純子と優子、フランスへ
11月のある朝。
明高荘の前には大きなスーツケースが二つ並んでいた。
「パスポート持った?」
島居優子が聞く。
「3回確認した!」
山下純子は胸を張る。
「じゃあ航空券は?」
「2回確認した!」
「そっちの方が大事では?」
今回、高校2年生の修学旅行先はフランス。
行き先は主にパリ周辺で、エッフェル塔やルーブル美術館、ヴェルサイユ宮殿などを見学する予定だ。
出発の日。
明高荘の住人たちが見送りに集まっていた。
「お土産よろしくー」
遠野華子が言う。
「何がいい?」
「食べ物」
「ざっくりしてるなあ」
林歩美は少し心配そうだった。
「純子先輩、迷子にならないでくださいね」
「私を誰だと思ってるの!」
全員が同じことを思った。
心配だ。
数日後。
フランス・パリ。
「でっか……」
優子は思わず立ち止まる。
目の前には巨大なエッフェル塔。
テレビや写真では見たことがあったが、実物は想像以上だった。
純子は写真を撮りまくっていた。
「あとで明高荘のみんなに見せる!」
「まず集合時間を守ろうね」
優子の言葉が妙に現実的だった。
翌日はルーブル美術館。
館内は広すぎて地図を見てもよく分からない。
「これ全部見るの?」
「無理だと思う」
ルーブルは世界的に有名な巨大美術館で、学校旅行でも人気の見学先だ。
さらに別の日。
ヴェルサイユ宮殿。
豪華な建物と広大な庭園を前に、二人はしばらく言葉を失った。
「すごいね……」
「うん」
「でも歩き疲れた」
感動より先に本音が出た。
ヴェルサイユ宮殿もパリ近郊の定番修学旅行先として知られている。
一方その頃。
日本の明高荘。
「静かだね」
林歩美が言う。
「静かだね」
遠野華子もうなずく。
普段なら純子が騒ぎ、優子がツッコミを入れている時間。
それがない。
「平和だなあ」
華子が言う。
10秒後。
「でもなんか物足りない」
歩美も苦笑した。
「分かる」
数日後。
純子と優子が帰国する。
「ただいまー!」
玄関が開く。
「おかえり」
「お土産は?」
「早いよ!」
大きなスーツケースから次々に出てくるフランス土産。
お菓子。
キーホルダー。
写真。
そして大量の思い出話。
「エッフェル塔すごかった!」
「ルーブル広すぎた!」
「純子が集合時間5分前に消えた!」
「ちゃんと戻ったでしょ!」
その夜。
明高荘は久しぶりに賑やかだった。
静かだった数日間が終わり、
いつもの明高荘が戻ってきたのだった。




