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男なら一国一城の主を目指さなきゃね  作者: 三度笠
第三部 領主時代 -青年期~成年期-

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第百十五話 初運行

7450年1月2日


 応接室。


「……了解いたしました」


 俺が座る応接の机の向こう、頻りとペンを動かしていたインセンガが答えた。

 部屋には俺とこのおばはんしかいない。


「夕方までには法改正部分について草案を作成いたします」

「ああ」

「なお、明日の一〇時にはべグリッツ・ミード間のテツドー開通式、及び試験走行の走行会が予定されていますので……既にご存知とは思いますが念のため。では」

「うむ」


 おばはんは言うだけ言うと席を立ち、返事をする俺の方へ小さく頭を下げただけで部屋を出ていった。

 完全に仕事モードに入ったと見える。


 彼女は冷淡で融通がきかない人柄である感じがしないでもないが、その実は結構熱い性格を内に秘めていると気が付いたのはいつごろの事だったか?


 ま、そんなことはいい。

 昨日からこっち、頭の固いおばはん相手に国王との交渉の結果を話し、俺の目指す法律を文章化させていたのだ。

 その中では、国王にお墨付きのサインを貰った書類なんかも当然見せた。

 その上で俺の目指す法改正部分について、転生者ではない彼女にも理解がし易いように、色々な例示を交えて説明が必要だった。


 お陰で俺の考えについては充分に理解して貰えたと思う。


 今回の法改正点について、簡単に纏めると以下の四つになる。


 まずはこれ、「貴族にとって収税・納税は、何人たりとも侵すことの出来ない権利と義務」に替わる部分だ。


 この部分については昨年から彼女と散々に話し合っていたこともあって、特に大きな驚きもなく受け入れてくれた。

 追加条項として例外となる条文を書き加えれば問題ない。


 この西ダート以外の貴族領でも多数の前例もあるし。


 二番目は領内の商会関係についての各種。


 納税についての会計書提出の完全な義務化や納税方法の選択制(現金か物納かを選べる。勿論物納の場合は少し割高になるが)の導入に始まり、三号の商会設立についてのハードルの引き下げなど、目玉は多い。


 尤も、制限となるような事項についても追加がされているけど。

 例えば、複数の商会や商売人が一箇所に集まる市(バザー)を開催できるのは領内に本拠を置く二号以上の商会だけに限るうえ、俺の許可が必要になるとか、そういうことだ。


 あ、当然俺のグリード商会はロンベルティアに本拠を置く二号一種の商会だけど、新しくべグリッツに本拠を置く二号の商会も設立するさ。登録事務手数料の払込先は俺だから金は掛からないしね。


 そして三番目。


 あんたも覚えているだろうけど、ロンベルト王国やその周辺の国々では、奴隷は出産時に介添えを付けることを許されていない。

 法律というよりは既に文化の一つであるかのような認識をされているが、これはれっきとした法律である。


 人口が増え難かった、一番のネックであったこいつの改正だ。


 バークッドでも奴隷の出産時には、母親は家の中でたった一人で産んでいた。

 赤ん坊の鳴き声が聞こえて来るまで、夫や家族、持ち主までもが家の周りを心配そうにウロウロし、時折母親を元気付けるように大きな声を掛けていただけだ。

 俺は直接見たことはないが、赤ん坊の声が聞こえて来ないまま半日も経ち、痺れを切らして踏み込んだら母子ともども死んでいた、なんていう話はザラに聞く。


 勿論、今までだって奴隷の出産介助は隠れて行われていた事もあるだろう。

 が、おおっぴらに言える類のものではないし、介助がなされない出産の方が圧倒的多数ではあると思う。


 これについて、常々問題だと思っていた。

 俺の支配する土地では絶対に改正しなければならないとすら思っていた。


 出産者である奴隷本人かその家族、又はその所有者のいずれかが然るべき謝礼を払えば産婆など出産時の介添人をつけてもよい、というように変更させる。

 産婆への謝礼なんて、元々平民や貴族が相手でも一回の出産でせいぜい数万Z(それも下の方)だ。

 従って、安全な出産の可能性が大幅に高まるのであれば奴隷だろうが所有者だろうが、その程度の金をケチる奴もいまい。

 生まれてくる子供はともかくとして、母親の方もちょくちょく死ぬから、そうなると数百万Zの損害とも言えるしね。


 四番目は、もう予想がついていると思うけど、三番目の家畜版とも言える。


 牛馬や驢馬などの出産時に手助けをしないことについて罰則を設けた。

 こちらについては法改正と言うよりは新設だな。


 家畜の妊娠を知っていて出産時に手助けをしないことについて鞭打ちと罰金刑に処す事にしたのだ。


 ついでに、この件については密告も奨励し、密告者には報奨金も支給される。

 同時に密告者の情報を漏洩した者についての罰則も定めた。

 これらの適用については、当然、調査の結果、密告情報が正しければ、ということになるけれど。


 今回の法改正や新設について特筆すべきものは以上の四点だ。

 勿論、これら以外の細々としたものもあるにはある。


 例えば各社会階級における、着用することの出来る服の素材制限の撤廃や、奴隷の雨具使用不可の撤廃などだが、こういうのはあんまり重要ではない。


 そんな細かい事なんかよりも、特に三番目と四番目については、個人的には結構大事な改正点だと思っている。


 これが施行されれば人口の増加が緩やかであった問題も、今後一〇年二〇年で解決できるだろう。

 人口が増えれば食糧不足になることも考えられるが、増えるであろう人口の殆どは奴隷なので、労働力の確保にも直結するからこちらはあんまり心配していない。

 家畜不足の問題についても同様だ。増えれば農業生産力も増すだろうし、軍事力の強化にも繋がるから一石二鳥だ。


 ん?

 どっちの問題も政治を行う、国家や領地を運営していく上で障害にしかなっていない?

 特に奴隷の出産介助については信じられない悪法だから、そんな法律が定められている事自体が信じられないって?


 そうだね。


 でも、地球でだってニュルンベルク法、インディアン移住法、アボリジニ保護政策など、信じられないほど愚かな法律が施行されていた。

 日本にも治安維持法という、成立時の思想はともかく、運用開始後においてどうしようもない法律と化したものもあった。


 そうした法律が何故できたのか、できてしまったのかを考えてみればいいんじゃないかな?

 法律の施行者側が得をする(と言うのも少し外れた表現だろうが)からに他ならない。


 この“得”ってのには色々な意味が含まれる。

 文字通りの得(インディアン移住法)の場合もあれば、国家運営においての困難さの軽減(アボリジニ保護政策や、方向は少し異なるが治安維持法もそう言えるだろう)の場合もある。

 更には単なる制定者の趣味(ニュルンベルク法)と言えるものまである。

 裏返して見ると施行者側にとっては悪い法律ではない。


 要するにそれらと全く同じだろう。

 この法を定めた人は、人口の大多数が奴隷階級で占められている事を知っていて、ある意味でそんな彼らの生命線を握ることで「お前らは人間じゃない。物だ。動物と一緒だ」という認識を植え付けたかったんだろう。


 違うかもしれないけど、俺はそうじゃないかと思っている。


 お陰でこのオースには奴隷制度というものは深く根付いてしまっているからね。

 かく言う俺だって……奴隷は奴隷だ。自然と奴隷として扱っている。意識してそう扱っている訳じゃない、と思う、ぞ?

 何しろ、最底辺とは言え、貴族として生まれ育って来たんだしな。




・・・・・・・・・




7450年1月3日


 べグリッツ駅のプラットホーム予定地に置かれた壇上に立ち、目の前に線路、その向こうにずらりと勢揃いした役人や街の顔役、騎士団員、作業員たちを並べて大声を張り上げている。


「……従って、鉄道路線建設に従事している者たちには多くの苦労があったことと思う!」


 端っこの方で下っ端の事務官が眠そうな顔をしている。

 そう言えばあいつ、昨日の夕方、インセンガから行政府掲示板へ掲示用の板を用意しろとか言われていた奴だ。

 今朝、行政府に出勤したら既に掲示板は更新されていたので、あれから書いたのか。

 ミヅチと晩飯に海胆食ってたらインセンガも食いに来たから、書いたのはあいつなんだろう。


 彼の他にも若い役人なんかを中心に、長広舌は聞き飽きたというような表情をし始めている者が出ている。

 この場を借りて新法の発表もしたし、もう五分くらいに亘って大声を張り上げている。


 ……そろそろ切り上げるべきだろうな。


「……今後この鉄道を利用する者は彼らの苦労、困難、犠牲について忘れてはならない!」


 犠牲っつっても、今のところは脱走しようとした二名しかいないけど。

 まぁ、今後ダート平原内にも路線を拡大しようとする時には、モンスターなんかの襲撃の可能性も充分に考えられるからいいだろ。


「私、リーグル伯爵アレイン・グリードは、今日ここに、べグリッツ・ミード間の鉄道路線の開通を宣言する!」


 万雷の拍手という程ではないが、百人以上もの人たちが一斉に手を叩いて開通式は終わった。


 続いて走行会だ。


 今までも建設用のレールや枕木などを運ぶために、レールが敷かれている部分は鉄道を利用していたので「本当の試験走行」と言うべきものは済んでいる。


 今日、これから行うのは旅客を乗せての試験走行だ。


 拍手が鳴り止むと俺は「ズールー!」と忠実な奴隷頭の名を呼んだ。


「ハイ! どう! どう!」


 御者台に座ったズールーも今日はかなり上等な服を着ている。


 今回は四頭の馬で二両の車両を引く。

 各車両は予め製造しておいた貨車と、客車とも言うべきベンチが固定されているものである。

 貨車は今まで使って来たもので、台車の両脇にはトラックの荷台みたいに引き起こせる側板が設えられているだけだ。

 客車の方は以前から運用している人員運搬用の馬車の車輪を、鉄道用のフランジ付きの全金属製のものに改造したもので、客席は相変わらず二列づつ向かい合わせに、合計四列のベンチが並んでいる。中央のベンチだけは少し高く作られて、その下が荷物入れになっているところも全く一緒だ。


 因みに、インパクトを与えるため、今日は敢えてそよ風の蹄鉄を履かせている。


 貨車には俺の鉄道の標準品である、七mの長さのあるレールが四〇本搭載され、荷物の監視員として奴隷が二人乗っている。


 ズールーは壇に立つ俺の目の前に旅客車を停めた。


「今、この貨車に積まれているレールは鉄製で、一本の長さは七m、重さは二五〇㎏だ。貨車にはこれが四〇本積まれているから一〇トンの荷が載っている」


 俺から見て右にある貨車を指差しながら言った。

 貨車に乗っている鉄の山を見て、その重量を聞いて多くの人の顔に驚きの表情が浮かんだ。

 それもそうだろう。

 今までの馬車であれば一頭の馬が引ける重量は多くても一tを少し上回る程度だった。

 路面抵抗も大きく、車輪や車軸も大したものじゃない馬車なら馬車自体の車重も相まって、運べる荷物の重量はいいところで七~八〇〇㎏と言ったところである。


 その計算式で言うなら、目の前の四頭建ての馬車であれば、車両自体の重量も含めて四トンが限界の筈だ。


 だが、乗っている鉄の塊はどう見てもそれ以上、俺の言う通り一〇トンあっても不思議ではない重量だし、馬車の車輪は金属製だからそれだけでも結構な重量が加算されているはず……?


 というような顔をして目を白黒させている者が多い。


 俺は満足げな表情を浮かべ、聴衆を見渡す。


 作業員たちは全く驚いていない。当然だ。


 騎士団員も俺の作ったベアリング軸受けにサスペンションを備えた馬車を見慣れているので驚いている者は少ない。しかし、バリュートを始めとして幹部連中はその馬車よりも可搬重量が大きいことに気づいたようで、かなり驚いた表情を浮かべている。


 べグリッツの主だった商会の商会長なんかあんぐりと口を開いている者までいた。

 お前ら、今まで鉄道路線の工事で使われている車両になんか、全く注目してなかったんだろ?


 行政府の職員だとジャバが目を見開いて食い入るように見つめている。

 お前、そこまで目ぇ開けたんだな。

 そう言えば昔、コンドームを見せた時もそのくらい目ぇ開いたな……。

 普段、肉に埋もれて針みたいだから忘れてたよ。


 俺が見ていることに気がついたのだろう。

 ハリタイドは物欲しそうな顔で俺を見た。

 ミード村までの試験走行に加えて欲しいという表情だ。


 だぁめ。

 だってお前、昨日聞いた時、断ったじゃん。

 まぁ、別に俺とミヅチが降りればお前が座るスペースは出来るだろうから載せるくらいは出来るんだけど、今日だけは俺もミヅチも乗らなきゃならないしね。

 かと言って、今更他の人を降ろす訳にも行かないから諦めろ。


「そして私の目の前に止まっているのが人や小さな荷物を乗せられる客車だ。では、順番に乗ってくれ」


 そう言うと、俺は壇を降り、貨車と客車の間にあるタラップに足を掛けて車上の人となった。

 俺に続いてミヅチも客車に登った。

 客車の前の方に進み、席に腰を下ろす。ミヅチも俺の隣に座った。

 その後も続々と人が乗り、あっという間にベンチ一列八席、計三二席が埋まる。


 行政府からはインセンガ事務官長の他、五人ほどが、騎士団からはバリュート副団長のほか五名ほどが、残りは二座席だけ空けて全てがべグリッツの商会長たちが座っている。


「よし、ズールー、いいぞ」

「は。……現在、午前一〇時一八分。出発進行!」


 ズールーは御者台の脇に置いた時計の魔道具に手を当てて時刻を発声すると慣れた手つきで手綱を操作した。


 なお、馬車鉄道に乗らない人たちは、帰ってくるまでこの場でお茶でも飲んでいてもらう。

 行政府や騎士団の若手がテーブルや椅子を用意し始めている。




・・・・・・・・・




 べグリッツ駅を出発し、数分で馬車は時速一〇㎞ほどの速度に達した。

 これだけでも普通の馬車と比較して三倍くらい速い。


「は、速い……!」

「荷物も含めて一五トンくらいか……?」


 後ろの方の、商会長たちが座る座席からはそんな声も聞こえてくる。

 俺の目の前に座っているインセンガ事務官長も体ごと捻って流れ行く景色に目を奪われているようだ。


「ズールー、皆さんにミードへの到着予定時刻と、べグリッツへの帰着予定時刻をご案内しろ」


 俺の座る席のすぐ前(左)で背中を向けて馬車を操っているズールーに命じた。


「は。えー、ご搭乗の皆様、本馬車鉄道の予定を申し上げます。本車は只今ミードに向けて特別急行にて運行中。到着予定時刻は午前一一時一八分の予定です。また、ミードで積み荷であるレールを降ろした後、納税用の小麦を搭載致しますので、ミードでの停車時間は三〇分を予定しております。従いまして、午前一一時四八分にミードを出発し、べグリッツへの帰着予定は午後一二時四八分となります。復路ではお昼時になりますので軽食もご用意しております」


 この文句は、先日来ミヅチに仕込まれていたという。


「ミードまで一時間!?」

「馬鹿な……いや、この速さなら……」


 商会長たちはまだ驚いているようだ。


「これは……伯爵閣下、大したものですね」


 べグリッツの耕作地から出る辺りで我に返ったのか、インセンガのおばはんも心から感心した様子で言ってきた。


「今まで以上に納税作業が捗りますな……」


 バリュート士爵も感心している。


 馬車はレールの継ぎ目でガタゴトと揺れるが、普通の地面を走る馬車とは比較にならないほど揺れていない。

 レールの長さが七mとは言え、速度は日本の列車よりもずっと低速なので揺れの感覚は同じくらいにも感じられる。


「乗り心地もいい……全く揺れませんね」


 インセンガは改めて気が付いたようだ。

 彼女も出勤には自前の小さな馬車を使っている。

 それと比較すると全くと言っていいほど揺れないことに目を見張っていた。


「しかし、これだけの速さ、いつまでも維持は……」

「確かに難しいでしょうな……」


 商会長たちにも気付き始めた者が出てきた。

 今の速度はいわゆる速歩とかだく足(トロット)とか言われる速度に近いものだ。

 荷物を引かずに続けた場合でも、休憩を挟まなければ二時間もすれば馬は潰れる。

 荷物を引いていたら、その重量や馬の個体にもよるが持っても二〇~三〇分がいいところだろう。


 だが、この車両を引く馬は全く疲れないんだよね。

 従って、この倍以上の速度となる襲歩(ギャロップ)でだって半日も走り続けられる。

 このくらいの重量を引いてはいても、疲労しないのであればそのくらいの速度は出せるのだ。

 勿論、加速までにはそれなりの時間は必要だけど。


 そうこうしているうちにミード村に到着した。

 時刻は一一時二〇分だった。


 ミード村では客車から御者台と馬を外し、反対側の貨車に御者台を取り付け、馬もそちらに付け替える。


 その間に、待機していた奴隷たちによってレールは全て降ろされ、代わりに納税用の小麦袋が山のように積まれた。一袋五〇㎏の大袋が二〇〇個だ。

 そして、ミード村の領主であるジンケーゼ士爵とその奥さんを乗せる。

 一部の耕作地を強制的に召し上げて潰した分、この馬車鉄道が有用なものであるということを実感して貰うためだ。


「閣下……お聞きしてはいましたが、これだけの量をたった四頭の馬で……まして三〇人以上もの人も……うーん」


 ジンケーゼ士爵はそう言ったもの、たった今糞重たいレールを四〇本と、三〇人もの乗客も同時に運んできたところを目にしているだけに途中から感心の言葉に変わっている。


「今日は特別に速い速度で運行しているからいつもこうは行かないだろうが、今後も運べる重量は同等かそれ以上だぞ」


 と言ってやったら奥方と二人で「五〇往復もしないで全部収められるということか?」とか小声で話していた。

 えーっと、ミード村の納税額は四七〇tくらいだったからそうなるね。その気になって一日四往復もすれば二週間で全部済むよ。


「これで納税の人手を他に振り分けられるようになるだろう? 開墾が進むことに期待するぞ」

「は。ははっ」


 とか言って少し嬉しそうな顔をしていた。


 なお、復路の途中では全員にバルドゥッキーを挟んだホットドッグを振る舞った。

 出発前に貨車の隅っこに用意した大鍋に熱湯を注ぎ、バルドゥッキーを放り込んで蓋をしていたのだ。

 切れ目を入れたバゲットみたいなパンにマスタードを塗って用意させていたから、バルドゥッキーを挟めばすぐに食べられるのはいいよね。




・・・・・・・・・




 べグリッツに到着したのは一二時五五分だった。

 予定よりも少し遅れたが、文句を言う奴なんか一人もいない。

 日本だったら苦情殺到だ。


 待っていた連中も半信半疑だったらしいが、ジンケーゼ士爵と奥さんを連れていたので商人連中は目を丸くして驚いている。


「今はウィードまで線路の敷設工事中だからな。それが済むまでそなたらは使えないが、ウィードまで開通の暁には一般開放する。料金などについては未定だが、馬車を使って護衛を雇うよりはずっと安くするつもりだ」


 と言ったら歓声が上がった。


 あ、そうだ。言い忘れていた。


「ズールー! おい、どこだ?」


 ズールーはすっ飛んできて俺の前に跪いた。


「ズールー、そなたの工事監督者の任を解く」


 後任も育ってきたと言うしもういい。


「は」


 俺の言葉を聞いてズールーは少し消沈したようだ。

 ん? ズールーには言ってなかったっけ?

 ミヅチから聞いてないの?

 あ、そう言えば連携訓練始める時に言うって言ってたような……。

 ああ、このタイミングで言ったからか。


 周りで聞いていた人たちも息を呑んだ。

 どうやら、今回の運行で不手際でもあって、それを理由に解任していると捉えられたらしい。


「そなたは明日から我が騎士団に出仕しろ。私の警護隊長に任ずる。来週からの出征に備えよ」


「はっ!」


 奴隷なのに正式に騎士団に所属するんだから大出世ですな。

 王国第四騎士団以外では奴隷の騎士団員ってのはあんまり聞いたことないし。

 勿論従士からだけど。


「二年で正騎士になれ」


「は、ははっ!!」


 ヘンリーやメックはともかく、ラルファよりも先に入れておきたかったというのが本音に近いんだけどな。

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