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男なら一国一城の主を目指さなきゃね  作者: 三度笠
第三部 領主時代 -青年期~成年期-

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952/952

第五百四十九話 受け入れる心境 5

7452年9月26日


 未明。


 デーバス王国王都ランドグリーズ。

 ゲグラン男爵邸。


「次! ここの血管を!」

「はっ……………………………………………………」

「あなたはこっちよ」

「はい……………………………………………………」


 レーンが治癒魔術を掛ける傷を指示すると、すぐに魔術が使用できる家人が進み出てヘクサーの傷に治癒魔術を掛ける。

 多少の時間(当初は二〇分も掛かっていた者もいた)は掛かるが、夜半を過ぎる頃には人によっては数分単位で集中時間が短くなっている者までいた。


 その御蔭か、ヘクサーの体内に巣食い始めていた蟲も五〇匹は取り出せている。


『ヘックス! 次は!?』


 レーンは荒い呼吸のヘクサーの耳元に口を近付けると、少し大きめの声で次に取り出すべき蟲の居所を尋ねた。


『……はっ、はっ、はっ……左の……ぐっ……わ、脇腹……』


 弱々しい声で返答するヘクサーの声に、レーンはすぐに左の脇腹をゆっくりと撫でる。


『も、もう少し……下……そこじゃない……少し腹の方……ああ、そのあた……』


 触られた手の位置を指示する。

 が。


「……がはっ! ごほっ!」


 ヘックスは激しく咳き込むと同時に霧のような細かな血液だけでなく、ベットリとした血痰を吐いた。

 肺のどこかをやられているのだ。


 しかもこの様子だとそれなりに大きな血管が破られている可能性もある。


「ぜひゅっ、げへっ!」


 ヘックスもレーンも、なんとなく肺を含む胸の手術――場合によっては肋骨を断ち切っての開胸手術となるだろうし、更に肺という臓器にも刃を当てねばならないため、場合によっては呼吸困難からの窒息死にまで直結する――は怖くてここまで後回しにされていた。


 しかし、いつまでも放って置く訳にも行かない。


 三分の一以上の肺胞が血液に塗れてしまったら呼吸は相当に辛くなり、半分を超えたら窒息死寸前だろう。


 もう余裕はない。

 治癒魔術だって使用に限りはある。

 いつまでも潤沢に使える訳では無いのだ。


 とは言え、メス代わりのナイフを振るうレーンも開胸手術は愚か、手術自体が初めてであり、ヘクサーも痛みに耐えて意識を保ち続けなければならない。


『脇腹を処置したら次は肺をやるわ』


 もうこれ以上は限界だ。

 今ここで肚を据え、且つ首尾よく大部分の蟲を肺から取り除かなければ、ヘクサーが朝日を浴びる事はないだろう。


『わかっ……た……』


 ヘクサーの返事を聞き、レーンはそっとナイフを持ち上げた。




・・・・・・・・・




 黎明。


 デーバス王国王城ランドグリーズ。

 王族親衛隊本部。


「……それで、ボークスは? 第一警備小隊は?」


 つい今しがた帰還してきた伝令の報告を聞いて、セルは質問した。


「は。ボークス小隊長殿は私を報告に向かわせると同時にランドバーゲル方面へと移動を開始しております」


 返事をする伝令に頷いて、セルは休息するように命じると椅子の背もたれに体重を預けて目頭を揉んだ。


 ツェットが指揮する第二警備小隊もランドバーゲル方面へと急行しているが、夜中の行軍は非常に難しい。

 特に馬がいてはほぼ無理に近い。

 全く移動出来ないという訳では無いが、相当に整備された街道でもない限り、馬が骨折する可能性は高いし、馬から降りての徒歩移動でも転倒事故を避けるのは困難だ。


 速くて時速一㎞がとこであろう。


 本来なら、夜が明けるまで待ってからの移動を行うべきであろう。

 事実、ボークスもツェットも第三、第四警備小隊からの伝令が着いたのは既に日が暮れ、夜の帷が落ちてからであり、彼らも野営や宿泊をしていた所だった。


 それにもかかわらず危険をして夜中の移動を開始したのは、「目標ターゲットを取り逃がすと国家の重大事に繋がりかねない」という認識が共有出来ていたからに他ならない。


 グリード侯爵の奥方と目される闇精人族ダークエルフについては、ある意味で不可抗力とは言え、ほぼ誘拐したようなものである。

 夜半になり、多少王都内の騒動も落ち着いた事もあって、アレク自身がゲグラン男爵邸に赴いてレーンから大体の事情を聞けた事でより確信が深まっていた。

 その際には一応、ヘクサーの容態を戸口から見ることも叶ったが、治療の真っ最中であり、丁度腕を割いて蟲を引っ張り出しているところだったので彼と直接言葉をかわした訳では無いものの、アレクとしては流石に容態を心配する事しか出来ずに引き上げて来ざるを得なかった。


 何にしても、ここまでの彼らの対応は、得られた極小の情報から限りなく正解に近づいており、これ以上の対応が出来るとしたらそれは最早人間ではない。


 しかしながら、それでも後手を踏まざるを得なかった事は確かであり、現実として未だに目標ターゲットを捕らえられていない。

 それどころか、ヴァルの行方も知れず、ミュールも最後の報告以降、報告がない。


 彼らとて無能からは程遠く、特にミュールは個人戦闘能力に秀でているだけでなく、軍の部隊指揮官としても非常に得難い人材であり、そう簡単に失う訳には行かなかった。

 生まれ変わってからの人生の殆どを一介の農奴として過ごしてきたヴァルにそこまでの能力はないが、元日本人としての思考力や想像力は当然、ひたむきに努力し続けられるという、なかなかに得難い性格は結果にも繋げられていることもあって、こちらも失うには惜しい人材である。


 当然、今も生死の境を彷徨さまよっているヘクサーも王国民の中層から下層までの情報収集能力で並ぶ者はないし、冒険者ヴァーサタイラーとしての能力も堅実に備えている上に、国内の地理にも明るい、そう簡単に替えの利かない優秀な人材である。


――ふぅ……少し寝た方が良いか……。


 セルは隣室に控えていたアル子を呼ぶと「何かあったらすぐに起こしてくれ」と頼んでソファに転がった。




・・・・・・・・・




 昼。


 アルに率いられたミヅチら六人は、二人の捕虜を縛ってウェッブの魔術で簀巻きにしたうえで荷物のように軍馬に乗せたまま、ランドバーゲルの街にあった。


 なお、ランドバーゲルの街に入る前にネルは鎧を脱いでおり、鎧下だけの身軽な姿になっている。


 そして、大胆にも目抜き通りの少しお高いレストランのテラス席で昼食に舌鼓を打っていた。


「これ美味しいね」

「ああ。やっぱ海辺だからか海鮮は美味いな」

「これ、『天ぷら』にしても……」

「絶対美味いやつだわ」


 ミヅチとアルは焼きエビ料理に感心していた。

 海鮮の中でも特に甲殻類は鮮度が命である。

 加熱して調理するにしても鮮度は高ければ高いほどよい。


 中でもこの料理に使われているエビは特別な種類らしく、特に殻が薄いので殻ごと生食できるほどだという。


 そのエビを生きたまま少し塩を振り、強火の遠火で軽く炙っただけのシンプルな料理なのだが、彼らの味覚には非常にマッチしたようだ。


 アルもミヅチも少し焦げのあるエビの殻ごとバリバリと食べている。


「魚も美味いな」

「ええ。この煮付け、レシピを知りたいわ」

「これ、肝がおなかにのこしてある……トロッとしててコクがあって、美味ひぃ~!」


 クローとマリー、そしてネルも鮮やかな緑色の皮膚をして真っ青な肉の、日本人的にはかなり気色の悪い魚をつつきながらしきりに感心の声を上げていた。


 そんな折、レストランに併設された厩では……。


「ほれ、口開けな」


 ラルファとグィネが一口大にちぎったパンを二人の捕虜の口にねじ込んでいた。


 捕虜は相変わらずウェッブで身動きが取れないまま馬の背に乗せられており、鼻だけが外気に触れていたが、食事を摂らせる必要もあって口の部分が切り開かれていた。

 開けられた口には食事が済み次第、猿轡さるぐつわが噛まされる予定だ。


 馬の背に横向けにうつ伏せに縛られている二人は、頭部が低い位置にあるので食物を嚥下しにくい姿勢だが、そんなものラルファとグィネが気づく訳はない。


「いつまで噛んでんの? 早く飲みなよ。次あげないよ?」

「ふごご……」


 面倒になったのかパンの欠片を口に押し込み、飼い葉用の木桶からコップで汲んだ水をぶっ掛ける。

 当然、水は一部が鼻に入ってしまう。


「ぶげっ! げへっ! ごぉへっ!」


 当然こうなる。

 が、捕虜の顔は馬の体の方を向いているので、彼女らに掛かることはない。


「あっ、汚いなぁ。お仕置きだよ」


 鼻面を軽く殴り、またパンを押し込む。


 この拷問だが、実は捕虜の反抗心を折るのに非常に有効な方法の一つとされている。

 このような通常ではない姿勢での食事をさせ、失敗する度に軽い肉体的な暴力を与えるような食事を数度繰り返すと、結構な割合で反抗心は折れてしまう。


 勿論、されている捕虜は満足な食事にならないが、それでも少しは食べられるし、水も飲める。

 食事をするだけでかなりの体力を消費する事になるが、それでも飲み食いしなければ待っているのは衰弱しかないので、食わざるを、食う努力をせざるを得ないのだ。


「もういいかな? 私、お腹減った」

「少しは食べられたみたいだし、いんじゃない? 私、お肉食べたい」

「じゃ、そろそろ行こっか」

「うん。その前に猿轡だけは忘れないようにしないと」

「そだね……しょっと、こんなもんかな」

「ん……こっちも大丈夫」


 二人の足音が遠ざかっていく中、捕虜達の頭に浮かんだのは、「これ、食事メシはともかく垂れ流しかよ……」という、何とも言いようのないやるせなさであった。


 

■本文中に出てきたエビですが、脱皮したてのソフトシェルではありません。

そういう種類のエビです。「天使の海老」とか「パラダイス・プロン」とかでインターネット検索をすると似たようなものが見つかります。

魚の方はオリジナルです。


■コミカライズの連載が始まっています。

 現在、Webコミックサイト「チャンピオンクロス」で現在第一七話まで公開されています(毎月第二木曜日に更新です)ので、是非ともお気に入り登録やいいねをお願いします。

 私も含め、本作に携わって頂いておられる全員のモチベーションアップになるかと存じます。


■本作をカクヨムでも連載し始めました(当面は毎日連載です)。

 「小説家になろう」版とは少し異なっていますので是非お読み頂けますと幸いです。

 ついでに評価やご感想も頂けますと嬉しいです。


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― 新着の感想 ―
↓アラケール・カリフロリス、農奴出身で前世でラルファのクラスメート。セル(センレイド)の情婦。 しかしあのラルファもグィネも立派になって… エムイー修了しただけのことはあるね
アル子?
虫取り長いなw 何ヶ月やっとんねんΣヽ(`□´о)
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