文化祭の作品決定の回
9月中旬。
文化祭まであと三週間。
美術科棟。
放課後。
教室には鉛筆の音だけが響いていた。
「うーん……」
歩美がスケッチブックを見つめる。
まだ構図が決まらない。
テーマは、
『夏の思い出展』
神鍋高原。
海水浴。
花火大会。
候補が多すぎた。
「まだ悩んでるの?」
華子が聞く。
「決まらない」
「私は海にした」
華子は大蔵海岸の夕景を描くことにしたらしい。
「早いね」
「悩んでも締切は待ってくれないから」
正論だった。
その頃。
あかり。
「できた!」
「早っ!」
みんなが驚く。
しかし。
見てみると、
まだ下描きだった。
「できてないじゃん」
奈緒が言う。
「気持ち的にはできた」
意味は分からなかった。
奈緒は黙々と作業している。
すでに全体構図が完成していた。
「計画的だなあ」
歩美が感心する。
「普通だよ」
普通ではなかった。
夕方。
明高荘。
談話室。
歩美はスケッチブックを広げる。
すると、
さやかがやって来た。
「まだ決まらないの?」
「うん」
さやかはページをめくる。
神鍋高原のラフ。
海のラフ。
花火のラフ。
どれも途中だった。
「全部描けば?」
「無理だよ」
「じゃあ一番楽しかった思い出は?」
歩美は少し考えた。
楽しかったことはたくさんあった。
でも。
真っ赤なトマト。
初めて収穫したとうもろこし。
みんなで食べた夏野菜。
思い出すのは家庭菜園の風景だった。
「決まったかも」
「でしょ」
さやかは満足そうだった。
翌日。
美術科棟。
歩美は新しい画用紙を用意する。
題材は、
『夏の収穫』
明高荘の庭。
トマト。
キュウリ。
大葉。
そして収穫を喜ぶみんな。
「いいじゃん」
華子が言う。
「ありがとう」
ようやくスタートラインに立てた気がした。
放課後が終わる頃。
教室には制作中の作品が並び始める。
海。
山。
夜空。
花火。
それぞれの夏。
文化祭に向けて、
少しずつ形になっていく。
「完成するかな」
歩美が言う。
「完成させるんでしょ」
華子が答える。
文化祭まであと三週間。
楽しいけれど、
忙しい日々が始まったのだった。




