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十四話

入学してから始めての考査までは後一週間とすこしだ。

帰宅してからいつもならば渚と一緒にぼーっとしてたり他愛のない話をしていた俺は食事を入浴を終えてからすぐに自分の部屋の勉強机の上で参考書とノートに向き合っていた。


そもそも俺は勉強が嫌いなわけではない。

その必要がなかったからやらなかっただけでそれで今まで済んでいたからやってこなかった。


明確に渚に勝とうと思ったことは今まで一度もなかったわけだが、今回ばかりは本気で取りに行こうと思う。

だからこそ、渚も自室にこもって同じように机に向き合っていることだろう。


それでも、ここ最近はずっと一緒にいた人がいないというのはなかなか落ち着かないものだなとふと思う。

入学までは当たり前だったこの距離感が今はとても虚しく感じるのは入学してからのこの期間に俺と渚の心の距離がぐっと縮まったからだろうと勝手に納得しておく。


時刻を見れば22時を回っていて部屋に戻ってきてから3時間半以上ぶっ通しで勉強していたのかと思えば少しだけ頭が疲労を訴える。


「すこし休憩でもするか」


確か、インスタントのココアがあったはずだと部屋から出てキッチンに向かうとそこには先客がいた。


「あ、陽翔も休憩?」


「まあな、あまりやんないことやったからすこし休憩しようかなって思ってさ」


「そっか、私もすこし疲れたから休憩しようかなって」


渚の手元にあったのは俺も飲もうとしていたホットココアだ。

マグカップを取り出そうとして食器棚を開くと、そこに俺のマグカップが見当たらない。


「なあ、渚の……俺のマグカップ知らない?」


「陽翔のマグカップならここだけど?」


渚にマグカップの行方を問いかけると、2人分のマグカップを持って首を傾げていた。

マグカップの中にはミルクココアが入っていてその上には2つほどのマシュマロが乗っかっていた。


「陽翔も飲むでしょ?」


「ああ、ありがと」


「ふふ、どういたしまして」


マグカップを受け取って2人でソファに腰掛ける。

一口マグカップからココアを口に含めば疲労していた身体に糖分が補充されていくような気がしてすこし気分が落ち着く。


「ふう……」


「ん、美味しいね」


「だなあ……」


それ以上言葉を交わすこともなく、お互いの肩をくっつけあいながらちまちまとココアを口に含んで行く。

5〜10分ほど経ってカップの中が空になると、渚が口を開いた。


「勉強、どう?」


「まあ、あんまりよくない。効率はすこし落ちてるし集中もできてない」


不意に聞かれたその質問に俺は何にも考えるわけでもなく、そう返した。

もちろん、集中できていない理由なんてわかりきってるし、こうして2人でココアを飲んでいるこの時間が一番落ち着いているまである。


「私もあんまり気分が乗らないっていうか……なんか、これじゃないって感じがすごくてね。集中できてないんだ」


「奇遇だな、俺もおんなじ感じだぞ」


「だよねぇ……」


お互いにどうすればいいかなんてわかっているが、敢えて口にはしない。

何をいうわけでもなく、俺がそのまま立ち上がれば渚も休憩は終わったと察したのか立ち上がって2人でマグカップを台所に持って行き、軽く洗って部屋へと戻っていく。


だけど、俺は部屋に戻ってもまた椅子に座ることなく参考書とノートと筆記用具を持って部屋を出た。


そして、俺と同じものを持って部屋から出てきた渚と目が合って2人で苦笑した。


「別に成績で勝負するからって別々に勉強しなくてもいいんだよね?」


「だな、結局最後は自分次第なんだからその過程なんていつも通りで全然問題ないだろ」


テーブルを挟んでさっきまで勉強していた科目の参考書を広げる。


「渚は……数学か」


「そういう陽翔も数学でしょ?」


高校に入ってまだ一月弱しか経過してないから範囲はそんなに難しくはない、中学までは使ってこなかった新しい計算方法がすこし追加されたくらいだが……油断して渚との点数に大差がついてしまうとそれだけで勝ち目なんてなくなってしまう。


苦手というわけではないがそれでもきっちりと頭に入れておいたほうがいいのは間違いない。


黙々とペンを走らせる。

俺の目の前では当たり前のようにさらさらと問題を解いていく渚とその速度には劣るが一つ一つしっかりと回答していく俺。


「陽翔、その問題の計算間違ってる」


ちらりと俺のノートを盗み見た渚に指摘されて俺は計算の過程をもう一度見直せば渚が口にしたその誤りがどこか、すぐに見つけることができた。


「ありがと」


「ううん、どういたしまして」


そんな短いやり取りがあるだけなのにもかかわらず、俺はさっき1人で勉強していた時よりもずっと集中して取り組むことができたのは言うまでもない。


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