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男なら一国一城の主を目指さなきゃね  作者: 三度笠
第二部 冒険者時代 -少年期~青年期-

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第百九十一話 予定は未定

7446年9月4日


 さて、この休みは色々あったが気を取り直して今日からまた迷宮だ。切り替えていこう。


 しかし、あのお嬢さんのお陰で俺たちも昨日は結構考えさせられた。でも結局纏まらなかったんだよなぁ。大きく分けて目先の方針が二つに割れちゃったのだ。


 ①案はとにかく全員で一丸となり十三層(多分)の最奥まで到達し、このバルドゥックの迷宮に対して一区切りつける事。


 対して②案は今の九層到達自体が前人未到の偉業であることに違いはないので取り急ぎ九層の地図を作り、その後の時間を稼ぐ事。九層の地図がある程度完成したらグィネに貴族であるトリスかロリック、必要ならゼノムとラルファを始めとして虐殺者ブッチャーズ根絶者エクスターミネーターズ、又は新たに戦闘奴隷を購入して護衛として付け、ダート平原近傍の地図を作成させる。場合によってはミヅチを付けてもいい。


 ①案の方は単純だ。頑張って迷宮の最奥部にまで到達するくらいになれば自然とお宝も集まるだろうって寸法で、最終的にはそれらを売り払って資金を作るなりしようってことだ。正直今までと大きく変わるところはない。


 メリットは目標が単純明快であり誰にでも解り易いという点。それと十三層の最奥部到達の証のような物が得られるのであれば一定の箔が付くことだ。これには運の要素が強いお宝とは関係なく得られる可能性が高いという点も考慮に値する。また、最初から最後まで全員一緒になって行動が可能であることも見逃せない。そして、最大に考慮すべきことではあるが、迷宮内でモンスターを相手に戦闘を繰り返すことによる殺戮者スローターズ全員の肉体的なレベルアップが望めること。


 デメリットは十三層到達というのは未知の危険に挑むことになり、場合によっては死者が出る可能性があること。そしてどの程度時間が掛かるのか想像出来ない事だが、この点に限って言えばせいぜい二年から三年、どんなに長くても四年だろうと予想されている。


 理由はバルドゥックに俺が来てから四年程で八層を突破し九層にまで足を踏み入れていることだ。これから先、踏破の難度が上昇する可能性もあることを考慮しても、いいところで倍の時間を見ておけば充分だろうという考えである。


 まぁ、四年経っても転生者である俺たちの年齢は二十二歳。充分に若い。俺としても当初の考えでは三十前に金の目処はつけたいと考えていたこともあり、今のペースはそれを大幅に上回っていることも確かだ。このまま進むのもあながち悪い選択ではなかろう。


 そして、②案。こちらはある意味で方針転換を行うとも言える。方針転換と言うよりは予定された行動の一部前倒しだな。俺の腹案としても今まで全く無かった訳じゃない。


 今回、政略目的かどうかまでは正確に判断を下せないが、国王の庶子が自分を娶ってくれと俺のところに来た。あのお嬢様みたいな奴がこれから増えることも考えられるために浮上してきた案だ。


 あくまで自分の意思で会いに来たと言う庶子はともかく、正式な王女やどっかの貴族の娘(庶子だろうとそうでなかろうと)が親などを通じてちゃんと面会を求めて来たらそう簡単には拒めない。時間を稼いで面談を引き伸ばすにしても半月くらいがせいぜいではないだろうか。


 つまり、面談の場において妙ちくりんな条件だの、ダート平原も含めて将来の領地はどの場所がいいかだの聞かれて、(可能性は低いだろうけど)即答を求められたとしても予め情報を収集しているのとしていないのとでは天地の差だ。これは俺の希望が通るとか通らないとかではなく“その状況において最適の答えを返せるか”という点で重要となる。


 国境を巡っての紛争の状況についてもその目で直接目の当たりにする事も大きな意味があるだろう。ロリックは実戦に出たこともあるのである程度の状況は知っていたが、初陣で興奮状態であったこともあり、正確性に欠けるし、目の前のことしか覚えていなかった。


 姉ちゃんに聞いた内容でも大体のことは掴めたつもりではいるが結局のところ「あんたなら何とでも出来るでしょうね」という、なんだか良く分からない答えに落ち着いてしまっている。意図的に隠されている可能性も否めない。


 これについては仕方のないことだ。俺だって生前、自衛隊の防衛機密にでも触れることがあれば例え親兄弟にも話さなかったろう。大した機密になんか触れてないけど。小銃に始まる武器弾薬の管理やなんや細かい機密とも言えないような機密は結構あった。同じ中隊で扱っていた迫撃砲の有効射程や射撃間隔なんか口が裂けても言えない。海自さんの艦艇勤務なんかどこに行ったのかすら言えないらしいし、中でも潜水艦勤務は性能要目・乗員の配置・勤務実態は当然として出航や帰港予定日も告げられないそうだ。


 余談はさておいて、早期に領地候補となる地域やその周辺の情報を収集出来るメリットは大きい。


 しかしながら、正確な迷宮の地図が途中までしか作れない。このデメリットもまた無視し得ない大きなものだ。とは言え、見方を変えるとこれ以上奥に進むことを止め、ある程度状況を掴んでいる九層までの祭壇の部屋中心の探索に切り替えられると言うことでもある。


 九層までのほぼ完璧な地図を持って、そこそこ安全に勝手の知れたモンスターを相手に戦えばいい。勿論九層までだって全く未知のモンスターくらい居るだろうが、それでも新しい階層に行くよりは出会う可能性の劇的な低下は見込めるし安全だろう。


 また、更なるデメリットはミヅチ論による「深部であるほど得られるお宝の価値は高くなっていく」という事に反する。と言っても、九層で得られる程度のお宝でも充分にいい値段なんだけど。


 総合的に言って②案は①案の一部前倒しと言えなくもない。ある程度長期間(一年間程だろうか)別行動になってしまうが、得られるものはそれに見合った物になる可能性が高い。だが同時に金を稼ぐことに時間が掛かると情報は陳腐化することもある。各村落や街の人口や産業、耕地面積が予想を超えて大きく変動することはないだろうが、国境線が変わってしまうことは充分に考えられてしかるべき問題だからだ。


 どちらにせよすぐにどうなるものでもない。②案にしたって俺のところにある程度でも情報が齎されるのは最低でも半年は必要だろう。手紙が途中で失われるリスクを考慮するとグィネの護衛から専用の連絡役を割く必要もある。準備には相応の時間が予想される。


 とにかく、それも今回の迷宮行が終わるまでに決めることにしている。対応の幅が拡がるのは②案の方ではあるが、このまま行く①案だって捨てがたい。タングステンなんか九層に来て初めて見つかったのだ。ミヅチ理論が正しいのであればもっと深く潜ればオリハルコンだって……。それにもっと貴重な魔法の品(マジック・アイテム)だって得られるかも知れない。


 こんなことを考えながらエンゲラと二人、黙々と三層へと進んだ。




・・・・・・・・・




7446年9月5日


 六層の転移水晶の部屋に到着した。すると、丁度黒黄玉(ブラック・トパーズ)の連中が野営キャンプを張っていた。既に数日を過ごしているような雰囲気だ。昨日も三層で他のパーティーと一晩同じ部屋で過ごしていたので今日から周囲に気兼ねせずに過ごせると思っていただけに、俺たちは少し落胆したがこればかりはどうしようもない。


 それに、五層の部屋には新たな野営キャンプの跡もあったのだ。

 そちらの方は煉獄の炎(ゲヘナ・フレア)だろうか。


「シャワーはありがたく使わせてもらっているわ」


 アンダーセンの姐ちゃんが野営の準備を始めた俺たちのところまで来て礼を言った。

 俺はシャワーを浴びたばかりで鎧下だけの楽な格好になっている。

 俺の鎧下はゴムベルトと擦れて所々黒く汚れているので少し格好が良くない。

 今までは白いキルトで作っていたが、今度からもっと暗い色にしよう。


「どうぞ、気兼ねなくお使いください。壊さず、優先権は我々にあると認めて下されば結構ですよ」


「それは勿論。ところで、七層はずっと明るいままなの? どこかで洞穴になったりはしないの? ロベルト(ロベルト・ヴィルハイマー)は洞穴は無いようだと言ってるけど」


「……」


 最後だけ洞穴だよ。

 アンダーセンは少し不愉快そうな顔で俺を見たあと軽くため息を吐いて言葉を続けた。


「もう、それくらい教えてくれてもいいじゃない」


 まぁ、いいか。アイスモンスターの注意を受けたこともあるしな。


「最後だけ洞穴になりますが、僅かなものです」


「魔物の部屋は?」


「ありますよ。多分、行ってみればすぐに解ります」


 四つだけだけど。それに部屋と言うにはでかすぎるけど。


「そう、ありがと」


「どういたしまして」


 俺たちもだが、黒黄玉ブラック・トパーズもそれなりに食事には気を使っているようだ。野菜を炒める音が聞こえてくる。




・・・・・・・・・




7446年9月6日


 黒黄玉ブラック・トパーズは俺たちよりも精力的に働いているようだ。俺が朝五時に目が覚めた時には既に全員朝食を終え、七層へと転移した後だった。


「さて、今日も七層八層を二往復だ。皆、しっかり食っとけよ」


 炒り卵と肉野菜炒めを副食に、カリッと焼いたベーコンをマヨネーズを塗った白パンに乗せ、スープで腹に詰め込んでおく。


 そして、装備を確認し六時前には俺たちもギベルティを残して七層へと転移した。


 今回も七層と八層は順調に通り抜けられた。八層の最後の祭壇付きのモン部屋では上品な腕時計の魔道具のおまけ付きだった。


【時計】

【金・銀・サファイア・ルビー・エメラルド】

【状態:良好】

【加工日:6/9/7446】

【価値:1100000】

【耐久:45】

【性能:誤差なし;0.1価値/1日;1価値/使用】

【効果:極小サイズの魔石によって駆動する時計であり、魔石の魔力が切れても再度魔力の宿った魔石と入れ替えればまた正確な時を刻む。また、使用には魔石を入れてから一日以上が経過する必要がある】


 価値やデザインを除けば書いてあることもごくありふれた時計の魔道具だ。迷宮内で手に入る中でも人気が高い品の一つである。勿論文字盤なんか無く、装飾品としても非常に価値は高いので貴族なんかがこぞって購入する。時計工房で作られる魔道具ではまだここまで小型のものは作れない。目覚まし時計より少し大きなものがせいぜいだ。


 ああ勿論、確かに素晴らしい装飾品だが、俺の目から見るとごつい。一昔前、九十年代の携帯電話の半分位の体積がある。それに適当なベルトを付けて腕に装着して使うのだ。ひょっとしたら腕時計という使い方は想定されていないのかもな。ブローチとか懐中時計じゃないかね?


 また先ほど、時計工房と言ったが、その技術は門外不出とされている。が、別に難しくない。魔石とそれを囲む金属部、そこに刻まれる紋様のような回路だけが本体で、材料さえあれば誰でも作れる。ただ、金属部の材質や回路の刻み方で全体のサイズや魔石の消費量が変わったりするあたりがノウハウらしい。


 因みに、俺たちの使っている目覚まし時計サイズの時計は一日で四も魔石の価値を消費し、使用毎に三十もの価値を消費する。ランニングコストで四十倍、使用コストで三十倍だ。この価値は【鑑定】での価値なのでZに換算したら大変なことになる。上記の魔道具の消費量とは雲泥の差だ。あの消費量は実家にある柱時計サイズのものくらいの消費量である。一日に四~五回時間を見ると仮定して六~七個を結合した極小サイズのゴブリンの魔石(価値はだいたい千くらいだ)で半年くらい使える勘定だ。


 思わぬお小遣いを稼げたのでホクホク顔でまた六層に戻った。いつもバストラルばっかりお味噌にも出来ないので、今回はゼノムにゆっくりと休んで貰うことにした。飯は弁当になるがゆっくりと骨休めでもしてくれ。


 六層に戻り、ギベルティが用意しておいてくれたサンドイッチの昼食を摂ると再び七層へ足を踏み入れる。


「ん~、ここですね」


 グィネがすぐに地図上の一点を指差す。北側のモン部屋に続く場所だ。


「あら、結構いい場所ね。朝は南だったから丁度いいね」

「そうだな。ここなら抜けるのに三時間も掛からないんじゃないか?」


 それを見たベルとトリスが少し嬉しそうに言う。北側のオーガメイジの集団も平らげてひと稼ぎ出来るし、全くだね。


「じゃあ、ちゃっちゃと行こうよ!」


 ラルファが元気よく言った。うし。


「んじゃ行くぞ。傘型弐番ウェッジ・ツー。三十分交代だ。まずミヅチが先頭な」


 ギベルティのみ傘の中心に置いて全員が持ち場についた。




・・・・・・・・・




「くそ。黒黄玉ブラック・トパーズかな?」

「そうでしょうね……」

「ふむ……魔石は採り慣れていないようですね」


 先頭を歩いていたトリスが一匹のオーガの死体を発見した。

 頷くミヅチも刺さって折れている矢を引き抜いて鏃を観察している。

 ズールーに言わせると魔石の採り方がぎこちないらしい。


「モン部屋まであと一㎞もないですよ、ここ」


 グィネが少し頭を傾けながら言う。


「オーガメイジのモン部屋かぁ。大丈夫かねぇ?」


 ラルファがニヤついて言うが、知るかよ。


黒黄玉ブラック・トパーズ日光サン・レイより強力だと言われてたし……」


 ベルが言うが、それでも初見でオーガメイジは相当なものだろう。


「ま、他人ひと他人ひと、ウチはウチだ。いつも通り用心しながら進もう。この先に黒黄玉ブラック・トパーズが居るならオーガは掃除しておいてくれてるだろうし、追いつけるかもな」


 そう言って皆を促し、再び歩き出した。


 ……。


 …………。


 そして二十分程。

 最初のオーガ以外、今までに二匹のオーガの死体を二回見掛けている。

 お陰で時間を取られずに進んでくることが出来た。


 そして北側のモン部屋の手前で休息を取っている黒黄玉ブラック・トパーズと遭遇する。


 近づいてきた俺たちを見て、慌てて装備を確認している様子が見える。


 まぁ、モン部屋は早い者勝ちだからな。

 遅れて来た俺たちに先に行かせたくはないのだろう。

 パーティーの誰か一人でも部屋に一歩、足を踏み入れさせれば権利を主張できる。


「悪いわね。私たちは今からここに行くわ」


 アンダーセンがそう言うが、当然の権利だ。


「勿論、どうぞ。その間我々はここで一休みさせて貰います」


 黒黄玉ブラック・トパーズから一人先行してちょっとだけ部屋に足を踏み入れている獅人族ライオス戦斧バトルアックス使い、バール(バルテイネス・ゾム)が不安げな顔をしてこちらを窺っている。


 誰もいちゃもんつけて先に行かせろなんて言わないよ。そんなせこい真似するか。


「お気をつけて」


「ありがと」


 ここは気持ちよく譲ってやるさ。

 部屋に向かっていく黒黄玉ブラック・トパーズの後ろ姿を見送ると、豆茶を淹れた。


「森が邪魔で観戦出来ないね」

「ちょっと見てみたかったな」


 グィネとラルファが石に腰掛けてのんきに話していた。


「以前……五層だったっけ? フロストリザードと戦ってるのを見たことはあるけど、やっぱり実力は高かったな」

「そうですね、ズールー様と一緒のライオス、バールと言いましたっけ。彼もなかなかの働きをしていましたね」


 ズールーとエンゲラも何やら話している。あの時ギベルティも確か居たな。でもギベルティは戦闘のことはよく解らないようで、おとなしく座っていた。まぁ大荷物だし、それなりに疲労もしているだろう。


「私は見たことないから見てみたかった」

「あ、ミヅチさん。私もですよ。見てみたかったなぁ」


 ミヅチとバストラルは居なかったんだっけ。


「やっぱ連携とか良かったですよ」

「アンダーセンさんのクロスボウの腕もなかなかだったわ」


 七層のモン部屋の直径は五百mと広い。初めてらしいから接敵するまでに用心してかなり時間も掛けるだろう。


 黒黄玉ブラック・トパーズの対魔術戦闘を見てみたい気持ちもあるが、ここは一休みするか。


 

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