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男なら一国一城の主を目指さなきゃね  作者: 三度笠
第二部 冒険者時代 -少年期~青年期-

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第百四十六話 商売(下準備)

7445年9月2日


 日付が変わった頃に迷宮を出たミヅチと俺は、馬を預けていた宿に戻るとそのまま朝まで眠った。まだ二人共若いし、健康な肉体を持っているから一晩くらいの徹夜など問題ないが、当然ながら睡眠を欲しない訳ではない。単に眠いし、急いでボイル亭まで行かなきゃいけない理由もないから面倒なのでそのまま寝ただけだ。


 夜明け過ぎに起きると宿をチェックアウトして、ボイル亭に戻った。四時間程度だがしっかりと眠ったので行動に支障はない。宿に戻ったら皆はすでにランニングに出掛けた後らしい。どれ、俺たちも走るか。少し面倒臭そうな顔つきでいたミヅチを促してプロテクターを身につけ、ウェイトを詰めたリュックサックを背負うと走り始めた。高レベルに伴う能力値のせいか、単に何年も走ってきたために慣れていて基礎体力が異なるだけなのか、ウェイトを背負って負荷を高めないとミヅチを始めとした皆をすぐに引き離してしまう。


 宿に戻ると、虐殺者(ブッチャーズ)ともうすぐ(スーナー)に出向する四人(ズールーとエンゲラの二人は宿が異なるのでまだ合流前なのだろう)は既に装備を整えてボイル亭の前に集合していた。迷宮には入らないグィネとバストラルも装備は身につけていないが、その場には居た。トリス、ベル、ラルファを前にしたゼノムが「今日も気を抜かずにしっかりとな」みたいなことを言っているようだ。


 そこに走り終えて息を切らせた俺達二人が戻ってきた。


「おう、アル、ミヅチ。おはよう」


 ゼノムがいち早く俺に気付いて声を掛けてくれた。ぜぇぜぇ言いながらそれに返答し、膝に手をつく俺とミヅチを見て、皆も挨拶をしてくれた。息を整えた俺がバストラルに声を掛けようとしたが、咳き込んでしまった。その間にミヅチも挨拶を返すとグィネに声を掛けた。


「昨日はどうだったの?」


「いやあ~、結構いいお酒も出してくれましたし、お肉も美味しかったです。やっぱり煉獄の炎(ゲヘナ・フレア)のパーティーは面白いですねぇ」


 グィネは笑顔で答えていた。そりゃだってお前、アイドルみたいにちやほやされてるしな。楽しく無いわけないだろう。


「それに、ガルンさん、優しいし格好いいし、憧れますよねぇ~」


 ああそうかい、そのうちお前にも鞘をねだられるような気がしてならないよ、俺ぁ。


 そんな二人を横目に俺はバストラルに声を掛ける。


「バストラル、今日なんか予定あるか?」


「いえ、いつもとあんまり変わりありません。キャシーやラリーと挽き肉機の……」


「ああ、それ、挽き肉機な。申し訳ないが時間切れだ。済まないな。材料さえあれば今日中にはロールを作ってやる。必要ならついでにナイフとプレートもな。真鍮鉱か白銅鉱を持って来い。そんなに高くないだろうから材料費くらい手前で出せ」


 真鍮(黄銅)も白銅も、ついでに青銅も全て鉱石として存在している。なお、黄銅とは真鍮のことであり、日本人に身近なものだと五円玉の材料だ。一般的に言う黄銅鉱とは異なる。将来の薬莢の第一候補でもある。ミュンの持っていた腕輪が真鍮製だったので合金を作れるのかと思っていた。キールに行った時に鍛冶屋で聞いてみたら、普通に鉱石を精錬して取り出せると言われて少し驚いたこともある。


 これを知った時になるほどとも思ったものだ。え? オースの合金に関する製造冶金技術の低さにだよ。だって、多くの金属が鉱石の形で存在するから採鉱冶金しか発展していないようなものだ。俺の剣の材料となった特殊鋼の鉱石だって探せばあるかも知れないと思っているくらいだ。まぁ、メジャーにはなっていないようだから有るにしてもほんの僅かだろうけど。


 行き詰っていたのだろう、喜んで笑うバストラルに微笑み掛け、息をつくと汗を流すために宿に入った。


 喜ぶなよ……少し位は悔しがってくれよ。ああ、真鍮で何か作れるって事は管楽器なんかも作れる可能性があるから喜んだのかも知れない。あいつ、音楽が好きだからなぁ。流石に楽器は作らねぇけど。しかし、ロールだって工夫すれば作れたと思うぞ。ねじ(スクリュー)自体はあるんだしな。挽き肉機に使うロールはピッチ間隔が一定じゃ使いにくいから、特注で作らせるか、最悪、サンプルとして木を削って作ったって良いんだし。その位の時間はあったと思うけどな。必要があって出来るのにやらない、という事は理解出来ない。やらないなら必要無かったんじゃねぇの? とすら思ってしまう。失敗したっていいじゃん。やろうぜ。




・・・・・・・・・




 バストラルは午前中のうちに真鍮鉱を鍛冶屋から買って来た。銀貨二十枚で買えた真鍮鉱は二十㎏もある。ここから真鍮を取り出したら半分くらいの重量だろうか。部屋の床にでかい桶を置き、その中に真鍮鉱を入れると「トランスミュート・ロック・トゥ・マッド」の魔術を使って泥のようにする。かなり慣れて来ているとはいえ、未だ一時間くらい掛かるし、その間ずっと集中し続けていなければいけないからクタクタだ。また汗かいちゃったよ。おまけに少し鼻血まで出てた。発動までに一時間単位での集中をするような魔術の時は大抵出るんだよね。ああ、別に珍しいことじゃない。他の人も大抵そうだよ。


 そしてすぐに水魔法を使い水も混ぜると無魔法を使って真鍮だけを選別する。選別する過程で整形も行い、回転ナイフ、プレート、ロールを作り上げた。無魔法の段階になると集中も一秒とかで済むから途端に楽になる。ついでだ。材料もあるし、ボディとハンドルも作ってやるか。あと、好みの大きさに穴が開けられるように穴を開けていないプレートや、万力、ロール受けのネジなんかも余った材料で作ってやった。


 そんな俺の様子を見ていたバストラルは申し訳無さそうな顔をしてはいたものの、部品を渡してやると輝くような笑顔を見せた。


「部品のサイズはぴったり合う筈だ……机に固定するための万力もおまけで作った。肉をあんまり詰めると本体の後ろのロールとハンドルの接続部の隙間に詰まっちゃうから注意しろよ。まぁ、普通に使ってる分にはロールで押し出されるから詰まったりはしないと思うけどな」


 嬉しそうに組み立て、ハンドルをくるくる回したりしているバストラルに声を掛け、ちょっと真剣にある程度の大きな商売にすることを相談した。


「それだと、これ一つじゃあ足りないでしょうね……」


「そりゃそうだろう。だけど、見てたから判ると思うけど、流石にもう嫌だぞ。それが有るんだから何とかしろ」


「はい」


「んじゃちっとシャワー浴びてくるわ。今晩はまともなソーセージを食わせてくれ」


「任せて下さい!」


「おう」


 シャワーを浴びてさっぱりとした俺は部屋に戻ると一息入れながらバストラルと相談を重ねた。仕入れルートなどは既に確認済みらしい。早急に商品化を行い、試験販売をバルドゥックで行う。試験販売時の製造と販売はキャシーにやらせる事になった。


 バストラルはこのためにキャシーに算数を教え込んでいたらしい。ふーん。だが、売れ始めたらとても一人では間に合わないだろう。


「私だと商会の免状を取ろうにもどのくらいの時間が掛かるかわかったもんじゃありません。それに、ボーナスの率も上がったとは言え、何人も奴隷を買えませんし、食わせなきゃいけません。仕入れのお金の問題もある上に、何より製造や販売の拠点がありません。グリード商会を使わせて下さい」


「うん、そのつもりだった。利益が上がるようになったらお前が六割、商会に四割でどうだ?」


「え? そんなに!?」


「あ、いや、正確にはキャシーが六割だな。それを彼女の給料にしたらいい」


 バストラルは驚いて大きな声を出した。うん。まぁいいよ。俺としてはお前に投資するようなもんだ。


 当面は利益なんか出る訳無いから別にいい。取り分が多ければ一生懸命にやるだろうし、それで奴隷を育ててくれる方がずっとでかい。


「最初は部屋で作って、広場で行商でもいいだろ。評判を調べたりどのくらいの価格が適正か判断するのに一週間くらいか? 行けるようなら店も買うなり借りるなりするし、王都に工場や店も作らせる。どのくらいの元手が必要か調査するなり考えるなりして俺にプレゼンしろ。納得すりゃ全額出してやるさ」


「分かりました!」


「ああ、それから暇があるなら王都まで行って来い。ロズラルに工場の調査をやらせてるから」


「明日にでも早速行ってみます」


 頑張れよ。




・・・・・・・・・




「おう! これが……」

「ああ、これは……」

「美味しいですっ!」


 ゼノムとズールー、エンゲラが迷宮から戻った時に試作品のソーセージを食わせてやった。燻製もせず(時間がなくて出来ず)、挽き肉を塩や香草、胡椒などで味付けしただけの物をボイルして軽く焼き目をつけただけだ。味の調整も必要だろうしまだ完成品とは言えないだろ。だが、かなり完成度は上がっている。パキッと言う歯ごたえも良い上に単なるみじん切りではないちゃんとした挽き肉になっているから食感も良い。


 勿論他のメンバーも一本づつ食べて喜んでいたようだ。


「もう無いの?」


 ラルファがおかわりをねだって来たが無いものは無いのだ。っつーか、どうせ言われるだろうと思って用意した数は人数分にしておいた。そうしないと皆ここでソーセージ食っちゃって今日迷宮に入ったパーティーと飯に行かなくなっちゃうからな。ってかごめんな、皆。


「すみません、ラルさん。まだ試作品なのでそれしか無いんです」


 バストラルはキャシーと一緒にラルファに頭を下げていた。流石に謝られてはラルファも諦めざるを得なかったようで残念そうな顔つきだった。ほれ、味見したんだからさっさとシャワー浴びてもうすぐ(スーナー)の連中と晩飯食いに行けや。


「じゃあ、俺達はムローワに行こうか」


 ミヅチ、グィネ、バストラル夫妻に声を掛け、さっさと歩き出した。


 当然ながら試作品はバストラル夫妻だけで作ったのではない。ギベルティも一緒になって作ったのだ。そして、ギベルティはここには居ない。今頃はムローワで何かを燻してるはずだ。あと、俺とミヅチとグィネの三人は昼過ぎからカラシナを取りに行っていた。マスタードも売っていることは売っているが、やっぱりさ、日本人はつ~んと鼻に抜ける辛子でしょ。


 今夜は美味しいソーセージを腹いっぱい食える。楽しみだなぁ。

 ああ、皆には明日の朝迷宮に行く時にホットドッグでもちゃんと人数分以上に持たせてやるさ。

 冷めちゃうのは勘弁な。不満があるならラルファかベルに火でも出して貰ってくれ。




・・・・・・・・・




7445年9月6日


 うーん、悩んでも仕方ないし、素直そうなこいつとあいつでいいか。


「それじゃあロンスライルさん、この子とあの子にします。お幾らです?」


「グリード様にはつい先日儲けさせて頂きましたからね。一人百万でどうです?」


 あら、幾ら何でもそれじゃあ殆ど儲からないだろ。


「随分とお安いですね。まぁ戦闘奴隷とは桁も違うのは解りますが……まだ何人か買うかも知れませんが、その時もお願いしますね」


「ええ、勿論です。良いんですのよ。一般奴隷くらいは勉強致しますわ」


 って、マダムもやり手だな。元々安くて利幅の少ない一般奴隷はツーペイで良いってことか。高価な戦闘奴隷で儲けようってことね。まぁいいさ。ソーセージの商売が軌道に乗ればもっと沢山買うんだしね。そっちも安くしてくれるんだろうな?


 痩せっぽちの十一歳の子供の奴隷を二人、それぞれ百万Zで購入した。王都の潰れそうな商家の奴隷の子と、同じく王都で経営の傾いている商店の奴隷の子らしい。二人共生まれながらの奴隷なので再教育の必要は無いそうだ。


 金を払い、販売証明を受け取るとその足で神社に行って命名の儀式をして貰った。


 ジョン・クレイン レベル三 普人族 男性


 テリー・ホワイツ レベル三 普人族 男性


 女の子でも良かったが、もっと年上で価格の高いのしか居なかった。ハウスキーパーやメイドを買う訳じゃないし、肉の仕込みはそこそこ重い荷物も運ぶ。将来は力がつきそうな男の子にしただけだ。


 儀式が終わりグリード家の所有奴隷となった二人を連れて喫茶店代わりの飯屋に入った。適当にサンドイッチ類と豆茶を頼み、食わせてやった。


「いいか、最初に言っておくが、俺の本業は冒険者だ。普段は迷宮に入っている。お前たちには食い物の商売の手伝いをさせるからあんまり俺と会うことはないだろう。普段はキャサリン・バストラルって自由民の姉ちゃんにお前らの面倒を見させる。いいな?」


「「解りました、ご主人様」」


 良い返事だ。


「仕事はすぐに忙しくなると思う。だから体力は大切だ。遠慮しないでしっかり食え。宿とメシ代は全部俺が持つから心配しなくていい。お前たちはまだ子供だし、体も小さいから宿は一部屋を二人で使え。寝台は二つ用意させる。喧嘩するなよ。あと、給金は最初は月に六千Zだ。使うなり貯めるなり好きにしろ」


「「! 解りました、ご主人様」」


「食ったな、じゃあ取り敢えず身の回りのものを買うから付いて来い」


 食事の代金を支払い、店を出てボイル亭に向かった。


「ミヅチ、身の回りの物を揃えてやってくれ。俺はシューニーまで行って宿を用意しておくから。買ったらここに戻ってくれ」


「ん、わかった」


 ミヅチはそう言うと二人と目線を合わせるように腰を落として「二人共、名前を教えて。私はミヅェーリット・チズマグロル。ミヅチか奥様って呼んで。宜しくね」と言ってにっこりと笑った。……もういちいち突っ込む気も起きねぇよ。勝手にしろ。


 奴隷二人をミヅチに押し付けるとシューニーまで行ってギベルティの隣の部屋にベッドを二つ用意するように交渉し、二人で一晩三千Zにまでまけさせた。ボイル亭に戻るとほぼ同時にミヅチも二人を連れて帰ってきた。ちゃんと新しい清潔な服も用意したようだ。下着類やタオルなんかもある。うん、食い物を扱わせるんだから清潔さは大切だ。


「キャシー、明日からこの子たちに色々教えてやってくれ。頼んだぞ」


「はい、グリード様、じゃなかったグリードさん。お任せ下さい」


 キャシーはそう言うとミヅチと同様に二人と目線の高さを合わせて挨拶をした。


 その日の晩、皆で飯を食っている時にギベルティが「お前ら、ロンベルティアの出身か。いいなぁ。ご主人様のご商売がうまく行ったら、多分二人共ロンベルティアで働くようになるぞ。しっかりやれ」とか言っていた。止めてくんねぇかなぁ。二人は目を輝かせて「「じゃあ、お父ちゃんとお母ちゃんに会えるの?」」とか言ってた。ほら、それを聞いた皆が微妙な顔して俺を見たじゃん。


「小便垂れてくらぁ」


 便所に逃げた。

火曜の更新は出来ません。

次回は木曜になります。ごめんなさい。

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