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男なら一国一城の主を目指さなきゃね  作者: 三度笠
第三部 領主時代 -青年期~成年期-

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第百六十六話 戦利品

7450年2月23日


 ドラゴンの巣は、その材料としてロンベルトの軍人とデーバスの軍人に加えて、タンクール村の住民も分け隔てなく平等に使われていた。

 それらを臼のように積み重ねて作られている。

 所々に、周囲の建物から取ってきたと思われる建材を芯材となるように突き刺して補強まで施されていた。


 臼の直径は一〇m程で高さは五mくらいもある。

 その中心部に大きな窪みがあり、どうやらその窪みに身を横たえて休んでいたのだと思われた。


 これだけの大きさだ。

 使われている遺体の数は優に千を超えているだろう。


 遺体を踏ん付けながら巣の上に上がるのも何となく憚られた(腐っているので登る途中で滑るだろうし、危険だからだ)ので、巣の傍に土山を作り、そこから臼に乗り移って上から一体づつ遺体を取り除くようにして崩し始めた。

 寝床は酷い状態なので出来るだけ視界には入れたくなかったが、いずれは……。


 因みに、ざっと見たところ、遺体はステータスオープンでも、俺の鑑定でも【誰々の死体】ではなく、【死体(精人族)】とか、【普人族の死体】など、個人名の判別は出来なくなっていた。

 恐らくは腐乱しているだけでなく、建材や槍などで串刺しのようになっていたり、大きく出っ張らないように大きな力で均されたりしていて損壊が激しいからだと思われる。


 吐き気を抑えながら作業をすること三〇分あまり。


 臼の壁の一部からバークッドのゴムプロテクターを着た人が見つかった。


 ステータスを読み取ることはできないが、ヘルメットを被っていたからか、顔は潰れていなかった。


「……ランクルズさんだな。確か、ヨシュア・ランクルズって名だった……」


 奇怪に捻れた体を可能な限り元通りに直しながらプロテクターのバンドを切る。

 そして、胸にナイフを突き入れて心臓の脇にある魔石を採った。


「ステータスオープン」


【ヨシュア・ランクルズの魔晶石】


「大丈夫だ。魔石には名前が残ってる」


 ランクルズさんの魔石を回収した。

 生々しい話だが、第一騎士団の人は全員が高給取りなので、魔石が回収できたらそれだけで遺族からのお礼には期待が持てる。

 最低でも金貨数枚はかたいだろう。


 昨日あれだけしんどい戦いをしたんだから、皆にも出来るだけ多くの収入を齎してやらねばならない。


 ん? 黒黄玉(ブラック・トパーズ)?


 勝手に付いてきただけなんだし、知らんよ。

 と、言いたい所だが、そうもいかんよな。


 来年にはアンダーセンが俺の直接の従士になるのは確定と言ってもいいので、その下の彼らにもそれなりの物を分けてやることくらい、別にいいさ。

 ダービン村には魔物の魔石が唸る程あるんだしね。加えて、まだ充分に使える刀槍なんかもタンクール村にだって山のように転がってる。

 それに、彼らだって全く働かなかったという事もないんだし。


 そんなこんなでドラゴンの巣を崩し始めて暫くすると、皆の顔にも疲れたような色が浮かび始めてきた。

 ラルファと一緒に臼の上にいて、足元に積まれている死体を一体づつ取り除いて下にいる皆に手渡していたから気付けた事だ。


 肉体的な疲れもあるだろうけど、腐乱し始めた死体を一つ一つ取り除き続けているのだから、いい加減嫌気もさそうというものだ。


 そろそろ俺たちが立つ場所も大分低くなってきたことだし、ここらで一服入れるのもいいだろう。

 っつーか、休憩入れないとやっとれんわ。


 臼の窪みになっている寝床らしき部分には、剣や槍を始めとする雑多な物が敷かれていた。

 だが、半ば以上は床になっている死体から染み出した腐汁や死体からはみ出したらしい内臓なんかに塗れている。


 既に鼻が馬鹿になって久しいが、それでも寝床の方に背を向けていないと臭くて気持ち悪くてとても我慢できない。


「よっ……と。あ。なんか刺さってる。悪い。ラルファ、危ないから抜いてくれ」


 小柄な死体を臼の壁から取り除いたら、その脇腹に剣が刺さっていた。


「汚ったない剣ね。でも抜き身ってのは不思議よね」


 そう言いながらラルファが死体にちょこっと突き刺さっていた刺突剣(レイピア)らしき一本の小振りの剣を抜いて言った。


 死体に刺さっていた剣先は濡れているが、それ以外の部分は腐汁に浸かっていなかったので乾いている。乾いているだけで以前は浸かっていたらしく、ラルファの言う通りに本当に汚い。

 だからだろう。ラルファは刃の中ほどを持っている。だって、柄の方には乾いた内臓だかなんだかがこびり付いているからね。


「確かにね。寝床にあったのに抜き身のままって変よね」


 顰め面をしたミヅチが俺から渡された矮人族(ノーム)の女性の死体を受け取りながら答えた。

 そうだねぇ。でもさぁ。


「ん~。ドラゴンと戦ったなら鞘に収まったままって方が変じゃないか?」


 ミヅチに手を貸しながらトリスが言う。

 そうそう、俺が言いたかったのもそれなのよ。


「それはそうだけど、抜き身の剣の上に寝てたってことになるでしょ? 寝返り打ったら怪我しない?」


 ミヅチの言葉に俺とトリスは顔を見合わせて頷いた。

 言われてみりゃ確かにそうだ。


 そんな俺の横で、ラルファは手にしていた剣を無造作に臼の外の下に放り投げた。


「もう、危ないわね!」

「抜き身のまま放らないでよ!」


 ラルファが放り投げた剣の傍で、着ている衣服や防具などを頼りに死体をより分けていたベルとグィネが不満の声を上げている。


 彼女らが大きな声を上げたからか、巣の周囲に散らばる死体から魔石を採取していた黒黄玉(ブラック・トパーズ)の連中の注目が集まった。


 だが、こ汚い剣が転がっているだけであることを確認すると再び自分たちの作業に戻ってくれた。

 あいつらだってラルファ(こいつ)が脳足りんな事はよく知っているだろうしな。


 俺も肩を竦めてラルファが放り投げた剣を見た。

 ぱっと見たところ、古臭いデザインの柄をした、すごく汚い少し小振りの刺突剣(レイピア)に見える。


 つい、安易な気持ちで鑑定をした。


【ピアッサー(つらぬき丸)】

【オーク材・鉄】

【状態:良好】

【生成日:17/10/7269】

【価値:1】

【耐久値:11204】

【性能:127-157】

【効果:金属による防御性能無視(金属以外の防御性能は魔法的な物も含め通常通り適用される)】


 ぬな!?


 いや、つらぬき丸ってのはこの少し小さな刺突剣(レイピア)についている“ピアッサー”という銘から俺が勝手にそう思っただけなんだけど、これ、魔法の武器(マジカル・ウェボン)じゃねぇか!


 え? スティングじゃねぇのに“つらぬき丸”とは、だって?

 いいじゃんか、どっかで聞いたことあるような気がしただけで、大した意味なんかないよ。


 思わず臼の中心に向かって振り返ると、魔力感知(ディテクト・マジック)の魔術を使う。


 ……うお!


 この寝床のあちこちからビンビンの魔力反応が感じられる!


 適当な長柄武器(ポール・アーム)を鑑定してみた。

 柄に死体の腸だかなんだかが絡んだとてもアーティスティックな逸品だ。

 こんな事でもなけりゃ視界に入れることすら躊躇われる。


【薙ぎ倒しの斧槍《ハルバード・オブ・モウ・ダウン》】

【ブラックウォルナット材・鉄】

【状態:良好】

【生成日:19/3/7314】

【価値:1】

【耐久値:12602】

【性能:60-250】

【効果:この斧槍で薙ぎ払うように攻撃すると、対象が人間サイズ以下且つ使用者よりもレベルが低い場合、必ず薙ぎ倒しが成功する。但し対象は武器の旋回半径以内にいなければならない。また、対象となる人数は使用者のレベルの三分の一までである。なお、対象のレベルが使用者と同じか高い場合は通常通り】


 え?


 その傍にあった長剣(ロングソード)も鑑定してみた。


【切り裂きの剣《ソード・オブ・スライシング》】

【バーク鋼】

【状態:良好】

【生成日:16/9/7289】

【価値:1】

【耐久値:29991】

【性能:89-159】

【効果:自動修復(オートメンディング)】

【効果:攻撃対象が金属製の装甲を持っていない場合に限り、貫通力が通常よりも32%上昇する。また、この剣によって出来た傷は回復するのに通常の倍の時間がかかり、治癒魔術の効果も半減する】


 こ、これって……!?


【強打の鎚鉾《メイス・オブ・ストライキング》】

【オーク材・ラズン鋼】

【状態:良好】

【生成日:9/6/7374】

【価値:1】

【耐久値:46201】

【性能:95-145】

【効果:命中箇所が金属装甲の場合に20%、木製装甲の場合は30%、それぞれ破壊できる確率が上昇する。また、攻撃命中時に頭部など対象の急所に当たった場合、ダブルダメージとなる】


 お、お宝……。


【揺動の剣《ソード・オブ・スウィンギング》】

【レッドアイアン】

【状態:良好】

【生成日:16/9/7329】

【価値:1】

【耐久値:13960】

【性能:110-180】

【性能:命中力:通常通り~プラス10%】

【効果:使用者が攻撃意思を持って構えると、対象者には刀身が揺らめくように見え、攻撃が命中しやすくなる。但し、対象者に何らかの光学視覚がある場合に限る】


 ま、間違いねぇ!

 お宝だ!

 それもこんなに沢山!


 再び振り返って黒黄玉(ブラック・トパーズ)の連中が作業をしている辺りを注目する。

 俺のディテクト・マジックの感知範囲は、今や四〇m近くもあるのだ。


 ……。

 …………。


 何一つ反応がない。

 ミヅチやトリス、ベルが腰に提げる魔剣は別だが。


 また振り返って巣の中に視線を移すとあちこちから魔力反応がある。


「あに見てんのよ? サボんなっつったのあんたでしょ?」


 ラルファが壁から髭もじゃのおっさんの死体を剥がしながら俺に文句を言っている。

 

「こいつぁ……おいラルファ、手を貸してくれ」


 返事も聞かずにラルファの右手を取ると寝床に向かってケツを向け、死体の上に片膝をつけると反対の足を下に伸ばす。

 だって、飛び降りると腐汁が撥ねそうなんだもん。


「離すなよ? 絶対に手を離すなよ?」


 いいところで必ず手が離されそうなセリフを吐きながら、そろそろと足を下ろしていく。

 右足が完全に伸びたがまだ下には付かない。

 ラルファの手を握ったまま、左手を死体の上について、左足も下ろし始める。


「ちょっと、降りるの?」


 臼の下からミヅチの嫌そうな声が聞こえてきた。


「『マジ』で降りるの?」


 ラルファも眉間に皺を寄せながら言っている。


「ゆっくり。ゆっくりな」


 腰まで下ろし始めた俺は慎重に、少しづつ体をずらして一気にずり落ちることだけはしないように集中していた。


 右足の先を壁を構成する死体に引っ掛ける。


 このまま体重を掛けても大丈夫そうかな?


 あ、だめだ。


 ひとつ下の死体……。

 これは大丈夫そうか。


 ……。

 …………。


 俺の顔がラルファの足と同じくらいの場所になる。

 左足から床に降り立った。


 ゆっくりと足に体重をかけていく。

 寝床の床に溜まっている腐汁の深さは数センチ程度も無いように見えていたが、積み重なった死体を踏みつけたら膝まで埋まったとかしゃれにならないしな。


 びちゃり、という嫌な音と感触が靴底から伝わってくる。


「よし、ゆっくり下ろしてくれ。慎重に頼むぞ」


 額に汗を滲ませるラルファを見上げて言う。


「ん……」


 ラルファはその手に掴んだ俺の右手を離すことなくそうっと下げてくれた。


 これなら……。


「もういいぞ」


 死にたてほやほやの死体を踏みつけた時ほどではないが、想像以上に足が埋まるようなこともなく、俺はドラゴンの巣に降り立った。

 と……。


「おわっ!」


 半ばまで腐汁に浸かった剣の平を踏んでしまったことで足が滑ったらしい。

 慌てて、右手は離しかけたラルファの手を握りしめ、左手は壁の死体から飛び出た誰かの腕を掴む。


 掴んだ腕の肉がずるりと崩れた。

 壁に埋まった誰かの眼窩から這い出す、でかいウジ虫が俺をバカにしたように見た感じがした。


「くっ……」


 ラルファは歯を食いしばったまま俺の腕を掴んでいてくれた。

 その御蔭で腐汁の中に尻もちをつくことは免れた。


 おそるおそる左手を見ると、手袋の手の平全体に腐肉がこびり付いている。

 自分を鑑定するために穴を開けておいたのが裏目に出て、手袋の中にも何やら気持ちの悪い感触がある。

 ……流石にこりゃもうダメだ。


 左手の平を見せて肩を竦めながらラルファを見上げた。


 今まで大切に使っていた手袋だが、この一連の作業が終わり次第新調することになるだろう。


「ディテクト・マジックを使って巣の中を見てみろ」


 ニヤリと笑いながら言うと、ラルファはすぐに精神集中を始めた。

 その間に「ミヅチ、さっきラルファが放った剣、すぐに回収しろ」と指示を飛ばす。


 足場を確認しながら慎重に体の向きを変え、改めて俺も魔力感知(ディテクト・マジック)の魔術を使う。


 うっほほほ。


 いい眺め……とはとても言えないが、こそげ落とした死体の腕の肉の感触すら忘れてしまうほどの反応にほくそ笑む。


 うぇっへへへ~。


 せっかくアガった気持ちが萎む感じがしたが、さっき踏んづけた段平(ブロードソード)を拾い上げる。


【太陽剣(サン・ブレード)】

【ミスリル鋼】

【状態:良好】

【生成日:22/3/7144】

【価値:1】

【耐久値:143215】

【性能:110-160】

【性能:命中率:対アンデッドにのみプラス3%】

【効果:アンデッドに対して攻撃が命中するとトリプルダメージ。一日10回まで「ゾルト」というコマンドワードを唱えることで刀身にライトの魔術と同等の明かりを灯すことが出来る。使用者の俊敏の熟練度が1上昇する】


 ほうほう、これはこれは。

 少し離れたところに転がっているロングソードからも反応がある。


「あ、アル……」


 ラルファが呆然としたような声でなにか言っているが、そんなもの無視だ。

 見てみたきゃ降りてこいよ。

 手伝う暇はないけどな。


 誠に嫌だが半ば以上、腐汁に浸かったままのロングソードを拾い上げる。


【ディフェンダー】

【ガラウム鋼】

【状態:良好】

【生成日:21/5/7251】

【価値:1】

【耐久値:352461】

【性能:110-160】

【性能:武器防御:通常通り~プラス25%】

【効果:敵の攻撃を防御する際に使用可能な状態にあると半自動防御を行う】


 これは……防護者……護りの剣って感じかね?

 耐久が半端ねぇな!


 お? あれは槍(パイク)か?


【シャークキラー(サメ殺し)】

【ジュラルミン・チルアイアン】

【状態:良好】

【生成日:4/8/7411】

【価値:1】

【耐久値:17652】

【性能:120-210】

【効果:魚類に攻撃が命中した場合トリプルダメージを与える】


 いいねいいね……つきんぼ漁に使ったら食えなくなりそうだけど。


「ちょ、アル! これ……!」


 ミヅチの声がした。


「いいから持っとけ。まだあるぞ!」


 えーっと、こっちは大身槍(ソードスピア)みたいだな。


【シャープネス(とんぼきり)】

【トレント材・ミスリル鋼】

【状態:良好】

【生成日:1/4/7299】

【価値:1】

【耐久値:44820】

【性能:100-210】

【効果:重量軽減(ウェイト・アレヴィエイション)】


 笹穂が歩兵用の剣(ショートソード)くらいもあるし、とんぼきりってのは、我ながらいいネーミングじゃないか?


 つっ、なんだよこれ。

 足に剣が引っかかった。

 ショートソードか。

 

 これも魔法の……。


【スカーミシャー】

【ブルーミスリル鋼】

【状態:良好】

【生成日:4/8/7341】

【価値:1】

【耐久値:63251】

【性能:110-160】

【性能:命中率:プラス5%】

【性能:武器防御:通常通り~プラス5%】

【効果:自動修復(オートメンディング)】

【効果:治癒(ヒーリング):一日5HP】

【効果:使用者の筋力と俊敏の熟練度が1上昇する】


 色々とてんこ盛りだな。

 スカーミシャー……喧嘩屋ってとこかね?


 手の中がいっぱいになったので回収した五つの武器をラルファに手渡す。

 汚いが、ラルファは嫌な顔ひとつせずに受け取った。

 当然だろうけど。


 しっかし、こりゃまた、たまりまへんなぁ!


 

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