第二百五十一話 促成栽培
7447年8月17日
迷宮の入り口広場。
朝のランニングを終え、朝食を摂った後の午前九時頃。
周囲には既に冒険者らしき奴らはいない。
道行く人を相手に営業している露店が並んでいるだけだ。
当然、他の殺戮者の皆もとっくに入り口をくぐっている。
なお、昨日のうちにクローとマリーとも契約をしておいた。
……バストラルと同じでいいか。
見習い期間中は魔石による稼ぎの一%でそれ以外は固定給の月二十万Zだけだ。
バストラルから平均の稼ぎを聞いていたからか二人とも文句ひとつ言わずに契約書へサインしてくれた。
「武器の状態の確認はしたか?」
「した」
「大丈夫」
当然だね。
「ナイフは?」
「ある」
「腰に」
ナイフは魔石を採ったり、何かに傷つけて目印にしたり、最悪の場合には最後の頼みの綱になったりと非常に便利な、冒険者にはなくてはならないものだ。
「緊急パックは?」
「ちゃんとある」
「持ってるわ」
昨日揃えた乾パンやロープ、回復薬をセットにした非常用緊急パックはちゃんと腰の後ろに装着されていることは見りゃ解るが、必要な確認だ。
「鎧の状態は?」
「大丈夫」
「問題ないわ」
二人共、あまり出来の良くない革鎧を着ている。
騎士団では結構馬鹿にされたらしいが、二人が自由民出身だと知ると親切に手入れ方法を指導してくれた人も居たらしい。
「リュックサックの中身は確認したか?」
「勿論だ」
「さっき二回確認したわ」
必要なときにあれが足りない、これが無いなんてのは最悪の事態だ。
「じゃあこれ、持っとけ」
ギベルティに用意させた昼食を渡す。
「お、弁当か。でも……」
「私も用意して来ちゃった」
彼らは彼らで弁当を用意していたらしい。
俺の分を差し出して来ないところは……まぁ、その、いいさ。
「よし、二人とも。準備はいいな?」
「ああ」
「ええ」
返事をするクローとマリーは少し浮かない顔付きをしている。
十四日の合同訓練の結果から、二人とも思うところがあったのか一昨日から朝のランニングに参加していた。当然の如くいきなり二十㎞なんか走れる訳はない。とは言っても転生者であるからしてトレーニングについての理解は深い。だから騎士団では二人で毎日ランニングをしていたそうだ。
でも、話を聞くと装備も着けないままで五㎞程度らしいからなぁ。俺がキールに居た時にゴム鎧を着たまま走ってたの知ってるんだからさぁ、どうせならせめてそんくらいやれや。装備を着けないのであれば普通科の自衛隊員でも真面目な奴は毎日もっともっと走ってたので、裸で五㎞なんてほんの足慣らし程度じゃんか。
でも何もしないよりはずっとマシだ。騎士団で行われている剣や槍の型稽古や素振り、それに約束組手のような模擬戦でも、普通は鎧を着て行うからかなりの体力は付くけど持久力を得るにはランニングの方がずっと効率がいい。
何でか知らないけど、クローとマリーの成長度合いを見ていたセンドーヘル団長も一年ほど前に騎士団の訓練にランニングを採り入れる決定もしたそうだ。そう言えば俺がキールに居た頃、ランニング中に団長と出会った事もあったな。あの時は金も掛からずに鍛錬出来る(木剣の素振りや型稽古も金は掛からないが、模擬戦だとそれらの道具の傷みが早いから一応金が掛かる)からと言ったんだっけ。
とか思っているうちに転移水晶の前だ。
「ザブホドク!」
転移の呪文を唱えて迷宮の一層に転移した。
「うわ! 凄いな!」
「一瞬で終わるのね……」
初めてだし、仕方ないけどすぐ傍にモンスターがいる可能性だってあるんだから、油断すんなよ。あれだけ言ったんだから、気を配ろうぜ。
だけど、俺も最初の頃はこんなもんだったか……。
ま、あん時ぁこんなこと知らなかったし、大目に見てくれよ。
「油断するなよ」
地図を広げ、番号の確認のし方を教える。
「じゃあ、こっちな。最初だから先導してやるけど、少し進んだら地図を渡すからお前らが先導しろ」
「ん」
「分かったわ」
・・・・・・・・・
「「……」」
二十二匹のゴブリンを片付けた後、二人は絶句していた。
二人には俺の死角を守るように言いつけて強襲を掛けたので、今回のゴブリンの殆ど全ては俺が倒した。
「ゴブリンは魔石の価値が低いからな。一匹千Zくらいだし、時間が勿体ないから採らないでいい」
「アル、お前……」
「凄い……」
「おいおい、マリーはともかく、クローはゴブリンと戦ったことはあるんだろう? こいつら、武器を使うモンスターでは一番弱いぞ。この程度うちの奴らなら誰でも……」
無理か。
実は俺もこんな事言って格好つけてるけど、白兵戦だけで一対二十とか、無茶をし過ぎた。
死角を守って貰っていたとは言え、一発も貰わなかったのは奇跡のなせる技だろう。
正直言って数発は貰う覚悟で挑んでいた。
「ま、とにかくゴブリンはこのバルドゥックの迷宮だと単体では一番弱いモンスターだと言っていい。数が多いから一番楽、って訳じゃないけどな」
クローにもマリーにも自分が先頭に立っての強襲を一度づつ経験させる。
怪我もするだろうし、時間も掛かるだろう。
だが、氷漬けはそれからだ。
・・・・・・・・・
丁度お昼頃。
見通しの良い通路の真ん中で食事にした。
彼らの弁当は昨日のうちに購入したパンやハムでマリーが作ったサンドイッチだった。
どう考えてもギベルティが用意したホットドッグ(冷めてる)やレタス(キャベツより高級品である)ときゅうり、それに人参と小松菜みたいな葉野菜にカリカリに炒めて刻んだベーコンを散らした上に転生者が指導してギベルティに作らせた菜種油ベースのドレッシングを掛けたサラダの方が上等だ。勿論スープも付く。
まぁ、若いんだし、多少多く食べても大丈夫だろう。
午後は直接の戦闘はさせるつもり無いし。
「やっぱソーセージは美味しいわね」
「ああ、本当にな」
「そこはバルドゥッキーと呼んでやってくれよ。命名はバストラルなんだけどな」
先日食べた時にも感動に打ち震えていたが、今は牛の大腸で作る太さ十㎝以上のソーセージに挑戦してんだ。これが出来たら作るのに時間の掛かるハムよりも安価且つ大量に供給が可能になる。人気が出るのは間違いないだろう。
「ところでさ、契約なんだけど」
食後のお茶を飲み始めて暫くするとマリーが遠慮がちに口を開く。
ん? 何か不満かね?
「ああ、勘違いしないで欲しいんだけど、不満って訳じゃないのよ? でもね、流石に一%はどうなのよ?」
「見習い期間だからな。見習いが終わって三つのパーティーのどれかに入るときには改めるって言ってあるだろう?」
「その辺りの事、誰からも文句は出なかったの?」
なるほど、マリーが言いたいのはそういう事だったのか?
クローはこの件について昨晩にでもマリーから話を聞いていたらしく、黙って俺を見つめている。
「出てないな。田舎から出てきたばかりの新人なら等分したりする事もあると聞いてる。まぁ、でも、二流くらいのパーティーからは迷宮への入場税や迷宮内での消耗品はリーダーの負担が普通だ。地図を買ったりもしなきゃならないし、色々と経費も掛かる」
「でも危険は一緒でしょ?」
マリーは少し不満気のようだ。
「え? 一緒なもんか。責任の重さが違う。リーダーはパーティー内の全ての出来事に責任を持つ。迷宮内では話し合いをしている時間なんかない。リーダーが全てのことを素早く決定し、指示を行わないとそれだけ危険が増すからな。だから判断力の高いリーダーや、結果的に怪我人を抑えつつ稼げるリーダーと一緒に冒険したいって奴は多い。リーダーも多くの分け前を貰えるからこそ、きちんと判断を下すんだ」
「でもよう、常識で考えるなら得た収入から掛かる経費を抜いてあとは頭割りにするとか、その時に割る数を少し多くしてパーティー全体の予備費としてプールするとかの方が良くないか?」
ついにクローも口を挟んでくる。クローは生前のゲームなんかだとそうする事が多いと言っていた。その意見にはマリーも頷いている。
それに、迷宮に入らない一般の冒険者なんかでは大抵の場合一人頭の謝礼金は予め決まっている。人数が多くなりがちな隊商の護衛なんかだとリーダー役の人は多目に貰えるらしいが、それも依頼主が謝礼金額に色を付ける程度だという。
だけどこいつら、迷宮の冒険者ってもんを理解ってない。
普通の冒険者と違って迷宮の冒険者ってのは探索や戦闘が主体になりがちだから、高い確率で生命が左右される事態に陥る事が多い。その上、場合によってはその後の人生すら左右しかねない非常に高額な金銭までもが関わってくる。その辺り、もう少し想像力を働かせてくれよ。
「うん、クローが言う事については納得出来る部分も無くもない。でも、所詮はゲームだろ? 現実の金も、命も関わらない、単なる遊びだ。だから全員が納得すればそれでもいいだろう。だが、現実にはそうは行かん」
頭割りについてだが、割る人数の数が多いだけで俺もそうしてる、と言ってもいい。
二流以上である普通のパーティーでも二十人とか二十五人で割ってるのが普通だ。
俺の場合、他のパーティーよりもその人数が多く、五十人とか百人で割ってるだけの話だ。
だから分け前の率としては他のパーティーの半分とかそれ以下になるんだけど。
それだって救済者に限った話で、それ以外だと計算が出来ないんじゃないかと言う程多くの分け前を与えている。
一流半くらいになるとリーダーが分け前を決めている。
お前は働きがいいから今回七%、お前はすぐに怪我して碌に働けていなかったから今回は二%、とか、パーティーの人数にもよるが大体の基準が四~七%くらいで迷宮行の度にそれに多少ボーナスが出るところもある。
又は一月で基本給として幾ら、その月の稼ぎによってプラスアルファのボーナスが出る、なんてところも多い。
「なんでさ?」
「なんでよ?」
「おいおい、ちょっとは考えろ。お前ら、午前中にゴブリンだけ相手に戦わせたけど、何匹仕留めた?」
「う……」
「それは……」
クローが三匹、マリーが四匹だ。
それも俺が死角を守ってなきゃ多分死んでた。
まぁ、俺が居ないで二人だけならそもそも戦ってないだろうけど。
それに、T字路を偵察なんかしてゴブリンの集団を発見した場合、一度やり過ごして後ろから襲いかかれとか、次は右の奴とか、左に注意しろとか、防御に専念して耐え切れとか、左側の奴が体勢を崩したのを見て取り、今剣で突けとか、治癒魔術は魔力が勿体無いから使うなとか全部指示してたのは俺だ。
「そもそも人数で割るってのは一見公平なようで実は結構不公平ってのが理解出来るか? そういう意味じゃ俺も不公平なんだけどな」
苦笑いしながら言う。
「なら、前衛とかしょっちゅう怪我しそうな人は多目でもいいんじゃ? あと、武具に金が掛かる奴とかさ」
「魔法が使える人と使えない人も一緒には出来ないわね……どの程度熟練しているかにもよるでしょうけど」
尤もな意見だ。
だが、それらをどのような基準で評価するのかはリーダーの仕事だろう。
俺の場合、元々ゼノムとラルファを固定給で雇い、それプラスボーナス、という所からスタートしているためにちょっと歪なままここまで来てしまっている。
ゼノムとラルファの父娘間で差を付けたくなかったからだ。なぜなら、ラルファは転生者なので早々にゼノム以上に働くだろうと思っていた。養父であるゼノムよりラルファに多く払いたくなかったというのが本音だったんだ。でも流石にゼノムは今でも超一流の前衛として不動の地位にいるけどね。それに、バルドゥックに着いて数日でベルも合流したから差を付けるのが憚られたというのも大きい。
その後にトリスとグィネが合流した時もそのまま同じ待遇にしてしまったのでもう今さら変更し難いというのと、それでも皆が満足出来るだけの充分な報酬を支払っているという自負もあった。
バストラルが加わってからは何とかある程度の差を付けられただけで御の字というところだ。
また、武具に金が掛かるとか前衛だからというのも考慮には値するかも知れないが、多かれ少なかれ結局は全員がモンスターを殴るのが普通だし、誰か一人に金属製の鎧みたいな高級品を共同の金で購入して持たせるなんてのは争いの元にしかならない。
誰だって金の掛かった装備は欲しいし、それが生存率を高めるのであれば使いたい。
そもそも、そいつが殺されて回収出来ないまま退却したら大損だろうが。
「あのさ、冒険者にどんな夢を見ているのかは知らないが、もう少し現実的に考えてみろよ。まず、共同の金な。誰かが持ち逃げしたらどうすんの? それがリーダーでもいい。それなりに貯まってりゃあ金に目が眩む奴だって居なくはないと思うぞ」
「そこは信頼出来る仲間なら……」
「……ちょっと待ってクロー。確かにそうかもね」
「信頼出来る仲間ってのはどうやって判断するんだ? 親兄弟や親戚ならまぁ大丈夫だろう。こう言っちゃなんだが、転生者同士ってのも一つの基準“かも”知れない。でも、転生者だってわかんないぞ? ベルは昔、それで騙されて強姦されかけた挙句に殺されそうになった事だってあるんだ」
それを聞いた二人は目をまんまるにして驚いている。
「それにさ、クロー。自分の事を考えてみろ。マリーに出会う前、ベグルとつるんでいた頃のお前だったらどうなんだ? その頃のお前が今の俺のパーティーに居たとしよう。で、毎月かなりの額が共同の金としてプールされてる。俺はお人好しだから包み隠さず金額は報告するし、行政府のロッカーも共同で借りた。行政府のロッカーでも神社より安いし、まず安心だから普通はそれで充分だからな。お前じゃなくてもいい。盗まれる事もあると思わないか?」
「……ぐ」
「マリーだってそうだぞ。実家で急に纏まった金が必要になったらどうする? 事情を話したって“これは全員の金だから”と言って借金を断られるかも知れない。例えは悪いけど怒らないで聞いてくれ。以前のマリーみたいにヤクザに因縁つけられたでもいいし、弟さんが誘拐されて身代金を要求されたとかでもいい。もっと可能性が高そうなのは火事かなんかで店が燃えちゃったとかな。いや、返事が聞きたいんじゃない。でも、もし俺がその立場に立たされて金を持ってなきゃ金盗んで消えるね」
そう言えば、うちの転生者たちとゼノムは共同で神社のロッカーを借りてたな。
……どう考えても全員相当な金持ちだから今更金を盗んで消えるなんてことは考えていないのかも知れない。
それに、俺が怖いというのもあるのかも知れない。
何しろ裏切ったら草の根分けても探し出して殺すくらいの事は思われてるかも……。
俺にはそれが可能であると思われていても不思議じゃないしなぁ。
……まぁ、人を信用出来ないってのは不幸な事だ。
かくいう俺も以前はあまり信用していなかった。
全てのリスクを心配する必要があったからな。
でも、今は違う。
今の仲間は信頼出来る。
たとえ裏切られても、素直に俺が悪かったのだろうと思えるようにはなってるんじゃないかな?
そう言えば、生前の俺もこんな感じで人を信頼していた筈だ。
いや、信頼するためのハードルが低かった、という方が適切かな?
……ふん、ちったぁ俺も成長してるって事かね?
クローとマリーは少なくとも表面上は納得しているように見える。
「あらゆるリスクを考えてそれに対処しておかなきゃならないのね……」
「リーダーってのは気苦労が多そうだな」
「でも、確かにアルの事は知ってるし、恩も感じてるから……だけど、言われてみれば他の人にお金までは預けられないかな……」
「そうだな……金より大切な物がある、なんてのは本当に大金持ちしか言わないと聞いたことがある」
うん、単に一緒に迷宮に入ってるだけのよく知らない奴に全財産は預けられない。
連帯保証人なんか親戚だって難しいだろ?
金より大切な命を預けているんだから信頼しろなんて甘いことを言う奴は食い物にされるだけだ。
「まぁ、それでも何年も一緒にやってる奴らならそれなりの信頼は出来上がってるのが普通だ。それでも今回のお前らみたいに新しいメンバーが加わる事だってある。そういった時でもリーダーは以前から居るメンバーと新しいメンバー双方が納得する対応をしなきゃならん。納得しない奴が多けりゃ罷免されてその地位から引きずり降ろされるだろう。少数ならそいつらはパーティーを割って新たなパーティーを作るか、別のパーティーに所属するだけの話だ。どちらにしてもその場合、残されたパーティーは確実に戦力が低下する」
外部から見た数年前の俺のような状況だね。
・・・・・・・・・
「じゃあ今回はクローの番だな。一撃で仕留めてやれよ。苦しませるのも夢見が悪いだろ?」
モンスターの下半身を氷漬けにして草でも刈り取るかのように倒させた。
当初は「いくらなんでも可哀想だ」と言っていたり、魔石を採るときには吐いていたりした。
しかし、無理やりやらせているうちにすっかり感覚が麻痺してしまったのか、今は二人共黙々と作業をしている。
こうしてクローとマリーの一日目は十九時まで引っ張り回して終了した。
二人共へとへとになっており、晩飯は貪るように食べていた。
今日は部屋の主を相手にする事はなかったが、それでもかなりの数のオークやホブゴブリンを仕留めさせたので、今日一日で経験値は四千五百程も稼がせた。何しろ、オークを九匹、ホブゴブリンに至っては十三匹だ。これだけで経験値は一人あたり優に三千を超える。
あとはゴブリンとノールを殺して得たものだ。
クローはレベルが上がり、マリーも明日にはレベルが上がるだろう。
処分した魔石での稼ぎは僅かだが百万Zを超えている。
一層でこれだけ稼いだのは、もう何年も前、ズールーやエンゲラのどちらか二人と休みの日に迷宮に潜って以来のことだ。
まぁ、幸先良いよね。
これだけオークやホブゴブリンと出会えた事なんか滅多にないし。
・・・・・・・・・
7447年8月18日
今日からは部屋の主も相手にする。
もう手本はいらない。
最初の一回、ガルガンチュアスパイダーを相手取った時だけ魔法で支援して、きちんと白兵戦で倒させた。
あとはいつも通り氷漬けの出番だ。
今日からギベルティの弁当はないのでムローワが販売しているバルドゥッキーを挟んだホットドッグだ。マリーも精根尽き果て、弁当を作る余裕はなかったらしい。まぁ、迷宮内の食事については全て俺が持つと言っているから、ってのもあるんだろうけど。
今日は十九時半まで引っ張り回した。
経験値は昨日より落ち、三千弱しか稼げなかったがマリーも無事にレベルが上昇している。
さて、これで一層は卒業だ。
明日は二層に行ってみよう。
……ん? たった二日、迷宮に挑んで僅か三日目で二層に足を踏み入れる奴って、ひょっとしたらバルドゥックで初かも知れない。
……よく考えたらバストラルなんか初日からいきなり迷宮の奥深くに連れ込んでたわ。
・・・・・・・・・
7447年8月19日
二層も一層とあまり変わらないから、さっさと通り抜けるべきだ。
今日一日で充分だろう。
この調子なら三層も同様だろうし、例のお嬢様方の訓練のために三層や四層でキャンプを張った緑色団(今はバースがリーダーとして、やはり一流パーティーとして頑張っている)や黒黄玉の真似をしてみるのが正解だろう。
クローもマリーも迷宮の中をゆっくりと歩く分にはそう疲労もしないようだし、明日は思い切って四層の転移水晶まで行ってみようか。
そう言うと、迷宮に対する知識が少ない彼ら二人は喜んで頷いてくれた。
「早く恩を返したいしな」
「役に立ちたいわ」
知らないって、怖いね。
明日からはもう部屋の主だろうが通路のモンスターだろうが全部氷漬けだ。
ノールの魔石もいらない。
オークやホブゴブリンも……いいか。
主からだけ頂いておこう。
・・・・・・・・・
7447年8月20日
「今日一日で四層まで行く。食料は持ったな?」
「結構持ってきたぜ」
「言われた通り、ちゃんと分けて持ってきてるわ」
四層の転移水晶の間にキャンプ用品を持ち込んでいる冒険者は俺たちの他には緑色団、黒黄玉、煉獄の炎の他に一流半から一流へと手を掛けようとしている幾つかだけだ。このうち、俺たち殺戮者は全員四層での野営を卒業しているし、緑色団も煉獄の炎も今では五層や六層が長期の野営地となっている。
だから、四層でキャンプを張っているのはあんまり多くないだろ。
寝具はあるし、食料の問題さえ解決出来れば寝るとき以外、あの近辺でずっと経験を稼がせてやれる。
順調なようなら七層に行ってオーガ相手に続きをやるだけだ。
オーガ相手なら魔力に物を言わせて出られないほどの氷漬けにしてやれば一日で五千以上、事によったら一万程の経験値を狙うことすら可能だし。
今回はクローとマリーに迷宮での仕事を叩き込むという名目で今月末まで潜ることにしているのだ。
救済者や虐殺者、根絶者もそのスケジュールで動いている。
五層の転移水晶の間には根絶者が、六層の転移水晶の間には救済者と虐殺者が居る筈だ。
今回は合流出来ないかも知れないと思っていたけど、この分なら合流して一緒に野営した方が良いだろう。




