転移魔法に失敗したらレイヴァンと再会しました(3)
「た、たのむ、命だけは………………。」
唖然として男に剣の切っ先を向けるレイヴァンを見つめた。
あんなにいた男たちは全員、レイヴァンによって切られて、うめきながら倒れている。
レイヴァンの強さは健在だった。武術の天才だといわれるカイお兄様とおなじ、もしくはそれ以上の実力だった。
「なぜ俺を襲った?」
さっき私にかけられた声とはまるでちがう、強者の声が辺りに反響して、信じられない思いで彼を見つめる。
「そ、それはお前が、こう………ぎゃぁっ!」
思わず息を飲んで目をそらした。
人を殺すところだなんて、今まで見たことがなかった。前世の世界では信じられないことで、私は今別世界にいるのだと、今さら痛感した。それよりも、レイヴァンが人を殺すことに手慣れていることが衝撃で、体の緊張がとけない。
返り血をあびたレイヴァンがゆっくり近づいてくる。仮面の奥であの光がきらめいた。意図せずに身がすくむ。
「………大丈夫、か………………」
「あ、………」
その声を聞いた瞬間、自分でも驚くぐらいにすとんと体の力がぬけた。言葉を失って荒い息を繰り返していると、彼は心配そうに手を私に伸ばそうとして、その手袋につく返り血を気にしたのか、戸惑うようにぎゅっと握りこんだ。
それを見て唐突に理解した。彼は、優しい人なんだと。ただ自分の身と、私を守ろうとして戦っただけなんだと。
なにか、いわなきゃ。やっともう一度会えたんだから。
急に落ちてきたことを謝らなきゃ。なんて言おう。転移しようとして失敗しましただなんて、魔力が相当高いことがばれてしまうからいえない。いやでもそれ以前に彼が私の事覚えているかどうかなんて………。
「………レイヴァン、だよね。」
ぐるぐる考えながら私の口が発したのは、そんな言葉だった。
沈黙がつづく。
や、やっぱり、覚えてないよね。5年も前の事だし、その時とても仲良くなったとかじゃないし、別に、何もないただの対戦相手で。
あの時はこんな金髪に紫の瞳をしてドレスを着た綺麗な令嬢、なんて格好じゃなくて、仮面をつけてローブを羽織った茶色い髪をしたどこにでもいる………………………女の子………………………………。
焦って早口な思考回路になったところで、はっと気づく。
わたし今、あの時とまったくの別人じゃん………!!
レイヴァンが覚えている訳!レイヴァンからしたら突然空から降ってきたどっかの令嬢が、突然自分の名前を呼んでくるという謎の現象………………。
顔がひきつった。
「ごっごめんなさい!」
思わず謝りながら立ち上がって、驚いているであろうレイヴァンの横を通りすぎる。
なにやってんの私………………!せっかく会えてもこの姿じゃ………。
前に見える角を曲がった辺りのところで転移してしまえばいい。
そう思ってヒールで必死に走っていたのに、
「待って!」
「えっ」
まさか呼び止められると思っていなかったから、つんのめりそうになりながらもなんとか止まる。広がるドレスを手で押さえながら振り向いた。
仮面で表情が分からない。
改めてこう見ると、レイヴァンも髪の色がちがう。あの瞳の色とあわない麦色ではなくて、赤に黒を本の少し混ぜたような、夜中に咲くバラのような色をしていた。
身長ものびて、お兄様たちと同じくらいだった。170………くらい?私よりも全然高い。あの時はまだ少年感が残っていたその体も、引き締まっていながらもしっかり筋肉がついているようだった。
「………。」
私が観察している間も、彼は呼び止めておいて何もいわない。かといって私も何と言ったらいいのか分からない。
言いたいことはあるはずなのに、何も思いつかない。
何かあったわけでもないのになぜか忘れられないこの感情を、レイヴァンももっているのかな。
と、その時だった。
バサッ
「!?なに………」
目の前が急に暗くなり、私にかけられた布のようなものの上から誰かの腕がまわる。けしてきつくないその腕に、なぜか安堵を覚えた。視界が狭くなっていくなか、レイヴァンがこちらに駆けてくるのが見える。
「止まれ。何者だ。」
私に腕をまわしている人物の声が耳元でした。
この声………………
「ライお兄」
「しっ」
口を塞がれる。そうだ。名前を出したら身元がばれる。
「うちの大事なお姫様に何をした?」
カイお兄様の声もした。私よりも前方で聞こえるってことは、レイヴァンと戦おうとしてるんじゃ………。
「やめて下さい!その人は何も………。」
ライお兄様の手と目にかかる布をどけてさけぶ。
2人が戦ったらどちらも無事じゃすまない。2人ともの実力を知る私なら分かる。何より、レイヴァンは何も悪くない。
カイお兄様の注意が私に引き付けられたその瞬間、レイヴァンじりじりとと後ろへ下がり、素早く角を曲がって姿を消した。角を曲がる時、何かを伝えたそうなその目が私をみていた。
「あ………!」
「カイ!!」
「わかってる!」
カイお兄様がレイヴァンを追うために剣をしまって走り出す。
「お兄様!お兄様まって!!彼は私を守ってくれたの、何にもされてないから!!」
はっとして必死にライお兄様の腕のなかで声をはる。
「っ………」
カイお兄様はそんな私を振りかえって、迷った末、私たちのもとへ戻ってきた。
「大丈夫なのか。」
頭を撫でられてうなずく。でも目はレイヴァンが消えた方を追ってしまう。
「リリーなんでこんなところに飛んだんだ。精霊たちが焦りながら俺たちの部屋に入ってきたときは、心臓が止まるかと………。」
ライお兄様に無事を確認されながら振り替える。
精霊たちが?
よくみると、心配そうに建物の影からこちらを見ている。精霊は死を嫌うから、こんなところへはきたくないだろうに………。
「みんな、ありがとう。」
頬を緩めてそう言うと、ぱっと表情を明るくして集まってくる。
"リリアンげんきー?"
「うん。」
"オリビアはなんかへんー"
「えっ………………!?」
絶句してからライお兄様を腕で押し退けて離れる。
そうだ、オリビア!!!!
「おっ、お兄様、私帰る!」
「えっちょっとま」




