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空気な不死者  作者: 末吉
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二ヶ月ぶりに現れた作品です。

 ………………。

 え、えっと。

 ……………………。

 は、初めまして。僕の名、名前は……空野、(メイ)です。あきら、ではありません。

 …………………………。

 ……男、です。

 ………………………………以上、です。




「………ダメだなぁ、僕は」

 今朝の自己紹介を思い出してため息をつく。

 これじゃいつまでたっても友達を作ることなんてできないや。というより、認識されるかどうか怪しいかも。

 残念な思いがまた胸の内に再燃し、窓の景色をため息をついて見る。

 今は放課後。他のクラスメイトはみんな仲良くなりそうな人たちと一緒に帰った後。だから僕一人。

「……ま、いつもの事だけど」

 一人なので特に気負う必要がない僕は、軽いカバンを持って重い腰を上げた。

「一緒に帰ろうぜ〜」

「おう」

 廊下に出るとそんな声が聞こえる。

 まったくもって羨ましい。いいなぁ。僕もそんなことやってみたいなぁ。

 そんなことを思いながら、普通の足取りで――新入生の癖に慣れた足取りで――僕は昇降口へ向かった。




 先程の紹介通り、僕の名前は空野明。今回で四回目の高校生活を楽しもうとしている不死者です。

 不老不死という言葉があるじゃないですか。それを僕は体現しているんです。だから年齢的には……あれ? 今何歳だろう? 二千歳はいってるのかな……?

 まぁ数えてないので今は永遠の十五歳で。高校一年生の年齢だからね。

 で、なんで高校生をやってるのかというと、暇だから、かな。うん。

 ちょっとした因果で不老不死になってしまってね。ある程度の周期(一回目と二回目の間が千年ほどで、三回目が五百年ほど前)で、刺激を求めてこうして混ざってる訳さ。

 でもま、長生きしてると技術革新が目に見えてわかるし、どういう変遷をたどっていくのかもわかる。

 でもそこに僕は関われない。なぜなら、存在感がないから。おまけに人見知りだし。

 だから今までの学校生活はずっと一人のままだったんだけど。

 長生きした結果人見知りに拍車がかかって存在感が薄くなってしまうとはこれいかに。

 なので、今回僕はこの学園生活で名前を覚えてもらうことを目標としているのです! 先生以外の生徒に!!

 ……なのに最初の自己紹介でぎっちぎっちに緊張して失敗してしまった。

 なんでだろう。最初の自己紹介はインパクトが大事だと知っていたはずなのに…!

「うぅ……」

 肩を落としながら校庭を歩く。部活に入ろうかと思ったけど、二回目の高校生活で実行して何の成果も得られなかったから却下。

 というより部活の種類増えたなー。昔は野球部やサッカー部、水泳部や吹奏楽部とかがメインだったのに、今じゃ電脳競技部とか拳法部、飛行部とか魔法部などいろいろある。

 後ろ髪引かれる思いだけど、入ったところで誰にも気付いてもらえないのだからと自覚し、またため息をつく。

 西暦4038年。今やネットワークは地球全土にとどまらず宇宙につながり、一日で火星に行き来ができ、異世界にも行ける時代。

 僕達地球に住む人達は、この二千年の間で多元世界・宇宙の交流拠点の住民となっていた。


 そこまでの経緯をざっくりと説明すると

・2090年。火星移住計画で暮らしていた人間が火星の先住民と遭遇

・2123年。火星先住民――俗称マーゼリオンとの和平及び交流開始

・同年、僕達が住む銀河系とは異なる世界――異世界の存在が確認される

・2179年。銀河系の惑星に住む住民たち――俗称プラネイター達の首脳による会談

・2200年。銀河戦争勃発

・2295年。戦争終結及び平和条約締結

・2296年。銀河系全住民による復興開始

・2347年。復興終了及び貿易開始

・翌年、惑星間留学生制度開始

・2500年。異世界から漂流物

・2521年。惑星間シャトル完成及び運転開始

・2778年。異世界からアンノウンが出現し撃退

・同年、異世界の座標軸を捕捉

・3000年。異世界へ初の有人移動

・3406年。異世界――世界名:エリタールとの和平交渉成立及び貿易開始

・3409年。世界間留学生制度制定及び開始

・3708年。惑星・異世界同士のオリンピック――マーベラスゲーム開催。以後四年に一度開催される

・3852年。テロ組織一斉検挙により八割のテロ組織が壊滅。残りの二割の報復により未曽有の大災害に


 …………これでもざっくりだよ? だって年に一度くらいびっくりするようなことが起こるんだから。

 ま、要するに、地球以外にもしゃべる生物がいたから仲良くして、世界という枠を取っ払って人が来たからその人たちとも仲良くしてるわけ。

 僕は…全然。他者と触れ合う時間なんてあってないようなもんだったから、仲良くなったことなんてない。

 だからね。今年こそは友達、いや名前を覚えてもらうんだよ!!

 大事なことだからね。僕的に。

「どけやー!!」

「ゲバブッ!!」

 土星人の運転するエアバイクに吹っ飛ばされ、宙を舞う。かなりのスピードだったので、轢かれた僕は優に100メートルの高さまで上がる。

 あぁ痛い。何十年ぶりに引かれただろうか僕は。

 宙を舞ってる感覚が残ってるので、夕日が映える空を眺めながらそう思う。

 重力無視で飛べるなんて、魔法を使える人や、ここよりきつい重力で普段生活している人たち。

 ということで、地球から一歩も外に出なかった僕はそのまま落下。

 別段人通りがないところなのでクレーターみたいな穴が開いたところで誰も気にしないし、あったところで通行の邪魔にはならない。

 と、僕は考えて大人しく目を瞑る。


 じゃ、痛みに耐えようか。


 ドゴォン!!! と砂塵をまき散らして地震と勘違いされるような揺れを発生させながら、僕は地面と衝突した。

「…イデデッデデデデデデエデイタイイタイイタイイタイイタイ!」

 全衝撃が自分にも返ってくる。背中から叩きつけられたとしても呼吸ができるのが、不死者の特徴。もう痛いのはすぐに言える。

 けど、それも数秒。どうやってるのか自分でも知らないけど、ぱたりと痛みが消える。それはもう突然に。

 本当に不死者というのは恐ろしいね。致命傷だろうがなんだろうが、普通に生きられるのだから。

 痛みが取れたので起き上がり、周囲を確認。誰もいないことが分かったので、立ち上がって砂埃を払い落とし、何事もないように歩き出した。

 今更だけどここ日本の田舎。不死者であることを隠している僕にとって、過疎化したこの場所は住み心地のいい場所。

 ちなみに学校は首都。どうやってそんな遠いところに通っているのかというと、バス停ならぬ転移停でちゃちゃっと。お金かかるけど。往復五百ヘル。

 うん。全共通で通貨単位を『ヘル』にしたんだよ。ちなみに距離単位等は地球準拠。こっちの方が優れてるとか何とか。

 昔のニュースを思い出しながら、家へと歩く。

 にしても、野菜畑が多いんだよなーここ。自給自足する人たちの集まりみたいなものだから当たり前だけど。

 僕は農業やってません。お金だけはあるのでコンビニなどで食料買って、一人さびしく生活しています。

「フシャー」

 あ、猫がこっち見て警戒してる。僕別にいつも通ってるから何も示されないは

「グベラバァ!!」

「…あれ?」

 また轢かれたよ。しかも今度は背後から。まったくひどいよね、また宙を舞ってるじゃないか。

 文句の一つでも着地したら言いたいと憤慨しながら落ちる僕。今度は…回転して。

 あ。これ無事に着地できないや。そう思ったと同時に僕は先程まで歩いていた道に着地し、そのまま数メートル転がる。

 痛いわー普通に痛いわー。そんなことを思いながら止まるまで待ち、止まったと同時に起き上がる。

 家まであと百メートルぐらいなのになんで二度も轢かれなきゃいけないんだと思いながら前を見ると、つい今しがた僕を轢いたと思しき女子がエアバイクのエンジンを切ったのか地面にその機体を止めて、茫然と僕を見ていた。

 反射レベルで緊張しだす。口から言葉が出ず、酸素と二酸化炭素が抜けていく感覚があるせいか、呼吸しづらい。

 なんで? なんで僕を見てるの? 僕は存在感が一切ないんだよ? こんな空気と同じようで話し掛けるようなことができない人間を、どうしてあの人は見詰めてくるの!?

 生きてきた中で一番の驚きに僕がガチガチになっていると、その少女がエアバイクから手を放して僕に駆け寄ってきた。

「あの、大丈夫ですか!? 怪我とかありませんか!?」

 おさげ髪で眼鏡をかけているせいか、すごい地味に見える少女。しかも今時珍しい黒髪。

 僕を轢いたことが堪えているのか、はたまた臆病なのか知らないけど、とても必死な表情。

 でも、それ以上に僕はテンパっていた。

 だって不死者になって初めて話しかけてきてくれた人なんだよ!! しかも女子!! 超人見知りな僕が緊張しないはずがない!

 とまぁあまりにも情けないけど実状なので。

 僕は「だ、大丈夫でーーーーす!」と言って泣きそうになりながら帰り道を全力で走った。

 ……そう言えば轢いた女の子、僕と同じ高校の制服着てたような………?

 家に帰ってから、はたと気づいた。




 ちなみに。

 二度も轢かれたので買った食料はぐちゃぐちゃ、制服はボロボロになってしまったので、以前着た制服をクローゼットから出して今と同じ風に改造し、とりあえず食料は肥料作成機に投げて新しく買いなおすことにした。


 ……自動ドアに認識はギリギリされてるみたいと思ったら、なんか涙が出てきそうになった。

よろしければどうぞ。

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