私の決意(3)
「さぁ、行くぞリリー」
「ええ……。」
馬車の外には先に降りたお兄様たちが私に手を差し伸べている。
およそ5年ぶりに公の場に出てくるベドフォード公爵家が来たことに、周りの貴族たちは既に馬車の前にわらわらと集まっていた。
モーヴィ色を所々に取り入れた正装をしているお兄様たちの姿に、令嬢達が興奮する声が響いている。
私も初めにお兄様の姿を見た時にはびっくりしたもの。カイお兄様は前髪をかき分けていつもは着崩すスーツも今日は第1ボタンまで止めてくれている。ライお兄様は長めの髪をひとつにゆっているのはいつもと同じだけれど、メガネをはずして、切れ長の瞳を見せつけてる。
この世にこんなに美しい双子がいるものですか。
まぁでも、リリアン・ベドフォードも負けてはいないんですけれど。
お兄様たちの手を取り、右足を馬車の外に出した。ヒールが地面につき、コツッと軽やかな音を立てる。徐々にざわめきが静まり返っていくのを感じながら、手に力をかけてゆっくり重心を移動させ、体をドアにくぐらせると、太陽の光が方で波打つ金の髪を照らした。
「……………………。」
真っ白な神殿が眩しく、美しかった。ついに貴族たちの前に姿を表してしまったというのに、私は神殿の様子を観察できるほどに落ち着いている。陽のもとに出てきたリリアンの姿はそれは美しいものでしょう。小説のなかで語られたリリアンの美しさは偽りではない。
一目見れば言葉を失い、一声発せば崩れおつる。
そんな賛美の句が付けられるほどに美しいリリアンの前で、攻撃出来る者が一体どれだけいるかしら?
ふっと周りに集まった貴族たちに目を向ける。
リリアンの透き通った紫色の瞳に見つめられ、微笑みかけられたら、あなたはどうなる……?
「…………っ!」
「きゃ、ちょ、ちょっと!」
一人、私の微笑みをもろに受けた子が倒れた。その横にいた母親らしき夫人が支えている。
リリアンの笑顔はもはや凶器だわ…………。
その結果に満足しながら歩き出す。
両腕捕まりながら歩くことは出来ないから、行きのエスコートはカイお兄様だ。
高貴なベドフォード公爵家の令嬢。リリアン・ベドフォード。誕生してからというもの、その美貌を想像するものは万と居た。公爵家の何十年たっても美しさを失わない夫妻に、その双子の息子、尊すぎる公子たち、そんな中に娘が生まれたという噂を聞き付け、一体どれほどの美しさなのかと、なんとしてでも顔を見ようとしてくる者もいた。そんなリリアンがついに。人前に姿を現した。
「伝説の令嬢、リリアン・ベドフォードの誕生だ。」
カイお兄様がそう囁く。
今の私には、この美しさだけじゃない。
儚く見せるため、高貴で淑やかな令嬢に見せるため、美しすぎる仕草、可愛らしく、時には憂いを帯びる表情。
生き残るための全ての技術が私にはある。
「リリー。」
先に到着していたお父様たちが神殿の入口の前で私たちを待っていた。外にいたのは子爵や男爵家の人々、中にはもう、伯爵家や侯爵家もいる。
「ここからよ……」
誰にも聞き取れないほどの小ささで呟き、息を吐く。
ここが、始まり。全てが今、これから始まるのだわ。
「いくぞ。」
神殿のドアが開く。
「ベドフォード公爵家一向!!」
神官の声が高らかに響き渡った。




