↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
男なら一国一城の主を目指さなきゃね  作者: 三度笠
第三部 領主時代 -青年期~成年期-

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

609/974

第二百十三話 追跡開始

7450年5月16日


 コルザス村から戻ってきたリライによると、村には不審な点は一切なかったという。


――と言うことは、私達がザーラックスを発ってから数時間は気が付かれてない……そもそも追手が掛かっているかどうかも怪しいけどさ。


 再び魔術の明かりを手にしたペギーはゆっくりと自分の考えに浸る。


「今暫くご辛抱ください、大悟者様」

「……ええ、大丈夫よ。それより、皆の首尾はどうかしら? 上手くザーラックスを出ていると思う?」


 馬車は先程まで来た道を戻っている。

 予め、秘密裏に数箇所用意されていた隠れ家の一つへと向かっているのだ。


「……本当に西ダートの領主がウィンキビラウの手先と化して派兵してきたのであれば、一番危ないのは出発時間が遅かった筈のキルンとジャクソンでしょう」

「そうね。……ルーダとヘミット、それにキャラックは安全と考えていいかしら?」

「断言は致しかねますが、恐らくは」


 リライの返答を聞いて「そこまでは私と同じ考えか」とペギーは頷いた。


「キルンとジャクソンが捕捉されるにしても、私達にどのくらい余裕があったのかしら?」

「……わかりませんが、私が宿を出た時には監視の目はあったようですが、衣装替えと馬車を使っていなかった事もあったのか、尾行まではされませんでした。大悟者様がデムソン子爵のところまでお運び頂いた際も尾行は無かったと仰せでしたし……あの分なら子爵閣下とお約束のあった夕食までは誤魔化せたのではないでしょうか?」


 ペギーが宿を出たのは午前十時頃だ。

 それから考えれば八時間くらいは先行出来ている。


「そう。それにキルンやジャクソンが捕らえられているのであればコルザスに追手が来ていないのは不自然よね。村に怪しいところはなかったのでしょう?」

「ええ。勿論、既に追手がコルザスへと向かっている可能性は考えられます。ですが、カダールで馬を乗り換えるなどして急げばザーラックスからなら四~五時間程もあれば着きますので最悪でも二時三時くらいまでは追手は出されていないと考えても良いでしょう。しかし……」

「?」

「キルンもジャクソンも敬虔なニギワナの信徒です。たとえ捕らえられ、拷問を受けたとしても大悟者様に命じられた内容をそう簡単に口にするとは思えません」

「……そうですね」


 そう答えながらもペギーは「捕らえられて拷問なんかされたら黙っていられる訳無いでしょ。騎士団で散々拷問とかしてたくせに本気で言ってるのかしら?」と思っている。

 心の底から神を信じている者と、そうでない者の違いかもしれない。


――何にしても、一事が万事、こういう考え方をするって思っておかないと危険ね。




・・・・・・・・・




「ワカリマシタ。ソレデハ私ノ他ハジェズトザジ、ゴゥドニシマス」

「そうか。じゃあキルンはギィグと一緒に向かってくれ。俺はジェズと一緒に向かう」

「え? 嫌よ。私もあんたと一緒に……」

「ギィグは強い。護衛の戦力を考えたらそっちの方がいいだろ?」

「ちょっと……」


 キルンはジャクソンの袖を引いてオーク達から少し離れた。

 どうやらたった一人でオークと行動することを恐れているらしい。


「そんな事を言うな。ギィグは何年も前から大主教猊下の教育を受けているし、あれで結構頭もいい。君が心配するような事なんかしやしないさ。それに同じニギワナの信徒、兄弟みたいなものじゃないか? 君は兄弟を信用出来ないっての言うのか?」


 ジャクソンが主張する通り、言葉を覚え始めたギィグは僅かな期間で物凄く進歩している、ように見える。

 キルンも昨年中にギィグと会った事があるが、その時はここまで流暢に喋れなかった。

 それに、全体から感じる雰囲気ももっと野生動物かなにかに近いものがあったのだが、ギィグに限れば今はそういう感じも受けない。


「う……そ、それもそうね。だけど怖いものは怖いし、嫌なものは嫌」


 こそこそと二人が話しているところへギィグ達が近づいてきた。

 二人はすぐに会話を止め、ギィグに視線を向ける。


「キルン様、ワレワレヲ怖ガルノハワカル。デモ同ジニギワナノ兄弟ヲオソウコトハシナイ。アンシンシテホシイ」


 そう語りかけるギィグの目には紛うことなき理性の光が灯っており、口にする言葉も他のオーク達より余程聞き取りやすい。


「怖ケレバヨブマデソバニハチカヅカナイ。ソレニ、ワレワレトイッショニイナケレバ逃ゲラレナイ」


 確かに追手が迫っている現状、キルンにもジャクソンにも単独で逃げ切れるとは思えなかった。


「……わかったわ。怖がってごめんなさい」


 キルンが納得の声を上げ、雰囲気は少し和らいだ。


「ギビョーデハ遠イ。イソグナラモウイッタホウガイイ」


 ギィグの言葉にジャクソンは頷いて「そうだな。ギィグにはキルンを任せる。守ってやってくれ」と頼んだ。

 なお、ギビョーデというのはオークの言葉でペンライド子爵が治めるジューダンル地方の首都、カールムの傍を指す地名である。


「オマカセクダサイ。ジャクソン様」


 ギィグはすぐにキルン達にはわからない濁音の多い言葉で手下に指示を飛ばす。

 すると、キルン達の他、ギィグ、ジェズ、ザジ、ゴゥドをこの場に残し、彼ら以外のオークは全員林の中へ消えていった。


「何を言ったんだ?」


 ジャクソンが尋るとギィグは自分達を逃がす目眩ましのために、追手に対して捨て身の総攻撃を命じた、と答えた。

 そして「イソグノデアレバセオイマス」とキルンの前で背を向けてしゃがんだ。




・・・・・・・・・




 時は少し、日が暮れる頃に戻る。


 バルザス村の外れにある水車小屋でフィオはネルと顔を合わせていた。


『そうか。わかった。確かに怪しいな』


 ネルは監視中に不自然に速度の高い馬車を発見したのだ。

 全速力、という表現からは程遠いが、それでも大人が走るよりも速い。

 時速にして一〇㎞も出てはいないだろうが、荷を積んでいるのであれば相当に速いし、空荷であればこの速度ならかなりの距離を走れるだろうということはすぐに判る。


 不審に思ってよく観察すべくそっと近づこうとする時、馬車は徐々に速度を落とし始めると、街道から外れて森の中に入っていった。


 御者は道から少し離れた場所で二頭立てから一頭だけ馬を外して、外した一頭を木に結びつけると、馬車の方は一頭立てに仕立て直し始めた。

 馬具の調節などにはそれなりの時間がかかるため、その時点でネルは監視にマールを残して自らフィオの所へと足を運んだのである。


『馬車は確かに教祖の女が使っていたもので間違いないと思う。二頭立てには小さ目な荷馬車だしね。この前出発した時は教祖を含めて五人だったのに、たった一人で戻って来るってのも変だし、馬を外すってのはもっと変だわ。グリードさんの部隊が駐屯するのも明日からの筈だし……』

『うむ。俺はこれから戻るはずの馬車を見張る。君は街道の監視に戻るんだ』


 途中で馬を繋いだ場所を伝えると、ネルは夕闇迫る中、草むらに身を隠しながら消えていった。


 周囲の様子を窺った後で水車小屋から出たフィオが北に伸びる街道に着くとほぼ同時に一頭の馬に引かれた馬車が見えてきた。

 恐らくはあれがそうなのだろう。


 馬車を御しているのはキャラックという、確かに教祖と一緒に村を出た筈の男だった。


「よお。あんた、キャラックっつったよな。ザーラックスに行ったって聞いてたんだが……もう戻ったのかい?」


 フィオはいつもの調子で語りかける。


 キャラックは内心で舌打ちをした。

 大悟者であるペギーから「特にヒーロスコル夫妻には見つからないように」と注意を受けていたせいだ。


「ああ、あんたか。俺は先に戻れって命じられて一足先に帰ってきたからな。残念だが酒はないぞ」

「ふん、そうかい。なら用はねぇ。だけど、教会まで戻るんだろ? なら相乗りさせてくれや」

「残念だがそれはダメだ。こいつは俺のように認められた御者か、教会の幹部しか腰を下ろしちゃいけねぇ事になってるんでね」

「そんな固ぇこと言うなよ」

「すまんが、ダメなものはダメだ。諦めてくれ」

「ちっ、ケチくせえな」


 嫌な顔をしつつもフィオは案外と素直に歩く速度を落とし、馬車から遅れ始めた。


 会話をしながら、キャラックは馬が一頭足りない事についていつ突っ込まれるかと戦々恐々としていたが、全く指摘を受けないまま見逃してくれたためにホッと息をつく。


 不貞腐れるように歩くフィオだが、どうせ行き先は教会以外にあり得ない。


 教会の敷地に到着すると、丁度キャラックが馬具を外し、厩舎まで馬を引いていくところだった。

 それを横目に自分の部屋へと向かう。


 部屋に入るとグレースが革鎧を磨いて手入れをしていた。


『グレース。動きがあった』


 グレースはすぐに手を止め『どうするの?』と低い声で尋ねる。


『キャラックという男、覚えてるか?』

『ええ』

『今さっき、一人で戻ってきた。あの男だけ先に戻ってきたらしいが、馬車を引いていた馬を一頭、村の傍に置いているらしい。怪しんだネルから連絡があった』

『馬を途中に置いてるって事は、戻るんでしょうね』

『そうだろうな。俺はその馬の方へ行って、奴が戻るのか、それとも他の者が来るのか見極める』

『じゃあ私はキャラックを見張るわ。気付かれない方がいいかしら?』

『見張ってることを気づかせて牽制するって手もあるかも知れんが……なんとも言えんな』

『気付かれないようにするにしても、難しいわね』

『……うむ。それなら俺がこの部屋に居るように振る舞ってくれ』

『そうね。わかった。じゃあ早速ご飯でも取りに行くわ』

『ああ。そうしてくれ。俺の方は長丁場になるかも知れんから……』

『わかってる。気をつけてね』


 フィオは窓からそっと周囲を窺うと、そのまま窓から外に出た。

 すぐに保存食や回復薬などが詰まった小さめのザックがグレースによって渡される。

 それを受け取るとフィオは出来るだけ人目に付かないように居留地を出て、すぐにタバコ畑の中に身を隠しながら、村を出た。




・・・・・・・・・




「よしよし、いい子にしてたか?」


 キャラックは運んできた荷鞍(荷運び専用の鞍で、荷物がないとしても騎乗は出来ない)を馬に装着した。

 そこに一緒に運んできたランタンや革袋の束を鞍にぶら下げた。

 準備を整えると手綱を取って暗い森の中を歩き出そうとする。


 だが真っ暗で足元も見えにくい中、馬は移動を嫌がる。


「今明かりは付けたくねえってのに……仕方ねぇか」


 キャラックは再び馬を木に結ぶと枯れ草を集め、火をつけた。

 煌々とした明かりが広がる。


 小枝を拾って炎を移すと荷鞍に取り付けられたままのランタンを開け明かりを灯す。

 付けたばかりの焚き火はすぐに踏み消し、改めて手綱を取った。


「ぞっとしねぇや」


 ブツブツと独り言ちながら森の中を進む。


 二〇m程後ろをフィオが追っているとも知らずに。


 そして、暗い森を移動すること数時間。


 遂にキャラックと馬は足を止めた。


――小便か? それにしては妙な場所で……あれは!?


 バルザス村から少し離れた場所にある、小高い丘の中腹である。

 そこに小さな洞穴が空いていたのだ。


 キャラックは馬を留めるとランタンを手に洞穴に入って行く。


 何度か往復をしているが、細長くて重そうな箱のような物を運び出しているのがわかった。


――何だ?


 目を凝らすようにして運び出された箱を観察しても細長い形をした箱だろうという事しかわからない。


――剣を入れるにはとても足りない。あんなんじゃナイフくらいしか入りそうもないが、それにしちゃ少し太いか? それに相当に重そうだし、麻薬とも思えんが……。


 どさりと土の上に置く際にも中身と箱が触れ合うような音もしない。


 そうして十数個の箱を運び出すと、キャラックはそれを三つずつくらいに分けて革袋に入れ始めた。


「よし、行くか」


 全ての荷を積み終わったのか、キャラックは再び手綱を取ると歩き始めた。


 星があるとは言え夜ではランタンの明かりはかなり遠くからでも確かめられる。


 キャラックが充分に離れたところを見計らって、フィオは洞穴を覗き込んだ。

 夜目(ナイトビジョン)を使ったままでも真っ暗でよくわからない。


 腰から剣を抜くと小さな石を拾う。

 剣の鞘を外し、洞穴の外に背を向け、夜目(ナイトビジョン)を切ると拾った石にライトの魔術を使った。

 そして、即座に石を鞘に放り込む。

 細長い鞘の奥に収められた小石が発する光は鞘の口からしか放射されない。


 即席の懐中電灯のようにして洞穴を照らすフィオ。


「ちっ。流石に光が狭過ぎ……なんだ、まだ沢山あるじゃないか?」


 洞穴の奥には先程キャラックが運び出していた物と同じような箱が幾つも積まれていた。

 また、箱の他には何も無いようだ。

 フィオは一つ手にしてみる。


――軽いな。空か?


 先程見た箱の様子からは比べ物にならない程の軽量さに眉をひそめる。

 積まれた箱全体を押してみると、全てが空箱のようで簡単に動かせた。


 予想通り、箱の蓋を開けても何も入っていない。

 箱は内径が縦三〇㎝程で幅と奥行が六㎝程をしている。


――わからんな。念の為、一つだけ拝借しておくか。


 すばやく箱をザックに入れる。


――ん? 二種類あるのか?


 洞穴の隅の方にはもう少し小さな、しかし同じように細長い箱が二つの山になっている。

 箱のサイズは縦横奥行き共に、拝借したものの三分の二くらいであろうか?

 一つの山は三つの箱しかないが、もう一つは数十も重ねられている。


 まず大きな山の方から一つ手にとった。

 先程と同じように軽い手応えで、中身は当然のように空だった。


 次に小さな山の方を手にしてみる。

 今度は予想に反してずっしりと重い、重量感のある手応えがある。

 思わず取り落とす程ではないが、二~三kgはあろう。


――何だ? 何が入ってるんだ?


 あまりの重さに箱を床に置いて慎重に蓋を開ける。


「こ、これは!?」


 思わず小さな声が上がる。

 中にはぎっちりと銀貨が収められていたのだ。

 前世、銀行やスーパーなどで扱われる棒金のように、幾枚もの銀貨がきっちりと収められていた。

 見た感じでは一箱あたり百枚であろうか?


 箱は銀貨のサイズに丁度合うように作られているらしく、逆さにして振りでもしない限りは上手く取り出せそうもない。


――まさか?


 先程手にした空き箱に目を移す。


――あっちの方は、金貨か?


 先程運び出されていた箱の数は十を超えている。

 

――ひと箱百枚としてざっと三〇〇枚……三〇〇万Zか。惜しいと言えば惜しいが、私の金でもグリード閣下の金でもない以上、手を出すのはな……。


 もう一度蓋を閉めて箱を元に戻すと床に剣を突き刺し、こじって穴を広げる。

 そこにライトが灯ったままの小石を転がり落とし、踏んで穴を埋めると鞘に剣を収めてキャラックの後を追い始めた。


――資金の移動か。それにしては空き箱も沢山あったし、銀貨だけ放られたままってのもおかしいが……。


 かなり遠くで小さな明かりが揺れているが、あの速度なら楽に追いつけるだろう。


 フィオの瞳孔がぐんと広がった。


 

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。