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男なら一国一城の主を目指さなきゃね  作者: 三度笠
第三部 領主時代 -青年期~成年期-

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第百四十六話 成長

7450年2月11日


 ロンベルト王国の首都、ロンベルティアから王国南部へと向かう街道上に小規模な旅人の一団がいた。


 横に並んだ二騎の騎馬を先頭に二頭建ての荷車が二台という小集団は、行商人にしては少々おかしな取り合わせだ。


 先頭を行く二騎の間隔はかなり近く、騎手達はなにやら会話をしているように見える。

 その後に続く荷車は御者と並んで座る者が二人だけで、荷台には荷物が満載されている。

 そして、最後に続く荷車には、こちらも御者ともう一人が並んで座っているが、荷台には少量の荷物と数人の男女が座っていた。


 その荷台に座る者たちの間で会話が交わされている。


「姐さん達、何話してんだろうな?」


 大柄な獅人族(ライオス)の男が言った。

 男は通称をバールといい、バルテイネス・ゾムというのが本名だ。

 迷宮都市バルドゥックではかなり知られた名である。


「出発してからこっち、ずっと二人で話し続けてるよね」


 答えたのは彼の隣に座る精人族(エルフ)の女だ。

 ロールという通称で、ローレイル・ナルゾメリンというのが本名である。

 彼女もバール同様にバルドゥックでは実力の高い冒険者として知られている。


「姐さんもちゃんとした貴族になった訳だし、色々聞くことは多いんじゃないの?」


 彼らの向かいに座る女が言う。

 彼女はミームという通称のエルフである。

 本名はミムロット・ロックワイズといって、前の二人に比べると落ちるがバルドゥックではやはりそれなりに知られている。


「ん……そうかもね。グリードく、閣下は先輩ってことになるんだろうから……やりにくいね、どうにも」


 ロールは喋り慣れていない言葉に戸惑いを隠せない。


 荷台にはまだ男女が一人ずつ乗っている。

 普人族(ヒューム)の男と矮人族(ノーム)の女だ。

 ヒュームの男は荷車の壁に凭れてうつらうつらしているようで、ノームの女はゆっくりと移り変わる景色にぼうっとしたような視線を送っている。


 どうやらこの荷馬車隊はアルと一緒に任地へ向かう黒黄玉(ブラック・トパーズ)だったようだ。


「しっかし、俺達が従士様とはねぇ……。姐さんに付いてきて正解だったな」

「従士になったら、バール、あんたはどうするの? 結婚でもするの?」

「んあ。結婚かぁ。まぁ向こうに着いたら適当に見繕うさ。ロール、そういうお前はどうなんだ? ヴィットなんかどうだよ?」

「ヴィット? 止してよ。あいつは趣味じゃないわ」


 ロールは一台前の荷車の御者台に座るエルフの後頭部を見ながら答えた。


「おいおい、マジで言ってんのか? 甲斐甲斐しく世話焼いてんじゃねぇか」

「ロットには借りがあったから面倒見てるだけ。第一、年も合わないじゃない。私も向こうで適当に探すわ」

「そっか……ロットとか久々に聞いたな……まぁ、昔の男の弟ってのはやだよな、そりゃ」


 バールは空を見上げながら呟くように言った。

 尤も、家督者やその継嗣などが突然亡くなったりした場合、跡を継ぐ者が配偶者や子供を含めて引き継ぐことはままある。が、好まれるような事でもないのは確かだ。


「……ミームはどうするんだ?」

「え? あ、あたし? あたしは……」

「その様子じゃまだ何にも考えてねぇ、ってとこか」

「うん」

「ま、急な話だったし無理もねぇ……」


 バールは会話に参加していなかったノームの女にも声を掛けることにした。


「ネルは何か考えてるか? しっかしお前も相当に運が……いいのか悪いのか。まぁ、いいと言ってもいいんだろうな。入ってすぐにこんな事になるなんてよ」

「え? ああ、言われてみれば確かにそうですね。私、まだブラック・トパーズに加入して一月ちょっとしか……」


 急に話を振られて、ネルは少しだけ戸惑いながら答えた。


「確かにあんたの運はどう表現していいかわからないよね。冒険者として大稼ぎ出来る環境になったと思ったら、すぐにこれだもん。でもこんな奇跡、そうそうないわ」

「だね。しかもまだ充分に若いと来てるし」


 ミームとロールもネルの運の良さを口にした。


「こう言っちゃなんだけど、ネルはグリード閣下と何の関係もなかったの?」


 ミームがネルに尋ねた。

 何の気もない、あくまで疑問をそのまま口にしたという様子だ。


「ミーム、それは……」

「止せよ。姐さんにもそういうのは聞くなって言われてるだろ?」


 ロールとバールはアンダーセンの言葉に忠実だった。


「それはわかってるよ。でも、あのタイミングで紹介されたってのがもう、臭うわ。タイミング良すぎじゃない?」


 ミームの言葉に含まれている事実が二人の口を止めた。

 ロールとバールの二人にしても、当然のようにその事には気が付いていたし、気になっていたのは確かなのだ。


「……去年の年末まであの人に会った事がないというのは本当です……」


 ネルが話し始めた事で、三人は口を噤んだ。

 アンダーセンからネルに余計なことを聞くな、とは言われていたが、ネルが話し始めたら耳を塞げとは言われていなかったからだ。


「……半分だけですけど」


 三人の頭の上にクエスチョンマークが浮かぶ。

 その表情を見て、ネルは小さく微笑む。


「昔……ずっと昔、何度か見掛けたり、ほんの少しだけ話した事もありますが、あの人は私のことを覚えていませんでした」


 話している途中にも拘わらず、ネルは再びゆっくりと流れる景色に目を向けた。


「まぁ、それだけじゃ半分にも満たないですよね。実は昨年末にちゃんとした形で会うまで、私もすっかり忘れていたんですけど……そもそも昔会った時でも個人的な関係なんか殆ど無かったので……どちらかと言うと私が一方的にあの人の事を知っていたという方が近いです」


 続く言葉を聞いて、三人はさもありなんと頷く。


「でも、まぁ、縁があったことは確かです。最初は自分の商会で働かないか、と言ってくれて……私、その時、欲をかいて提示された金額よりも高い給金を要求したんです」


 荷車の中に視線を戻したネルの表情はなぜだか恥ずかしそうだった。


「「「……」」」


「勿論、ふっかけた上で交渉の叩き台にしようという目論見だったんですど、あまりに高いと交渉すらされずに諦められちゃいまして……」


「高いって幾らふっかけたんだ?」


 バールが尋ねた。


「月三〇〇万欲しいって言いました……」


 ネルは真っ赤になって恥じ入るように答えた。


「さ、三〇〇……」


 超一流の冒険者が得る報酬ならいざ知らず、単なる雇い人の報酬としては余りにも常識外れな金額にバール達は揃って絶句する。


「それでもあの人は……全く怒りもせずにブラック・トパーズへの紹介状を書いてくれたんです」


 目を瞑って、当時のアルの表情を思い出しながらネルは言った。

 アルはあまり驚いたような表情すらせず、落ち着いたままだった。


「それは……人が良すぎ……いい人なんだな」


 バールは荷車の壁からのけぞるように頭だけを出して前方を進むアルの後ろ姿に目をやった。


「まぁ、例のヴィックスが魔剣に魅入られた時も……あと、迷宮内でも何度か助けてくれたし……」


 ロールも少しだけ驚いた顔つきをしながらもどこか納得が行ったような声音だった。


「……」


 ミームは黙って皆の言葉に耳を傾けている。


「でもよ、流石にウチのパーティーでも安定的に月三〇〇ってのは難しいぜ。まぁ、過去には平均したら月一〇〇〇なんて年もあったけどな……」

「ああ、貴人の鎧《ローズ・ガーブ・アーマー》を見つけた年ね。あれは高く売れたわね……。でも、迷宮は危険も多いし……死んだら元も子もないし」


 バールとロールの会話を聞いて、ミームはまたかという顔をした。

 黒黄玉(ブラック・トパーズ)の全盛期が過ぎて以来、つまり、ミームが桜草(プリム・ローズ)を抜けて黒黄玉(ブラック・トパーズ)に参加した三年ほど前からそこまで多くの金額を稼げたことはないからだ。


 昔はよかった、などという話はそれを知る当事者以外に歓迎される事はオースだろうと地球だろうと無いのである。


 尤も、ミームが桜草(プリム・ローズ)に居続けたとしても、かなり贔屓目に見積もってやっと現時点で同じくらいの収入になるかどうか、というくらいであり、現実としては黒黄玉(ブラック・トパーズ)の方が稼げている。

 従って、収入面において全く不満はない。


 因みに貴人の鎧《ローズ・ガーブ・アーマー》は優れた魔法の鎧であるばかりか、白塗りの金属鎧(プレート・メール)に金銀などで見事な装飾が施された逸品である。

 オークションで国王が落札し、買い取ったことを機に、アンダーセンとの関係が修復された原因となった。

 それ以来、鎧は閲兵式の時などに着用されている。


「あの人があの時にアンダーセンさんが女爵に叙されることを知っていたかどうかはわかりません。でも、知っていて紹介状を書いてくれたような気もします」


 紹介状自体は黒黄玉(ブラック・トパーズ)だけでなく、緑色団(ベルデグリ・ブラザーフッド)にも宛てて二通が認められているからなんとも判断がし辛いが、ネルはそう思っていた。


――そこまでしてくれた人に無茶苦茶な報酬をふっかけた私……ああ、恥ずかしい。


 つい先日もネルは再会したアルに、余りにもそっけない態度を取ってしまっている。


 ネルにしてみれば、最初にアルから提示された月収二〇〇万を断った以上、せめてそれよりも多く稼いで見せねば格好がつかないのは当然のことだ。

 勿論、黒黄玉(ブラック・トパーズ)に所属していれば、過去の実績から言ってそれよりも多い額を稼げる可能性はあった。

 だが、僅かな迷宮行の間に、ネルは黒黄玉(ブラック・トパーズ)のメンバーとしてはまだまだ力不足である事を認識した。


 そんなネルにリーダーのアンダーセンは嫌な顔一つせずに根気よく付き合ってくれていた。

 放り出されても文句すら言えなかったのに。

 尤も、それはネル個人の印象で、黒黄玉(ブラック・トパーズ)のメンバーは攻撃魔術や治癒魔術を連発可能なネルの魔力量には密かに感心していたのだが。


 それはともかくとして、その程度の実力だったにも拘らず、ネルは月に三〇〇万稼げる一流の冒険者だったとアルに言っていたのだ。


 それを信じたアルは、簡単に超一流の冒険者パーティーに所属できるように取り計らってくれた。


 ネルにはそんな男には愛想よく接したいという気持ちもあったが、恥ずかしくて恥ずかしくて、しかし今更全てを放り出して逃げるには、黒黄玉(ブラック・トパーズ)のメンバーという地位と、正式な従士になれるという近未来の現実、更には貴族位すらも手に入る可能性があるという将来は簡単に手放すことなど出来ない。


 当然だがあまりにも惜しかったのだ。


 それらの気持ちがないまぜとなり、どうにもぶっきらぼうに接してしまったのである。


 そんなネルを、アルはこの数日碌に意識しているようには見えない。

 既に眼中に無いのかとも思えるような、通り一遍の言葉しか掛けていない。


 そのため、ここ数日というもの、ネルは悶々として過ごしている。


 なお、現在のアルは、そんなネルの心の内などに関心を払う余裕は無かった。

 それよりも、将来の事や目前に迫っているドラゴン退治、アンダーセンの心の内を探る事に労力を傾けることが優先されていた。




・・・・・・・・・




 タンクール村から北に数㎞。

 ここまで飛行してきたゴルゾーンドクーリは、適当な空き地を見付けると傷をかばいながら着陸した。

 小さな生き物が周辺から逃げていく。

 中にはウマという生き物に乗ったヒトもいたようだが、今はそんな小物に構っている余裕はない。


――うっ……畜生、何だったんだ、あれは?


 痛みを堪えて横たわる。


――しかし、ああいうのもあるのか……ヒトってのはそう簡単には狩れない事もあるという事か……。


 だが、あの武器は惜しい。

 引き抜いて捨ててしまったのが、今更ながらに悔やまれるほどだ。


 惜しいのはあの武器だけではない。

 他にも魅力的な輝きを放つ物は幾つもあった。


――ヒトめ……見てろよ。近い内に必ず獲りに行ってやる! でも、まずは傷を治さないと。


 ぐるんと寝返りを打つように姿勢を変え、ゴルゾーンドクーリは精神を集中する。


――こうか? いや、こうか?


 精神集中を始めて僅か数十秒でゴルゾーンドクーリの体は魔術光を発した。

 体の奥で傷ついた組織が少し繋がったのが感じられた。


――ん~、こうした方が良さそうだな……。


 再び精神集中を始めたゴルゾーンドクーリ。

 今度は三〇秒ほどで更に強い魔術光が彼の体から発された。

 傷はさっき治癒魔術を使った時よりも更に良くなったようだ。


 少しだけ気を良くしたゴルゾーンドクーリは更に魔術を使う。

 精神集中の時間はその度毎に短縮され、遂には数秒で魔術が完成するようになった。

 そして傷は大きな物も小さな物も殆どが完全に塞がったようだ。


――それにしても、腹が立つ……。


 あんな小さな相手に傷を付けられたと言うのはまだ我慢できる。

 受けた傷は今治療した大きな物を除けばどれもこれも大したものでは無かったし、いい刺激になったからだ。


 我慢ならないのは一時的とは言え、我を忘れるような大きな傷を負ってしまったことだ。 


――それに、前にも食らったあれか……フンッ!


 今までの治癒魔術とは異なる精神集中をしたゴルゾーンドクーリの額に小さな魔術光が凝集し、パッと散る。

 同時に鋭く尖った石の矢が額から放たれて、広場の周囲を囲む木の幹に命中した。


 命中した石の矢は、直径数ミリ、数十センチの長さ程度だったが木の幹には深く食い込み、直後にはすうっと透き通るように掻き消えた。


――魔術か……この程度なら己(オレ)も少し練習すれば大丈夫そうだな。


 魔術と親和性の高い竜種ならではの超適性である。


――だけど、流石に今日は少し疲れたな……。


 ゴルゾーンドクーリは寝心地の良い寝床を想像して丸くなった。


――眠い……沢山食ったから腹は一杯だけど、すごく眠い……もう寝(やす)んだ方が良い……ぐぅ。




・・・・・・・・・




「確かに見ました。ドラゴンはこの辺りに降りました!」


 タンクール村周辺へ偵察に出ていた男は、机の上に広げられた地図の一点の周囲をぐるりと円を描くように指さしながら報告した。

 彼は、タンクール村でデーバス軍とドラゴンが争いを始めた瞬間に、持ち場を離れて報告に戻っていたのだ。


 その帰り道でタンクール村方面から飛来してきたドラゴンが着陸するところを見たのである。

 そして、一目散に帰ってきた。


「ふぅむ……三〇〇〇を大きく上回る数のデーバス軍……どういう決着だったかは続報がないと判らんか……」


 報告を受けた駐屯部隊の隊長は腕を組んで呟いた。


 彼は、心の内では「ドラゴンはデーバス軍に追い払われた」という結果を望んでいた。

 ドラゴンが着陸したと見られる地点はタンクール村とダービン村の間で、どちらかと言うとダービン村の方が近いが、デーバス軍に負けて逃げて来たのであれば「人はドラゴンに抗せる」という証明だからだ。


 逆に、三〇〇〇を大きく上回る数の軍隊を蹴散らして来たというのであれば、脅威以外の何物でもない。

 ダービン村に住む住民の避難は完了しているので非戦闘員の人的損耗に対しては憂いなく戦闘可能だが、僅か五〇名に満たない守備隊など、それこそあっという間に一掃されてしまうだろう。


 どちらにせよ、僅か五〇名では勝負は目に見えているので撤退せざるを得ないのだが、彼にはダービン村の周辺に残ってドラゴンの動向を探り、それを味方に伝えるという使命がある。


 部隊長は、まず出来ることとして村の北部の森に駐屯地を移すことにした。

 居心地の良い領主の館から野営になってしまうが、彼にはどうしようもない事だし、ドラゴンの事を思えばその程度、どうという事もないのだ。



 

■新生黒黄玉(ブラック・トパーズ)名簿


 レッド・アンダーセン    女 ヒューム 歩兵用剣・弩・魔法

 ローレイル・ナルゾメリン  女 エルフ 槍・魔法

 バルテイネス・ゾム     男 ライオス 戦斧

 ヴィッケンス・バルケミー  男 ドッグワー 戦棍・盾

 ミムロット・ロックワイズ  女 エルフ 弓 魔法

 スティーグ・コルギ     男 タイガーマン 槍 ※戦闘奴隷  

 アデリーナ・ネッシ     女 ヒューム 弓 魔法 

 エルランド・バグマイア   男 ヒューム 長剣・盾 ※アンダーセン子爵騎士団出身

 ヴィクトール・ミルストロン 男 エルフ 長剣・盾・魔法 ※アンダーセン子爵騎士団出身

 ネイレン・ノブフォム    女 ノーム 歩兵用剣・魔法


何人か亡くなったメンバーの兄弟を引き入れたようですね。


また、現在のバルドゥックでは「緑色団(ベルデグリ・ブラザーフッド)」、「黒黄玉(ブラック・トパーズ)」、「王虎(キングタイガー)」、「永遠の仲間《エターナル・コンパニオン》」、に加えて「桜草(プリム・ローズ)」が一流パーティーと言われるようになっています。

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