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男なら一国一城の主を目指さなきゃね  作者: 三度笠
第三部 領主時代 -青年期~成年期-

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第五百三十二話 物見遊山(偵察) 26

7452年9月24日


 倉の二階から音もなく飛び降りたミヅチは、すぐに身を低くしたままそばの植え込みに飛び込んだ。


 身を隠したまま倉の窓を見上げる。


 窓は倉の壁に真っ黒い穴を穿ったように開いたままだが、その奥にはぼんやりとした光が感じられた。


 ミヅチの作った懐中電灯が天井に向けられたまま残っているからだろうが、それもあと数十秒で消える筈だ。


 そのまま身動みじろぎもせずにミヅチは倉の窓を見上げている。


 彼らが大声を上げて誰かを呼び寄せるようであれば、すぐにでも取って返し、二人の首をねるつもりなのだ。


 だが、明かりが消えて数分が経っても倉は静まり返ったままだ。


 尤も、二人の身になって冷静に考えれば、“声を上げて誰かを呼ぶ”という行為は躊躇ためらわれる。


 体中を這い回っている毒虫に一斉に刺され、噛みつかれるのと引き換えになるのは想像に難くないからだ。


 とはいえ、デーバス王国に対しての忠誠心――考え方によってはデーバス王国内の転生者コミュニティと言い換えても良いかもしれない――が高い場合はその限りではない。


――少なくとも自分の身を犠牲にする程の忠誠心は持っていない、と。


 であれば、今後の情報源スパイとして多少なりとも働いてくれる可能性はある。


 同時に、彼らが“すぐに”ミヅチの事を喋る可能性はかなり低いと踏んだ。

 アルの怒りを買った行為をしてしまったと、転生者仲間達に対して証拠付きで自白するようなものだからだ。

 当然、喋られたとしても大した問題にはならない。


 なお唯一、銃についてロンベルト、いや、アルの側も開発には成功していると知られたが、デーバス側にしてみれば既に量産に成功している以上、「まさか」ではなく「やはり」という感情であろう。

 馬車鉄道の情報についてはそもそも秘匿していた訳ではないので、「どうでもいい」という考えすら浮かんでいない。


 たっぷり五分は身を隠し続けたあと、ミヅチはゲグラン男爵家の敷地を囲う塀を夕闇に紛れて乗り越えるとランドグリーズの街並みに溶け込んでいく。


――取り敢えず、顔くらいは隠したいな。


 闇精人族ダークエルフはその絶対数の少なさから目立ちやすい。

 いま着ている服も夏に着る平服であり、肌の露出は多くはないが前腕から先は出ているし、フードもないので顔を隠すことも出来ない。


 オースの大抵の場所では夜暗くなると共に経済活動は飲食店を除いて大部分が停止してしまうので、服を調達するなら急ぐ必要があった。


 しかし、服屋は当然として商店街がどちらの方向にあるかすら知らないため、まずは人の流れを探すべきだろう。




・・・・・・・・・




『くそ、痛ぇ……』


 そう零しながら右耳を押さえている弟の方へ目を遣るも、既に明かりは消えており、薄暗い光が窓から差し込むだけとなった倉の二階でアーニクは溜め息をいた。


 彼にしても耳こそ無事だが、両手は蟲の毒で膨れ上がり、右足からは心臓の鼓動に合わせて激痛が伝わってきている。


『魔法は使えそうか?』


 自身、魔法はあまり得意ではない上に、回復不能領域にまで魔力を使い果たしてしまっているため、ここはヘクサーの魔法に頼りたいところではある。


『見りゃわかるだろ? 今は無理だよ……』


 ヘクサーはイラつきを隠さないまま答えた。

 未だ震えたままなのか、声も震えていた。


 本人でなくとも気持ちは理解る。


 右足はアーニク同様に激痛を発し続けているだろうし、斬り飛ばされた右耳だって耐え難い程の痛みをもたらしている筈で、その上、手だって毒虫に刺されているのだ。

 言うなれば右耳の分、アーニクよりも酷い状態だと言える。


『だよな……』


――【変身ポリモーフ・セルフ】は……良いとこ三回、余裕を見れば二回……か。セルに変身して【超回復】しかないか。


 しかし、【変身】時の苦痛はともかく、痛みによる七転八倒は避けられない。

 未だに体中を這い回っている蟲達は黙ってそれを見過ごしてくれるだろうか?


――あの痛みの中、これだけいる蟲達を潰さないなんて不可能だ……。


 敵、もしくはそれに準ずる行為だと認定され、致死量を超える程の毒を受けてしまえば一巻の終わりである。

 と言うか、かなり情けない死に方であると言えよう。


 もう既に“夢の世界”云々は頭から消えている。


 足首を飛ばされた痛みは【変身】時の苦痛をすら上回る程であり、その際の出血量は失血死すら容易に想像される程だった。

 現に、碌に見えはしないものの、彼らの足から噴き出した血溜まりにも大量の蟲がたかっているのがわかるし、出血過多のせいか、寒くて仕方がない。


――これはもう、認めざるを得ないな。生まれ変わりは本と……バカバカしい! 弱気になってるだけだ!


 そう考えながらも、【変身】には踏み切れなかった。


――く、くそっ! これだけの蟲に刺されたら……。


 夢の中だから死なないまでも今以上の苦痛にさいなまれるであろう。

 それは、純粋な恐怖であった。


――仮に【変身】したところでその後に大量の蟲に刺されちまう……。


 こうなるともう、頼みは誰かが開け放しの窓に気付いてくれるかどうかだ。

 早ければ、今、この瞬間だろうが、遅いと明日の朝、充分な陽の光が差すまでは誰にも気が付れない可能性がある。


『やばい。眠くなってきた……』


 ヘクサーが呟くように言う。


『おい! 寝るな! 蟲を潰しちまうぞ!』


 囁くように叫ぶと弟は『わかってる』と返事をする。


 だが、ヘクサーは当然、自分も限界が近い。


 蟲達は未だに体中を這い回っており、大声でも上げようものなら……。


 助けも呼べず、壁に背を預けたまま寝転がる事も覚束おぼつかない。

 斬られた右足を伸ばしていられるままであることが唯一の救いだ。


――寒い……。俺達は、死ぬのか……? 兄弟揃って、こんな所で。


 一度ひとたび良くない考えに侵されると、どんどんと奈落にでも引き込まれるかのように気持ちが落ち込んで行く。


『あ、兄貴……何か楽しい事でも話そうぜ……』


 意識が朦朧もうろうとし始めているのかヘクサーの声は少し調子が変だ。


『そうだな。最悪でも明日の朝までの辛抱だろうし、何か美味いものでも話そうか』


 そう言いながらアーニクも明日の朝までの長さに思いを馳せる。

 尤も、流石に明日の朝、というのは本当の最悪だ。


 以前、レーンに聞いた話では、屋敷の警備は塀の内周と外周を大体一時間おきに複数人で見回っていると聞いたことがある。

 勿論、侵入の現場を押さえる為ではない。


 異常の有無を見て回るためだ。


 そういう意味では倉の窓が開いているなど異常事態であろうし、見過ごされる筈など無い。


 そこまで考えた時。


――まずい。今の俺はアレクに【変身】しているんだった!


 当然ながらゲグラン男爵家の戦闘奴隷や雇われている私兵達がアレクの顔を知っている筈もないが、ステータスを検められるのは必至だ。


 彼らにも顔の知られているヘクサーはともかく……。


――くそ! 怪しまれないためにはジャックになっておく必要が……!


 ヘクサーの奴隷であるジャックであれば、ゲグラン邸には何度も出入りしている。

 ゲグラン家にゆかりのある者ではないので顔パスとまでは行かないが、大部分の屋敷の戦闘奴隷や警備の私兵に対しては知られている。


 だとすれば……。


――タイミングを図った上、刺される覚悟でジャックに【変身】するしか無いか?


 どう考えてもそれしかない。

 難しいのはタイミングだ。


 首尾よく警備が近くにいる時が望ましい。

 発見・保護までの時間が短ければ短いほど刺される量は少なくて済むだろう。


 アーニクは耳を澄ませるが、聞こえてくるのは蟲達の立てる僅かな音ばかりだった。


――ここに転移してどれくらい経った? 一〇分、は流石に短いか。二〇分くらいだろうか? いや三〇分は経っているかも……。


 実時間としては二〇分弱しか経っていないのだが、短い間に色々な事が起こり過ぎており、時間の感覚が消失している。


――やはり一か八かしかないか?




・・・・・・・・・




 ゲグラン邸はランドグリーズの貴族邸の多い高級住宅街の一角に建っており、繁華街や商店街からはそれなりの距離があった。


 高級住宅街にある貴族邸を見回っている警備など、ミヅチにしてみれば子供騙しに過ぎない。


――ん~、あっちの方が賑やかな感じが……。


 直感でしか無いがなんとなく食べ物の匂いも感じられる気がしたので、そちらの方へ足を向けた。


 金もあるし、腹も減っている。


 現時点で追われている訳でもない以上、食事を摂るくらいは許されるだろう。


 道中、店仕舞寸前の服屋を見付けられたので、中古のローブも入手していた。


「安い布とは言え、使われてる量が多いローブは結構値が張るなぁ」


 穴が空いておらず、継ぎが当てられていないだけマシな中古ローブは一〇万Zもしたが、使用されている布の量を考えたらベグリッツやバルドゥック、ロンベルティアとそう変わりの無い価格である。


――ま、顔や手を隠せるだけで上等よね。


 そう思ってローブを胸の前で合わせた。

 上級貴族の第一夫人とは思えないほど質素な身なりだが、元々着の身着のままに近い戦闘訓練すら可能な普段着だったのだ。

 それに、ここは敵地であり、しかも首都だ。


 誰の目も惹かないような格好は必然だと言える。


――あの店にしようか。


 オースでは日本にあった居酒屋のような店は非常に珍しい。

 荒くれ者が多いバルドゥックを除いては落ち着いた食事と酒が同時に楽しめる店はそう多くないのだ。

 アルなど一部の転生者を除けばそういう店を作らせ、又は育てようとする者などまず居ないためだ。


 居酒屋タバーンとは言いながらも幾種類かの酒類の他は僅かな種類の簡易なツマミ程度しか料理がない店が殆どである。

 そういった店はあくまでも酒が主体であり、わば地球の西欧における大衆酒場パブ酒場バーと言った雰囲気の店が大半を占めている。


 食事を摂るには食堂レストラン簡易食堂ダイナーのような店が大半であり、酒も置いてはいるが価格は概して高めでごく一部の高級な食堂レストランを除けば種類も少なく、呑んで大声で話すような店とは一線を画している。


 逆に言うと、そういう店(タバーン)がある場合、まず転生者且つそれなりの権力者の存在を疑った方が良い。

 過去にそういう存在が居た可能性も高い。


 ミヅチとしては下手にそういう、居酒屋タバーン風の店に入ってしまうなど以ての外なので簡単に安目の食事が摂れそうな簡易食堂ダイナーを探していた。


「ここでいいか」


 場末と言う程でもなく、それなりに客も入っている店を見付けられたので取り急ぎで腹を満たすことにした。

■読者の皆様

新年、明けましておめでとうございます。

旧年中は皆様に応援頂きまして誠にありがとうございます。

本年もどうかよろしくお願い申し上げます。


■コミカライズの連載が始まっています。

 現在、Webコミックサイト「チャンピオンクロス」で第一三話まで公開されています(毎月第二木曜日に更新です)ので、是非ともお気に入り登録やいいねをお願いします。

 私も含め、本作に携わって頂いておられる全員のモチベーションアップになるかと存じます。


■本作をカクヨムでも連載し始めました(当面は毎日連載です)。

 「小説家になろう」版とは少し異なっていますので是非お読み頂けますと幸いです。

 ついでに評価やご感想も頂けますと嬉しいです。


■また、コミックス1巻の販売が始まっております。

 連載の継続には皆様のご協力が不可欠です!

 既刊の第一巻もそうですが、今月27日に出版されます第二巻の初動(発売日前)を含む売上数で継続が決まるそうです。


 全国の書店や大手通販サイトでお取り扱いされておりますので、この機会にご購入及び第二巻のご予約(発売日は2026/1/27の予定です)をいただけますと関係者一同凄く温かい気持ちになれますのでどうかご購入の程、宜しくお願いいたします。

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― 新着の感想 ―
コミック2巻の予約はいつから可能?アマゾンでは、紙も電子も未だ出来ない。
明けましておめでとうございます。 今年も楽しみにしています。
新年あけましておめでとうございます。 今年も一層のご活躍を期待しております。
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