クララック様と皇太子様は長年の友でした(2)
「あるの?」
「ええ。オリビア。」
「はい。」
オリビアから本を受けとる。
古ぼけて表紙も分からないこの本は、恐らくベドフォード家にしかないもの。とても貴重な本だ。
「ここを見てください。」
栞を挟んだページを開き、クララック様に示す。ほとんどの文字がかすれているうえに、癖が強い文字だけど、クララック様はすらすらとそれを読み上げた。
「………………私が愛した姫君の掌には、赤い花の紋様があった。これはどこでついたものなのかと聞くと、彼女は決まっていつもこう答えるのだ。「精霊姫と手を繋いだの。」と………………………。これは………」
読みながら驚愕の表情を浮かべるクララック様を見て、確信した。
そして静かに問う。
「著者が誰なのかは記してありませんが、恐らく日記でしょう。………………こうは考えられませんか?精霊姫に気に入られた者は、精霊姫が触れた場所に、赤い花の紋様を残される。
………………クララック様、赤い花の紋様、ありますよね。」
クララック様が息を飲んだ。その紋様をクララック様に見たことはないけれど、精霊姫が会いに来てと言ったのなら、なければおかしい。
「あ 」
「クララック様ー!」
クララック様が頷こうとしたその瞬間、男のひとの声が響いた。
オリビアが慌ててしゃがみこんで姿を隠す。私もとっさに背を低くしながら本を閉じた。
息を飲む私達を落ち着かせるようにうなずいて、クララック様が立ち上がり、返事をした。
「なんだ。」
「皇太子様が到着なされました。」
ドクンッッ
「………………………え?」
「………はあ、リリアン、オリビア嬢すまない。もう少し後に来るはずなんだが………。まったく、昔から相手の事を考えないやつだな。」
クララック様の声を呆然と聞きながらだんだんと早くなる自分の鼓動を感じていた。
昔から………? 昔から皇太子と………。
………………仲がいいってこと?
「おいクララ!どこにいるんだ!」
「うわ、出迎えてもないのにもう来た。早くもっと奥へ………。」
クララック様に催促されて、オリビアに支えられながらよろける足で奥の茂みへ進む。
「お嬢様!しっかり………」
オリビアの言葉で私の様子がおかしいことに気付いたのか、クララック様が私の手をとった。
「大丈夫?」
「っ!」
思わずその手を振り払った。驚くクララック様を睨み付ける。
「………………オリビア、は、早く」
「はいっ………」
転ぶようにして木の影に隠れた瞬間、
「ここにいたのか。」
ドクンッッ
「………クロード。到着時刻は10時だと聞いていたけど?」
「そんなことは聞にするな。」
「気にするさ。 ……………。」
声をあげないように震える手で口を塞いだ。
明らかに貴族だと分かる私の格好。見つかってしまえば、言及は避けられない。興味を持たれてしまうかもしれない。
私たちがいるのは椅子から向かって左側の奥の茂み。ちょっと覗かれたら見つかってしまう。
その前に早く転移してしまおうと、オリビアの手をつかむ。
「お嬢様。魔法を使えば皇太子様に感知されてしまいます………っ」
オリビアが私をとめる。
そうだ………そうだ。皇太子はそれくらいできる。
爪を噛む癖はないけど、焦りすぎるがあまりガリッと噛む。
急がないと。どうしたらいい?どうしたら………。
「………誰か来ていたのか。」
「っ………いや。」
「………………。」
息が荒くなってしまう。オリビアが私を守るように抱きしめ、さらに奥の森を指差した。
うなずいてそっと立ち上がる。ここにいるより、とりあえずもっと奥へ身を隠した方がいい。
息すら止めて歩き出す。
「………………ぁっ」
その時だった。
オリビアが小さな声をあげて後ろへたおれこんでいく。
「オリビア………っ」
ドサッ




