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男なら一国一城の主を目指さなきゃね  作者: 三度笠
第二部 冒険者時代 -少年期~青年期-

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第三話 情報

7442年4月15日


 やることが無いというのは存外精神的に変な圧力をかけてくるものだ。


 今までなら剣や魔法の修行やゴム製品の製造・開発をしていて、時間が余るということなんか考えたことすらなかった。


 街中で剣を振り回すことも出来ないし、みだりに魔法を使うことも出来ない。ゴム製品がどうのこうのなんか原材料がないんだからどうにもならん。金はかなりあるから遊ぶにしてもどこで遊んだらいいのか、そもそも何して遊んだらいいのか見当もつかない。こんな真っ昼間、と言うか昼前から兄貴お勧めの店に行って兄貴と真の兄弟の契りを結ぶ可能性に賭けるのもなんだか違う気がする。多分早朝・昼間割引なんかないだろうしな。


 仕方ないから最初に目に付いた飯屋に入り、豆茶を啜りながらなんとか昼まで時間を潰し、また行政府に行く。先ほど聞いた掲示板のあたりに行くが、掲示板はおろか誰も居なかった。


 ちょっと早かったかな。手持ち無沙汰のままその場に佇んでいると、依頼の受付の係だろうか、二人がかりで木製の台のようなものを運んできた。運んできた台を置くとまたどこかへ行き、また同じような台を運んできた。これは依頼の板を置くための台なのだろうか。この二台の台座に設置する板なら横幅は3mくらいありそうだ。


 高さはどんなものになるかはまだわからないが、結構な依頼があるのではないか、と期待する。暫くすると先ほどの係が二人、板を担いできた。あれが依頼の掲示板か。設置されるのを待って、いそいそと掲示板に寄ってみる。


 掲示板にはいくつか依頼が書いてある。板の上に直接木炭のようなものを使って書いているようだ。


2/10/39 採用 ダングート士爵 領内警備 出来高応談 若干


22/2/40 採用 ベッツ士爵 領内警備 出来高応談 若干


25/1/42 採取 ビョールグ 10万 ダルギルの若実 10kg


11/2/42 護衛 ロシュモル士爵 100万/4/3 迎送バーラッグ 先キール 出1/7/42


20/2/42 採取 ビョールグ 12万 バックライの葉 500枚


10/4/42 護衛 ミンス商会 40万/2 ベルース 往復 出20/4/42


13/4/42 搬送 ズーライド金工 8万 3kg剣 先ベッシュ 15代引


14/4/42 護衛 マール商会 20万/2 ベンドル 往復 出24/4/42


14/4/42 搬送 ズーライド金工 10万 3kg剣 先ドーリット 20代引


14/4/42 護衛 ウェブドス商会 550万/10 ロンベルティア 往復 出24/4/42


 なんだか略語が多いな。勘違いがあっても嫌だし、略語の意味などは係の人に確認しておいた方がいいだろう。どうせ今は俺一人しかいないのだから仕事の邪魔になるということもないだろう。


 基本的には難しいところはなかった。俺の復習の意味も込めて順に説明しよう。各依頼にある左端の数字は行政府で依頼の出願を受領した日だ。次は簡単な依頼内容。その次は依頼者の名前。次の数字は依頼の達成料金で単位はZ(ゼニー)だ。あとは依頼内容により異なる。


 最初の二つの依頼は特殊で、ある一定の期間に渡っての契約とのことだ。仕事内容は領内の警備。つまりバークッド村の従士たちがやっていたようなパトロールのようなものらしいが、内容については依頼者に直接確認の必要がある。


 係の人の説明だと出来高応談というのが曲者らしい。倒した魔物の数などで報酬が上下するのはなんとなく理解できるが、依頼主によって閾値があることが殆どで一定以上の魔物を倒さないと報酬がゼロということすら考えられるらしい。だから依頼が受領されてからも何年も放って置かれているとのことだ。


 三行目からが本番ということか。依頼内容は採取。ビョールグというのはキールに住む医師で、薬の材料の採取だろうとのことだ。ダルギルは秋に実をつける。この時期だと昨年実った実が全部落ちたあとで、まだ花も咲いていない。10kgで銀貨10枚(10万ゼニー)はおいしいけど受けるに受けられない依頼か。


 四行目、護衛だ。依頼者はバーラッグ村のロシュモル士爵で、迎送バーラッグとあるからバーラッグ村まで行き、ロシュモル士爵本人か、指定される誰かを護衛してキールまで来る。そしてまたバーラッグ村まで送り届けるという内容だ。右端の数字はバーラッグ村を出発する希望日らしい。つまりこの日までにバーラッグ村まで行かなくてはいけない。


 順番が前後したが、報酬の後に数字が二つ、区切って書かれている。左の数字は最低この数字以上の人数が必要だと依頼者が考えていることを意味している。右の数字は足りない人数だ。つまり、この依頼の報酬は全部で金貨1枚(100万ゼニー)もあるが、充分な護衛には四人必要で、すでに一人は応募があり、依頼を受けられる人数はあと三人分残っているということだ。


 五行目は飛ばし六行目。もうわかったろう? ミンス商会からの依頼で目的地であるベルース村まで往復の間の護衛だ。報酬は銀貨40枚(40万ゼニー)。但し2人以上じゃないと受けられない。


 七行目は荷物運びだな。ズーライド金工は昨日行った騎士団御用達の武具を中心に作っている鍛冶屋だ。銀貨8枚(8万ゼニー)の報酬でベッシュ村まで剣を届ける。重量は3Kg。宅配の際、剣の料金を受け取って持って帰る必要がある。依頼の剣を受け取ってから15日以内に帰って来ないといけない。それを過ぎると犯罪者となる。取り込み詐欺か。


 八行目以降はもう説明の必要はないだろう? わかったよな。さて、この中に俺の受けられそうな依頼は……と、あるな。そう、説明を端折った九行目だ。荷物運びだが、行き先がドーリットだ。報酬は銀貨10枚(10万ゼニー)。依頼を受けて20日以内に帰ってくればいい。俺は軍馬を持っているから急げば4日か5日もあれば充分だろう。向こうで個人的な用も果たせるくらいの余裕は充分に見込める。


 よし、こいつを受けるか。俺は係の所まで行き9番目の依頼を受けたい旨を話す。すると係は木製の札を俺に渡し、俺の名前を聞いてきた。名前を答えるとすぐにステータスオープンを掛けられ内容を記録された。これで依頼の受領は終わりらしい。9番目の依頼にはすぐに横線が引かれた。これが依頼済みの印なのだろう。一週間(6日)以内に依頼者であるズーライド金工に行き、担当者に会うように指示された。


 木札を見ると妙ちくりんな紋様が書いてあり、それが割符になっているようだ。これで正規に依頼を受けた冒険者(何でも屋)であることを証明するのだろう。木札をポケットにしまい、帰ろうとしたところに何人かの話し声が近づいてきた。どうも冒険者の一団が依頼の確認に来たようだ。ちょっと様子を見てみるかな。


「おお、依頼しごとが五つも追加されて……一個は受けられたか」

「帰ってきたばかりなんだから少し休みませんか?」

「腹減った~、先に飯食ってから来たかったよ」

「ロンベルティア行きの定期便があるぜ、これがいいんじゃねぇか?」

「あ、それいーねー。ゴム様様だよね。二月で50万はおいしーよねー」

「選択の余地ねぇじゃねぇか」

「おい、値上がりしてるぞ。それに今回は10人かよ」

「今回は先越されなくて良かったわ」

「っかぁ~、馬車5台か。ウェブドス商会、儲かってるなぁ~」

「急いで来た甲斐があったな。じゃあ、ゴムの護衛でいいな」


 6人組らしい。がやがやと言い合っているが報酬が一番高いロンベルティア行きの護衛の依頼を受けるようだ。ところで、そのゴム、俺が作ったんすよ。鑑定でレベルを見てみると全員が自由民で10レベルを超えており、リーダーっぽい30代半ばくらいの男のレベルは14に達していた。


 すげーな。あれが本物の冒険者か。鎧などの重い装備は宿かどこかに置いてあるのだろう。全員がズボンにシャツのような格好の軽装で、中には武装すらしていない奴もいる。何人かはゴムサンダルを履いていた。あ、そのサンダルも実は俺が作ったんすよ。


 本物の冒険者も見られたことだし、用は済んだ。一度宿に戻るか。ズーライド金工? ギリギリまで行かねーよ。宿代払ってるしな。




・・・・・・・・・




 宿に戻る途中で服屋に寄り、裾の長い皺くちゃズボンとヘロヘロになっているシャツを購入した。ブーツを隠せるくらいの裾のズボンを履き、ヘロヘロのシャツに着替えると長剣を腰から下げる。そして財布は持たず銀朱2個と銅貨を10枚くらい裸のままズボンのポケットに突っ込み出発の準備は完了だ。長剣だけは鞘がないから不自然極まりないが、刀身には革紐を巻いて誤魔化していた。貧乏な冒険者崩れに見えればOKだからこれでいいのだ。


 昨日丁稚に教えてもらったスラムの酒場に出かけるのだ。有名人の方のべグル(べグルAでいいや)の情報を収集したい。正直な話、このべグルAの方が目的の人物べグルBを兼ねている方が俺としては面倒がなくていい。人気がないところを狙って離れたところから魔法でぶっ殺せばカタはつくからな。


 ただ、べグルAの顔が判らないからこれから暫くは酒場で網を張って入店してきた奴に片っ端から鑑定をかけて名前を確かめることと、ついでにべグルAについての情報収集をしようと思っているのだ。べグルAが偽名を使っていることは考慮していない。冒険者崩れなのだからステータスオープンで本名は割れているはずだからな。


 よし、行こうか。


 汚くはないがみすぼらしい格好相応に背中を丸めて歩き出す。ふふん、これならどこからどう見ても冒険者崩れにしか見えまい。ほかの街から流れてきた感じを出すために周りに誰もいないことを確認してから道を転げまわって埃や土を付けたほうがいいかな。このあたりはまだ上層の人々の生活圏みたいだからあまり人通りも多くはないし、さっさとやったほうがいいか。


 誰も通りそうにない小径に入り、転げ回った。と、腿のあたりで嫌な感触と嫌な臭気が立ち上る。この匂いは……スカトール臭だ……道端のうんこを転げ回った勢いで潰したらしい。臭ぇ。表面が乾いていたから潰すまで匂いがしなかったのか、そもそも街のあちこちを流れるドブの匂いで鼻が馬鹿になっていたのか、これから道を転げまわる時は気を付けよう。明日もやるかも知れないしな。慌てて水魔法で洗うが完全には落ちなかった。続いて乾燥させて誤魔化すが、これで大丈夫かな? まぁいいや。


 ほんとにもう、道端でうんこすんなよ。キールは中央を流れる大きな川に流れ込むようにドブ川を沢山作ってある清潔な街なんだからさぁ。しかもここは比較的富裕層の住むあたりなんだぜ。文化レベルが地球の中世15世紀くらいが最高というが、ここらのトイレまわりの文化は最低レベルの7世紀なんじゃね? 今更どうでもいいけどさ。不愉快は不愉快だしな。


 気を取り直してスラムにある酒場に向かう。今度は本当に背が丸くなってチロチロと回りを窺っていた。だって、臭いと思われたら嫌じゃんか。十字路の角に、近い方の酒場があるのが見える。


 ここでいいか。


 この店もビンスイルの店同様にテーブルのいくつかは道にはみ出している形態で営業をしている。客層を見ると皆俺と似たりよったりの格好で汚いし、多少不潔な感じもする。


 店と外の境に置いてある小さなテーブルが空いていたのでそこに着くと、ほどなくして無愛想なおっさんが注文を取りに来た。ビールと煮豆を頼んだ。俺の腿からほのかに立ち上るスカトール臭には気付かれなかったか、気付いても無視してくれた。


 ビールは70Z、煮豆は30Zと合計で銅貨1枚=100円で済んでしまう程バカ安だ。だが、ビールは酸っぱさが残っているばかりか気の抜けた安物だし、煮豆は煮込まれすぎて形が既に無いようなものも多く、はっきり言ってちっとも旨くない。


 渋い顔で飲み始めながら、店の様子を観察した。塩気の強い煮豆を手づかみで口に運び酸っぱいビールで流し込みながらとりあえず店の中にいる人を一人づつ鑑定していく。皆、レベルは低く、固有技能は疎か特殊技能の魔法を持っている奴すらいない。せいぜいが亜人特有の技能持ちがチラホラいる程度だ。


 俺も他の客と同様に粗末な木製の椅子の背もたれにだらしなく寄りかかりながら鑑定して時間を過ごす。客同士の会話に耳を傾けつつ安いビール1杯で30分以上粘ったが、特にべグルについての話は聞こえてこなかった。


 夜までは粘ろうと覚悟してきたので通りかかった例の無愛想なおっさんに追加のビールを注文をしたところ「1時間で300Zは使ってくれよ」と大賤貨3枚の釣銭を返されながら言われた。なるほど、安いだけあってそういうシステムなのか。


 追加でいくつか注文し、またぐでっとした粘り体勢に入ると暫くして新しい客の一団が入ってきた。今度の集団は全員剣か槍を持っていた。鎧らしきものは身につけてはいなかったが、服装は他の客と大して変わらない。


 こいつらが冒険者崩れってやつなのかな?


 7人の集団を一人づつ鑑定していくがべグルらしき奴はいなかったし、レベルも4~6程度で大したことはない。一番レベルが高い奴も年齢は25歳だから本当に実力も大したことはないのだろう。全員しけた面をしているから金も大して持ってはいるまい。


 だが、冒険者崩れなら何かべグルに関しての情報を持っている可能性もあるだろう。俺は奴らの会話だけに集中力を割くことにして、聞き耳を立てた。


「相変わらずまっずいビールだよな」

「そう言うな、稼ぎがねぇんだしよぉ」

「上から回ってくるのもケチくさい荷運びばっかだし、ここらで一発当ててぇなぁ」


 上? 上って言ったのか? 何らかの組織があるのか?


「ちゃんとした依頼が受けられないのは痛ぇよなぁ」

「はっ、そりゃ自業自得だろうが」

「そりゃそうかも知れねぇけどよぉ、行政府の役人共の目付きがだんだんあからさまに悪くなって行くんだぜ。もう行けねぇよ」

「何回も依頼を失敗するほうが悪いだろ」

「お前だって失敗続きでもう依頼受けられねぇんだろうが、偉そうにすんな」

「俺だってお前みたいなのと組まなけりゃ護衛の一つや二つくれぇよ」

「よせよ、お前ぇら。喧嘩してもつまらんぞ」


「あたいもさ、もう村に帰ろうかなぁって思うことあるんだよね」

「おめーは股開けば稼げるだろうがよ。ああ、そのご面相じゃぁ無理か。けっへっへ」

「なによ、あんただって一昨年毛ジラミうつされたままあたいとヤッたじゃない。あのあと大変だったんだからね」

「ありゃー気の迷いよ。金さえありゃわざわざオメーなんか相手にするか」


 思わず再度鑑定してしまったが二人共状態は良好だった。寄生虫は病気とは違うから鑑定には反映されないのか、それとも既に駆除が済んでいるのか、どっちかな? 多分後者のような気がするが、確かめようもねぇ。


「あーあ、なんかでけぇ話はねーもんかなぁ」

「ねぇよ、ンなもん」

「だけどよぉ、いつまでもこうしてらんねぇしよぉ」

「……ああ、だなぁ。俺だって金貨の4~5枚もありゃあ、いや2~3枚でいい、なんか商売でも出来るんだがなぁ」

「ああ、全くだ。だけど、お前ぇは商売は無理だろ。馬鹿だから」


 揃いも揃って頭の悪そうな会話をしてるんだからどっちもどっちだろ。ふむ、やはりこいつらは底辺の冒険者崩れと考えて良さそうだな。


「でもよ、税金もまともに払えなくて、キールおんだされて何年も野宿してるアッザス達よりゃ俺たちの方が数段上等ってもんよ。あいつらだろ、先月どっかの隊商襲撃して護衛に追い散らされたのって」

「あ、それ、あたいも聞いたことある。アッザスは顔はいいけど頭がねぇ、ちょっと弱いからさ」

「ジールドもアッザスとつるんでさえなけりゃいっぱしになれたろうになぁ」

「クズはクズと連むのよ、あいつら、今何人くらいで連んでんだ? あんまり多いと退治依頼出ちまうぞ、ギャハハ」

「確か今は4~5人くらいじゃね? 馬車一台の小さな隊商襲うのだって出来はしねぇだろ。護衛にゃ最低2人はいるんだからよ。一人でもやられたらもう次はねぇしな」

「じゃあ何で隊商襲ったんだ?」

「そりゃアッザスが馬鹿だからよ。大方奇襲でもして一人を先にやろうとしたんだろうが、それ失敗したら逃げるしかねぇのにな。そこがアッザスの馬鹿さ加減だよな」

「まともな護衛なら魔法だって使える奴がいると思ってたほうがいいのによ、馬鹿は全部自分を基準に考えるからよぉ」


 あ、エールもう一杯頼もう。


「そういやぁ、あいつ、なんつったっけ、あの小僧」

「そんなんでわかるかよ」

「あの、上手くやった奴だよ、ミズベール商会で専属で雇ってもらったやつ」

「ああ、クローか」


 なに? 椅子が軋んだ。


たらしのクローか。みんな専属の護衛なんて小さくまとまりやがってなんて言ってたけどよ。あいつは上手くやったよなぁ。実際の話、一回の実入りは少なくてもいつも確実に仕事があるのは羨ましいぜ」

「ああ、冒険者の風上にも置けねぇとか言われてっけど、ありゃ皆妬んで言ってるだけだしなぁ。本当、羨ましいな」

「ミズベール商会の婆ぁでも誑し込んだのかと思ったら違うのな。この前、怒鳴られてるの見たぜ」

「へぇ、おりゃてっきりあの婆ぁ誑し込んだのかと思ってた。あいつにしちゃ趣味悪すぎだろって思ってたぜ」

「あいつ、女の趣味だきゃ良かったしな。ジェリルが相手にされないわけだしよ」

「あんだって? あたいだってあんなのお断りよ。黒髪黒目で気味悪い」


 俺もだよ、悪かったな、このブス。


「最近はよ、ビンスイルの看板娘にご執心らしいぜ。あれもいい女だよな」

「ビンスイルかぁ、あんな高い店に出入りできんのかよ、専属護衛様は」


 別に高かねぇだろ。


「ふん、あの女も黒髪黒目なんだろ? 気持ち悪い同士でお似合いじゃない」

「別にあの看板娘は気持ち悪かねぇだろ。まぁクローに目ぇ付けられたのは運が無いけどよ。いままでのあいつの女みたく金吸い取られんじゃねぇの?」

「そりゃどうかね? いつもみたいに転がり込んでるわけじゃねぇらしいぜ」

「ビンスイルの店に通えるほど定収入あって、あの看板娘誑し込めて、本当羨ましいぜ」


 クローも苦労したんだってよ。駄洒落じゃないけど。でも、あいつ、ここから抜け出したんだな。


「クローっつったらよ、べグルの旦那んとこから抜けたんだろ」


 おっ?


「そうだ。相当ヤキ入れられたってよ。聞いた話じゃあいつの体、無茶苦茶らしいぜ」

「なにそれ?」

「だから旦那の所抜けるときによ、あの、なんつったっけ、旦那んとこにいる魔法使いによ、やられたんだと」

「え? あたいそれ初耳~。なにされたん?」

「『フレイムスロウワー』で焼かれたらしいぜ」

「ええっ? まじかよ」


 ええっ? まじかよ。


「で? で?」

「そりゃ大火傷よ。背中から腹からすげぇ火傷の跡が残ってるってよ。おまけに背中に剣でベグルって名前まで彫られたらしいぜ。まぁ、何日か後で這いずって治癒魔法かけてもらったらしいから、剣の傷の方は治ったらしいけどよ。火傷跡なんかすっげぇらしいぜ。ほら、俺がドジこいて腕折ったときによ、その治癒師んとこ行って聞いたからよ」

「火傷は治らなかったんだ?」

「手遅れだったってよ。すぐに魔法かけてたら跡も残らず治せたらしいけどな。時間が経つほど傷とか火傷とかの跡は治せないんだと」


 それは知ってる。俺の足にも子供の頃蚊に刺されて掻き崩した跡が残っていた。蚊に吸われて魔法かけるなんて思いもしなかったしな。瘡蓋かさぶたになってから気がついて治癒魔法をかけたら、瘡蓋かさぶたはすぐにポロっと取れたけど、跡は残った。成長してから治癒魔法の修行の時に思い切ってその跡をナイフでえぐりとって治癒魔法かけたら綺麗さっぱり治ったけどさ。


「へー、じゃあ、気持ち悪がって女も寄って来ねぇか。流石にいくらクローが誑しでもそんな体の男に抱かれる女もいねぇだろ」

「んだな。商売女くらいだろ」

「じゃあ、あのビンスイルの看板娘、それ知らねぇのか」

「だろうなぁ、知ってりゃ幾ら何でも相手しねぇだろ」


 マリーは知ってそうだったな。


「そういやぁよ、べグルの旦那っていやあ、何か大きなことやるらしいじゃねぇか」

「大きなことって?」

「そこまでは知らねぇよ、でかい稼ぎになることだろ?」

「そりゃそうか。でもよ、儲かるなら一枚噛ませて欲しいもんだぜ、なぁ?」

「だよねぇ、でも、ジャンルードの店に行くの怖いよ。あそこはやばいわ。あたい、か弱いからいきなり襲われるかも」

「ねぇよ。手前ぇの面知ってて言ってんのか、タコ」

「あにさ、そう言いながらこの前の夜「うっせ、だぁってろ」


 どうやらジャンルードの店がべグルの根城らしいな。ここより更にスラムの中心にあるもう一軒のやばいと言われてた酒場だ。なんだよ、初日からいい情報が聞けたな。じゃあ、そろそろ帰るか。マリーのところに顔でも出そう。残った料理を食い切ったら出るか。


「でもよ、大きなことって何だろうな」

「わかんね。取り巻き全員で隊商でも襲撃すんのかね?」

「全員殺さない限りバレて騎士団のご厄介コースじゃねぇか。旦那がそんなことするかね?」

「全員殺しちまえば誰がやったかはわかんねぇから可能性はあるぜ」

「20人近くいるからなぁ。去年のゲールフんとこの隊商襲ったのだって、ありゃ旦那なんだろ? やりゃ出来んじゃねぇの?」

「おい、滅多なこと言うなよ。旦那んとこのやつに聞かれたら、お前ぇ、これもんだぜ」


 ベグルAはやはりろくでもない奴のようだな。席を立って店を出ようとしたら、ブス女に言われた。


「何だよ何か臭ぇと思ってたらオメェかよ。うんこ漏らしてんじゃねぇよ貧乏人」


「すいやせんねぇ、姐さん。でも、漏らしたわけじゃねーんで。勘弁してくださいよ」


 ちっくしょ、でもやっぱ臭ってたんだな。


「うっせぇ、あたいに話しかけんな童貞小僧」


 どっどどどどど童貞ちゃうわ! あ、いや、オースでは童貞か。


「おいおい、下らねぇことで絡むなよ。兄ちゃん、悪かったな」


「いえいえ、じゃあ、あっしはこれで……」


 勝手にイメージする小物臭を漂わせて店を出るが、なんかムカつくわ。店からは「あいつも黒髪じゃんか、クローと一緒でウンコ野郎は黒髪なんじゃね?」「おいジェリル、お前やけに黒髪黒髪って言うけどよ、本当はクローのことまんざらじゃなかったんか?」「ああ? いつあたいがクローのこと気にかけたよ」「さっきからずっとじゃねぇか」とか聞こえてきた。


 ジェリルか、覚えたわ。ブス。




・・・・・・・・・




 臭いが気になったのでビンスイルの店には行かなかった。さっさと帰ってズボンを洗濯しよう。


 ビンス亭に帰ったら番頭に嫌な顔をされた。

 裏の井戸で半べそになりながらズボンを洗った。


 誰かに見られていないので温水シャワーで洗うと臭いがきつくなったので、買ったばかりのズボンだったが捨てることにした。ムカついたから一気に火魔法で燃やした。


 汚物は消毒だ。


 もう嫌、今日はどこにも行かない。


 

最新の依頼の受領日が一日前なのは当日受けた依頼が掲示板に反映されるのは翌日以降からだからです。

また、アルがトイレの文明レベルについて言及していますが、実際には15世紀になってもヨーロッパでは道端で用を足していたらしいです。アルはそれを知らなかったのでしょうね。

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