第五百三十一話 物見遊山(偵察) 25
7452年9月24日
『まぁ、鉄砲自体はロンベルトも作ってはいたようだが、流石に量産に成功はしてなかったか』
アーニクの言葉にはミヅチとしても内心で頷かざるを得ない。
例え半自動ライフルだとしても量産しているのとしていないのとでは天地の差だ。
尤も、数は少なくともベルト給弾式の機関銃でもあれば話は全く別になるが、そういった物がある訳でもない以上、月産二〇丁以上になるという生産力には素直に脱帽せざるを得ない。
恐らく、アルの製造する半自動ライフルの有効射程は五〇〇mから精々プラス数十メートルというところ。
対して、デーバスが量産している火縄銃は現物を確認しない事にはなんとも評価し難いが、種子島でコピーされた程度で三〇~四〇m、戦国末期で六〇~七〇m、江戸末期で九〇m前後である。
弾丸自体が殺傷力を伴って届く距離はその数倍もあるが、普通はそれを有効射程とは言わない。
そんな事を言うのであればアルの半自動ライフルも一km以上も充分な殺傷力を伴うからだ。
なお、長弓も一〇〇m前後、射手や物によってはプラスアルファの有効射程を叩き出せる事もあるが、その為には射手は何年も長弓の修行を欠かせないし、才能も必要だ。
何より、優れた弓だけでなく、優れた矢も必要になるのでアルが考える軍隊に於いては早い段階で「今後は必要なし」として切られる兵種であった(※最初に切られるのは銃の量産状況にもよるであろうが、剣と盾を装備し、装甲付きの鎧を身に纏う近接重装備の歩兵種だろう)。
――グィネが拳銃を撃ったようだし、銃声を知っているなら気が付くのは当然よね。
そう考えるミヅチであるが、これもグィネが発射していたリボルバー拳銃の実包は半自動ライフルと同じ弾丸・薬莢・推進剤で、違いは減装弾かどうかでしかないからだ。
普通弾も減装弾も発射音自体はほぼ同じで、あとは薬室の閉鎖状況や銃身の長さで変わってくる。
そういう意味では同じ実包でもリボルバー拳銃の方が半自動ライフルより薬室の解放度合いは比較にならないほど高いので、発射音は段違いに大きくなる。
まして、火薬の特性や銃の発射音を知っているなら気が付かないなどという事はあり得ない。
『さて、どうかしらね』
ミヅチは余裕たっぷりの声音で返答しながらデーバス王国に対する評価を改めていた。
当然だ。
相手に銃があるとなしでは戦場で取れる戦術の幅がかなり異なってくるのだから。
更に、すでに量産化されているというのにもかかわらず、ロンベルト側は銃の話はその噂すら入手出来ていない。
ひょっとしたら王国中枢には間者からの報告が上がっているのかも知れないが、それがアルの所に降りて来ていないのであれば……。
――これは……何としても銃の現物を入手するか、それが難しいなら弾だけでも……。
ダート平原を治める領主の配偶者としてはある意味で当然の思考だが、今の状況を考慮すると困難を極めるとしか表現は出来ないだろう。
尤も、銃とその存在、火薬や弾丸を含める生産ラインを秘匿するのは困難に思えるが、ちょこちょこと一般的に使用されていなければそれ程でもない。
『ところで、デーバスではもう実戦で使っているのよね? その威力についてまではロンベルトは詳細を掴めていないのだけれど……』
ミヅチはカマをかけることにした。
ちなみに、どういう形だとしてもこのカマかけに乗らないようだと二人とも生かしておく価値はないのでこの場での処分が確定する。
そもそも二人は本物の【魔法習得】を知っているのだ。
名前は偶然に被ってしまったのだろうが……それもあって、たとえ本気でロンベルトに寝返ったのだとしても安易にロンベルト側の転生者と接触させる訳にも行かない。
『ああ。やっぱり聞いたことくらいはあるか。御存知の通り東部戦せ……カンビット王国との戦闘で何度か使われている……』
アーニクの声からは「そりゃ知っているだろうな」という感情しか読み取れない。
一応、箝口令を敷かれているが、騎士団の上層部や王国の中枢ではとっくに知られていて久しいからだ。
だから、つい、銃の情報を漏らしてしまったとも言えた。
要するに、今知らなかったとしても遅くとも数カ月後には知られていて当然の情報だと考えていたからだ。
銃もそうだが、特に大砲についてはそれ程までにデーバス王国の軍を中心に大きな衝撃を受けていたためである。
何にしてもお陰でアーニクとヘクサーは現時点での処分は免れた。
『戦闘に勝ったとか言うのは聞いていたけど……実際のところはどうだったの? 無双したの?』
これもカマかけだが、今回のは性格が異なる。
今更、カマかけに乗らない、などということは考え難いので答える内容や答え方を見るためだ。
『無双、と言うのが無敵の快進撃という意味ならそうとまでは言えないと思う。でも、あるのとないのとでは大違いだった。何丁かは敵に奪われもしたし、敵もそれからは戦闘には殆ど乗って来なかったしね』
ヘクサーの答えはミヅチから見てかなり良い線だった。
『ああ。最初だけは存分に威力を見せつけたらしいけど、その後はカリードの戦いまで大活躍とは言えなかったってな。カリードでは大砲の方が活躍したんだっけ』
アーニクの答えには今までにない重要な情報が含まれており、ミヅチは心の中で驚愕すると同時にほくそ笑んだ。
『……』
ミヅチはただ二人の話に興味をそそられたふうを装って薄い笑みを浮かべている。
――た、大砲!? タイホウってあの大砲よね!? 大鵬でも逮捕でもないよね!?
火縄銃も含む黒色火薬の話は言うまでもなく重要で貴重な情報だが、大砲もそれに輪をかけて重要な情報だ。
ついでに言うと、ミヅチのような“業界人”ではない一般的な日本人だと火縄銃と先込め滑腔や燧石の区別も付いていない可能性も充分に考えられるが、今はそれは考えても仕方がないし、確認など以ての外だ。
先込め式の銃のどれか、だと思っておいた方がいい。
場合によっては弾丸はともかく推進剤は早合を利用している可能性すら考慮に入れておいた方が良いだろう。
その場合、発射間隔はざっくり言って半減する。
とは言え、早合には紙を使うのが一般的なので、この場合はかなり高価になる。
竹、はないから木製だとしても量産は楽ではない。
――【変身】や【技能無効化】も危険で放ってはおけない能力だけど……。
【技能無効化】の方は、圧殺するか、銃を使うか、転生者が絡まないような対処を行えば何とでもなりそうである。
要所で気付かずに接近されて使われると困るが、それも事故の範囲だろう。
アルが魔術だよりの危険な事をしている最中であれば問題だが、接近を許さなければいいだけなのなので正直どうでもいい
対して、【転移】――【次元移動】と言ったか――だけでなく、【変身】可能な転生者の【固有技能】を使えるのは汎用性において比肩出来る者がいない程の脅威だ。
『ああ、大砲の威力は凄かったって聞いてる』
ヘクサーの吐く息がミヅチの魔術に反応する。
――嘘。威力は大したことなかったって事か。
『ひいっ!?』
ヘクサーは右耳を押さえるように手を当てたが血が噴き出している。
斬り飛ばされた耳は既に大量の蟲に集られて(斬り飛ばされた時点でヘクサーであるとは見做されなくなったのだろう)おり、今から魔術でくっつけたとしても病気になりそうだった。
『ねぇ、嘘は言って欲しくないんだけど』
『す、すまない。つい。大砲も見たよ! 一発でカリードの城門をひしゃげさせて、二発目で破壊してた! 本当だ!』
『……!』
アーニクの方も驚いた顔で弟とミヅチを交互に見やる。
――こう言っていて、そっちは反応無し。威力の方じゃない? まぁいいけど。
デーバス王国における二人の事情など知らない(最初から興味自体無い)ミヅチとしては心の底からどうでも良かった。
――さて、私もそろそろ移動を考えないとね。
ミヅチがアル達の方へ移動を開始すれば、彼らも少しは安心するだろう。
『デュロウに嘘は通用しないから。二人ともよく覚えておきなさい。あと、今後はこちらから連絡を入れるけど、何か重要な情報でもあると言うなら何とかして教えてね』
かなり無茶な内容だが二人は壊れた人形のように頷いた。
『あと、最後に言っておくけど、私を誘拐した形になっているから、ウチの人が物凄く怒っていると思うわ。私のことを誰かに漏らすかどうかはお任せするけど、怒り狂ったウチの人はもう、本気でデーバスを攻めると思う。そうなると、攻められる直接の原因を作った貴方達はどういう評価になるのかしらね? よく考えた方がいいわよ』
そう言うとミヅチは二人から入手した現金と魔法の一葉を懐に、窓から顔を出して少し周囲を見回したあとで消えていった。
『くそ、耳が……』
『こりゃ俺達も姿を隠した方が良いかもな』
大量の蟲に囲まれたまま、二人の兄弟は絶望感に打ちひしがれていた。
■読者の皆様
今回で今年ラストの更新です。
次回は年明け1/4になる予定です。
本作を応援してくださった読者諸氏には大変お世話になりました。
来年もどうかよろしくお願い申し上げます。
それでは良いお年をお迎えくださいませ。
■コミカライズの連載が始まっています。
現在、Webコミックサイト「チャンピオンクロス」で第一三話まで公開されています(毎月第二木曜日に更新です)ので、是非ともお気に入り登録やいいねをお願いします。
私も含め、本作に携わって頂いておられる全員のモチベーションアップになるかと存じます。
■本作をカクヨムでも連載し始めました(当面は毎日連載です)。
「小説家になろう」版とは少し異なっていますので是非お読み頂けますと幸いです。
ついでに評価やご感想も頂けますと嬉しいです。
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連載の継続には皆様のご協力が不可欠です!
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