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男なら一国一城の主を目指さなきゃね  作者: 三度笠
第三部 領主時代 -青年期~成年期-

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第百七十六話 必要な儀式

7450年3月19日


「ズールー!」


 一瞬だけ後ろを向いて声を掛ける。


「はっ! どう! どう!」


 俺の声を聞いたズールーは完璧に意図を読み取って、馬車の速度を落とし始めた。

 それに伴って、俺も馬車を振り返りながらウラヌスの速度を緩める。


 ロリックが治めるラッド村はもう目と鼻の先、この緩やかに右に曲がるカーブを抜ければ道の先に耕作地が見える場所まで来ている。


 大人が緩い駆け足をする程度まで速度が落ちた。


 もう一度振り返って馬車を見ると、グレースさんとカニンガムさんは相変わらず荷台の壁に寄りかかったまま真っ青な顔で空を見上げているだけだ。


 フィオは二人の正面でこちらも荷台の壁に背を預けているが、涼しい顔で進行方向を見ていたので俺と目が合った。


 ロリックは腹を立てているだろうと言ってあったからか、緊張の色が見える。


 まぁでも、これは仕方ないよな。

 自業自得というものだろう。

 ロリックが俺の想像以上に腹を立て、我を忘れるほど激怒しない限りは俺もとりなしてやるつもりはない。


 大人が歩く程度の速さまで速度が落ちた頃、カーブを曲がり切った。


 道の先にはラッド村の耕作地が見え、農奴だかなんだかが一生懸命に働いている風景が目に入る。

 耕作地の奥には木製の柵で囲われた村の居留地も見える。


 森を抜け、耕作地に入ろうとするあたりで、数人の兵士に呼び止められた。

 ラッド村に駐屯する第二騎士団の兵隊だ。


 どうやら俺の顔を知らない奴らのようだが、名乗ると同時に手綱から右手を外してステータスを見せてやると物凄く恐縮してコメツキバッタみたいに頭を下げてくる。


「ファルエルガーズ士爵は居るか?」


 はるばるやって来ました、だけど旅行に行っていましたじゃ洒落にならんが、あの堅物がそうしょっちゅう遊びに行くとは思えん。

 道中のミドーラ村を治めるビンスも今日は見ていないと言っていたし。


 予想通り村に居るとの事だったが、まだ昼前なので普段通りなら耕作地の外れで開墾作業の指揮を執っている筈だという。


 探しに行くのも面倒くさいからそのまま居留地に向かった。


 俺たちの後ろでは兵士達が領主である俺の来訪を告げるため、居留地に向けて青い旗を振っている。


 居留地に入る頃には駐屯していた兵士達がずらりと並んで出迎えてくれた。

 ウィードやミドーラ同様に、俺がダート平原に駐屯する軍の兵権を手に入れたことは伝わっているらしい。

 隊長の言によると、旗に気がついた時点でロリックを呼びに行かせているらしいので、広場で一休みだ。


 進み出てきた兵士にウラヌスを任せると、差し出された水を飲んで一息吐いた。


 このラッド村に来たのは二回目だが、前回来たのは半年以上前、初夏の頃だ。

 その頃と比較して村は大分変わって……はいない。

 当たり前かぁ。


 強いて挙げるなら、居留地の外周近くに並んでいた兵舎が少しばかり増えたような気がする程度かなぁ。


 広場でウダウダしているとロリックがやってくるのが見えた。


「士爵閣下がいらっしゃいました」


 ズールーも気がついたようで、フィオたちの注意を喚起している。

 ロリックは俺に手を振りながら小走りに駆け寄ってくる。


 フィオがいることには気が付いていないようだ。

 俺も手を上げて応えてやるが、ロリックは一人だ。

 サンノやルッツ、デンダー、カリムは一緒じゃないのかな?


「アルさ~ん!」


 ロリックは俺に呼びかけながらなんだかやけに嬉しそうだ。


「見事ドラゴンを討ち取られたそうで、おめでとうございます!」


 話は聞いていたらしい。

 近所だからトリスあたりからかな?

 俺の前に立つ姿は土で汚れた平服で、結構な汗も掻いているところからまさに開墾作業中だったようだ。


「でも、誘うくらいしてくれてもいいじゃないですか!? 私だって……」


 祝辞を述べたかと思ったら不平を零された。


「悪かった。だが、ドラゴンだしな。万が一のことを考えると人数が多くてもあれだし、『レベル二三より下』はちょっと怖かったんだ」


 まぁ、ロッコは例外な。


「ぐ……。それを言われると……」


 ロリックは渋い顔をしたがそれ以上不平は言わなかった。


「それはそうとして聞きましたよ!」


 また嬉しそうな顔に戻る。


「何が?」


 ドラゴン退治以外だと、ダート平原の兵権を手に入れたことかな?


『剣の力の事。あれだけモンスターが出てくるなら私もレベルアップ出来そうじゃないですか』


 そっちかよ。


「ん……まぁ、そうね」


 屠竜ドラゴンスレイヤーの力を使って周囲の敵対生物を集めた戦闘において、殺戮者スローターズのメンバーは少ない奴でも数万、ミヅチみたいに多い奴は一〇万近くもの大量の経験値を得ている。

 それに伴ってミヅチ、ゼノム、グィネ、ベル、ロッコはレベルも上がっていた。

 残念ながらラルファとトリス、ズールーはレベルアップには至らなかったが、それでもトリスはレベルアップギリギリまでになっていた。

 あと二万ちょいだったし、しっかりと領内のパトロールを続ければ今年中にもレベルアップするだろう。


「あれ、まだ出来るんですか? 出来るなら……」


 えー? 何いってんの、お前。


「っつーかさ、知ってるならお前も話聞いたんだろ? しんどいし、やりたくねぇよ。大体、俺なんかもう少しでタコ殴り喰らいそうになって死ぬかと思ったくらいだわ。それもゴブリンみたいなしょっぱい相手にだぞ」


 いやもう、死ぬかと思ったってのは流石に嘘だけど、死んだとしてもちっともおかしくはなかった。

 戦闘終了後、半死人になっていたのは嘘じゃないし。


「えー、でも、ラルも言ってましたけど、あれやるとそこら中のモンスターが集まって来るんでしょ? ならダート平原の開発も……」


 こんなこと言う奴、領主連中から一人二人は出るんじゃないかと思ってた。

 特にダート平原にいる奴な。


「ロリックお前さ、人の話聞けよ。何千匹って数が寄ってくるんだぞ? あんなことでもない限り、もう二度とやりたくねぇよ」


 このラッド村みたいなダート平原のど真ん中でアレをやるなんて、まさしく自殺行為に等しい。

 身を以て体験し、骨身に染みている。


「うーん。残念です……」


 ロリックは心の底から残念そうに言う。

 が、そんな顔で見つめられても無理なものは無理なのだ。


 自分の村を発展させよう、そのためには何でも利用しようという考えは理解できるが、俺でさえ一歩間違えれば死ぬ。

 死ななくても大怪我を負って痛い思いをするかもしれないし、この前みたいに怪我をしなくて済んだとしても、やはり精神的に死ぬ。


「いや、お前がドラゴンスレイヤー(こいつ)を使ってモンスターを集める、そして自分で全滅出来るってんなら貸してやってもいい。だけど、断言するけど、三桁以上のオーガを一人で数分以内で殺せるくらいじゃないと確実に死ぬぞ」


 オーガを三桁とか流石に盛り過ぎだが、そのくらいじゃないとエンゲラの剣を貸す訳にはいかない。

 寄って集ってボロ雑巾のように殺された挙げ句、剣も破壊されちゃうのがオチだろうし。


 でもまぁ、ダート平原のど真ん中じゃなくて、端っこから使うってのも一つの手だな。

 剣から半径五㎞なんだから慎重に位置を決めれば危険度はかなり落ちるだろう。

 最初はダート平原とは関係ないところで使うってのもアリかもしれない。


 とかなんとか言っていると、やっとロリックは俺の後ろに立っている連中に気が付いたようだ。

 急に目を見開いてぎょっとしたような顔つきをした。


 そして『ノムさん!?』と言うなり俺の脇を擦り抜ける。


「おいおい」


 俺は苦笑いを浮かべて振り返った。


 ロリックは両手をフィオの両肩にかけて『ノムさん……だよな?』と言っている。

 その顔はまだ驚いたような表情のままだ。


『そうだ。江藤くん。久しいな』


 フィオは続けて『急に出ていって済まなかった』と頭を下げた。


『~~!』


 ロリックはフィオの肩を掴んだまま俯いている。


 そして、がばっと顔を上げるとやにわに『済まなかった、じゃねぇよ!』と怒鳴った。


 さもありなん。


『あんな手紙一つでいきなり消えて、残された俺がどんなに……くそぅ、一発殴る!』


 言うが早いか、ロリックはフィオの顔面を殴りつけた。

 フィオは敢えて躱そうとはせずに綺麗に殴られて転んだ。


 どうやら顔のど真ん中を殴られたようで、鼻が曲がり血も垂れている。


 ちらと鑑定すると【状態:骨折】とある。

 鼻骨骨折か。


 ロリックは「ふーッ! ふーッ!」と鼻息を荒くしながら殴った右拳を開いて振っていた。

 こいつの方も痛かったんだろう。


 フィオは暫く伸びていたが、頭を振りながら立ち上がった。


『ぐ……本当に済まなかった』


 ぼたぼたと垂れ続ける鼻血を拭いもせずにそう言うと、続けて『許してくれ、この通りだ』と丁寧に頭を下げる。


 ふと心配になってあたりを窺うと、兵士のうち幾人かは気が付いたらしく、コソコソと何か話しながらも成り行きを見守っている。


 グレースさんやカニンガムさんは心配そうな顔をしているが、予め話を聞いていたからか特に動きはない。


 まぁ、一発や二発殴られたくらいでそう簡単に大の男が死にゃあしない。

 怪我をしたとしてもフィオだって治癒魔術は使えるから、落ち着けば時間は掛かるだろうが自分で治すことも出来る。

 それに、ここまでの道中で俺の魔法の技についてはある程度聞かせている。

 その中には例の神札で使って貰えるキュアーオールも自在に使えるとも言っていたから、安心しているのかもしれない。


 因みにズールーは我関せずと馬車の点検を続けていた。

 マイペースだね、お前。


「もういいよ……」


 ロリックは弱々しく呟くとフィオの顔を見た。

 その目には薄っすらと涙が滲んでいる。


「そう言ってくれると有り難い。しかし……暫く見んうちに成長したな。今のは効いた。頭が吹っ飛んだかと思ったくらいだ」


 あれだけ綺麗に決まりゃあ、そうだろう。

 真正面から鼻っ柱だし、滅茶苦茶効いたろうなぁ。


 フィオの鼻梁は見る間に紫色に腫れ上がって、喋り声も少しくぐもった感じだ。


『ノムさん、お帰りなさい。……帰ってきてくれて、ありがとう』


 ロリックはそう言って腕で目を拭うと、フィオの手を掴んだ。


『ああ。ただいま、だ』


 フィオも微笑んで返事をするが、どうにも痛そうなのは否めない。

 ロリックは「うん」と頷いてフィオを見、すぐに手に魔術光を宿した。


 青い光がロリックの手からフィオに移ると、曲がっていたフィオの鼻は元通りの形になった。

 治り具合から言ってロリックが使える最上位の治癒魔術、キュアーシリアスだろう。


「腫れまでは治さないぞ」


 ロリックはニヤリと笑って言った。 


「わかってる」


 フィオも痛みを堪えつつ微笑んでいる。


「アルさん、済みませんでした、変なところをお見せして……」


 フィオから手を離したロリックは俺の方に向き直って詫びてきた。


「いいさ、気にすんな」


 青臭くて面白い見世物を見せてくれたんだから。

 しっかしここまで予想通りの展開だと、ちょっと愉快になってくる。

 まぁでも、当人たちにとっては避け得ない儀式みたいなものだろうし、どういう形にせよ必要なものであった事は確かなのだろう。


「それより、こちらの二人の紹介がまだだ」


 そう言ってグレースさんとカニンガムさんの方を振り返った。

 二人はロリックが治癒魔術を使った事に気がついている様子で、安堵の表情を浮かべている。


「……エセル・カニンガムと申します。カンビットの出身ですが、訳あってフィオさん達と同行していました」


 エセルが進み出て挨拶をした。

 ロリックは初めて二人に気が付いたようで、ぽかんとしている。


『見りゃ判るだろうがこちらのお二人も俺たちと同じだよ』


 俺も一言くらい日本語を言っておこう。

 レベルの下りはノーカンな。


「あ……ロ、ロートリック・ファルエルガーズと申します。ステータスオープン……」


 エセルが差し出した手の甲に触れ、ロリックはステータスを見た。


「私はグレース。グレース・ヒーロスコルと申します。何年も前から主人がお世話になったそうで……」


 続いてグレースも微笑んで右手の甲を差し出した。

 俺は笑いを堪えるのに必死だ。


「え? あ? え? ……主人って? え?」


 ロリックは目を白黒させてグレースとフィオとの間で視線を泳がせている。


「すまん。事情があって二年ほど前に結婚してな……」


 フィオが頭を掻きながら言った。


「は? け、けっこ……。す、済みませんでした!」


 女房の眼前で旦那を殴りつけた男は直角に近い角度まで腰を折り曲げた。


「頭をお上げください、ファルエルガーズ閣下。事情は伺っておりますので……」


 グレースは少しおかしそうに微笑んでいる。

 頭を上げたロリックは恨めしそうな顔で俺を見た。


「何だよ? 俺のせいだってか? 俺と話してる途中だってのに、血相変えていきなり中断して殴りかかったのはお前の方だぞ」


 俺もニヤついて言った。


 尤も、ロリックの方もそれを分かっているようではある。


「さて、ロリック。紹介も終わって落ち着いたところで一つ質問だ」


 もう少しくらい時間をやりたいところではあるが、帰り道で予想外に時間を喰ってしまった俺としてはさっさと戻りたいのだ。


「何でしょう?」


 と言いつつ、ロリックとしては何を聞かれるのか、既に理解している顔つきだった。


「彼らの扱いだ。お前はどうしたい?」

「そ、それは……」


 と、その時、何人かの男たちが広場に入ってきた。


「あ!」

「あれ!」


 デンダーとカリムの声がした。

 そちらの方を向くとロリック同様に汚れた格好をしたサンノやルッツ、そして、それ以外のロリックの従士らしい姿も見える。

 ご領主様が来たとの連絡で、まずはロリックが駆けつけ、他の従士たちもおっとり刀でやってきたというところか。

 汚い格好のままなのは、旧知の間柄なので俺も今更気にしやしないと思ってのことだろう。


「フィオか!?」


 ルッツが叫んだ。


「フィオ、手前ぇ! 今更どの面下げて……この野郎、一発殴……もう済んでたか、ハハハッ!」


 駆け寄ってきたサンノはフィオの鼻が紫に腫れ上がっているのを見て笑った。


 俺の方はデンダーとカリムの他、村の従士たちから「またもやドラゴン退治を成し遂げられたそうで」とか「お久しゅうございます」とか祝辞と挨拶攻めだ。


 でも、こんなんでうやむやにするつもりはない。

 適当に切り上げた頃、ロリックに皆からは少し離れた所に連れて行かれた。


「アルさん、フィオですが……その……出来れば私と同じく貴族に……」


 ロリックはおずおずと話し始めた。


「……えっと……その……やっぱり駄目でしょうか?」


 解ってるなら聞くなよ。


「無理な相談だな。彼は俺のもとで何らの功績も上げていない。それに、彼を貴族にするということはロッコやケビン、ジェル、ミースをすら超える地位をいきなり渡すことに……」


 その顔つきだと流石に解ってはいるようだね。


「ですよね……」


 そらそうですよ。


 それに、こんな言葉を聞いてしまったからにはもう俺からは何か言うつもりはない。

 俺としてはロリックの言葉を待つだけだ。

 それに対してはい(ゼー)いいえ(ナン)しか言うつもりはない。


 ここに至り、俺とロリックが二人だけで話し込んでいる事に気が付かれ始めたようで、フィオたちも近づいてきた。

 ロリックは手を上げて彼らが接近してくるのを阻むが、フィオだけは手招きした。


 しかし……ふーむ。

 フィオに貴族位をやって欲しいと言われた時には大いに落胆させてくれたが、ならば自分の従士にするとは言わないか……。


「フィオ。もしもまた出ていくつもりなら今言ってくれ」


 ロリックは厳しい顔でフィオに問いかけた。


「……ありません、閣下」


 空気を読んだのか、フィオも鼻を腫らしたまま、謹厳な様子で答える。


「それは、私だけでなくリーグル伯爵閣下の下を去るつもりはないという意味で理解して良いか……?」


 ロリックは祈るような目つきで問う。


「……はい、その通りです」


 慈愛さえ含んだ目をしながらフィオは答えた。


 フィオの返事を確かめたロリックは、俺に向き直った。

 そして、丁寧に頭を下げた。


「……あの、たかがラッド村を預かる一士爵の身で差し出がましい口を利くようですが、もしお許しいただけるなら、彼に、フィオに手柄を立てさせてやってください。そう出来る可能性の高い職に付けてやって欲しいです」


 まぁ、俺としても見合った手柄を上げてくれたのであれば爵位を出し惜しむつもりはないが……。


「……」


 少しだけ考えた。


「私への仕官を望むか?」


 今までの口調を改めてフィオに尋ねる。

 ついさっき、はい(ゼー)いいえ(ナン)しか言うつもりはないと思ったが、ロリックにじゃないからいいだろう。


 フィオはちらりとロリックの顔を窺ったが、ロリックは俺に視線を向けたまま微動だにしていない。


「はい。仕官が叶うのであれば、粉骨砕身してお仕えいたします」


 フィオは頭を垂れて言った。


「以前は『会社』を経営していたと聞いた。名はなんという?」

「『野村物産』と申します、閣下」


 ノムラ物産ねぇ……。

 でも日本中どこにでもありそうな名だ。

 まぁ、一応確認しとくか。


「『株式会社』か?」

「はい」


 有限とか合資会社ではない、か。


「住所は?」

「引っ越していなければ『品川区五反田』です」


 あ、知ってる。

 記憶が確かなら、俺が勤めていた帝国食糧のライバル企業じゃねぇか。

 客先ではガチンコの見積もり合戦をしたことも数知れず……。


「そうか」


 まぁいい。

 昨日の敵は今日の友とも言うしな。


「念の為確認するが、細君との同居や生計の一を希望するか? それと、カニンガムはどうか?」


 まぁ重要なとこだよね。


「可能であれば妻との同居を希望し、妻共々仕官させて頂きたく存じます。カニンガムは本人の希望もありましょうから、私から申し上げることはございません」


 フィオはもう隣を窺うようなことはせず、しっかりと俺だけを見て答えた。

 まぁ、嫁さんはともかく、カニンガムさんはそうなるよな。


「わかった。仕官を認めよう。待遇や条件、職種については後ほど沙汰するが、不満があれば一度だけならば聞こう」


 そう返事をするとフィオは跪いて臣下の礼を取った。


「下がれ」


 フィオはすっくと立ち上がると一礼して皆が集まっている所に向かった。

 ロリックを見ると、だらだらと汗を流していた。

 緊張していたらしい。


 薄く微笑んで「カニンガムを呼べ」と命じた。


 ロリックは嬉しそうに「はい!」と答えると「カニンガムさん!」と声を掛けた。


「カニンガムさん。私の下で働くつもりはありますか?」


 フィオとは打って変わって丁寧に尋ねる。

 何しろ今度は勧誘する側だしな。


 フィオの行動を見て多少の予想はしていたようだが、俺の問いにカニンガムさんは言葉に詰まったようだった。


 出会ってから今日まで、こんな話は全くしていなかったしな。

 俺が転生者な上、金を持っていそうな領地持ちの上級貴族だと聞いていたからか、仕官したそうな顔をしていたことは知っていた。

 だが、敢えてこちらからは全く話題にしなかった。


 フィオたちと一緒に行動していると聞いていた事もあるし、タイミングを図っていたという理由もある。


「えっと……その……」


 カニンガムさんはどう答えたら正解なのか、迷うように呟いた。


「雇って頂けるなら、嬉しいです」


 そして、思い切ったように言って頭を下げる。


 ……ま、いいか。


「職種や収入、条件などについては道すがらにでも相談しましょうか」


 俺の言葉を聞いて、ロリックが目を剥いたが何も言わなかった。

 そらそうよ。雇って欲しいと頭を下げた相手とこちらから勧誘する場合とじゃ違うさ。


 俺の返事を聞いたカニンガムは、ぱあっと明るい表情を浮かべ「ありがとうございます!」と言った。

 が、すぐに気が付いたらしく、慌てたように跪いて見よう見まねの臣下の礼を取った。


 立てる膝が左右で違ってたけど、まだ慣れていないだろうし見なかったことにした。


 なお、せっかく明るい顔になった彼女だったが、ラッド村にフィオとグレースを置いたまま、今日中に領都のべグリッツまで向かう事を言ったら死んだ魚みたいな目つきに戻ってしまった。


 お客様扱いは終わりだよ。

 奴隷みたいに乱暴に扱いはしないがね。


 

ご指摘を頂戴しておりました誤字脱字などについてやっと修正が終わりました(と思います)。

いつもいつもご丁寧にご指摘して頂ける読者様方には頭が下がります。

本来はお一方ずつお礼を述べさせて頂きたいのですが、それも叶わずここで纏めてお礼を述べさせていただく無礼をお許しください。


ありがとうございます。

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― 新着の感想 ―
[良い点] いや~、「ノム」さんがやっと合流しましたね。良かった、良かった! 前職の経験を遺憾無く発揮出来る管理職に早く就いて、領内を盛り上げて欲しいものです。
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