第百九十六話 黒黄玉5
7446年9月10日
しかしまぁ、なんだかんだと言ってもここまではかなり順調に来ることが出来た。
途中でダウンしたギベルティを背負いながら移動したにしてはなかなかのペースだと言ってもいいだろう。
ズールーには彼が昔使っていた革鎧を着せていることも大きい。
流石に輝く刃からせしめた金属帯鎧じゃこの速さは無理だし。
そして、午前九時少し前に六層へと足を踏み入れた。
今回転移してきたのは、水晶棒まで大体七㎞程度の地点だ。
一発目でこの場所を引くとはなかなかに運が良い。
これなら休憩を入れても充分に午前中のうちに七層へと突入が可能だろう。
この六層はついこの前まで虐殺者もゼノムとかミヅチと一緒に何度か通り抜けている。もうそれほど転移の罠に対する忌避感もないだろうと思っていたが、以前の心理的な負担というものはなかなか消えないようだ。確かに俺も目の前で仲間が何処とも知れない場所へ転移させられるところを目の当たりにしたら彼らのようにトラウマでも抱えたかのようになってしまうかも知れない。
転移の罠も恐ろしいが、俺としてはその罠を使って奇襲のようにいきなり現れて襲い掛かって来るモンスターの方が怖い。警戒だけは厳にせずにはいられなかった。従ってこの層でも“駆け抜ける”と言うよりは早歩き程度の速度で進む感じになった。
ミヅチは「確かにちょっと遅いけどかなり早く通り抜けられるようにはなってるよ」と言うがねぇ……。いつだったか最後に一緒に来た時はじりじりと一人づつ、合計で数分も掛けてゆっくりと通ってたんだぜ。それでも物凄い進歩なのは認めるけどさ。
いつもはおっかなびっくり壁に引っ付くようにしてそろそろと付いてくる感じなのだが、今回はそんなジンジャーやジェル達には構わずに全く速度は落とさずにいた。グィネが地図を見るそぶりだけ見せて「あそこの少し出っ張った壁から三mくらい手前に転移の罠があります」と言ってもそのまま壁沿いをすたすたと歩いて全くペースを変えなかった。
警戒のために振り向きたいが(特に罠の傍でもあるので万が一近くに猪が現れて突つかれでもして罠に掛かったら大変だ)、それすらも我慢した。こうでもしないと彼らは永遠にトラウマを抱えたままで転移の罠を越える度に真っ青な顔でじりじりとしか進めないままだろう。
ここで克服させれば同様のトラウマを抱えるメンバーにも何らかの影響を与えられるかも知れないと思ったのだ。
青くなって躙る様に進んでいるであろうジンジャーとジェルには見向きもせず、前を向いて歩くペースはそのままに「遅れる奴は置いて行く。無理なら戻れ。ここならまだすぐに五層に戻れるし、魔物もいない。走りゃ五分もかかんないだろ」と言い捨てて進んだ。何かを訴えようとするカームやミース、ロリックに対しても取り合うことはない。
すると、心配していたジンジャーもジェルも僅かに遅れただけで追い付いて来た。俺たちも歩いてるんだし、通路の端を歩けば罠に掛からずに通れるのは判ってるから当たり前なんだけどさ。だけど、以前日光に潜り込んでいた時と比較してものすごい進歩だ。大したもんだ。
まぁ良かったよ。
次からちゃんと警戒出来るからな。
しかし、調子良く進んでいたのは最初の三十分くらいで、その後は途中で二回も、いきなり現れたケイブボアーの突撃を受けた。一度目にケイブボアーが出現したのは正面だったのでミヅチの魔法の援護を受けつつ俺とズールーで仕留めた。しかし、二度目は後方からだった。その時最後尾に居たのはジェルとミースだったのだが、彼らの運は少しばかり良かったようだ。ケイブボアーが現れた瞬間、丁度ギベルティが彼らに軽食のバルドゥッキーを渡そうと振り向いていたところだったのだ。
驚きはしたが落ち着いて壁に張り付きながら「後ろっ!」と叫んだギベルティのおかげで、ミースを庇って猪の突進を捌いたジェルの働きもあってここでも誰一人傷を負うことなく切り抜けることが出来た。
大きなトラブルもなく、強敵のクアッドハンドエイプも部屋の主として登場することもないまま、中央の転移水晶の間に到着したのは午前十一時くらいだ。途中の部屋の主のケイブグレートボアーは俺とミヅチが生命感知で位置と数を部屋の外から探り、部屋に入って視認すると同時に攻撃魔術を使って足を傷つけることで全て対処出来た。
カーム達は俺もミヅチも恐ろしく勘が鋭いと思っているようだ。
加えて、六層の部屋の主クラスの魔石(大体一匹あたり十五万~二十五万Zくらいで売れる)をみすみす見逃していることにも未練があるように見える。当然ながら俺としても未練はある。全部回収したい。全部で百万Z以上になるだろうし……。
「三十分休憩だ。最後の休憩だからしっかり休んどけよ。ギベルティはバルドゥッキーだけ用意しとけ。ああ、フライパンに並べとくだけでいい」
全員黙って体を休めている。ギベルティも彼の背負子を預けていたズールーから背負子を受け取るとベルトの調整を始めた。今回は複数の怪我人も想定されるので彼も七層に行くのだ。運ぶ羽目になるのが怪我人だけとは限らないけどね。
勿論と言うべきか、黒黄玉の野営地はあの朝そのままの状態であった。
行き違いにはなっていないようだ。
・・・・・・・・・
「ここですね。やっと当たりです」
十七回目の転移で北側のモン部屋に通じる場所に転移することが出来た。
北側のモン部屋までは約六㎞。
この前転移して来た方へ行くには一度北側のモン部屋を突破しなくてはならないが、オーガメイジの部屋は壁沿いに移動することによって戦闘を行わずに通り抜けることが可能だ。
ここまで来て更に三十分。無駄に時間を消費したのは痛いが、転移運が悪いと北以外のいずれかのモン部屋を突破し、七層の転移水晶の間も通り抜け、更にもう一度北側のモン部屋を突破しなければならない。結果的には一番早い方法なのは確かだけど、どうにも気が焦るんだろうな。
「よし、俺を先頭に右後ろにズールー、左後ろがロリック、ズールーの右後ろがジェル、ロリックの左後ろがジンジャー、俺の後ろがグィネ、その後ろにギベルティだ。ギベルティの後ろにはカームとミース。最後尾にはミヅチが付け。間隔は五m。これを基本にする。行くぞ」
走り出して数分。
急に思い付いたことがある。
北側のモン部屋を越えて少し移動したらオーディブルグラマーの魔術で大きな音を立てながら進んだらどうだろう?
その音を通路のオーガが聞けば何事かと近づいて来るような気もする。黒黄玉がどこかで野営していたり、怪我を負って動けずに待機しているのであれば援軍に気が付くかも知れない。そうでなくとも黒黄玉からオーガの注意を背けられる可能性があるだけでも意義はあるだろう。
いきなり使って皆を驚かさないよう、移動を一時停止して皆にその旨を伝えたところ、ジェルとミースに反対された。その程度の事のために魔力を使わないでくれというのだ。オーガとの戦闘のために温存しておいて欲しいと希望された。逆にカームやジンジャー、ロリックは賛成してくれた。
「ジェル、ミース。まぁ見てなって。グリード君が自分で言うなら大丈夫でしょ」
「他の殺戮者を見なさい。平気な顔をしてるじゃない」
「……」
ジンジャーとカームが口を揃えて言い、ロリックは特に何も言わなかった。
「あんたたち、今までミーティングの時何を聞いていたの? 殺戮者の報告を聞いていたのなら気が付いてても良いはずよ?」
「そうだ。ラルも言ってたろ? グリード君の本気を見たことは無い、って」
な!? は? ふざけんな、今まで何見てやがった、あのクソガキ!
そんなに不真面目に、真剣じゃないように見えてたのか!?
本気で戦ったことは何度もあるぞ。日光に居た時だって最後のオーガメイジ相手の時は本気だった。あんときゃ殺戮者に怪我人も出てたし余裕かましてなんか居られなかった。いつだって俺は本気だったわ。
見たこともないような強力な魔術を連発したり、無鉄砲に飛び込んでいくことを本気だとでも思ってやがんのか、あの馬鹿は。本気と必死を履き違えるんじゃねぇ。そんなガキみてぇな考え無しじゃ出世しねぇぞ。死に物狂いで全力を出し、全身全霊を振り絞って戦うことが本気だとでも思ってるのなら一生兵隊だわ。
そりゃ俺だって必死になって戦った事だってあるさ。ヴァンパイアを塵にした時なんか必死も必死、全力全開の死に物狂いだったし、魔術に使った魔力量だって大盤振る舞いもいいとこだ。あれを後先考えずの大必死と言わずして何と言う、だ。
とは言え、又聞きだしな……。
ラルファもそこまで阿呆じゃないだろ。
全力と本気を取り違えでもしてるんじゃないかな。
なんたって『初台学園高校』らしいからなぁ。よく知らんけど。
必死になって全力を出し、全身全霊を振り絞って戦うなんて羽目にならないように脳味噌があるんだろうが。ガキの頃のホーンドベアーや、バルドゥックに来てからのヴァンパイア、そしてドゥゲイザー。あんなギリギリの戦闘なんか二度としたくない。……っつってもこの迷宮に潜り続けている限りこれからも似たような事態に陥る可能性はある。
迷宮の中でモンスターの奇襲を受けてパーティーが不利な状況に陥ったりすることだってあるだろう。それこそ予想もつかないような強力なモンスターや、大集団の襲撃を受けることだって考えられる。ジェルだろうがミヅチだろうが俺のパーティーのメンバーが危機に陥ったら、その時こそもう一度俺は必死になって全力を出し、全身全霊を振り絞って戦うだろう。
「どうしたの?」
俺は妙な顔付きでもしていたのだろう。ミヅチが声を掛けてきた。
「いや、なんでもない……」
「とにかく、ジェルもミースも反対は許さないわ。リーダーに従いなさい」
俺の顔に気が付いたのかどうなのか(多分関係ないと思う)カームがジェルとミースにピシャリと言った。うん、戦闘中じゃないから見落としてたけどここは普通ならいくら緊張してもおかしくない七層のど真ん中だ。
「七層は明るいから見通しもいいし、きちんと警戒していればそう簡単に奇襲を受ける形にはならないだろ。ミヅチは全周警戒を怠るな。行くぞ」
とだけ声を掛けて先へ急いだ。
・・・・・・・・・
北側のモン部屋も外周に沿って移動することで抜け、以前黒黄玉と出会った入り口まで移動した。
見た限り今のところ変わった部分はない。
モン部屋を抜ける時以外、急いで来たので時刻はお昼を少し過ぎた程度だ。
「飯は後だ。行くぞ」
モン部屋から荒れ地のような通路を百m以上進んだ辺りで森に入った。
森は百五十m位はあるはずだ。
多分この森のどこかにオーガが居る。
俺の生命感知に引っ掛かったら逃げられる訳はない。
感知した瞬間にオーガに向かって全力でダッシュし、ズールー以外誰も追いつかないうちに今までのように見敵必殺でぶっ殺した。
数が三匹を超えるなら魔法も使うが二匹以下なら銃剣で始末できる。
森を抜けたら草地が百m程続いている。
その先はまた森だ。
出来るだけ遠くの梢を目標に定め、オーディブルグラマーの魔術を使った。
七層の通路は幅がかなり広く、天井も非常に高いとは言え、結局はトンネル状だ。
魔法の音はかなり遠くまで届くのではないだろうか。
大きな破裂音が七層の通路に響き渡る。
オーディブルグラマーは五百mから一㎞おきで使えば充分だろう。
勘でしかないけど。
あと一㎞弱で黒黄玉が七層に転移して来た転移水晶への分かれ道に着けるだろう。
十分程で分かれ道に到着した。
ここまで特に変わったところはない。
出会ったオーガも全てぶっ殺した。
流石に金額が金額なのでオーガの魔石は惜しいが黒黄玉を救出なりしてからゆっくり戻って採取すれば良い。
恐らくだが、俺達と別れた黒黄玉は仲間の遺体を担いでいたし、モンスターへの用心もあるだろうから進行速度はいつもより遅いだろう。
ここまでモン部屋から二時間といったところではないだろうか。
グィネに声を掛け、確かにここが黒黄玉が転移してきた転移水晶に繋がる可能性が高いことを再確認する。
あの時、往路の道中で黒黄玉が倒したらしいオーガの死体はもう少しモン部屋寄りから発見したのだ。
この分かれ道の先で確認されている転移水晶は三箇所。
黒黄玉はそのどれかから転移して来たはずで、使った転移水晶を目指して進もうとしていたはずだ。
・・・・・・・・・
最初の分かれ道から二㎞弱進んだところで野営の跡を発見した。
通路の壁の傍にいい感じの岩がある場所だ。
あの日はここで一夜を明かしたのだろう。
人数も減り、遺体を抱えてモンスターを警戒しながら進んだらこんなもんか。
ここまでの道中に戦闘の跡は幾つかあったが、オーガの死体からは魔石が抜き取られていたのでオーガ同士の争いという訳でないのは確実だろう。
いや、オーガ同士が争っているのは見たこと無いから知らないけど。
ゴブリンをいたぶっているところしか見たこと無かったね。
黒黄玉の往路での戦闘なのか復路での戦闘なのかははっきりしない。
それから約一㎞。
この先二㎞程にモン部屋に一番近い、殺戮者としては超ラッキーな“当たり”の転移水晶への分かれ道に差し掛かった。
流石に近過ぎるので「ここは無いだろう」と思うが、復路で黒黄玉が全滅していたのならアリだ。
確認せねばなるまい。
転移水晶があるはずの場所まで(俺達が使った訳ではないので見えないし触れない)慎重に調査をしたがオーガとゴブリンをぶっ殺しただけで終わった。
この先は行き止まりが数箇所あるだけだ。
先ほどの分かれ道までダッシュで戻ると更に先へ進む。
道中に幾つか分かれ道があるがその先は全て行き止まりだ。
失意の中、遺体を抱えて地上に戻る最中に未知へと続く分かれ道の先の調査はしないだろうと思われた。
それらの分かれ道は全て無視し、また二㎞程を走る。
勿論定期的にオーディブルグラマーを使ってもいるし、ミヅチやグィネに使わせても居る。
彼女たちが魔術を使う精神集中の時間が休憩時間だ。
そしてまた転移水晶への分かれ道に差し掛かった。
その転移水晶はここから一.五㎞程。
ここも“当たり”に近い良い場所だ。
分かれ道からの道中に異常は見付からなかった。
戻って百m程先に進んだ辺りでまた野営の跡を見つけた。
驚いたことに血を吐いた跡があった。
あまり進んでいないと思ったが、追加の怪我人も出たようだ。
復活したオーガとの戦闘で傷ついたのか。
誰だかは判らないが、アンダーセンやカーク、ロールにマリンと言った魔術の使い手でも癒せない大怪我のようだなぁ。
戦闘したのなら攻撃魔術も使ったろうし、回復するまで時間も掛かるだろう。
担ぐにしてもこの分だと移動速度は相当に遅くなるな。
道中の戦闘の跡にはまだ真新しいオーガの死体も混じり始めている。
相当頑張っていたらしい。
そしてまた三㎞程進んだ先にも野営の跡を発見した。
これで一昨日の晩までは生きていたことは確実だ。
大荷物であるロットの遺体を抱えて警戒しながらなんとかここまで辿り着いたのだろう。
戦闘の度に休息を取って魔力を回復させていたのかも知れない。
ここで蕎麦がきとバルドゥッキーで少し遅い昼食を手早く済ませた。
俺の想像以上に遅々とした歩みだった。
モン部屋で苦戦したばかりでなく、復路で復活を始めたオーガにも苦戦しているから相当に警戒心が高まっていることを感じさせる。
グィネによると最終候補の転移水晶まではあと七㎞。
彼らはあの日の朝五時前に七層へ向けて出発している。
七層と八層を通り抜け、二周目に入った俺達と出会ったのが夕方頃。
往路でのオーガとの戦闘が順調で、モン部屋まで分かれ道にも引っ掛からず調子良く進んでいたのであればやはり彼らの転移水晶は最終候補地だろうな。
移動速度も遅いし、もう一晩は必要かも知れない。
「この分ならボロボロだろうけど生きてそうね」
「そうでないと困る。依頼料が掛かってるんだ」
ミースとジェルがそんな事を言っているが、真剣な目つきで周囲の警戒を怠ってはいない。
「全く……お金はともかく、生きてた方がいいに決まってるでしょう?」
ロリックが呆れたような声で突っ込むが、冗談だと思っているようだ。
「何お人好しなことを言ってるの。七層まで来れるような実力があるのよ。死んでる方が助かる……だけどそうなると依頼料減額かぁ……」
ジンジャーが困ったような声でぼやいた。
「無駄口を叩かないで。さぁ、あと一息。行くわよ」
そんな皆をミヅチが叱咤する。
四㎞程進んだところでまた野営の跡を発見した。
これで昨晩まで生きていたことは確実だろう。
ここまでの道中、数度の戦闘を経ているようで血が乾いている程度で腐敗し始めていない死体になっている。
「あと三㎞程のはずです。急ぎましょう」
グィネの言葉を受け、全員が走る。
そして、途中の森を抜ける頃、先頭を行く俺の生命感知に生命反応が感知された。
数は二。
距離はMPを注ぎ込んで(それでも本来よりは少ないけど)倍に延長しているため二百m程先だ。
もう一度連続で使ってみるとこちらに向かって移動しているようだ。
【部隊編成】と違って使い勝手良くないんだよな。
オーガだろうか。
やはりそうだ。
鬱蒼と茂る森の中から飛び出してくる。
ほぼ同時に俺も森が開けた先に広がる腰くらいまでの高さの草が生える草原のような場所に飛び出す。
二匹のオーガがこちらを目指してどすどすと走って来るのが見えた。
一匹をストーンアーバレストミサイルで仕留める。
もう一発、と思ったところで俺の脇をストーンアーバレストが飛翔していった。
回避しようとするオーガに向けて僅かに軌道がずれた気がした。
俺と同じストーンアーバレストミサイルだ。
ミヅチだな。
そう思った瞬間に一度だけ振り返って「急げ!」と叫び、全速力のダッシュを始めた。
あのオーガは偵察だろう。
オーディブルグラマーに気が付いて様子でも見に来たのか。
最悪だ。
黒黄玉との間にオーガが居るって事は……。
最善の状況だとしても……。
いや、今は考えるのは止せ。
一秒でも早く急ぐべきだ。
倒れたオーガの脇を駆け抜ける。
急げ。
草原を駆け抜け、その先の森に入った。
すぐに生命感知を使う。
予想通り反応があった。
数は十一。
距離は百mちょっと先。
ロットが死んでいるはずだから黒黄玉の生き残りは七人の筈だ。
まだ間に合うか!?
「助けに来たぞっ!」
腹の底から声を上げる。
聞こえていたのならいいんだが。
「「……おっ!」」
「……ぁぁっ!」
「……けてっ!」
よし。




