はじめまして、明高荘
春。
桜がまだ少し残る四月の朝。
林歩美は大きな荷物を抱えながら明高荘の前に立っていた。
「ここかあ……」
明石高校への入学を機に、一人暮らしを始めることになったのだ。
築十八年。
三階建て。
少し古いけれど、どこか温かい雰囲気のあるアパートだった。
「よし!」
気合いを入れて玄関へ向かう。
その瞬間。
ガチャ。
隣の102号室のドアが開いた。
「……あ」
出てきたのは同じ制服を着た少女だった。
セミロングの髪。
落ち着いた雰囲気。
遠野華子だった。
二人は数秒見つめ合う。
先に口を開いたのは歩美だった。
「新入生?」
「そうだけど……」
「私も!」
「そうなんだ」
「隣?」
「隣」
「近い!」
当たり前だった。
華子は少し笑う。
「よろしく」
「よろしく!」
こうして最初の友達ができた。
その時だった。
二階から声が響く。
「朝から元気だねー」
見上げると手すりから顔を出している女子生徒がいた。
山下純子だった。
「新入生?」
「はい!」
「私は山下純子。二年生」
「先輩だ!」
「困ったら来てね」
優しい笑顔だった。
その直後。
別の声。
「純子ー!パン落ちたー!」
「なんで!?」
島居優子だった。
パンを落としていた。
さらにその横から東ゆりが現れる。
「優子またやったの?」
「三秒以内だから」
「嘘つけ」
朝から賑やかだった。
華子が小声で言う。
「いつもこんな感じ」
「面白そう」
歩美は少しワクワクしていた。
昼。
荷物整理をしていると玄関がノックされた。
開ける。
そこには少女が立っていた。
「大家です」
「えっ」
中学生くらいに見える。
「違う」
後ろから声がする。
現れたのは弓木りんだった。
「あ、ごめん」
少女は笑った。
「私はさやか」
弓木さやか。
大家一家の三女だった。
「大家はりん姉」
「よろしくね」
りんは優しく頭を下げる。
その横から小学生くらいの女の子も顔を出した。
「ちか!」
元気いっぱいだった。
さらに高校生のしずくも現れる。
四姉妹全員集合だった。
「賑やかだなあ……」
歩美は少し圧倒された。
弓木家は明高荘の隣に住む大家一家であり、住人たちとの交流の中心になっている。
夕方。
歩美は庭に出た。
そこにはプランターが並んでいる。
青ネギ。
大葉。
ミニトマト。
さやかがしゃがみ込んでいた。
「何してるの?」
「ネギ見てる」
「ネギ?」
「ネギ」
真顔だった。
変わった人だった。
そこへ華子もやって来る。
「歩美、荷物片付いた?」
「だいたい」
「よかった」
すると二階の窓が開く。
純子だった。
「みんなー」
「はい?」
「お茶飲む?」
歩美は即答した。
「飲む!」
華子はため息をついた。
「返事早いなあ」
十分後。
201号室。
歩美。
華子。
純子。
優子。
ゆり。
寛子。
気づけばたくさんの人が集まっていた。
お菓子が並ぶ。
笑い声が響く。
初めて来たはずなのに、不思議と居心地が良かった。
歩美は窓の外を見る。
夕焼け。
明高荘。
弓木家。
賑やかな人たち。
「なんかさ」
歩美が言う。
「ん?」
華子が聞く。
歩美は笑った。
「面白くなりそう」
その言葉にみんなも笑う。
こうして始まった。
高校生。
短大生。
社会人。
ニート。
そして四姉妹の大家一家。
少し変だけれど温かい人たちが集まる場所――
明高荘の日常が、今日から始まるのだった。




