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ほのぼの日常系、明高スケッチ  作者: 九頭龍りく


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明高荘の花見桜


四月上旬。


明高荘の前にある大きな桜の木が満開になっていた。


築十八年の明高荘よりも少し年上らしいその桜は、毎年春になると住人たちの楽しみになっていた。


朝。


弓木さやかは庭から桜を見上げていた。


「今年も咲いたなあ」


その横で弓木ちかが元気よく言う。


「花見したい!」


「まだ朝だよ」


しずくが呆れる。


しかしその言葉を聞いたさやかは考え込んだ。


「……やるか」


嫌な予感がした。


昼。


101号室。


林歩美の部屋。


ドンドンドン!


激しいノック。


「誰!?」


ドアを開ける。


そこにはさやかが立っていた。


「花見やる」


「やる!」


即答だった。


話が早い。


次は102号室。


「華子も来る」


「決定なの?」


「決定」


その頃にはすでに明高荘中へ話が広がっていた。


201号室。


山下純子。


「花見ですか?」


「やるらしいです」


優子が言う。


「誰が?」


「さやかちゃん」


純子は少し笑った。


「じゃあお菓子持っていこうかな」


203号室の東ゆりは参考書を閉じる。


「勉強しなきゃなんだけどなあ」


「来るんですよね?」


と寛子。


「まあね」


夕方。


桜の下にはレジャーシートが敷かれていた。


歩美。


華子。


純子。


優子。


ゆり。


寛子。


あけみ。


涼子。


初美。


恵子。


つむぎ。


そして弓木家四姉妹。


明高荘ほぼ全員集合だった。


日本では春に桜を眺めながら集まる「花見」が広く親しまれており、家族や友人、職場仲間が集まる季節行事として知られている。


「桜きれいだねー」


歩美が寝転ぶ。


「踏まないでよ」


華子が引っ張る。


その横では涼子が持ってきたピザを配っていた。


「試作品」


「花見にピザってあり?」


「おいしいからあり」


誰も反論できなかった。


一方。


さやかは桜よりプランターを見ていた。


「ネギも順調」


「今日ネギ関係ないでしょ」


しずくが言う。


「関係ある」


「ない」


いつもの会話だった。


少し離れた場所では、りんと純子が話していた。


「こんなに集まるとは思わなかった」


りんが笑う。


「明高荘ですからね」


純子も笑う。


確かにそうだった。


誰かが何か言う。


誰かが集まる。


気づけばみんな居る。


そんな場所だった。


夕方になると桜は夕日に染まり始めた。


風が吹く。


花びらが舞う。


「おおー!」


ちかが喜ぶ。


桜吹雪だった。


日本の桜は満開から短期間で花びらが舞い散ることでも知られ、その儚さが春の風物詩として親しまれている。


花びらが歩美の頭に落ちる。


華子の肩にも落ちる。


ゆりの参考書にも落ちる。


さやかのネギにも落ちた。


「ネギにも春が来た」


「何その感想」


しずくは笑ってしまった。


日が沈み始める。


桜は少しずつ影の中へ入っていく。


みんなで後片付けを始めた。


楽しい時間は早い。


それでも誰も寂しそうではなかった。


また来年もあるからだ。


帰り際。


ちかが空を見上げる。


「来年もやる?」


りんが答える。


「やるよ」


「絶対?」


「絶対」


その言葉にちかは満足そうに笑った。


満開の桜の下。


明高荘と弓木家の住人たちは今日も一緒に笑っていた。


大きな事件はない。


特別な奇跡もない。


けれど――


こうしてみんなで過ごす春の日こそが、明高荘の日常の宝物だった。



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