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男なら一国一城の主を目指さなきゃね  作者: 三度笠
第三部 領主時代 -青年期~成年期-

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第五百三十四話 物見遊山(偵察) 28

7452年9月24日


「上だ!」

「二階から聞こえるぞ!」


 ゲグラン男爵邸を警備している私兵が口々に叫びながら階段を駆け上がる。


 連続して彼らに踏み鳴らされた事で階段はギシギシと軋んだ。


 そして。


「うあっうあっうあっ……!」


 誰かが苦鳴する部屋の扉に手を掛ける。


 手を掛けた兵隊は後に続いている者の顔を見た。


 見られた者は唇を一舐めして頷きを返す。

 その右手には室内など狭所で取り回しのしやすいよう、大ぶりのナイフが握られている。


「うっ……」


 部屋から聞こえてきた叫び声は、唐突にボリュームを落としたが無くなった訳ではないようだ。


 先頭にいた兵士が指を三本立て、薬指を握り込んだ。


「んっ……」


 中指を握り込む。


 すぐ後ろの男はナイフを握り直すと同時に突撃用の突起スパイクの生えた小盾バックラーを前面に構えた。


「こぉ……」


 人差し指が握り込まれ、その直後。

 乱暴に扉が開かれた。


 兵隊どもの本音としては蹴り破りたいところではあったが、流石にそういう訳にも行かない。


 そして、倉の二階へ数人の兵隊が雪崩込む。


「「動くなっ!!」」




・・・・・・・・・




 急速に暗くなっていくランドグリーズの街。


 まだ道を日が照らしているのは本当に限られた大通り、それもごく一部だけだ。


 大通りではない道は建物に反射する光のみが頼りであり、足元は急速に見え難くなっていく。

 それもあと二〇分もすれば闇に飲まれてしまうだろう。


 店仕舞をしている露店や、もう既に夕食を終えて早足で帰宅の途についている通行人、粗末なリヤカーに荷物を満載し、疲れた足取りで荷を運んでいる者など、まだ多少なりとも明かりの残っているランドグリーズの表通りも裏通りもごった返している。


 ミヅチはそういう大通りから一本離れた裏通りを駆けていく。


 店を片付ける間に傍にずらしていた露店の在庫商品の山。

 夕食と共に一杯引っ掛けたのか千鳥足でよろける男。

 ゆっくりとした動きでなかなか進まないリヤカー。


 それら全てをギリギリで躱し、時にトンボを切りながら飛び越え、一瞬たりともその足を止めることはなかった。


 その様子は、まるでカンフー映画でよくある追跡シーンのようだ。

 違いは、わざと荷物を崩したりして追手の足を止めさせようなどとはしなかったことだ。


 そうやって一〇〇m以上を駆け抜けてから物陰に隠れながらそっと後ろを確認する。


――誰にもぶつからなかったから、迷惑は掛けていないし大騒ぎにはなっていない……。


 そんな訳はなかった。


 暗くなりかけとはいえ、街中まちなかであれだけの大立ち回りである。

 勿論、誰にも当たっておらず、従って荷物を崩したりしてもいない上に、素早い動きが身上でもあるライルの一位戦士階級だ。


 確かに気が付いていない者も多いが、少し離れたところから見ていれば普通に見える。


「おいおい、あんた! スゲェな!」

「どこの大道芸だい?」

「どうせならもっと明るい時に見せてくれよ」


 傍に居る者から声を掛けられ、ミヅチは少し慌ててしまう。


「あ、いや、その……」


 広げた両手を顔の前で激しく交錯させながら、ヘラヘラとした笑顔を貼り付かせその場から足早に立ち去るしかなかった。


――あ~、やっちゃった。でも、鬱陶しいのは撒けたみたいだし、騒ぎも大したことなく済んでよかったわ。


 かなり暗さを増した路面を見つめ、今度はただの早歩きで北の方へを歩を進めた。




・・・・・・・・・




 倉の二階へと雪崩込んだ兵隊達が床一面に蠢く蟲を踏み潰すのは必然であった。

 そして彼らに対し、部屋中に蠢いていた蟲達が一斉に襲いかかるのもまた必然である。


 翅を持つ蟲も何割か混じっており、それらは一斉に唸る羽音を立てながら飛び上がって闖入者達に纏わりつく。


「「うわっ!」」


 翅のある蟲はその殆どが顔や首元など、素肌を晒している場所へと飛びついた。


「「なん、危ね!!」」


 兵士達は思わず手で顔にたかってくる蟲を払い落とそうとする。


 だが、それよりも先に蟲は毒針を突き立て、毒を分泌する口吻で噛みついてくる。


「「痛っ!!」」

「なん、蜂!?」


 毒針は当然、噛みつかれて皮膚を食い破られる激痛。

 即効性のある痛みを齎す毒。


「応援をっ、がっ」

「もっと人手が、ぺっ、ぺっ!」


 口の中にも侵入され、舌や口内を噛まれる者もいるようだ。


 そして、痛みに転げ回っていたアーニクは当然、ヘクサーも急に動き出した蟲達に驚いてしまった事を責められる者はいないであろう。


 ヘクサーはあっという間に蟲にたかられ、全身を刺され、噛まれてしまう。


 その痛みは想像を絶するもので、切り飛ばされた耳や足首の痛みすら一時的に忘れてしまう程だった。


 痛みにより苦鳴を漏らそうと口を開ければその中に蟲が飛び込み、鼻の穴どころか、肛門にも傍を這っていた蟲がたかって来る感覚が純粋な恐怖を齎す。

 当然、未だに出血が続く耳のあとなど齧られ放題だ。


 目は閉じるべきなのだろうが、恐怖感から時折でも開けてしまうのはどうしようもなかった。


 齧られたり刺されたりした蟲の正体(と言うか、掴むために種類や体型、大きさなど)を把握するには見るしかない。


 だが、片目に小さな蟲が飛び込んできたのを契機にヘクサーは今度こそ恐怖の叫びを放つ。


 反対側の目蓋を何かが齧っているだけでなく、毒まで流し込まれたようだ。

 灼熱感のある痛みは即座に失明という単語を連想させ、更にヘクサーの恐怖感を煽る。


 口内や鼻、耳の穴にまで侵入しようとする蟲を払い落とし、皮膚を食い破る這い蟲を掴んで引き剥がす。


 食われる、という恐怖は今まで出来るだけ蟲を刺激しないようにしていた彼を部屋の出口へと誘った。


 そして、アーニクの方はアーニクの方で、体中を刺され、噛まれまくりながらも首尾よくジャックへの【変身】を終えたことで斬られて繋がれた足の接続すら多少マシになった気がしていた。

 だが、【変身】時に転げ回ったことにより蟲の総攻撃を受けたことでその程度はチャラになっていると言っても過言ではない。


 彼の方はそれなりに知識量も豊富であったこともあり、痛み自体は当然だがいちいち感染症や寄生に対する恐怖を感じていた。


――目が……。それに何匹か飲み込んじまったか? 鼻や耳も守らないと……!


 【変身】による痛みは過ぎ去ったが、毒によるそれはまた別種の痛みを齎してくる。

 そんな折。


――くっ、ケツに……! 侵入される前になんとかして潰さないと!


 ズボンを脱ぐ事でこれ以上肌面積を増やしたくはない。

 服の中にまで侵入されていたのに排除できなかったのは悔やまれるが、【変身】時に転げ回ったことで服の下の蟲はかなり潰していた事もあってヘクサー程の被害はなかった。


 グローブのように腫れ上がった手で思い切って尻たぶを両側から叩き、肛門へ侵入しようとしてた蟲を叩き潰す。


 だがその間に百足ムカデ馬陸ヤスデのような這い蟲が鼻の穴に侵入はいって来ようとしていた。

 思わず鼻から息を出すと同時に手で引っこ抜く。

 くしゃみをしようと大きく息を吸い込もうとすると、その隙に蟲達が口内へ侵入してくるのを既に学んでいるが、そうそう我慢できるものではない。


「げっ!」


 噛み切った蟲の死体を吐き出し、同時に細菌やウィルスに汚染されているであろう体液や欠片を飲み込まないよう唾も吐き出す。


 そうしている間にも首に齧り付いていた蟲が体内へと侵入しようとして来る。


 どうにかこうにか、それを穿ほじり出して投げ捨て、少しでも部屋の出口へと移動する。


 最早アーニクの意識にはヘクサーの事など欠片も残っていなかった。

 それはヘクサーの方も同様である。


 結局、彼らが警護の兵隊達に引きずり出されたのはたっぷり五分も経ってからのことであった。


 当然、すぐにステータスを検められる。

 二人とも顔の形が変わる程に腫れ上がっており、人相など分かったものではなくなっていた事に加え、毒による高熱にうなされて碌に喋ることすら出来なったことも大きい。


 ステータスを検められた事で、二人は男爵家の一人娘、レーンティア様の友人でしょっちゅう出入りしていたヘクサー・バーンズとジャッキー・エルデナンであることが確認されたが、二人の右足がそれまでと異なっている事に気が付いた者は一人として居なかった。


 二人はいつ死んでも全くおかしくない容態であった。


 仮にここから完治したとしてもなんらかの不具(例えば、失明や失語どころか、精神異常さえ疑われる)は残るであろう。

 当然、解毒や傷の治療は行われたが、傷の数が多過ぎたため警備の戦闘奴隷や私兵が使える程度の魔力量では雀の涙である。


 王宮へ出仕しており、今頃はどこかで食事をしているレーンティア様の帰りが早ければあるいは助かるかもしれないが……それにしても傷の数が傷の数だ。

 彼女の魔力量はともかく、精神力が尽きる方が早いかもしれない。


 

■コミカライズの連載が始まっています。

 現在、Webコミックサイト「チャンピオンクロス」で現在第一四話まで公開されています(毎月第二木曜日に更新です)ので、是非ともお気に入り登録やいいねをお願いします。

 私も含め、本作に携わって頂いておられる全員のモチベーションアップになるかと存じます。


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 「小説家になろう」版とは少し異なっていますので是非お読み頂けますと幸いです。

 ついでに評価やご感想も頂けますと嬉しいです。


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 連載の継続には皆様のご協力が不可欠です!

 既刊の第一巻もそうですが、今月27日に出版されます第二巻の初動(発売日前)を含む売上数で継続が決まるそうです。


 全国の書店や大手通販サイトでお取り扱いされておりますので、この機会にご購入及び第二巻のご予約(発売日は2026/1/27の予定です)をいただけますと関係者一同凄く温かい気持ちになれますのでどうかご購入の程、宜しくお願いいたします。

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― 新着の感想 ―
二人の逆恨みや、やり過ぎの逆ギレとか起こしそうな思ったよりえげつない規模の魔法だった 全身鎧で動きづらい相手や勿論軽装備相手でもすごそう
虫、コワイ!
拷問と威嚇以外に使い道なさそうな魔法だなと思ったけど閉鎖空間だと結構攻撃力もあるんだなあ
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