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男なら一国一城の主を目指さなきゃね  作者: 三度笠
第三部 領主時代 -青年期~成年期-

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第八十七話 ある日のガンガンカイ 1

☆★☆★☆★☆★☆★




 星界(アストラル・プレーン)。


 普段、神々のうちの大多数の精神はここに在って、それぞれの主物質界(プライム・マテリアル・プレーン)でそれぞれが管掌する領域についての安定を図ったり、上級の神々から与えられた仕事を行っていたりする世界だ。


 因みに、主物質界(プライム・マテリアル・プレーン)とはアルや私達の暮らす、俗に言う“この世”のことである。主物質界は光輝界(ポジティヴ・マテリアル・プレーン)と暗黒界(ネガティヴ・マテリアル・プレーン)とでだいたい均質に包まれており、それと入り交じるようにして地水火風の四つの精霊界(エレメンタル・プレーン)によって取り巻かれている。


 その外側――ここからは“あの世”とでも言うべきか――は霊界(イセリアル・プレーン)が広がり、更にその外側に広がるのがアストラル・プレーン(ガンガンカイ)ということになる。実は更にその外側には七天国(セブン・ヘブン)、涅槃(ニルヴァーナ)、九獄界(ナイン・ヘル)、極楽(エリシウム)、冥界(ハデス)、天空山(オリュンポス)、辺獄(リンボ)、奈落(アビス)など数多の神々が住まう世界が広がっている。


 その神々にも階級のようなものがあり、それによって緩やかに統制されているのは主物質界の住人とあまり変わらない。神の世界もなんとも世知辛いと言えよう。


 神々の階級は大きく分けて四つあり、おおまかに言って上級神(グレーター・デイティ)が最上の神々として君臨し、その下に中級神(インターミディエイト・デイティ)が、更にその下に下級神(レッサー・デイティ)と続き、最後に亜神(デミ・ゴッド)の順に下がっていく。


 大抵の場合、上級神は数多くの主物質界の面倒を見ており、その主物質界で管掌する領域で起こる全てについて責任を持つ。当然ながら神としての経験も長く、比例して能力も高いし、配下とする神々も非常に多数に上るし、管掌する領域も“太陽”、“大地”、“運命”、“平和”など、かなり漠然とした広い範囲に及ぶ。

 なお、一つの主物質界の面倒を見る上級神は一柱とは限らない。Aという主物質界をα、β、γ……という複数の上級神がそれぞれの管掌する領域毎に面倒を見るケースが普通である。また、先に述べたようにαという上級神が面倒を見る主物質界も一つとは限らず、一柱の上級神が複数の主物質界の面倒を見ていることは当たり前とされる。


 中級神も複数の主物質界の面倒を見ているが、その数は上級神程ではないし、面倒を見ている主物質界についての管掌領域は“自然”、“音楽”、“戦争”、“死”、“時間”、“闇”など上級神よりも限定的なものとなる。とは言え、それでもまだ漠然とした非常に広い範囲の事象を管掌している。

 また、場合によっては別の主物質界では上級神とみなされる事もある。


 下級神も多くの場合、複数の主物質界のみの面倒を見ているが、その数はそれ程多くなく、せいぜい両手で数えられる程度である。その管掌領域は“鉱山”、“愛”、“嫉妬”、“道徳”、“勤勉”、“虚偽”、“四季”などと、上位の神々と比較して多少限定的なものになってはいるが、まだまだ漠然としている部分も多い。

 こちらも場合により、ある主物質界では中級神とみなされる事もある。

 そして、この下級神までは管掌領域が一柱で複数に亘る事も珍しくはない。

 ついでに言うと、ここまでに語った神々の本体――定命や不定命時代の肉体などに代表される“器(うつわ)”――は大抵の場合、ガンガンカイの外側に広がる神々の領域に安置されている事が多いが、ごく僅かな例外も存在する。


 最後に亜神だが、こちらは余程の例外でもない限り基本的には一つの主物質界のみの面倒を見ているし、管掌領域も一柱に一つであるほか、多くの場合は何らかの形でその主物質界に顕現している時間も長い。勿論例外はあるが。また、亜神の多くは主物質界において不定命(イモータル)となった生命体が神格化したもので、あくまで亜神であり、完全な神ではない。“器”も主物質界に在ることが殆どである。

 管掌領域も“経済”、“戦闘”、“恋愛”、“偏屈”、“ユーモア”、“農業”、“採掘”、“隠密”、“疫病”、“悪夢”、“武器”など、そこそこ具体的な範囲に絞られてくる。

 亜神に限らず、階級の異なる神々と同じ管掌範囲を持つ神も珍しくないし、場合によってはある亜神が“酒”を管掌するが、下級神が“ワイン”を管掌するなど管掌範囲と階級が逆転する事もある。だが、そこらあたりは気にしてはいけない。


 そのガンガンカイの一角、パンデモニウムと呼ばれる領域に存在する一つの塔。


 そこの比較的大きな一室には床に平伏している一柱の神がいた。


――そなたに与えた仕事はまだキリがついておらぬようだが……?


 空中に浮かぶ白い靄のようなものから、平伏している神に思念波が放射されている。


「は……」


 平伏している神からは焦りを含んだ声音で返答があった。

 亜神のようで、その頭部からはシルバー・コードと呼ばれる細い銀糸のような霊線がいずこかへ伸びていた。

 

――ズグトモーレよ。これで何回目だ?

「……二回目……です」


 久々に第三者から姓で呼ばれたリルスは、背中から生えた蜘蛛の足すらも広げて平伏の姿勢を崩さない。


――そなたにはそなたの管理せねばならぬ領域があることは承知している。それがあ(・)そ(・)こ(・)にとって重要なものである事も、結果的に他の亜神共よりもかなり多い事もな。しかし、それは我も含め他の神々も一緒であるし、我の与える仕事もまた重要なものである事は理解出来よう?

「は……」

――そなたも知っての通り、我も暇ではない。この時間すら惜しい。惜しいが、二回目ともなるとこうして直接叱責せねばなるまい。

「は……(こんな事に時間を取られるなんて……)」

――そなたはそなたのしたことについての責任を取る必要もある。神位の低い亜神とは言え、シャライズダンとネーラルの管掌しておった領域の補佐について、手を抜くことは許されんぞ?

「は……(そんなこと、分かってるわよ)」


 一体何について話しているのか。


――文句はこのくらいにしておこう。前回までは亜神にしては熱心に、効率よく働き、昇神実績にもなっていたではないか。

「は。ありがたきお言葉……」

――……一体何がそんなにそなたの心を乱すのか? そなたがまた仕事を中断しないよう、今はその原因の究明と排除をしようではないか。

「いえ、イステュラス様、それには及びません。直接お言葉を賜われましたことで私の心は平穏を取り戻してございます」

――……昨日今日亜神になったばかりだから頷けるし見逃してもやれるが、その発言は些か礼に失するな。あまり我らの力を見くびるでないぞ。何か、そなたの気になる事が起きたのであろう?

「……(くっ、失敗したか?)」

――……ややもすると例の件に関連することか? どれ……。

「なっ? こ、これは……! (何という神通力!)」


 上級神イステュラスから浴びせられる膨大な神通力はリルスの体内を通り抜け、その頭部から伸びるシルバーコードを伝ってオースにまで達するとすぐさま目的の情報に辿り着いたようだ。


――……んん? これは……これはこれは……そうか、なる程な。完全ではないにしろ、なかなかの条件が揃ったということか。……うむ。やり方が私好みではないが、それもそなたの管掌領域内では認められよう……。最低限許された手出ししかしていないのは確認した。


 白い靄から暖かな祝福の波動が漏れる。


「は……(イステュラス様は私の後見神となって頂いたお方……お機嫌も良さそうだし、ひょっとしたらお力添えを賜われる……?)」

――またぞろ碌でもない事に期待を持つな。だが、事情は理解した。例の件に関する事であればそなたの心が波立つのも無理はなかろう。しかしながら、せねばならぬ仕事を中断して良い道理はないぞ。

「は……(思ったことを全て……いや、これすらも)」

――重要な事なので今一度言うが、私好みのやり方でもないしな。

「は……(私の領域である“暗殺”と“嘘”と“情報”と、イステュラス様の領域である“運命”とは決して相反しない。でも、対立する部分もあるから全面的な賞賛はないか……)」


 リルスは考えたことが全て見透かされてしまう上級神の力には未だに慣れていないようだ。

 尤も、これは数ある下級神へと昇神する条件の一つでもあるので、これに“慣れている”亜神は存在しないと言っても良い。


――生まれいずる事がなかったゆえに転生すらかなわなかったそなたの子の魂。バスカーヴ殿にご用意をして貰えるよう我からも頭を下げておいてやろう。(……しかしまぁ、よくもあの条件を揃えられたものだ。偶然に偶然が重なっただけでああも上手くは行くまい。こやつも相当に準備を重ねたと見える。……だからこそのあの結果か……)

「は、ははぁっ! ありがたき……ぐっ、ううっ」

――泣くな。仮にも神の座に列する者が。……まぁよい。早く慣れろ。


 イステュラスは泣く子をあやすような、少し戸惑いがちの波動を漏らす。


「う、はい。ううっ。……ダ……それに赤ちゃん。私が産んであげられなくてごめんね」


 ごく小さな声で発せられた、誰かに赦しを願うような言葉はイステュラスの思念体を通り抜けて行った。


――(そう言えば、我も母であった事もあった。何億年かぶりに思い出して――ふむ。神とは厄介なものよな。思い出に浸る事もままならん)


 いつの間にか部屋からイステュラスの思念体は姿を消しており、リルスが啜り泣く声だけが響いていた。


――(ズグトモーレよ。努々忘れるな。そなたにとって良い条件とは言え、魂の器を用意させられる、小さき者にとっては必ずしも喜ばしいことではない事をな……尤も、同じ無垢なる魂であることも確か。案外すんなりと受け入れられるやもしれん)




☆★☆★☆★☆★☆★


 

今回はいつもと少し違う回です。

次回からはいつも通りの話に戻ります。

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