第百六十七話 伯爵閣下は太っ腹
7450年2月23日
「これも……あ、アル!?」
「ステータスオープン……っ!」
巣の外にいるミヅチとトリスの声も興奮が抑えられないようだ。
「ちょっと! うるさいよ! まだ始めたばかりなのに!」
二人を諌めるグィネの声音も弾んでいる。
セリフの内容は黒黄玉に聞かれても大丈夫なように気を使ったのだろう。
「ステータスオープン……揺動の剣……ステータスオープン……太陽剣……アルさん、まだあるんですか?」
声を低くしていながらベルもかなり早口になっている。
あのきれいな顔で目を見開き、鼻の穴まで膨らませているのが手に取るようにわかる感じだ。
「まだまだあるわよ。はいこれ」
俺から魔法の武器を受け取ったラルファは振り向くと一つ一つ柄を向こうにして崩している途中の臼の壁に置きながら言っている。
勿論、こいつの声も興奮の色を帯びている。
「アル、それもそうじゃない? 今踏んでる盾」
お?
おお、これもそうか。
灯台下暗しだね。
尤も、魔力感知も直接視線が通っていないと効果がない。
今まで完全に腐汁に浸かっていたのが、俺が踏んだ拍子に傾いて腐汁から一部顔を出したお蔭でラルファも気が付けたのだろう。
【マジック・リフレクター】
【鋼鉄】
【状態:良好】
【生成日:3/7/7352】
【価値:1】
【耐久値:23210】
【性能:平均貫通率:マイナス35%】
【性能:対白兵武器命中率:プラス35%】
【性能:対飛翔武器命中率:プラス46%】
【効果:装着重量軽減】
【効果:盾に命中したあらゆる魔法を20%の確率で反射する】
す、すげぇ盾だ!
魔法の反射は確実からは程遠いようだが、盾として一番大切な部分はこの盾とほぼ同形状の丸盾よりもかなり上回っている。
因みに普通のラウンドシールドは全木製の場合、平均貫通率はマイナス20%前後、対白兵武器命中率もプラス20%前後、対飛翔武器命中率はプラス30%前後である。
金属部品の使用率が高まるに従い、各数値は少しづつマイナスに振れて行き、全鋳鉄という途轍もなく重い品になると平均貫通率はマイナス25%前後、対白兵武器命中率はプラス10%前後、対飛翔武器命中率はプラス20%くらいになる。
要するに木よりも硬い材質になればなるほど盾で受け止めた攻撃が貫通する可能性は減る替わりに、きちんと攻撃を受けることが出来る確率はその重量が悪影響を及ぼして減っていく。
この辺りは防御に使える面積や構成部材の材質、重量などで多少増減するようだ。
「よっ……と。ほい」
ラルファにマジック・リフレクターを手渡してやる。
しかし、この分だとこの腐汁の中にも手を突っ込んで探す必要がありそうだ。
多少げんなりした気持ちになるが、手足はもう汚れちまってるんだしと気を取り直して捜索を始めた。
ドラゴンの寝床から回収したお宝は、魔法の武器が一三個に魔法の盾が四枚、魔法の金属鎧の一揃えが三着もあった。
全部合わせれば俺の領地程度なぞ複数買えるくらいに高価値な逸品揃いだ。
バルドゥックの迷宮で得られたお宝でも対抗は可能だろうが、これだけの数を前にしてはさしもの屠竜ですら霞んでしまうだろう。
「やっぱりドラゴンは貨幣や宝石、武具なんかの光り物、それも魔法の品を集める習性があるってのは本当だったのね……」
ミヅチが言った一言に、全員が心から頷いて同意を示した。
ドラゴンの寝床からは多少の金貨や銀貨も発見されていたのだ。
出処は死体の財布だろうけど。
全員の顔には隠しようもない程の笑みが浮かんでいるが、グィネに代表されるように大量のお宝を得ることが出来た気持ちに浮かれるような殺戮者ではない。
ニヤニヤとした笑いを浮かべ、武器や盾などを種別ごとに纏めてはいるものの、しっかりとドラゴンの巣を崩しながらカモフラージュする事も忘れてはいない。
何しろ、まだ見ぬ巣の底の方にもお宝が埋まっている可能性があるのだから当然だ。
そうして死体を崩しながらお宝を漁り続けていた。
「おおっ!?」
「これはっ!」
「ステータスオープン……身躱しの革鎧!?」
「殆ど無傷じゃねぇか! 奇跡だな!」
少し離れたところで死体を漁っていた黒黄玉の連中の声が響いてきた。
その内容からは魔法の鎧を見つけた事が窺える。
少しだけ慌てつつ、死体の上で背伸びをしてしまった。
【身躱しの革鎧】
【スタッグライノの革】
【状態:良好】
【生成日:17/2/7418】
【価値:1】
【耐久値:13420】
【性能:身体拘束率:3%】
【性能:平均貫通率:マイナス19%】
【性能:装甲・防護部平均ダメージ減殺率:14%】
【効果:自動修復】
【効果:魔法的な防御効果により、体の自由が利きやすく、従って攻撃を躱しやすくなっている革鎧】
普通の革鎧の身体拘束率は一〇%弱だ。
加えて、攻撃の貫通率やダメージ減殺率が高い。
それを考えるとかなり優れた革鎧だと言える。
「……革鎧か。光り物じゃないからかな……?」
ぶすっとした声音でベルが言った。
「そうでしょうね……」
応えるミヅチの声も残念そうだ。
なるほどな。
「しかし、黒黄玉が見つけたとは言え、ご主人様の……」
ズールーががめついことを言う。
「いや、いいさ。奴らにやる。こっちはこっちでこれだけの数のお宝を手に入れてるんだ。革鎧の一着くらい恵んでやれ」
俺がそう言うと、ズールーに賛同するような顔をしていたラルファやグィネがぎょっとするような顔をした。
そんなに意外かね?
将来的に有望そうなアンダーセンに恩を売っておくのも悪いことじゃない。
太っ腹なところを見せつけるのにも丁度いいし。
……って、あれ着てたの、ロンベルトの人じゃねぇよな?
もしそうだったら遺族が欲しがるだろう。
それなりの礼金は貰えるだろうが……そんときはそんときか。
今回見つけたうちで、一番しょっぱそうな剣や盾でもやりゃあいいさ。
「慌てるな、みっともない。デンと構えとけ」
その程度のことで……少しは落ち着けよ。
「アル、声が震えてるよ」
「勿体無いって思ってるんだよ」
震えてねぇよ!
思ってねぇよ!
ラルファとグィネは相変わらずだなぁ。
でも、発見したお宝は人目につかないように隠しておくとしようか。
・・・・・・・・・
昼飯の頃合いになった。
見張りに立っている者を除き、全員が集まってきた。
俺のそばに寄ってきたアンダーセンは、開口一番、報告があると言いながら例の革鎧を提出してきた。
「ステータスオープン……身躱しの革鎧か」
まずステータスを検め、すぐに魔力感知を使う、ふりをした。
だって、魔法使うの面倒くさいんだもん。
鑑定でわかってるし。
「確かに魔法の鎧だ」
俺の言葉を聞いた王国軍の隊長を始め、兵士たちからどよめきにも似た声が上がる。
黒黄玉の連中は誇らしそうな顔をしている奴もいれば、惜しそうな表情の奴もいる。
「これを身に着けていた者のステータスは?」
「既に見れなくなっておりました。ですが、ロンベルトの方ではないと……」
アンダーセンは微笑を湛えて返事をした。
「なぜ言い切れる?」
俺の問いにアンダーセンはヴィックスに合図をした。
ドッグワーは少し離れた場所まで移動させておいた死体まで駆け寄るとしゃがんで何かする。
おいおい、あいつ、死体から指を切り落としてるのか?
すぐに戻ってきて俺に手を差し出した。
彼の手に乗せられていたのは一本の指だ。
その指には指輪が嵌っている。
緑青の浮いた指輪は銅製で、勿論魔法の品でもなんでもない。
「これは?」
指なんか差し出されても気分悪いわ。
当然受け取らない。
眉間にシワが寄りそうになるのを我慢しながらアンダーセンに尋ねた。
「デーバスの貴族でしょう。ガルスン准爵という者のようです。指輪に出身だかなんだかの土地の名も書いてあります。ロージルトという地名は、デーバスの南の方……」
「ロージルト!? 私の出身です! それに、ガルスン家はハブラドの領主……古くからの子爵家です」
ズールーが声を上げた。
ふーん。ならいっか。
なお、ロージルトってのはズールー曰くダンテス公爵という人が治める地方の北の方にある山地周辺のガルスン子爵とやらが治めている地域を言うらしい。
「……後腐れも無いか」
「ええ。紛れもない戦利品です」
そうね。
でも、アンダーセンたちはそこまで心配して死体の身元を確認したのか。
それは当たり前なのかも知れないが、偶然にしろ、身元が判明したのは運がいい。
この様子ならあの死体には革鎧とぴったり合うような跡も残っているだろう。
「良かったな。魔法の鎧だから一財産だろう」
「は?」
アンダーセンを始め黒黄玉の連中や王国軍も不思議そうな顔をする。
「魔法の品だし、見たところ大きな傷もなさそうだから高く売れるだろう。ああ、着れる者がいるなら使ったっていいと思う」
と言って、手にしていた革鎧をアンダーセンに突き出した。
「……」
アンダーセンたちは意外な事態に言葉を詰まらせているようだ。
「どうした? いらんのか? そなたらは私の部下でもなければ王国に仕える兵士でもない。来なくても責められないのにも拘わらず、気分の良くない作業にも従事して貰っている。ここは私の顔を立てて受け取っておいて欲しい」
そう言うと、アンダーセンはおずおずと手を出した。
「い、戴けるのですか? 魔法の……」
「ああ、後腐れがないなら構わん。王国の貴族の方々の魔石と装備品はだめだが、それ以外の処分は陛下から一任されているからな。遠慮はいらん」
「あ、あああありがとうございます!」
「分け前で喧嘩するのだけはよしてくれな」
黒黄玉から歓声が上がる。
・・・・・・・・・
7450年2月24日
日が昇って少しした頃に、援軍の先触れの兵が到着した。
また、彼らは援軍の接近以外にも重要な情報を携えてきていた。
それは、ダート平原に連なる四つの伯爵領の兵権に関するものである。
王国軍の兵士たちは改めて王国に忠誠を誓い、俺に跪いた。
その様子を見て、聞いて、黒黄玉は目を白黒させている。
ちょっと前まで自分たちと同様に地下を這いずり回っていた殺戮者の兄ちゃん。
それがあれよあれよという間に伯爵に叙されたのはともかくとして、王国南部の国境地帯全部の兵権まで手にしたのだから当然だろう。
先触れによると、援軍は先発した戦闘要員だけで八〇〇名程もいて、うち二〇〇名をダービン村の警備と後片付けに置いてきており、残りの六〇〇名は今日の夕刻にはタンクール村に到着するという。
「カロスタラン士爵」
「はっ」
俺の呼びかけにトリスが進み出てきて跪いた。
「そなたはアンダーセン女爵やその家臣たちと共にこの村を確保しろ。夕方に到着する部隊から五〇名を付ける」
「はっ」
「残りは二手に分け、キンケード、デナン両村に侵攻する。今ならまだ碌な人数もいないだろうからな。出発は明朝だ」
その後は急ぎ馬を飛ばしてきた先触れの兵を休ませ、全員でけったくそ悪い作業に戻った。
なお、戦利品?としては魔法の指輪とかタリスマン(お守り)とかもあります。
ゴルゾーンドクーリの砂袋的な“お宝袋”という謎器官の中(小さいので飲み込んでいます)ですが。
また、こちらもまだ未発見ですが、魔法の革鎧ももう一着死体が着たままになっています。




