第七十七話 ゆっくりでも着実に 2
いつもより少し短めですが、それは前回の話の後半部分だからです。
7449年9月22日
今日は午後からリョーグ家の工房の一角で銃弾を作っていた。
作っていたのはライフル銃用のものではなく、ラルファとグィネに護身用として渡してあるリボルバー拳銃用の実包だ。
彼女らはまだ一発も撃っていないと言っていたので全く消費されていないのだが、今の実包は弾丸部が単なる鉄の塊であり、貫通力は高いがマンストッピングパワーに欠けるのが気になっていたのだ。
弾丸全体が硬いムクの鉄なので、貫通したあとで何か硬いものにぶつかると跳弾の恐れがあるという点についても引っかかっている。
貫通性が高いから、遠距離でも金属鎧などを着た相手にも容易にダメージを与えられるのが利点だが、近距離であったり、装甲を纏っていない相手には命中しても急所に当たらない限りは弾が貫通してしまって相手に行動力を残す事に繋がりかねない。
バルドゥックの迷宮でトロールの頭を吹き飛ばせたのは頭蓋骨が固く、命中後に弾の角度が大きく変わった事が原因でもあるし、そもそも貫通力が高くなければ命中しても骨で止まってしまっていただろうから、人体と同一視すべきではないと思う。
と、言う訳で紡錘形をしたムクの鉄という弾頭を改める事にしたのだ。
そうは言っても素材を変えるつもりはない。
俺の領内でも鉛は産出するから鉛を使っても良いのだが、鉛はあまり体に良いものではないというイメージが有る。
鉛鉱石を泥化した中に長時間手を突っ込んでいたくないというのが本音なんだけどね。
鉄鉱石もあまり変わらないのかもしれないがそこは単に気分的な問題だし、今更という気もする。
とにかく、素材を変えたりフルメタルジャケット弾など複数の素材を組み合わせて弾頭を作るのではなく、弾頭の形状を変えることで近距離でもマンストッピングパワーを上げようとすることが狙いだ。
具体的には、紡錘形という基本線はそのままに、弾丸の先頭から底に向かって三分の二程まで穴を開ける。
まぁ、分厚くて小さなコップみたいなもんだな。
次に弾丸の側面に先頭から穴の底くらいまでに幾つか切れ込みを入れる。
今回は弾丸を上部から見て八方向に切れ込みを入れてみた。
この時点で横から見るとなんとなく閉じた花の蕾に見えないこともない。
これで終わりだ。
要はダムダム弾だな。
専門的に言うとエクスパンディング・ブレットの一種だ。
ホローポイント、ソフトポイントなど命中時にマッシュールーム状に変形したり潰れたりする弾丸もこのエクスパンディング・ブレットの一種に分類されている。
地球ではハーグ陸戦協定で禁止されている弾丸だが、実は規制の対象は軍隊だけなので日本も含め各国の警察など司法機関では……えーっと、二〇三六年の今でも普通に使われている筈だし、猟銃用の弾丸としてはかなりポピュラーな物なので日本国内でも狩猟用の実包として大量に流通し、年間ン十万発単位で消費されている。
それに、オースでは地球の条約だの協定だのなんぞ何の効力もないので軍隊で採用しても問題はないのだ。
とにかく、この弾丸は発射されてから目標に命中すると、その体内で切れ込み通りに弾けるように分解する。
俺の拳銃にもライフリングは切ってあるから高速で回転しているので、弾頭の花びら部分が螺旋状に回転しながら広がることになるだろう。
花びら部分は小さいので体内を貫通することなく銃弾の運動エネルギーを余すことなく目標に伝えることが出来る。また、盲管となった傷を酷くして一発の命中弾で相手の抵抗力を削ぐという目的もある。
更に、空けた穴の底の部分を少し山形にでもしておいてやれば、花びらが散った後の弾丸の本体部分はそれなりの貫通力も維持する筈だ。
欠点は空気抵抗が大きくなるので同じ装薬量でも鉄ムクの弾丸と比較して有効射程が短くなることと、貫通力の大幅な低下だが、どうせ拳銃なんか近距離でしか使わない護身用の武器なのだから大して問題にはならないと思う。
二〇m先の暴漢を一発で確実に無力化出来るのであれば充分だろう。
よし、出来た。
かなり気を使って慎重に慎重を重ねて作業を行ったからだろうか。
一発の暴発も起こすことなく、一〇〇発分の実包が完成した。
トリス程ではないが俺も結構慣れてきたんだな。
今晩か明日にもこれをあいつらに……回収した普通の鉄ムク弾、どうしよう?
捨てるのは論外だしな。
……お!
いい事を考えた!
迷宮で手に入れたオーディブル・グラマーを使える魔道具でべグリッツの民に時刻を教えてやるのだ。
大々的にそう言っておけばそうそう怪しむ者はいまい。
うむ、この理由なら間者の目も誤魔化せるのではないだろうか?
トリスとベルがトールをやり込めた時に吐いた大嘘だが、結構役に立つもんだな。
最初のうちの発射はコートジル城の警備に充てているベンとかエリーに任せるのも良いかもしれない。
城門の中でなら誰にも見られないしな。
あいつらも銃に慣れておく必要もあるし。
俺が行政府に居ようが騎士団に居ようが、決まった時間にコートジル城から銃の発射音が響けば、すぐに「そういうもんだ」と生活の一部に溶け込んでしまうと思う。
……そもそもそんなに大きな音はしないか。
城まではそれなりの距離があるから、ひょっとしたらべグリッツの街中では聞こえないかもしれないが、それはそれでいい。
色々な装薬量で音の伝わる距離などを調べることも出来るし。
よし、来週か再来週あたりから毎日、朝昼晩と撃ってみるか。
朝の六時に六発とか撃っても不自然ではないだろう。
新しい銃弾や銃を製造した際にテスト射撃をしても良いかもな。
・・・・・・・・・
夕方、一度行政府に顔を出した後でさっさと一人で飯を済ませた。
ミヅチは騎士団の夜戦訓練に付き合うと聞いていたからな。
俺も夜戦訓練には行きたかったが、タングステンとゲルマニウムを使った半導体ダイオードについて、かなりの手応えを感じていることから今晩はその作成にじっくり集中しようと考えていたのだ。
コートジル城に戻る途中で、ベロス山に登っていたラルファ達と出会った。
マールとリンビーを連れている。
グィネが言うにはゾンディールまでの地形について、よく確認出来たとの事だった。
また、ベロス山中ではゴブリンの群れを見かけたものの、相手が四匹という少数であったためか特に戦闘に発展はしなかったようだ。
新型の拳銃弾を作ったので、使用上の簡単な注意点の他、明日リョーグの工房まで取りに行けと伝えて別れようとした。
「ねぇ、もうご飯は食べたの?」
俺の話を聞き終わったラルファが尋ねてくる。
どうも、一緒に晩飯を食いたいようだった。
俺にもう一度べグリッツまで戻れってか?
「ああ。もう食った。今晩はちょっとやっつけておきたい仕事があってな。悪いけど飯はまた今度な」
そう言って愛馬ウラヌス号にムチを入れると振り返りもせずにコートジル城へ向かった。
ラルファが何か文句を言っていたような気もするが、奴の感情よりもダイオードを完成させる方が余程重要事である。
そもそもこの西ダート地方の領内に住む人物のうち、アポも取らずに俺と飯を食おうなんて厚かましいのは家族であるミヅチを除けばあいつくらいのものだ。
いやまぁ、アポとか気にしたことはないんだけどさ。
コートジル城に到着するとエルミーを始めとしてベンやエリーなど俺の奴隷たちが出迎えてくれた。
ズールーはまだ線路工事から戻っていないらしい。
忘れないうちに時刻の拳銃発射についてベンとエリーに伝えておこうかと思ったが、まだそういうことをする、という事について誰にも言っていないのを思い出して止めておいた。
伝えるのは今週末くらいでいいだろ。
さて、なんとか今晩中にはダイオードについて目処を付けたいところだ。
いっちょ頑張りますかね。
次回の更新はまた週末くらいには出来るんじゃないかと思います。
それはそうと、頂いております誤字脱字のご指摘などの修正は今しばらくお待ち下さい。
こ、今週中には……。




