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男なら一国一城の主を目指さなきゃね  作者: 三度笠
第三部 領主時代 -青年期~成年期-

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第五十七話 最初の月は過ぎ……

7449年4月21日


 一夜明け、べグリッツの街から昨日のお祭りムードは消え去った。

 行政府前の広場は獄門台で晒し首と化しているエストン・コーヴの前で通りすがりの者が暫しの間足を止めるだけで、昨日とは打って変わって閑散とした様子に感じられる。


 行政府の会議室から見下ろしながら「何だか急に寂しくなっちゃったな」と思っていた。


 昨日の裁きが終わってから暫くすると先任の領主たちは殆どが領地に帰って行き、まだべグリッツに残っているのはコーヴ准男爵だけだ。

 が、彼は傷心の妻や彼の息子である夫を亡くした嫁を労って宿に居るのでここにはいない。


 ここに居るのは俺の子飼いである後任の領主たちとその従者だけだ。


 彼らは今後更に関係を深めて行かなければならない。

 そこで、先任の領主たちが居なくなった今日を交流の日としているのだ。

 昨日と一昨日は彼らも先任の領主やその従士たちと交流を深めていて時間が取れなかったからね。


 それに、今日あたりバークッドから俺の従士となる人たちを引き連れて兄貴が到着する。

 後任の領主たちにも俺の従士を知っておきたいとの腹積もりもあるのだろう。

 俺から見た場合、先任も後任も、そして俺に直接仕える従士たちも、誰もが等しく俺の家臣という事になるので本当は先任にも会って貰いたかったが、例の反逆未遂事件があって先任の多くの者が大きなショックを受けているのを見て、顔合わせは又の機会とすることにしたのだ。

 焦るようなものでもないからね。


 会議室には先日のパーティーのように軽食が並び、立食形式で歓談出来るようにしている。

 ゼノムを始めとする貴族たちは殺戮者スローターズで長年同じ釜の飯を食ってきた奴らなので放っておいている。

 兄貴が到着するまでの間の主題は彼らが連れてきた、謂わば先任従士たちの交歓だったのだが、何世代にも亘って地元に根付いているウィードの従士たちを除けばこれは大きな問題もないようだ。


 ゼノムを除いた後任領主は全員開発村を任しているが、特に彼らに任した四つの開発村の歴史はあまり長くない。

 一番歴史のある、ビンスに任せたミドーラ村ですら僅か一六年の歴史しかないし、ラッド村やベージュ村にしても似たり寄ったりである。

 トリスのガルへ村なんかたったの八年だ。


 従って、村に残っていた従士と言っても、彼らは彼らでこの地に移民してくるまではどこかの貴族や有力従士の次子三子だった者が大半で、中には元冒険者なんて奴もいる。

 そういう者にとってみればバルドゥックの迷宮を制覇した殺戮者スローターズ出身者というのは雲の上の存在らしく、それだけで尊敬の対象になるものらしい。

 領主としての経験なんかゼロなんだし、そこまで大したものかねぇ、とは思うが……。

 だって、何らかの実績がついた後ならいざしらず、全く畑違いのタレントやプロスポーツ選手(この場合はプロ格闘技のチャンピオンとか、伝説の傭兵とか言う方が適切かもしれない)が自治体の首長になっているようなもんだぞ?


 まぁ、それで領地経営がやりやすくなっているらしいから、そういう思いは大歓迎だけどさ。


 そうこうしているうちに行政府前の広場に何台もの荷馬車隊が入ってきた。

 人数もかなりのもので、全部で一〇〇人近いのではないだろうか。


 兄貴だ!




・・・・・・・・・




「立派になったな、アル。いや、伯爵閣下」


 兄貴ファーンはコーヴの晒し首については全く触れず、広場から行政府の建物を見上げて言った。


「ありがとう、兄さん」


 荷馬車隊には懐かしい顔もいる。

 ダイアンが家長を務めるリョーグ一家だ。


「アル様。いえ、お屋形様。これからどうぞ宜しくお願いします」


 ダイアンは俺の前で臣下の礼をとって言う。

 夫のルークもその隣で一粒種のサムソンを抱きながら跪いている。

 彼らの両親のロズラルとウェンディー、妹のソニアも同様だ。

 なお、ダイアンの祖父母たちはもう年なのでバークッドに残っている。


「ソニアも宜しくな」


 実家のメイドは精人族エルフの従士家であるエクロタロン家の娘が引き継いだとのことだ。

 ソニアにはメイドをやって貰ってもいいが、彼女は昨年結婚してリョーグ家の奴隷となっている。

 ダイアンも戦力として連れてきたのであろうし、それを俺が無理に奪い取るなど自分で自分の首を絞めるようなものなのでメイドは適当な平民家の子弟から選ぶことになるだろう。


 その他、俺の従士としてバークッドの隣村のバーデット村から二家族、ドーリットの街から二家族、デンズルの街から一家族、キールから五家族もやって来ている。

 彼ら従士達が連れてきた奴隷は合計で五〇人程もおり、そのうちの七名はリョーグ家の物だった。リョーグ家はゴムの担当になった際に、ほぼ全ての奴隷を手放しているが、その放出先はバークッドの別の従士家なので買い戻したと見える。アンとか知ってる顔も居たしね。

 因みに、キールで娼館を営んでいたハリタイドは年明けくらいに来る予定なのでここには居ない。


 とにかく、これで元からベグリッツに居た先任従士が、農業主体の四家族に商業や公務員関係で一八家族。国王なんかから押し付けられた従士が五家族。クローのバラディーク家やまだ暫くは来ることが出来ないがバストラルも合わせれば俺の個人的な従士は……えーっと、合計で四一家族になる。


 彼らの下にはそれなりの数の農奴なんかも居るので合計でン百人の保護者的な立ち位置になるのか……。

 あ、勿論、従士ではない普通の平民もそれなりに多いよ。

 そっちも三〇家族を超える。


 とにかく、俺としても初対面の者が多い。

 兄貴は兄貴で王都への納品の途中なので急がなくてはならない。

 連れてきた従士家族やその引越荷物を下ろしたら、一泊もせずにすぐに出発だそうだ。


「ごめん、領内を出るまでは誰か護衛を付けようかと思ってたんだけど」


 ここから王都に向かうのであればゼノムが完全に同じ方向なのでゼノムが帰るのに合わせたいと思っていたが、ウィードの従士たちは土着の者が殆どなのでもう少し交流させてやりたい。


「いいさ。そんなこと。気を使うより金を使ってくれ、商会長。それより、相談があるんだ。少しだけいいか?」


 兄貴の相談とはベッキーの事だった。

 ゼットもベッキーも時期が来たら第一騎士団の入団試験を受けさせたいらしいが、万が一試験に落ちた時、ゼットはウェブドスの騎士団に入団することは既定路線だ。勿論ベッキーにも可能だが、兄貴は双子の兄妹で同じ騎士団に入るのは第一騎士団であればいいが、他の騎士団だと甘えが出てしまう可能性があるという。

 だから、その際にはベッキーは俺の騎士団に入れて欲しいと言われた。


 俺として断る言葉なんかある訳がない。


「そんなの両手を上げて歓迎するさ。こんなこと言いたくないけど、ゼットに万が一があったとしても、ベッキーが後を継げるようにしっかりと鍛えるよ。だけど、姉ちゃんの件を考えると第一騎士団が手放すとは思えないけどねぇ……。ああ、いっそのこと二人共最初から俺のとこに入れないか? どこに出しても恥ずかしくない、立派な騎士にする。約束するよ」


 ゼットとベッキーに英才教育を施すのも悪く無い。

 幾ら転生者同士なら異種族でも子供が出来やすいと言っても、どの程度の確率かなんてわかりゃしないんだし、ミヅチとの間に子供が出来ない可能性だってある。

 その時はゼットは兄貴の後を継ぐだろうが、ベッキーを……今から心配することじゃないか。


「ふむ。お前の騎士団が第一騎士団並みになっているならそれも良いかも知れないな」


 そんなん無理に決まってますやん。


「……それはそうと、兄さんはもう子供は作らないの? 俺が生まれた時の親父より若いんだからさぁ」


 俺が生まれたのは親父が二八か九の頃だ。兄貴は今二七歳。義姉さんも二七歳。金もあるし、充分に可能だろう。


「うーん、それもいいけど、あんまり子供を増やしてもな……俺もシャーニも家を空けることも多いし……」


「あ……ご、ごめん」


 今回は王都への納品と一緒に来たが、引っ越し連中を引き連れてきたので兄貴が家を出たのは三月の初旬だったらしい。


 引っ越しと言っても家財道具を幾らか持ってきているのはダイアンのリョーグ家だけで、他の従士は家財道具なんぞ何ひとつ持っちゃいない。

 元々は各地の平民家なんかで冷や飯食いだった連中が大半で、着替えを含む数点の衣類と僅かな身の回りの品だけで、殆ど着の身着のままに近い感じの引っ越しだった。


 それは仕方ないので良いんだが、今後はバークッドからの納品先はドーリット、キール、王都に加えて俺のべグリッツも増える。

 それなりに金を溜め込んだグリード家としては馬車もそれを引く荷馬も増やして隊商の便の数自体を増やす必要に迫られている。


 隊商が増えれば監督者も増える。


 今までは両親や兄貴夫婦、従士長のショーン・ティンバーなんかが交代で回していた。

 そのローテーションが増えることになるので畢竟、一人あたりの村で過ごすことの出来る日数は減る。

 特に名実ともに領主となった兄貴や義姉さんは中核となって働かねばならないだろう。

 両親だってもう若くないから隊商の指揮なんてなかなか難しくなってくる筈だ。


 兄貴の考えでは王家に対する納品物なんかもあるので、その隊商の指揮者は最低でも従士長でないと駄目だという。

 このあたり、以前の俺と価値観の相違もあるが、俺も大貴族になった以上、出来るだけ貴族の、兄貴の価値観に近づきたい。


「お前が気にする必要はないよ。伯爵閣下が田舎士爵に申し訳無さそうな顔なんかするな、みっともない。ドンと構えていればいい」


 兄貴は俺の胸をコツンと叩く。

 荷馬車から降ろさなければならない荷物は全て降ろし終わったようだ。


 その時、傍で様子を見ていたゼノムが俺の隣に立った。


「グリード閣下、私が領地の外れまでお送り致します。ご安心召されよ」

「ゼノム?」

「ファイアフリード閣下……」

「なんだ? 俺じゃ護衛にならんとでも言うのか?」


 ゼノムはおどけたような感じで冗談めかして言う。

 そんな訳ない。護衛の質としてこれは以上ない程だ。


「そうじゃない。ゼノムには従士の……」

「ああ、顔合わせな。そっちはジンジャーに任せればいい。それより……」


 ゼノムが耳を貸せという仕草をするので腰を折って屈むと「途中でいらん事を吹き込むバカがおらんとも限らん。()()()、今はまだ耳に入れたくはなかろう?」と言われた。


 事実なんだし、それは仕方ないと思っていた。


 こう言っちゃ誤解されかねないが、俺のグリード商会は最早バークッド村にとって無くてはならない物になっている。

 だから俺が前世の記憶を持って生まれたなんて聞いたところで、頭が良く、分別のある兄貴がそんなことで俺と袂を分かつ選択をするとは考えられない。

 と、言うより兄貴なら俺がそう言った裏の事情は何だろうか、と考えるだろう。


 そんな事実確認のしようがない事を言って、俺にどんなメリットとデメリットがあるかという事について絶対に考える。

 考えた結果、導き出されるであろう結論は一つしかない。


 まずは俺が真実を語っている場合。

 聡明な兄貴の事だから、たとえその内容が真実だとしても誰もが素直に信じるなどということはあり得ないとすぐに気が付く。

 そして、すぐに俺がホラを吹いていた場合と周囲の反応は何一つ変わらない事に気付く。

 その時点で生まれ変わり自体が本当か嘘かなんてどうでもいい事であり、俺が本当に言いたいことに思い至る。


 要は、「俺の言う事、やる事、やろうとしている事、やらせたい事に対する反論を封じたい」ということだ。

 つまり、俺には「一見して普通の人では理解出来ないような事でも合理的な反論にすら耳を貸さず強引に推し進めたい事がある」ということだ。


 これはすなわち「何もかもについて強引に推し進める。反論は許さない」ということには直結しない。

 聞くべきは聞き、採り入れるべきは採り入れる。だが、どうしても譲れない線がある。理由は語りたくない。

 それを宣言している事を意味する。


 何か大きな、反論が出かねない物事だろうということくらいは想像が付くだろう。

 この時点で「生まれ変わり」というのは反論を封じるための方便だと判断する。


 ……万が一、生まれ変わりについて真実だと思われてしまってもそれはそれで仕方のない事だし、事実であるからそこを責められた場合、俺としては「今まで言い出せなくて申し訳ない」としか言えない。

 たとえそうなったとしても、転生当初、赤ん坊の頃に抱いた危機感やなんやらについて弁明する機会はくれる。


 これが姉ちゃんなら「嘘吐くな」とか「前世の記憶を持ったまま生まれたとか気持ち悪い。今まで家族を謀っていたのか」とか、まず感情的な面が最初に出て収拾を付けるにはそれなりの時間を必要とすると思う。多分。


 それはそれとして、ゼノムの申し出については有り難い。

 男爵自らが護衛につくことで、少なくとも俺の領内では通り道の村々でも粗略に扱われる事はなくなるし、屋根の下で眠ることも出来るかもしれない。

 今後も訪れるであろうバークッドの隊商について、その格を示す意味でも非常に助かる。


「ファイアフリード閣下、お申し出は非常に有り難いのですが……」


 兄貴は遠慮がちに言うが、ここは受けて貰わねばなるまい。


「そう言わないでくれよ。領内の護衛くらいは付けさせてくれ。俺の沽券にも関わるし、頼むよ」

「ん……そうか。それではファイアフリード閣下、誠にお手数をお掛けいたしますが、宜しくお願いします」

「どうせ帰り道だし、俺も領地の境界について自分の目で確かめておきたいと思っていたからな。そんなふうにかしこまらんでくれ。それより、道々アルの昔の話でも聞かせてくれると嬉しい。俺も伯爵閣下の弱みを握っておけば今後、少しは楽も出来るだろうて」


 そう言ってゼノムは呵々と笑うと、従士の一人に馬の用意をするように言いつけた。


 ゼノムにはいつも気を使って貰ってばっかりだ。




・・・・・・・・・




7449年4月22日


 新しい従士たちに家や農地を割り当てる。

 勿論、リョーグ家だけはゴム農園もやらせるので彼女たちには川の傍の水の便が良い場所を優先する。

 他の者たちには公平になるように農地を割るが、どうしたって貧乏籤のような場所があるのは否めない。

 そういった場所については俺の場所とする。

 勿論、それなりに良い場所も取ったけどな。


 因みに、割り当てた農地だが、全体のうちの二割くらいは残っている先任従士が元々耕していた場所なのでそこはそのままだ。

 それ以外の八割くらいが俺と後任の従士の農地になっている。


 その八割の農地は先月末から一月ほどの間、俺の奴隷や国王に押し付けられた従士たちだけでなく、先任従士やその奴隷にも面倒を見て貰っていたので荒れ果てている程ではない。

 だが、この一月ほどは多大な負担を掛けたのは事実なので、賦役でもないから代金は弾んださ。


 こうしてリーグル伯爵としての最初のひと月はあっという間に過ぎ去っていった。




本編自体も丁度キリも良いのは関係ありませんが、来週末から再来週末に掛けて夏休みを頂きます。

(来週末の時点で今キリが良いのは全く関係ないですね)



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