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十二話

投稿が二日ほど空いてしまいましたが、デート回投稿です。

手を繋いで外を歩くのなんていつぶりだろうかとふと考えた。

最近は渚が腕に抱きついてきていたが、純粋に手立てをきっちりと握って歩いたのは幼い頃、それこそ小学校低学年とかそのあたりだろう。


「陽翔と手繋いで歩くの、小学校以来だね」


「そーだな。でも、あの時とはいろいろ変わったけど」


本当に、六年ぶりくらいに繋いだ手だけど、最後に手を繋いだ時とは俺も渚の立場も関係もだいぶ変わっていた。


「私はその時には陽翔のこと好きだったけどね!」


誇らしげに、そして照れたようにはにかむ渚と少し照れたように笑う俺。


俺と渚を取り巻く環境は変わったけど、それでも変わらないものはいくつもあった。


「俺も、その時には渚のことが好きだったよ」


「小さい頃から両想いだもんね。私たち」


最近、それをお互いに知ったわけだがそれだって俺たちにとっては変わらない出来事の1つだ。

昔から変わらず隣にいる人が好きなこと、揃いも揃って10年以上同じ人が好きなんてロマンチストなんだか一途なんだわからないが、それでもそんなことが俺はたまらなく嬉しかった。


















電車やバスなどの公共機関を何度か乗り継いで目的のデパートにたどり着く。

俺たちが今住んでいる街である《桜雲さくも町》の隣町に位置する俺たちの実家がある街《月鳴つきなり市》

その町の中心部に位置する大きなデパートは市内はもちろん市外からの客で賑わっている場所だ。


「ねえ陽翔?」


「なした?」


「私たち、食材を買いに来たんだよね……?」


不安げに首をかしげる渚に俺はしてやったりという顔を向ければ、渚は慌てふためいたようにカバンの中を漁って財布の中を確認し始めた。


「ひぃ、ふぅ、みぃ……あ、あれ、三千円しかない……」


「お金のことなら気にしないで」


「で、でも遊ぶお金くらい……」


さっき、月鳴の駅に入った時に設置してあったATMで諭吉さんを6枚ぐらい財布の中に召喚しておいた。

食材を買うにしても、せっかくここまできたんだから遊びたい気持ちがあるのは俺だって同じだ。


「 ただの幼馴染なだけじゃなくて、今は渚の彼氏なんだから。こんな時くらい、カッコつけさせてよ」


「……は、陽翔はいつもかっこいいもん……」


渚のポシェットに渚が手に持っていた財布をしまわせて、空いた手を再び繋ぐ。


「ほら、行こう。時間は短いんだから」


「あっ、うん!」


渚の手を引いて、デパートの中に入っていく。

実際のところ、俺も渚もこのデパートに入ったことはあまり多くない。

だけど、元市民として知ってることはここに来れば大概のことはここだけで済ますことができるということのみだ。


さっくりと食材の買い物を終えて今日の夜に届くように指定して配送を頼めば、あとは自由時間の出来上がりだ。


お金をおろしてきたとは言っても、そもそも渚という少女はあまり買い物というものに欲を持たない少女というのが俺の認識だ。


自分にとって必要と感じたものしか決して手にしないし、気になったものでも“近日中”に必要なければ結局手にしないまま通り過ぎてしまう。



だから、渚とこういうデパートのようなところに来たのは長い付き合いの中でも片手で数えられるくらいしかなかったりする。


「ここ、アクセショップだよね?私、あんまりこういうの買わないんだけど」


「知ってる。まあ、見るだけならいいかなって思ってさ」


渚がアクセサリーをつけないのは興味がないからではない。

今の自分に必要がないからつけないのだ。


「陽翔がそういうなら、いっか」


それに、年相応にそういうものが好きなのも……俺は知っていた。






「ね、陽翔!これ可愛いね!」


渚が指差したのはペアのネックレスだった。

海をモチーフにした涙型のネックレスは片方が淡い水色、そしてもう片方が深い海色、それぞれ昼と夜の海を思わせるそれは確かに俺もいいなと思った。


「うん、俺もこれはいいと思う」


ニコニコとそのネックレスを眺めた後、少し残念そうにそのネックレスの場所から離れていく。


「これ、買おうか?」


「え!?ううん、いいよ!私がこういうの買わないの知ってるしょ?」


「まあ、そうなんだけどさ」


ちらりと値段を見れば手持ちのお金で余裕で買える金額だった、なにより……俺は渚と一緒にこれをつけたい。

次のアクセサリーを見始めた渚に気づかれないように店員さんを手招きして呼び出す。


「このアクセサリですね?」


「はい、彼女とのペアにしたいんですけど内緒にしたくて」


「承知いたしました。お支払い方法はどうされますか?」


「現金でお願いします」


財布の中から4枚ほど諭吉さんを店員さんの元へ出荷すれば店員さんは手早くショーケースの中のアクセサリを取り出してカウンターの方へと向かっていく。

こういうことも慣れっこなのだろうかと見当違いな疑問を持つけれど、いろんなアクセサリーを見てニコニコしてる渚の元へと歩いていく。


「陽翔がいいなって思ったのはあった?」


「いや、遠目でニコニコしてる渚を見てた」


「なにそれ?私のことなら近くで見てくれればいいのに?」


悪戯っぽく笑う渚に俺もつられて笑う。


「いや、遠目から見る渚も俺にとっては特別だから」


「またそういう嬉しいこと言ってくれる」


「本当のことだしね」


「私も、陽翔のことどこから見ても特別だよ?」


「ありがと」


十分満足したのか、渚は店の外へと歩いていく。


「もういいのか?」


「うん、色んなもの見れて満足!」


「じゃあ、次どこ行こうか?」


「うーん、お腹すいたからご飯食べよ?」


「それじゃあ、そうしようか」


渚が店から出てすぐに店員さんから、アクセサリを受け取る。


「袋に入れれば目立つかと思われますので、大変恐縮ではありますがお客様のお持ちの鞄の方へ入れていただいてもよろしいでしょうか?」


「はい、ありがとうございます」


「プレゼント、喜んでいただけるといいですね」


「ええ、本当に」


受け取ったアクセサリの箱を持っていた少し大きめの鞄の中に入れて、店を出る。


「どうしたの?」


「いや、なんでもない」


「……?そう?ならいいけど……」


「それよりも、行こうか」


渚の手を再び握って歩き出す。



そして、俺と渚が選んだ店は洋食専門のレストランだった。

席に案内されて、メニューを見ても見た目の割にリーズナブルな値段で少し安堵する。


「何にしようかなー、陽翔は決めた?」


「いや、まだ決まってない」


「そっか、んー……オムライスとミートスパゲティ……どっちも美味しそうだなぁ……どっちにしようかな……」


たっぷり2分ほど悩んで渚は顔を上げる。


「決まった!」


「よし、すみませーん!」


店員さんを呼べは微笑んだ40代くらいの男性店員がやってきて注文を聞いてくる。

先に渚に注文するように目配せすればそれを察した渚は店員さんに対してはっきりと聞こえるように声を出す。


「私はミートパスタを1つ」


「それじゃあ、俺はこのオムライス1つと食後に紅茶を2つ。お願いします」


「かしこまりました。少々お待ちくださいませ」


注文をきっちりと書き込んでそのまま厨房の方へと消えていく店員を横目で見て今度は渚の顔を見る


「よかったの?」


「なにが?」


「オムライス、頼んだでしょ?」


「いいんだよ。俺もそんな気分だったし、それに食べさせあいなんて……それこそ恥ずかしがるようなことじゃないだろ?」


「まあ、そうだけどさぁ」


ちょっこり頬を膨らませて不満げに俺を見る渚に俺は軽く笑って誤魔化してみたが、内心ドキドキが止まらない。

今日の朝から、普段ならなんでもないこととか今までは気にしてなかったことが急に恥ずかしくなったり、嬉しくなったり、渚の笑顔がいつもよりも可愛らしく見えてどうしようもなかった。


食べさせあいなんてとは言ったが、それだって今まで何回もやってきた、小さな頃からずっと、お互いに別のもの食べてる時は一口ずつ食べさせあいを今までやってきたはずなのに、今はそれを意識するだけで鼓動が激しくなっていく。


「……?陽翔なんか顔赤いよ?熱でもある?」


小首を傾げて俺を見つめる渚に俺はいつも以上の魅力を感じてしまっている。

ふとした仕草や、さりげない言動、いつも通りのスキンシップ、それら全てが今の俺には愛おしくて仕方ない。

これでは思春期の男子高校生のようだと思うが、今まさに自分がそうだと自分の中でセルフツッコミをして納得する。


昨日のキスが、俺の意識を完全に変えてしまった。

そうだ、俺は昨日の夜から完全に渚を大好きな幼馴染から大好きな女の子に見方を変えてしまったんだ。


「いや、なんでもない」


「そう?具合悪かったら教えてね?」


「急に具合悪くなるわけないでしょ」


「ふふっ、わっかんないよー?小学校のはじめての遠足の時に高熱出して『なぎちゃん、一緒に行けなくてごめんね』って泣きそうな顔して言ってたのはどこの誰だったかなー?」


ニヤニヤと笑いながら随分と昔の話を引っ張り出してきた。


「もう9年も話じゃないかよそれ」


「あのときの陽翔可愛かったなぁ」


「『はーくんが行かないならなぎさもいかないもん』って声潤ませてる奴もいたな、誰とは言わないけど」


「名前言ってるじゃん!」


「え?なんのことだろう?」


「もーーっ!」


ある意味幼馴染定番とも言えるそんなやりとりをしていれば注文していた料理も運ばれてくる。

メニューに載っていた写真でも美味そうだったが、現物を見るとさらに食欲がそそられてくる。


「わー、おいしそうだね!」


「だな、これで正解だったかも」


手を合わせて「いただきます」と2人で言えば、すぐにスプーンとフォークをお互いに持って一口食べる。


「ん〜、おいしい!」


「うん、これも美味い」


二人ともそのままスプーンとフォークでもう一口分スプーンとフォークに乗せれば、それはお互いの口の前へと持っていく。


「「はい、あーん」」


完全に一緒のタイミング、幼い頃から二口目は必ずお互いに交換する俺たちだからこそ、なにも言わなくても必ずその行動をする。


遠慮することなく、お互いの手元から伸びる食器に乗せられた料理を口にして2人で“おいしい”を共有する。


「オムライスもおいしいね」


「パスタも美味いな」


これも昔から必ずやってきたこと、だから恥ずかしさなんて感じないはずだったんだけど……


「(渚と間接キスすることになるよな……これ……)」


「(はーくんと間接キス……はーくんと間接キス……)」


余裕がなかったのはお互いさまだと、2人とも普通を装っているせいで気がつくことは全くなかった。






遅めの昼食を食べ終えれば既に時刻は15時を回っていた。

もともと買い物を目的にしたものだったから遊ぶ計画なんて全く立ててなかった俺と渚はやることもないから帰るかという結論に至った。

行きと同じように電車やバスを乗り継いで自宅へ向かう道を歩いていく。


ただ、帰りは手を繋いだものじゃなくていつも通りの腕への抱きつきへと戻っていたが


「これが一番落ち着くなぁ」


「そうか?」


「うん、陽翔の腕に抱きつくの落ち着くんだぁ……昔は一緒くらいの背丈だったのに、今は私と10センチ以上も離れて大きくなって……でも、こうしてると背は大きくなって差は開いても私と陽翔の距離は変わらないんだなって安心する」


ゆっくりと噛みしめるように口にする渚に俺も同じことを考えた。


生まれてからずっと一緒だった。

生まれてすぐに渚はその才覚を見せつけ始め、俺と渚の間には圧倒的な才能の差があった。

だけど、俺と渚の心の距離が開くことは今までなかった。

幼馴染、といえば仲良くするもの……そう世間一般では思われるかもしれないけど、俺と渚はどちらかといえば……


比翼の鳥……という表現が一番あっているかもしれない。


お互いに離れることを選べない。

離れたときのことを想像できないし、この間のときだって心が張り裂けそうなほど苦しい思いもした。

住む家が違う、家族も違う。

だけど、俺と渚は人生のターニングポイントになるところは全て一緒にはじめてきた。

だからだろうか、俺は渚の隣にいる時が一番安心するし、自分を偽ることをしなくてもいい。


「いくら背丈が離れてもさ、結局俺は渚から離れることって考えられないんだよなぁ……よく考えたら俺も渚に依存してんのかも」


「私はそれでもばっちこいだよ。陽翔が私に依存してくれれば共依存幼馴染カップルの出来上がりだね!」


「それがいいことなのが悪いことなのかわからんわ」


「世間的にあまり褒められたものじゃなくても私は全然気にしないし、寧ろ陽翔が私に依存してくれるのは嬉しいよ?」


「それはそれですげえ複雑なんだけど」


アパートの部屋にたどり着くまでの道を2人で並んで歩く。

それだけのことだって、今の俺は1人でここを歩くことを考えられないんだから相当重症だと思う。


家の扉の鍵を開けて、そのまま2人で家の中に入っていく。

靴を脱いで、渚が着替えるために部屋に戻ったのを確認してからテーブルの引き出しの中に買ったネックレスを隠して、俺も着替えるために部屋へと戻る。


「……ほんとに俺もいろいろ変わってきたな」


普段着に着替えながらそんなことを口ずさんでもどうしようもない。

いくら俺が渚の行動にドキドキしても、やるのはキスまで、そう決めたし、2人で話して決定したことだ。


鏡を見て少し崩れた髪を一応元に戻しておく。

風呂に入るのはもう少し後だから、それまではこのままを維持しないといけない。


ソファに座って数分もすれば渚が部屋から出てきていつも通りに俺に抱きついて身体を当ててくる。


「ふふっ、ドキドキする?」


甘い声で問いかけてくる渚に俺はそのまま思ったことを伝える。


「知ってるだろ?すげぇドキドキしてるって」


「ねえ、陽翔……キスってストレスとか不安の解消になるんだって」


上目遣いのまま俺を見て唇に指を当てる渚。


「俺は渚にストレスも不安も感じてないけどな」


「んもぅ、そうじゃないのに……」


少しだけふて腐る渚に俺は言葉を続けた。


「なあ、渚……キスって幸せになれる効果があるって知ってるか?」


「え……んんっ……」


渚が振り向いた瞬間、唇を重ねる。

目を瞑って、お互いの下を絡め合うようにゆっくりと長い時間をかけて一度のキスをする。

唇を離せば、渚の目が寂しそうに俺を見つめる。


「ね、陽翔……もっかい、しよ?」


その言葉への解答は再び顔を近づけることで返すのだった。

きっと暫くは2人の時はこういうことを続けていくんだろうなとしみじみ思いながらも、俺はこの瞬間をこの幸せを大事にしたいと心から思う。

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