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レイヴァンという男


 とっさに下から押し上げた剣がこすれて嫌な音をたてる。


 危ない………。この人、完全に私を殺す気だった………!


 攻撃を避けても息はつけない。急な重心移動のせいで背中が反り返りバランスを崩す。

 このままだと上から剣に貫かれる。そう思ってとっさに後ろへ転がって剣をよけた。


 よし!ここから………。


 起き上がろうと腕をついた、その時だった。


 

 「………っえ………………」


 転がったことによって目の前に広がった青い空に何かが煌めく。それが何なのかを認識して、ぞわっと背中に鳥肌がたった。


     




            死ぬ………!


 



 脳裏にその単語が浮かび上がった。男の子の仮面が視界に入る。逆光で仮面が闇を被っていた。








 ガンッッ




 




 「………はぁっ………………はっ、はっ………」


 心臓が破れそうなほどに強く打っていて、冷や汗が背中を伝った。今まさに自分の命を奪いかけたそのものを、震えながら見つめるしかなかった。



 荒い息をつく私を男の子はただ見下ろしていた。彼の刃は私の顔との間にわずか数ミリを残して地面に突き刺さっている。とっさに顔をずらしていなければ仮面が切れるだけではすまなかっただろう。

 突き刺さる刃は私の仮面を切り裂いていた。私の体の動きによって乗っているだけの仮面は簡単にずり落ちる。


 私の顔がさらされた。そんなことを気にする余裕はなく、私は微かに呟く。


 

 「降参………………。」


 「………………。」




 聞こえたはずだ。なのに彼は私の上から退こうとしない。目を見開いて見つめていると、彼の仮面の奥の瞳と目があった。



 「「………………………。」」


 目を奪われ、無言で見つめ合う。彼の瞳は赤みを帯びた黒い色をしていた。髪の毛は麦のような色をしているのに、その瞳の色は不似合いな印象を私にもたせた。


 目をそらすことができない。相手も同じなんだろうか。どちらも何かを発するわけでもなく、ただただ見つめ合う。私たちの間に何とも言えない空気が流れる。お互いまわりの音は聞こえていないようだった。


 



 「レイヴァンの勝利!!」



 私たちの沈黙を破ったのは審判の声だった。

 レイヴァン………?

 初めて聞いた彼の名前を反芻する。聞いたことはない。有名な剣士ではないってこと。

 レイヴァンはその声でふいっと私から目を反らし、剣を抜いて鞘にしまった。私の上から退くのを待ってから私も身を起こす。

 


 「リ、アリエルーーーー!!」


 今の試合を見てたのか、カイお兄様がものすごい形相で駆けてくる。それを横目に見ながら遠ざかる背中に思わず声をかけた。


 「ありがとう。」


 

 なぜお礼を言ったのかは自分でもわからない。それしか言うことが思い付かなかったのかもしれない。

 でもその言葉を聞いてなのか、レイヴァンは立ち止まった。


 






    「………………………………………………はい。」


 




 そして長い沈黙のあと、その一言だけをのこして、今度こそ私の視界から消えた。

 

 

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