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男なら一国一城の主を目指さなきゃね  作者: 三度笠
第三部 領主時代 -青年期~成年期-

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第二話 領地への下準備

7448年4月15日


 シャワーから上がったあと、アルは再び頭を悩ませる。

 今度は最近忙しくて遅々として進んでいない工作についてだ。


 これは文字通りの「工作」で、ドラゴンを倒して得た鉱物結晶から有用な道具を製造することである。

 勿論年が明けてから暫くの間は鼻血を垂らしながらも黙々と必要な道具を作り続けていた。


 しかし、戦闘の勘が鈍らない程度の迷宮行。 

 王都近郊の食肉牧場主への引っ越し条件の交渉。

 馬の購入の交渉。

 王都の鎧工房、カーリムの経営者で職人頭でもあるウィンストン・カーリムの買収と移住の交渉(これはドラゴンの鱗を見せ付けた上、領主お抱え職人の地位と金貨をちらつかせることであまり難航しなかった)。

 特にアルの予想より大きく時間を取られていたのは、王都の商会に番頭として残すラッセグとミリーのドンネオル夫妻に加えて新たに手代へと昇格させるレイラ・ヨトゥーレンへの経理の仕込みである(未だ満足には至っておらず、不充分な教育状況でしかない)。


 これら以外にも細々とした調整や交渉に追われ、なかなか落ち着いて集中する時間が取れなかった。


 この時点でアルが完成させていたものは、


・特殊鋼製の車軸と車輪用のタングステン製ボールベアリング(六頭建て大型馬車四台分)

・タイヤ用のホイール(一六個プラス予備一個)

・同数のゴムタイヤ(中空チューブ込)

・迷宮内での銃弾の製造及び新型半自動小銃のテストベッド

・同じく迷宮内でのRDX火薬のテスト製造


 のみであった。


 なお、タイヤの構造は初期のタイヤと同一のゴムのみで作られたものであり、プライを内蔵するカーカス構造は取っていない。従って空気用のチューブも存在している。ただ、空気チューブとタイヤとの間に薄い鋼板が貼ってあることと、タイヤの中にシャドウ・ドラゴンの筋繊維から採取した筋を埋め込んでブレーカーコードにしている点が工夫されている部分であった。


「ああ、馬車もこの倍はないと……。それに、大型プレス……ネジ切り機……」


 スクリュープレス機もネジ切り機も既に世の中に存在はしている。

 尤も、プレス機の方は植物の種子などから油を絞るためやぶどうを搾ってワインを作るために使われている程度であり、ネジ切り機の方も多少硬度の高い鋼をネジ切りの刃に使って鋳鉄製の小さな棒に適当なネジを切れる程度である。双方とも本体に使用される金属の問題からまともな金属加工が可能な程の大型のものは製造されていない。


「……経理の方はもうバストラルでもいいか……。あいつを番頭にしちまえば……だけどなぁ……それじゃバストラルを商会に張り付けなきゃならんし……明日話してみるか」


 そう言うと書いている途中の経理マニュアルの続きを書くためにペンを取った。




・・・・・・・・・




7448年4月16日


「っつー訳で商会の方についてはお前に任せる。番頭として切り盛りを頼む。納税なんかもお前が中心になって計算してくれ」


 ランニングの後、王城へ行く前にアルはサージに声を掛けた。


「えー。……って事は俺は一緒に行けないじゃないですか……レベルだってもう少し上げたいし……。それに俺、バルドゥッキー屋とラーメン屋、それに『コンドーム』屋の親父で終わるの嫌ですよぉ……」


 不満気な顔をするサージ。

 そんなサージを宥めるアル。


「そんなことはないぞ。実際に移転するまでにラッセグやヨトゥーレンに仕込んじまえばいい。俺だってお前がずっとこっちに張り付いてるのは問題だと思ってるしな」


 現実問題としてサージを王都に張り付かせたままにする事についてはアルも考えていない。

 貴重な転生者の使い道としては勿体なさ過ぎる。


「私はまだ暫く商売していたいなぁ……あの『ラーメン』だって試し販売した時に凄く好評だったし、商会の方にも毎日のように問い合わせが来てるし」


 横で一緒に話を聞いていたキャシーが少しだけ自己主張をする。

 今月の頭に王都の商会前で行われたラーメンの試食販売については大盛況であり、その後、商会にはいつから本格的に商売を始めるのかという問い合わせがひっきりなしに来ていた。

 とは言え、アルを始めとした転生者たちは本格的にラーメン屋を開くにはもう暫く店員、特に調理を担当する者の教育が不可欠だと思っていた。

 慣れていないせいで手際が悪かったのだ。

 麺の茹で時間についてはまず問題ないが、その後の盛り付けなどに時間がかかり、客の人数が少し増えてくるとパニックに近くなる。

 折角茹でた替え玉の提供が遅れて麺が伸びてしまったり、順番がずれてしまうことも散見されていた。

 これではそれなりのお金を取る食事のサービスとは言えない。


「それに、お客さんを相手にしていると凄く楽しいし、計算にも慣れて来たと思うし……」


 店での商売に未練たっぷりの口調でキャシーが言う。しかし、計算に慣れて来たとは言ってもそれは勿論、お釣りの計算程度のものであって計算能力はせいぜい小学生の中学年程度である。試しに少し複雑な計算問題を解かせてみたらまだまだ間違いもある。帳簿付けや納税など間違いなく完璧に可能、もしくは僅かな時間でそうなると思えるのは現在のアルの手の内では転生者のみであった。


「ん……お前がそう言うなら暫くはいいか……でもアルさん、引っ越しまでには必ず仕込みますからね。一緒に連れてって下さいよ!」


「ああ、当然だ。お前にやってもらわなきゃならない事はまだまだあるんだ。頼むぞ」


 サージが納得したことにより会話は終わった。

 彼に簡単な指示を与えた後、アルは着替えると王城へと赴く為に軍馬に飛び乗った。


「忙しそうだな……」


 その後姿をやっと起き出したゼノムが腕を組んで見送る。


「サージ、シャワーを浴びる前にすまんが今回の予定について少し確認させてくれ。お前さんは抜けで構わないんだな?」


 先ほどサージはアルから「部屋にある書きかけのマニュアルを読んでおいてくれ。あとそこに書かれているまでの税申告用の雛形も試しに作ってみておいてくれ」と言われていたのだ。


「ええ、ですから根絶者(エクスターミネーターズ)に関しては人数が減ります。マールとリンビーも居ることですし、今回は三層までにしておいたほうがいいと思います」


 サージは背負っていたリュックサックからウェイトとして使っていた小さな砂袋を取り出しながら返事をする。彼も昨年の暮頃から軽いウェイトを背負って走っていた。

 最近ではマールとリンビーが入っているパーティーを根絶者(エクスターミネーターズ)と称し、クローとマリーが参加してるパーティーを虐殺者(ブッチャーズ)と呼ぶことが多くなっている。


「それは構わんが……ラルファとメックがきついことになりそうだな」


 そう言ってゼノムは笑った。

 今回の根絶者のメンバー構成はゼノムをリーダーにして、ラルファ、キム、ルッツ、ヘンリー、メック、ジェス、マール、リンビー、そしてサージの予定であった。

 ここからサージが抜けた場合、治癒魔術を使うのはラルファとメックの二人に集中してしまうからだ。

 彼女らの魔力量はそう多くないのでゼノムはその使い所とタイミングをよく考えねばならない。


 三層までということはゴブリンやノール、オーク、ホブゴブリンなどを主に相手取ることを意味する。オークやホブゴブリンは別として大抵の場合、ゴブリンやノールは十匹以上、時には二十匹以上の大集団で出てくることが殆どだ。個体の戦闘力自体は大したことはないが、数の暴力というものは無視できない。最初のうちは良くても迷宮の中で四日、五日と過ごすうちに疲れも溜まり、神経もすり減ってくる。


 そんな時にパーティーメンバーの二倍、時には三倍もの敵に囲まれると思わぬミスをしてしまうことも多い。つまり、下手に下層に行くより上層で長い時間過ごしてる方が怪我人の出る割合自体は高くなる傾向が強い。勿論怪我の程度は上層の方が軽い場合が多いが、急所を突かれての即死だって全く無いとは言えない。バルドゥックの迷宮は未だに推定年間死亡者数が三桁に届く非常に危険な場所なのだ。そして、その八割は三層までの上層に集中していると言われている。


「そりゃ仕方がないっすよ。でも、ラルもキムも居るんだしよっぽど気を抜かなきゃ大丈夫だと思いますよ」


 サージは砂袋をボイル亭のロビー脇に無造作に放るとリュックサックをぶら下げて自室へと向かう階段を登った。




・・・・・・・・・




「おい、作業場借りるぞ」


 その日の夕方、王城で役人たちからリーグル伯爵領についての説明の時間が終わったアルは王都のグリード商会本店へ顔を出した。

 タイヤを作っておこうと思ったのだ。


「ああ、アル様。それは構いませんが……その……」


 店にいたバークッド村の従士で現在の商会の番頭であるラッセグ・ドンネオルが応対するが、どうにも歯切れの悪い返答であった。


「ん? 何かまずいか?」


「いえ……ですが、その……」


 ラッセグは焦りを含んだ声でしどろもどろになってしまう。

 そこに助け舟を出したのはグリード商会ではベテラン従業員として働いているアンナ・ヨトゥーレンである。


「あの、会長。最近会長がゴムで色々と何かお作りになっていらっしゃるようですが、出来たら月末までお待ちいただけませんか?」


 アンナは今年一四歳になり、来年には成人を迎える。


「ん? それくらいなら別に構わんが、なんでだ?」


 アルは不思議そうな顔で答えた。


「ゴムの樹液(ラテックス)の在庫がもう半樽も無いそうです。大きな修繕が来ちゃうと二着分を直すのが精一杯だって……」


「あ、そうか。すまん。そうならラッセグも遠慮しないで言ってくれ。そっち優先だからさ」


 アルは少し恥ずかしそうに言った。


「いえ、そんな。アル様のご希望に添えず申し訳ありません」


「いや、在庫については把握していたし、確かに残りは半樽だな……つい忘れちまってた。アンナの言う通り月末にはバークッドから届くだろうしそれからでも問題ない。悪かった。ま、それでも作業場は使うわ。ゴムは使わないけど別のことやるから。じゃな」


 今日はタイヤではなく作業場に仕入れておいた鉄鉱石に他の金属鉱石を合わせて合金を作ると同時に車軸でも作ろうと予定を変更した。

 因みに、岩石(トランスミュート・ロ)泥化(ック・トゥ・マッド)の魔術は鉱石を泥にするのに最適化された魔術であり、一度金属に精製してしまったり既存の金属製品を再加工しようとすると通常よりもかなり多くの魔力を必要とする。あくまで鉱石などの自然の岩石を対象にするのが標準的な使い方なのだ。基本的には一度使った対象にもう一度使うのは多くの魔力が無駄になるので一度しか使えないと思った方が良い。




・・・・・・・・・




7448年4月27日


 アルが待ち焦がれていたバークッドの隊商が到着した。

 ゴムの補充も勿論だが、彼にしてみればドラゴンの頭を家族に見せたかったのだ。

 騎士団への鎧の納品の馬車とは別にもう一台、空の馬車を商会から持ってきてそれに分乗している人たちもいた。


 なお、前の日の晩にアルは隊商を率いてきた家族に結婚の報告を行い、また、自らのステータスを明かしている。

 報告自体にはそう時間を取られなかったが、今後の商会についてや新しい領地の話など家族の時間は深夜まで続いていた。

 また、当然の事だがリーグル伯爵となった彼を家族は誇らしく感じてもいた。


「へへっ。もう少しで見えて来るぜ……ほらっ!」


 王城へと続く大通りに出るとアルは自慢気な表情で指をさした。

 アルの指した先には春の日差しを受けてキラキラと輝く氷漬けのドラゴンの生首が城門の脇に設えられた台に乗っている。


「おおっ!」

「あれが!」


 従士たちが口々に感嘆の声を上げる。


「うむ……あれは……」


 軍馬に跨ったヘガードが大きく頷く。


「まぁ!」


 御者台に座ったシャルが喜びの声を上げる。


「すごいな!」


 へガードの隣でこちらも軍馬に跨ったファーンも思わず叫ぶ。


「ドラゴンだっ! でっけぇ~!」

「うえっ!」


 シャルの後ろで荷台に立ち上がったゼットとベッキーが興奮して声を上げた。

 彼ら二人は今七歳。今年の九月に八歳を迎える。

 未だ魔法の修行の途中ではあるが貴重な時間を三ヶ月近く割いてまで叔父の行った偉業を一目見るためにわざわざ連れてこられたのだ。

 この機会を逃したらドラゴンなど一生見られないからだ。

 なお、納品の間は邪魔になるので子供たちについてはシャルが城門の傍で面倒を見る。

 シャーニも付いて来たがったが、村を空にする訳には行かないので嫁が貧乏籤を引いた形である。


「これ倒す時にさ……」

「ああ……」


 忠実な戦闘奴隷を思い浮かべ言葉を詰まらすアルにヘガードは頷く。

 彼らもマルソーとは何度か会っており、会話すら交わした事もあった。

 マルソーはバークッド村にまで行ったこともあるのだ。


 ひとしきりドラゴンの生首を眺めたあと、興奮するゼットやベッキー、シャルたちをその場に残して納品のためにアルは城門をくぐり抜ける。


 門番を務めていた騎士団員はドラゴンを倒すというとてつもない偉業を成し遂げ、一代で上級貴族となったアルに尊敬の眼差しを送っていた。


「ところでミルーは王都に居るのか?」


 三の丸の馬留杭に馬の手綱を結びながらファーンがアルに尋ねる。


「まだ戦地から戻ってないよ。でも、もうそろそろ戻るって騎士団からは聞いてる。予定だと来月くらいだって」


「そうか。それは残念だったな。お前もミルーに自慢したいんだろ?」


「ああ、勿論。一度くらい素直に凄いと言わせたいよ」


 アルは姉が戦地から戻ってきたら、その慰労と結婚の報告、それにドラゴン退治の話、伯爵となり、正式に領地を賜るという話をしたかった。


 

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