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男なら一国一城の主を目指さなきゃね  作者: 三度笠
第三部 領主時代 -青年期~成年期-

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第二百四十四話 高いか安いか

7450年11月2日


 ベグリッツで最高級を謳われる宿、サンクラットの一室では、リーグル伯爵との夕食を終えた摂政とヴァルモルト准男爵が顔を突き合わせていた。


――第二騎士団長になって二年と少し。有能な指揮官だが、その間実戦には赴かせずに部隊の訓練に集中させ、即応大隊を育てることに注力……トムの評価では第二騎士団長としては過去最高と言うほどに優秀だが、まだまだ単なる軍人としての殻を破りきれてはおらん、か。なるほど、あの様子ではさもありなん。


 摂政は再びヴァルモルト准男爵についての情報を記憶の引き出しから取り出した。


――あ奴(トム)め、私を駆り出すほどに此奴が大切か。まぁ、此奴を見ていればそれもわからんでもないが。


 王国第二騎士団長は王国軍の要の一人であり、正面戦闘を担う部隊を指揮下に置いている事もあって、ある意味で第一騎士団長よりも重要な役職である。

 目の前で畏まる、年齢よりも少々老けた顔をした虎人族(タイガーマン)は摂政の息子のお気に入りの一人でもあるようだ。


 べグリッツに来るまでの間に何度も言葉を交わした結果、かなり素直な上、なかなかに実直な性格だと分かった。

 惜しむらくは息子の言う通り軍人としての型にハマりすぎているきらいが見え隠れするところであろうか。

 尤も、摂政自身もそんな彼については好ましく思っている。

 

 息子から託された彼の資料を思い返して苦笑いを浮かべる。

 摂政も知る歴代の第二騎士団長と比べても准男爵の経歴は輝かしい戦歴に彩られているが、その出自はここ百年あまりの間で最低である。

 だからこそ、彼の軍人としての優秀さが浮き彫りにもなるのだが。


――まぁよい……あ奴以外の息子達を殺されたとはいえ、奴も我が子だ。それに、俺を隠居させてから初めて頼ってきた。これはこれで存外悪い気もせんし不肖の息子のたっての願いくらい、叶えてやれんでどうする。


「四個中隊の供出を要求したのはいいが、その対価があれではな。不自然に過ぎるぞ」

「は……」


 摂政の言葉に准男爵は項垂れた。


「トム、いや、陛下からお許し頂いている対価はもっと余裕がある筈だが? 功を焦るな。小さな対価で大きなものを得ることが叶えば言うことはないのは確かだが、リーグル伯の気持ちを無視してそれを得ても後に禍根を残しかねん」

「殿下の仰る通り、言葉もありませぬ……」


 准男爵は苦い表情で歯を噛みしめる。


「もう一度、頭を整理してみなさい」

「はい」

「今回の交渉、目的は二つある事は解るな?」

「は。まずは第二騎士団から二個、第四騎士団から一個の三個中隊の派遣を認めさせることです」

「……ふむ?」

「あ、いや、間違えました。今のは出来ることならという努力目標であり、最低限の目標だと……え? 目的、ですか?」

「そうだ。目的と目標は異なる。今回の件、目的は二つ。目標は……そなたが申した物も含めて幾つかあるな」


 摂政はゆっくりと頷きながら言った。


「私やそなたが“ジュンケル侯国の征伐のため”という理由を述べた以上、伯爵にとって戦力の供出は陛下からのご命令に等しい。彼の感情はどうあれ、多かれ少なかれ、戦力の供出には応じなければなるまいよ」

「……」

「それについては伯爵も理解していたと思う」

「……」

「だが、いかな稀代の大魔術師でドラゴン・スレイヤーとて、ギリギリの戦力を配分して、なんとかあちこちの都合をつけてダート平原を守護(まも)っている事を忘れてはならん」

「……」

「確かに、彼の実力が話に聞く程のものであれば多少の戦力を引き抜いたところで大過なく守りおおせることだろう。しかし、そうなるとデーバスからの侵攻があれば彼自身がその場に急行せねばならん。いいか?彼自身が急行することが前提となるんだ。この意味は解るな?」

「は……」


 ヴァルモルト准男爵とて摂政の言う理屈は理解できる。

 摂政は、ダート平原に駐屯する兵力が減少することは「伯爵“個人”の負担になる」と言っているのだ。

 通常の侵攻であればベグリッツか、せいぜい前線の手前の街に進出し、敵の攻撃に備える事が可能な事もある筈が、伯爵個人が戦闘の矢面に立つ必要に迫られる事になるのである。

 そうなると、敵が囮攻撃を仕掛けて来たら、場合によっては伯爵はかなりきつい戦いや、休憩など碌に取れないような移動を強いられる可能性が高くなってしまう。


 しかしながら、准男爵としては「確かにリーグル伯爵は現在西ダートの領主であり、あと半年内外でダート平原の北部全域を領有する侯爵になるが、同時に王国南方総軍の司令官という軍人でもある。従って、多少の苦労は甘んじて引き受けてくれても良いではないか。いやそれこそが王国を守護する軍人としての正しいあり方であろう」という意識があった。


 これは、自身の領地を経営する事なくここまで出世してしまった准男爵の数少ない弱点である。


 ロンベルト王国はオース一般の国々と比較して確かに開明的なところがあり、能力さえあれば軍や役所において平民や自由民でもかなりの高位まで出世が望める。

 また、その過程において相応に評価されれば准男爵やリーグル伯爵のように貴族としての爵位や、領地を賜ることで名ばかりではない「本物の貴族」として列席することすら可能なのだ。


 この事自体は家柄や血筋に縛られることの多い諸外国と比べ、ロンベルト王国の美点の一つに数えることができるだろう。

 が、その反面、軍や役所などのいわゆる“現業”においては効率主義に陥りがちになりやすかった。


 その現れの一つがヴァルモルト准男爵なのだ。


 今でこそ戦場で挙げた手柄や能力が評価されたことで貴族に列せられ、小さいながらも己の領地すら持っている彼ではあるが、その領地の経営は現役軍人特権を利用することで信頼できる兄に任せきりで自分が直接携わった事などない。

 当然、領民と顔を合わせたことなど一度もない。


 従って、領地を持っているという実感が得られるのは年に一度、兄から送られてくる報告書と幾ばくかの金を受け取る時だけだった。


「そなたも准男爵に叙されている以上、領地を持つ貴族であろう?」

「は……ですが」

「ん?」

「その前に王国第二騎士団長を拝命している軍人です」

「そうだな」

「軍人は常に王国の利益を念頭に置き、その為に働くことが一番重要な任務です」

「その通りだ。しかし、貴族は違う」

「……」


 一体何が違うというのか?

 貴族だろうが何だろうが、軍人の職責など一つではないか。

 ヴァルモルト准男爵はそう考えたものの、自分では思いもよらぬ意見が聞けそうなこともあって摂政の言葉に耳を傾けた。


「貴族は領主であり、領民の財産の保全や生活の保護、その向上に務めることがまず一番だ。そうして貰わんと王国もいつまで経っても税収が増えん」

「は、それは理解して……」

「ふん。理解しているなら四個中隊も要求するものではない」

「交渉術の一つです」

「最初に多くを要求し、後にそれを引き下げる」

「はい」

「商取引の交渉であればそれで良いが、今回は悪手だな」

「悪手、ですか?」


 悪手とまで言われるのは心外な気もしたが、准男爵はそれ以上口にはしなかった。


「確かにそなた同様、伯爵も王国軍人ではある。しかし、領土を治める大貴族でもある。領地の大きさこそ異なれ、それはそなたも同様だ。なにせ准男爵なのだからな。そなたの領地はどこだ?」

「は……ザーム公爵領の手前にありますハルーンです」

「ハルーン……か」


 摂政はハルーンがどのような地であるか思い出そうと努力したが思い出せなかったので話題を元に戻すことにした。

 因みにハルーンは人口がようやっと二千を超え、村から街へと脱皮しつつある林業と鉱業が盛んな土地である。


「……王国さえ守れれば自らが治める領土や領地がどうなっても構わんなどと考えるようでは貴族として失格だぞ?」

「……」

「むしろ、極論を言えば自らの領土、領地が安泰なら王国などどうなっても構わない、と考えるのが正解だ。尤も、こんな事を表立って言えば処罰されてしまうだろうがな。はっはっは……」

「……」


 あまりの言葉に准男爵は唾を飲み込むばかりである。


「そんな顔をするな。まぁ、今のは流石に言い過ぎだが、私や陛下はそう考えるようにしている。物事はその上で、王国全体の利害も踏まえて考えるようにせねばならない。いいか? 国と貴族は持ちつ持たれつだ。どちらかが一方的に利を得たり害を被るような事などあってはならないのだ。無論、王国側が多少の利を得るのは……常からの軍の整備や外国からの侵略時などいざという時の派遣もあるから、これは当然だがな」


 これは今の自分にとって大切な講義だ。

 摂政の言葉に准男爵は真剣な表情になった。

 それを見てとったのか、摂政は言葉を継ぐ。


「よく考えろ。今の王国が一番恐れることは何だと思う? 思うところを素直に述べよ」

「……」


 暫しの沈黙があった。


「難しくはないぞ?」

「っ……」


 再来年から始まるであろうジュンケル侯国への侵攻と併合。

 その失敗か?

 その頃にはデーバス王国もそれなりの態勢を立て直すであろうから……。

 それとも……。


 色々な考えがぐるぐると准男爵の頭を駆け巡る。


「……リーグル伯爵の……」


 准男爵は言い淀んだ。

 が、摂政の顔を見てその先を口にする。


「……口の端に乗せるのも憚られますが、リーグル伯爵の造反だと思います」


 今まで准男爵は伯爵が王国に反旗を翻すなどという事は全く考えていなかった。

 数年前にバルドゥックで初めて会った時の、悔しそうだがどこか国王陛下を見る目に憧れのような光を滲ませる少年のイメージを保ったままだった。


 当時はそんな彼に共感も覚えたし、助言すらしたこともある。


 その後も地下迷宮の階層を突破するたびに嬉しそうに報告に参内したと聞けば己が事のように顔を綻ばせ、巨大なワイヴァーンを退治して得た鱗から作った魔法の鎧を献上したことで、いたく感心した陛下が過去に彼を侮辱した発言を撤回して詫びたばかりでなく、大貴族に列することになったと聞いて「ついにやったか!」と一人祝杯を挙げたことすらあったのだ。


 貴族とは名ばかりの一介の冒険者であった彼が大出世を遂げていくことに、騎士団内で順調に階梯を重ねる己を投影していたのかもしれない。


 そんな准男爵にとって、この発言は相当に苦しいものだった。


「然り。正直なところ俄には信じられんが、伯爵は個人で国軍を向こうに回しても戦えるだろうと陛下は仰られた。勿論そうなったとしても最終的には倒せるだろうとも仰られたが、その間に受ける被害の立て直しには一〇年以上もの期間を要することになるだろうとも仰られたが」

「……」

「ここで重要なのは、本当に伯爵個人にそれだけの戦闘力があるかどうかという事ではない。それは解るな?」

「は」


 准男爵の脳裏に今年の春先に齎された報告書に書かれた内容が蘇る。


 王国第一騎士団に指揮された第二騎士団とドレスラー伯爵騎士団、第四騎士団の突撃一個中隊の合計一〇〇〇名でも敵わなかったドラゴンを退治したばかりでなく、その直後にはほぼ単独で数千にも上る魔物の大群をも撃滅せしめた戦闘力は、装飾過剰な分を差し引いてかなり少な目に考えたとしてもとんでもなく常識外れな恐るべきものだ。


 それから考えると国王陛下の予想もそう大きく異なる事もないであろう。


「重要なのは陛下がそうお考えになられた事について、誰も修正を与えられなかったという点と、陛下も未だその考えをお改めになられていない、という点だ。それともそなたには陛下のお考えを翻す事が可能な材料でもあるのか?」


 そんな物、ある訳がない。

 何故か責められた気がして准男爵は僅かに苦しそうな顔をした。

 そんな准男爵を少し面白そうに見て、摂政は続けて口を開く。


「従って、そんな化け物に造反される訳にはいかん、という訳だ。これで目的の一つは理解し、いや共通見解を得たと考えても良いな?」


 摂政の言葉に准男爵は頷いた。


「は……造反の口実を作らせないことですね?」

「うむ。では次だ。もう一つの目的は何か?」

「は。ジュンケル侯国を攻める為の兵力を得ることです」


 問われた准男爵は今度は殆ど時間を置くことなく答えた。


「そうだ。ジュンケル侯国への侵略も大切だから兵力は必要だ。差し当たって侵略を受ける可能性が低いであろう南方から戦力を引き抜くのが一番手っ取り早い。引き抜いても守れるだろうしな」

「ええ」

「だが、化け物の機嫌を損ねる事もまずいのだ。幸いにして、伯爵は理性的な会話が可能な人物だというから、交渉や駆け引きも確かに有効だとは思う。しかし、それにも限度というものがある。金銭(カネ)で片付けられるならそうした方が良い」

「……はい」

「勿論、払いは少ない方がより良いのは言うまでもない事だがな」


 摂政は薄い笑いを浮かべるとカップを口に寄せた。


「と言うことは、金銭は勿論でしょうが、それ以外の物で伯爵の歓心を買う……」

「うむ。そうだな。だが、これは難しいぞ。人質や我が孫の嫁入りにすらもあまり関心を寄せなかったと言うからな」

「人質に降嫁? ですか?」


 准男爵には初耳だったらしい。


「聞いていなかったのか? まぁ、政治に関わることもないそなたに聞かせるような話でもないからな……来年の春、ウィリアムの息子のダンカンを始め、ザーム公爵家やバスボーン公爵家からも子供を人質として差し出す。それから、庶子ではあるが、フォーケイン准男爵家の娘になっている……なんとかという娘を嫁に出すことが決定している」

「なんと……今私が伺ってもよい話だったのでしょうか?」

「今言った通り決定している話でもう覆らんし、婚礼についても遅くとも今月中には正式に発表があるから別に構わん」


 手にしたカップをテーブルに戻し、摂政は言葉を続ける。


「何にしても目的と目標を取り違えるな。目的はまず伯爵を怒らせないこと。そして、首尾よく戦力を引き出すことだ。目標は幾つかあるが、可能な限り安く済ませる事だな。だが、伯爵を怒らせては元も子もないからな。理想は伯爵に喜んで戦力を出させるよう、得をした、と思わせることだ。だから安全保障費の額についてなどは最低でも戦力に見合った値引きを行うのは当然だ」


 摂政としては伯爵が喜ぶのであればいっそ半額にしても良いとすら考えている。

 が、流石にそれはまだ言わない。


 こうして夜は更けていった。




・・・・・・・・・




7450年11月3日


 今日も午後から行政府の応接で王国からの交渉を受けていた。


 だが、昨日とは打って変わってヴァルモルト准男爵は腰が引けている感じを受けた。

 供出する戦力についても、俺が睨んだ通り「第二騎士団から二個中隊と第四騎士団から一個中隊の合計三個中隊ならなんとか」という交渉にも応じてくれそうな雰囲気だ。

 まぁ、安全保障費の値下げ割合から考えれば四個中隊なんてどだい無理なんだしねぇ。


 でも、昨晩考えたら、ジュンケル侯国ってのはロンベルト王国の北にあるんだよね。

 北と言えば姉ちゃんが出征している方だ。

 そうなるとあまり出し渋るのも気が引けるってもんで、大負けに負けて三個中隊は本当にギリギリの判断だ。


 それでもたったあれだけの値下げならこちらの持ち出し過多だと思う。

 が、ジュンケル侯国を攻めると言うならその後に控えるグラナン皇国も黙ってはいない可能性が高い。

 戦費も心配になろうってもんだろうし、安全保障費をあまり値切るのもなぁ……。

 北など知ったこっちゃないと言えればどんなにか楽だろうか。


 尤も、昨日言ったように、三個中隊も引っこ抜かれたらその後が大変だ。

 姉貴だのなんだのこちらとしても事情もあるが、引っこ抜かれる戦力に相当する二一・四パーセントに戦力の立て直し費用や時間を考慮して約一・五倍に相当する三〇パーセントの値引きを提案してみた。


 准男爵や摂政殿下の表情からすると「納得はし難いが、背に腹は変えられない」という感触だ。

 ひょっとしたら、三割引というのは国王(おっさん)から貰っている最大のカードに近いのかも知れない。

 多分、こちらから引っ張る戦力については最低三個中隊を厳命され、代償は安全保障費の三割引きというところなのだろうと思われる。


 ここは少し強気に出てみるのも手か。


「今の条件は“常識的に考えるならこれが最低線”というところです」


 そう言ってみたら、准男爵は少し困ったような顔になった。

 やはり、彼の一存ではここが精一杯、と言う地点なん……じゃないかな?

 違ったところでこれ以上値切るつもりもないけれど。


「さて。ここでオブザーバーである摂政殿下にご質問があります」


 最初の挨拶を除いて今日はじめて摂政殿下に視線を向けた。


「お分かりでしょうが、王国には王国のご都合があるように、南方総軍には南方総軍の都合もございます。現行の戦力から三個中隊も引き抜かれるとなると、一時的にしろ防衛力の低下は免れません。従って、総軍としては防衛線を引き直す必要があります」


 摂政殿下は頷いてくれた。

 当然だね。

 何せ、現行の兵力から二割以上も減らされるんだから、防衛線だって変わろうってもんだ。


「ご存知かも知れませんが、私は来年、現在の西ダート地方に加え中西部ダート地方、中部ダート地方、東ダート地方の領有権も頂戴する予定です。つきましては、少し気が早くて申し訳ございませんが、それらの地方にある郷士騎士団に対する領主としての正式な指揮権の行使についてお認め頂きたいと存じます……」


 今でもそれらの地の郷士騎士団に対して命令を下す権利はあるが、指揮権は別だ。

 簡単に言うと、命令権は○○へ行けとか、その地を死守しろって奴で、指揮権は具体的なその方法など細かい事についても命ずる事ができる権利、と言うことになるかな?


 要するに、現場での攻撃・守備に関する細かな方法を命じたり、訓練内容についても何から何まで全部俺が決められるという事だ。


 王国南方総軍司令官である俺の指揮権が及ぶのはダート地方に展開している「王国軍」とその補給を担うために近隣に駐屯している「王国軍」だけだ。

 そして、郷士騎士団は「王国軍」から何らかの任務などを「命じられる」事はあっても「指揮」を受ける事はない。

 勿論、郷士騎士団側が自主的に「指揮」を受けるのは自由だが、そういう問題ではない。


 こういった、領地に紐付けられた騎士団の事は、如何なヴァルモルト准男爵と言えども返答する権利は持たない筈だ。


「うむ。そなたが必要だと言うならそれも認められよう」


 摂政殿下は鷹揚に頷いてくれたが、その言い方が引っかかる。


「あら? 今ここでお認めは下さらないのでしょうか?」


 嫌味っぽくて嫌な言い方だが、絶対に必要な質問だ。

 先方もそれを解っているようで苦笑いを浮かべている。


「いいだろう。北部ダート全域に対するそなたの指揮権を認める」


 うむ。

 これで摂政殿下が国王(おっさん)の全権代理だという事が判明した。

 何せ、先に上げた三つの領土は現時点では天領であり、その正式な領主は国王陛下なのだ。

 天領に対する決定は国王本人かその全権代理にしか認められないのは自明の理である。

 まぁ、摂政ってのは国王の全権代理以外の何者でもないだろうが、確認は必要だろう。


「減った戦力でダート地方を守るには今以上に防御戦力を集中させる必要があります」


 当然の台詞に摂政殿下だけでなく、ヴァルモルト准男爵も頷いてくれる。


「しかしながら、現在の領地を減らす訳には参りません。下手に減らしたら税収も下がって、引いてはお国(くに)にお納めする安全保障費も目減りしてしまいますから」


 にこりと笑い、肩を竦めながら話した。


「それに、王国がジュンケル侯国を攻めるのであればこちらから戦力を抽出した可能性について、デーバスめも考えるやも知れません。従って、王国が北方に進出する直前にこちらから南方の戦線を押し上げたいと存じます。その頃には私めも正式な侯爵としてダート地方にある全戦力を指揮下に収めているでしょうけれど、その前から郷士騎士団に対する戦力の底上げが必要ですから」


 だからこそ、早めの指揮権要求だ。

 二人共驚きながらも理解してくれたようだ。


「それに、まずこちらで大規模な戦線押し上げを行えば、ジュンケル侯国も“ロンベルト王国は南方に注力している”と考えてくれるかも知れません」


 ここで一息吐く。

 恩着せがましいことを言ったところで、さぁ、要求だ。


「南方戦線の押し上げには当然郷士騎士団だけの兵力では不足します。私の指揮下にある南方総軍の兵力も使いますが、新たに得た占領地域については私の領土としてお認めくださいますよう、お願い申し上げます」


 南方総軍として預かっている兵力はあくまでも「王国軍」であり、領主である俺個人の兵隊ではない。

 今の所。


 その兵力を利用して領地を得たのであれば、普通ならそこは天領となる。

 まぁ、つい最近まで俺の西ダートも天領だったし、他のダート地方に並ぶ領土も天領だったので今まではそういう問題が起きたことはない。

 デーバス王国と開発村を取ったり取られたりしても、その所属について誰からも気にされるようなことはなかった。


 これには摂政殿下もヴァルモルト准男爵も意外だったようだ。

 少なくとも、今の段階で言われる内容だとは思っていなかった、というところだろう。


「防備に適した地を占領し、そこに要塞などを築いて防衛拠点にします。そこを無視して奥地を攻めようにも無視できないようにするのです。そういった拠点を最低でも三つ程度作ることができたら、そこに残された兵力を集中して配備します。さすれば減った戦力でも南方の防衛は充分可能になると愚考いたします……」


 要塞はどうやって作るのだ、などという愚かな質問はない。

 何せ、この冬に行われたタンクール村に対する攻略戦や、その後のタンクール村の再攻略に加えてキンケード村、デナン村の攻略時に大規模な土壁を作ったことくらいは知っているだろうし。

 あの三ヶ村には未だにちょっとした守備隊を置いているだけだが、デーバスが占領するのは困難だ。


 まともに攻めるなら最低でも五〇〇人くらいは集めたいところだし、万が一占領されたら俺が出向いていって土壁の出入り口を塞いだ上で水でも流し込んでやればいい。

 耕作地だとかまだ何にも手を付けていないから村の中がぐちゃぐちゃになっても損だとは思わないし。


「また、私が独立後も現在の駐屯兵力の半数はそのまま残していただけるとのお約束ですが、これは当然三個中隊を北方にお送りする前の数が計算の起点ですよね? それから私がロンベルティアに持つ商会ですが、独立後もそのまま置いておくつもりですが、関税に関しては国内同様の扱いとして下さい。その代わりと言ってはなんですが、こちらも無関税にするつもりですから。あと……」


 そこまで言った時、殿下に遮られた。


「す、すまん、伯爵。もういい時間だし、続きはまた明日にでも……」


 あらそう? 先日要件を聞いた時には一日や二日で終る類の話でもないと予想していたし、別にいいけれど。 

 ヘロヘロだった体調ももうすっかり元通りになったし、俺に時間を与えたらもっと色々考えちゃうよ?


 

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― 新着の感想 ―
[一言] この流れだと拠点で銃撃戦?
[良い点] 更新お疲れ様です。 交渉に臨む双方の思惑が判って面白いです。 [一言] 南方総軍司令官は、南方戦域の全王国軍(第二・四騎士団所属部隊)の指揮権を持っている。 各天領の代官は、国王に代わり各…
[良い点] 更新お疲れ様です。 [一言] 非常に好みな展開に、 ニマニマしながら読ませていただきました。 来週も楽しみにしています。
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