて必ず…………」
必死に命乞いをする部下を冷たく見下ろし男はさらに冷めた声で部下に問う。
「なあ。裏切り者はいないよな?
小娘は動けなかった、俺がこの目で見たからな。
なら誰かが連れ出したんじゃないか?」
「まさか。…………俺らにお頭を裏切ってまで、あの娘を連れ出す度胸のある奴はいま…………せん」
「あぁん!今、誰を思い浮かべた。
おい!誰だよ!」
「はっっい!
最近、仲間に入った 優男です!
入ったばかりですが仲間内では評判は良い方です。はい」
「ほう。あの男か。
試すか。奴を俺の前に連れて来い!
直ぐにだ!」
部下の男が命令されて、急いで出ていく。
それを見ながら頭は考える。
(あの優男だったら吐かせればいいが、他の奴だったら小娘を隠して逃げるかもしれねえな。歓楽街の外でも見張りをたてるか?)
お頭は自分の考えを実行に移す為に近くに控えていた信頼できる部下にこの事を伝え、自分の命令があるまで誰も盗賊仲間を外に出すなと厳命した。
……………………そのやり取りを壁1枚挟んだ外で、ウサ耳を立てている存在に 気づいた者は誰もいなかった。
緋波達は暫く少女の意識が戻るのを待ち続けた。
だが目を覚まさない少女を待ち続けるのも限界があり、緋波の見ている表通りにもガラの悪い男達が数が増えているのが確認でき、見つかるのも時間の問題に思われた。
「どうするウズメ、いつか見つかる。撃って出る?」
「おいおい。止めときなよ、可愛い子ちゃん」
緋波は突然、頭上より声を掛けられて驚いた。
店の屋根から降りてくる影。
緋波は影の落下地点に駆け寄ると、真下から落下する男に向かって拳を振りぬく。
「げぇ! ちょっと待って~」
男が緋波の行動に驚きの声を上げる、慌てて態勢を変えようとするが間に合わずに腹に緋波の一撃が炸裂。
ドコ!…………鈍いめり込む音に男が苦悶の表情でうずくまる。
緋波は辺りを見回しこの男の仲間が集まって来ないかを確認する。
多数の足音が聞こえてこないのを確認して注意深く男を見つめる。
「お主、何者じゃ」
ウズメは少女を背に庇い男に聞く。
「ごっれば、でっきじゃ~あい。ゴホゴホ。…………」
「ダメじゃな。言うてる意味が解らん。
緋波、憂いを絶つがよい」
ウズメの言葉を聞き、慌てて痛む体を引き摺り距離をとる男。
その男を睨み付けて足元の石を拾い投げつけようと構える緋波に男は目を大きく開いて直ぐに土下座をする。
……………………
何時までも攻撃がこないので男が顔だけを上げると緋波と目が合った。
「もう一度問う、お主、何者じゃ。
真剣に答えんと体の穴があくぞ」
「俺は敵じゃない。 信じてくれとは言わない。 俺の言葉に信用が持てたら行動してくれ。
俺はある人から、その娘を逃がすよう命令された。
牢から出すことだけは出来たが、それで手詰まりになった時にお前さん達を裏道で見つけ、その娘が目が覚めるタイミングで声をかけた」
その言葉で緋波達が男の顔をよく見ると、確かに裏道で声をかけてきた優男だった。
「ほう。あの時の男か。お主、この娘の状態について何を知っている?」
男の体がピクッ!
と動き確認する様にローブの少女を見る。
ローブに隠れて一部しか見えていないが、男の真剣な眼差しが感じられる。
「聞くが、あの後。
その娘は話したか?」
「いいえ。あなた達は、何をしたの?」
「わからない。
本当だ!俺が見つけた時には動けない体だった。
麻痺系の何かだと思い薬を飲ませた」
「それで動いたと?
お主の雇い主からの情報はないのかのぅ」「すまないが無い。
俺達が受けたのは娘を逃してネイドと言う青年に渡すだけだった」
緋波が突如動いた。
ネイドの名前に反応した。
気がつくと男は自分の首を緋波が片手で 掴み持ち上げた後だった。
「がっあああっ、
止め……て、く…………れ」
「無理じゃ。主様の名が出たからには緋波に情けは無いぞ。
お主の出来る事は…………無いのぅ。
……………じゃが、そこに隠れているウサ耳はお主を助けて やれるかのぅ」
ウズメは優男に接近を許した事に内心怒り、その事で常に周囲を警戒していた、ウサ耳に気がついたのは緋波が動いた時。
自分の索的領域に見知った気配を感じたからだ。
「お願い。彼を離してあげて、彼は本当に知らないの。
依頼は私が受けて彼に必要な事だけ伝えたから」
物陰から姿を見せたウサ耳…………ロナは静かに話す。
感情的にならないのは緋波を刺激しない為でもある。
「ほう。やはり夕方に会ったウサ耳じゃたか。
妾の勘はハズレたのぅ」
ウズメは自分の能力を知られない為に、あえて勘と強調する。
ロナにそれ以上近づくなと合図を送り
ウズメはロナを見る。
(妾の能力を上回る隠蔽能力の持ち主だとは…………。主様には謝らなければならぬ)
「ウズメ、後でオシオキだから。
そこのウサ耳、まだ生かしている。話して」
「話すわ。でも場所を変えない、奴らは彼を裏切り者として追ってるの。
騒ぎは起こしたく無いでしょ?」
ロナの取り引きと言える物言いに緋波は氷の様な冷たい瞳をロナに微笑で向ける。
「構わない。話して、邪魔が入れば全て退けるから。
その程度…………… 簡単」
「ウサ耳よ、せめて名を呼ばれたければ、妾達を甘く見るでないぞ。
主様に迷惑があるやもと思い隠れているが、必要なら……………………解るかのぅ」
ロナは後悔した。
自分は選択を間違えた事に。
彼女らは本気だ、迫る脅威を脅威と感じていない。
その言葉に嘘はないだろうとロナは背筋に冷たく滴る汗を感じながら死を意識した。
だが彼女はもう一度やり直すチャンスを与えられている。
その僅かな希望を信じて、自分の知る全ての事を話す決意をした。
「わかったわ。私が知っている事は全て話します。
だから彼は助けて…………」
彼女の本気を感じ、緋波は優男の首の圧力を弱め地面に足をつけさせると優男の背後に回り頭を抑えるとロナに続きを促した。
それを見てロナは話しだす。
「私に依頼をしたのは、ある鍛冶屋の親方よ。
ネイドさんには親方が話すと言っていたから親方の事は彼から聞いて。
親方は竜人族の娘が 誘拐され、この街に連れて来られた事に危機感をもっていた。
それで私に依頼が来たの、親方も情報を集めきれず不明な部分が多かったから、私は彼を内通者に仕立て送りこんだ。
後はあなた達の知っている通り、彼が彼女を助けようとしてしくじり、あなた達に彼女が拾われた。
私も探っては見たけど彼女に使われている薬が解らなかった。
私の所属するギルドの薬師にも聞いてみたけど薬の実物が手に入らなかったから結局、謎のままにしてしまったわ。
これで答えになったかしら?」
緋波は掴んでいた優男の頭を離す。
ウズメに見てからロナに視線をあわす。
「信用してあげる。力を貸してもいい。
但しネイド様に手紙を届けて」
「そうじゃな、主様なら必ず動くしのぅ。
今夜は帰れないなら、状況は知らせたいのぅ」
二人の言葉にロナは頷き、繁華街で拠点にしている隠れ家に案内する旨を緋波達に告げる。
「彼には捕まってもらうわ。
今、逃げると隠れ家に行く隙ができないから。
悪いわね。アーサー」
「気にするな。隠れ家の反対側で騒ぎを起こす。
それに合わせて移動しな、2日ほど生き残れば助けに来てくれるだろ?」
「えぇ。必ず」
アーサーは笑って緋波達から別れた。
ロナは悲痛な顔を見せたが緋波達は何も言わず騒ぎが起こるの待つ。
「合図が有ったら直ぐに移動しましょう。
この近くに隠れ家があるから急がなくていいわ」
「この娘はどうするのじゃ」
「大丈夫。このガラガラに入れて行けばいいわ」
ロナが物陰から今日、緋波が注文した引き鞄を緋波達に自慢気に見せる。
緋波は興味深く少女が鞄に収まるのを見つめる。
「私に引かせて」
ロナは信用してないのかと目で問うが、 余りにも緋波が真剣な表情で鞄を見てるので任せる事にした。
「ウサ耳よ、緋波が 同じ鞄を今日、注文したのじゃ。
悪いがの緋波の好きにさせてほしい」
「まだ信用してないのかしら?」
「当たり前じゃ、主様が来て初めて信じるに足りる」
ロナは苦笑いをして、了承する。
程無くして辺りが騒がしくなった。
「来たわ合図よ。 では行きましょう」




