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男なら一国一城の主を目指さなきゃね  作者: 三度笠
第二部 冒険者時代 -少年期~青年期-

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第百二十四話 新たな寝床

7445年5月23日


 殺戮者《スローターズ》のメンバーは昨日の昼前から王都に出かけて一泊の予定なので、一夜明けた今もまだ帰って来ない。


 なので、今朝は一人で朝飯を食べている。


 つまらなそうな顔をしながら炒り卵をパンに乗せていると俺のテーブルに「失礼」と言って座ってきた人物がいた。


「「お早うございます、グリードさん」」


「ん? ああ、お早うございます」


 ファルエルガーズとヒーロスコルの二人だ。

 二人は俺に挨拶をしたあと、何か言おうとして言い難そうな感じだ。

 最近は会う度に同じようなことを言ってくるので、どうせまた例の話題だろうと思うと少々ウンザリ気味だが、元々覚悟してのことだ。

 何度だって聞いてやるさ。


「今日はお一人ですか?」


「ええ……」


 見たら判るでしょ。お一人様ですよ。


 ああ、なんだかやさぐれてるな、俺。


「ちょっと、これは忠告なんですが、下の者には毅然とした態度が必要な事は勿論だが、寛容さも大切だ。多少のことには目をつぶってやってもいいと思うがね」


「そうですね……」


 ま、ごく正論だよね。

 そんなことは言われなくても解ってますよ、と言いたいが別にいいや。


「このところ、皆さんのご様子が変なのでね、気になりまして……」

「君たちの内部事情を詮索する気はないが、何かあれば気兼ねなく言って下さい。我々に出来ることなら協力しますよ」


「ああ、ご心配をお掛けしまして申し訳ありません。ですが、大丈夫、何とかしますよ」


 弱々しい笑みを浮かべて答えた。

 最近、いつも思うがヒーロスコルの喋り方はどこかぎこちない。

 酒が入ると出会った当初のような感じに戻るが、年明け後しばらくはやけに丁寧に喋ろうと努力していた感じだった。

 そしてここ一月くらいはまた混ざってきた感じが見受けられる。


 ラグダリオス語(コモン・ランゲージ)には敬詞(学校なんかで国語、と表現すべきだろう授業を受け、正式に勉強した訳ではないので、勿論俺の造語だ)とでも言うような言葉があり、それを活用することで相手に合わせた喋り方が出来る。

 彼の場合、その使い方が下手なのか、それとも使いたくないのか、よく解らないけど。


 日本語の田舎の方言と標準語の尊敬語が混ざっているような感じ、とでも言えばいいのだろうか?

 それか、俺がその田舎の方言上における敬詞を知らないだけだろう。


 まさか、今更俺を侮っているとまでは思いたくない。


 彼らも迷宮に入ってそろそろ半年近くになる。

 先月の半ばくらいからは日光《サン・レイ》に入って、彼らと一緒に三層や、事によったら四層にも行っているはずだ。

 流石にまだ行ってないかな?

 既に殺戮者《スローターズ》がこの街の冒険者たちの間でどのような地位《ポジション》に居るのかは理解してなきゃおかしいだろう。


 ああ、全部敬語で話せなんて言うつもりは無い。

 方言と標準語がまぜこぜになった話し方がおかしいのでどっちかに統一してくんねぇかな、って事だ。


 それくらい要求してもバチは当たんないくらいに彼らと俺たちの差はあると思うんだけどな。


 その後、二人と朝食を摂りながらひとくさり忠告のような説教のようなつまらない会話に付き合わされた。

 いちいち丁寧に受け答えするのも面倒になりかけた頃、ようやっとお茶を飲み終わり解放された。

 この店の豆茶は他店と違って独特の芳香が好きなのでゆっくり楽しみたかったが仕方ない。


 朝食後は街外れまで出向いてトランスミュート・ロック・トゥ・マッドの魔術の練習をしても良かったが、このところのゴタゴタで相当ストレスを感じていたことを思い出し、一人で迷宮に入ってゴブリンやノールの集団にカノン系の魔術をぶつけてウサを晴らそうとした。


 しかし、オーディブルグラマーの魔術を使ってモンスターを呼び寄せようとしても一向にモンスターが現れない時間が続き、結局カノンを空撃ちしてもやもやしたまますぐに街に戻った。


 一層から迷宮入り口の小部屋に転移して戻ったら丁度正面の小部屋から知った顔の奴らが出てきた。煉獄の炎(ゲヘナ・フレア)の山人族《ドワーフ》たちだ。

 相変わらずごてごてと炎の装飾の入った黒とオレンジ系統の装備で身を固めた悪役然とした派手な格好だった。


「ん? 一人? 今日はグィネはんは一緒じゃないん?」

「魔法の練習だろ、うちのノックスとダニエラもたまにやってんじゃん」


 煉獄の炎(ゲヘナ・フレア)のリーダー、ドワーフのヘッグス・ホワイトフレイムが話しかけてきた。


 うるせーよ。

 あんたらいつも二言目にはグィネグィネ言いやがって……。


 たまにはゼノムにも声掛けてやれや。

 尤も、ゼノムは酒に弱いから付き合えないだろうけど。


「ああ、彼女は他のメンバーと昨日からロンベルティアに遊びに行ってますよ」


「えっ? まじでかい……。糞、リーダーが先週迷宮に行こうって言い出さなきゃ俺達もグィネちゃんと遊びに行けたかも知れないのに……」

「そうだそうだ、アホなリーダーのせいで今回大して稼げなかったし……」

「そんなぁ、結構稼いだやおまへんか?」

「でも、アイスモンスター相手には即退却……」

「勝てんやろ、アイスモンスターには勝てんやろ……危ないことせんでも……」

「まぁ良い判断だったよ。怪我人も出なかったし」

「そや、お陰で生きてグィネはんと会えるねん」

「「自分で言うなよ……」」


 ……こいつら、いつも楽しそうでいいなぁ。


「今夜には帰ってくると思いますよ。戻ったら店を伝えましょうか?」


「おお! 俺達はペギーズに行ってるから!」

「ったく、うちのリーダーは使えねぇな。殺戮者《スローターズ》のリーダーと中身だけ交換してくんねぇかな」


 いや……しかし、中身だけ交換、ってこいつら本当にドワーフにこだわるなぁ。

 可能だとしても短足のドワーフは嫌だけど。

 ああ、俺は日本人が混じっているからだろうが、家族一短足だ。


 だが、それでも前世の基準なら足は長い方じゃないかな?

 そう言えば転生者はその種族において平均よりも少し足が短い感じがする。

 トリスやミヅチなんかはそれでも精人族《エルフ》だからか、かなり見栄え良く長く見えるが、きっと種族の足の長さの平均値を下げる方に貢献しているとは思う。


 将来王様になって建国記を書かせる事でもあれば俺の足は長かったと書かせよう。誰も書かねぇと思うけど。


「そんな、ひどい……皆、つれない事言わんといて……」

「冗談だよ、本気にすんな」

「ワイ、真に受けるタイプやねん……」

「落ち込むなよ、グィネちゃんの隣に座る権利やるからさ」

「おひゅ、そら嬉しいわ。元気出てきた」

「……ウチの男どもっていっつもこうよね」

「本当、こんなに良い女が二人もいるのに、見向きもしないで……」

「女? おい、ガルン、ウチに女なんていたっけ?」

「いや、知らん。ぐぇっ!」

「いてっ! おい、ダニエラ、マーシュ、分かった、分かったからやめろって」


 いつも思うけど、なんだこいつら。

 すんげーいかつい格好でドワーフ以外とは滅多に口を利かない奴らだが、グィネのお陰でたまに喋るとこれだ。

 なんだか毒気抜かれた……。




・・・・・・・・・




 その後、一人で昼飯を食っていると、道端に出されたテーブルだったのが悪かったのだろう、緑色団《ベルデグリ・ブラザーフッド》のリーダーで、エルフのロベルト・ヴィルハイマーと、同じくバースが通りかかった。

 こいつらも揃って足長くて格好良いよな……。

 別にいいけど。気にしてないし。


「よぉ、グリード君。なんだ一人か? そうそう、いろいろ考えることは多いだろう、リーダーは孤独なもんだ。あ、それから、君んとこの闇精人族《ダークエルフ》、抜けるなら何時でも席は空いてるって言っといてくれ」


 ヴィルハイマーのおっさんが嫌らしい笑みを浮かべて大声で話し掛けてきた。

 くっそ。


「そんな、そりゃ無理でしょう、殺戮者《スローターズ》はあれで結束は固いって話ですよ……」


 バースが驚いたようにおっさんを見た。


「ん~、どうかねぇ? 最近の様子見ると、こいつ、相当舐められてるぜ。どうせ今も心配でパーティーの事考えてたんだろ」


 何勝手に向かいに座ってんだよ……。


「いえ、別に……」


 俺が無表情で答えるとおっさんは俺の目の前まで顔を近付けると「かなり噂になってるな」と小声で言った。


 知ってるよ、んなこた。


「じゃ、ま、空中分解しないようにせいぜい頑張れや!」


 今座ったばかりなのにヴィルハイマーは立ち上がると俺の肩をぽんと叩いてバースと連れ立って去っていった。

 バースは何度か振り返って申し訳無さそうな妙な顔をしていた。




・・・・・・・・・




「アルさん、今戻りました」


 夕方近く、部屋で寛いでいたら皆がぞろぞろと入ってきた。


「おう、お帰り。王都は楽しかったか?」


「ロンベルティアのカグノミヤ神社見て来たよ。大きいし、立派だったわ」


 ミヅチが笑みを浮かべて言った。


「ドッグレースもやったよ。初めてやったけど結構面白かった!」


 ラルファが首に変なものを巻いている。

 暑くないんか?


「ラルが結構勝ってね。ミュンク毛皮の襟巻き買えるほど儲かったの! 当たるもんねぇ」


 グィネがころころと笑う。ミュンクの毛皮はそれなりに高価だが、あくまでそれなり。

 あの襟巻きも今の時期なら二十万Z(銀貨二十枚)もしないだろう。


「うふふ、天然ファーの襟巻きって欲しかったんだ」


 ここ(オース)じゃ天然ファーしか手に入らねぇよ、と思うが黙っといてやろう。

 だけどさ、お前、そんなこと言ってるけど、昔ベルとプレゼント交換してた襟巻きずっと使ってるじゃねぇか。

 ミュンクの毛皮なんて惜しくて買えない程の金額じゃないし、素直じゃねぇ奴だな。


「それよりマルソーが大穴取りましたよ。ラルは何レースもの結果ですが、マルソーは一回で七万取ってました」


 ズールーも楽しそうだった。

 しかし、エンゲラも大儲けしたようだな。

 良かったな。


「あの、ご主人様。これ、つまらない物ですが……」


 エンゲラが腰に下げた袋から小さなカップを取り出してきた。

 薄い緑色で少し凝った意匠の取っ手も付いている。


「え? くれるのか?」


 ガラス自体は一般的だが、それなりに値は張る。

 こいつだって二万Zはするだろう。


「ありがとう、大事に使うよ」


「いえ、たまたま儲かりましたし……その、ちょっとした感謝の気持ちです」


 感謝の気持ちって……ああ、鞘の支給ね。

 だが、エンゲラにとって二万Zはそれなりに大金のはずだ。

 その気持ちは嬉しかった。


「ああ、そうだ、グィネ。今日煉獄の炎(ゲヘナ・フレア)はペギーズで飲むってよ。気が向いたらあとで行ってやれ」


「あ、そうですか。どうしよっかな……」


「一晩くらいいいさ。気が向いたらとは言ったが折角のお誘いだ、顔くらい出してやれ」


「ん……解りました。じゃあ後でペギーズに行ってきます」


 既にグィネの顎髭は六㎝を超える長さになっている。

 頬はまだまばらだが、もうどこから見ても立派なドワーフだ。

 最近ではさすがに慣れてきた。


 部屋の隅の方ではバストラルとギベルティが何やら話し合っている。

 ソーセージの相談だろうか。


「……うっし。皆も無事戻って来たことだし、飯に行くわ。俺ぁラーベイに行くから。明日は午前中だけ連携確認な」


 そう言って席を立ち上がり部屋を出ようとした。


「「なんだか、その……変なこと考えて済みません」」


 トリスとベルが申し訳無さそうな顔で言って来た。

 いいさ、一度お前らの策に任せると言ったんだし、基本線は踏襲するさ。

 自分で修正しておいて後悔もあるがね。


「気にすんな。ここから学べることもあるだろう。それより、あっちの準備の方は出来てるのか?」


「ええ、それなんですが、多少宣伝も必要でしょうから……何時《いつ》がいいでしょう? 神社の方は前日くらいに連絡しておけば何時でも大丈夫だとは思いますが」


「それを考えるのもお前たちの仕事だ。決まったら教えてくれ」


「「はい」」


 部屋を出てラーベイへと向かった。




・・・・・・・・・




7445年5月29日


 七層に降りて二日目。


 夕方近く、八層への転移の水晶棒の小部屋まで五百m位の場所だ。

 今日最後の戦闘だろうし、オーガが弱っても氷は使わないと宣言した。


「……右から……今っ!」

「……ふんっ!」


「ゴオォォォッ! ッガアァァァッ!」


 ミヅチの曲刀《シミター》によって右腕と左足を切り飛ばされ、そこら中に血を振りまいている左側のオーガに、ズールーの両手剣《バスタードソード》がクリーンヒットした。

 盾を構えているため右腕だけの攻撃だが、それでもかなりのダメージを与えたのだろう。

 それが致命傷になったのか、オーガはそのまま後ろにひっくり返って動かなくなった。


「今だ、突け!」


「やぁぁぁっ!」

「うおぉぉっ!」


 しっかりと盾を構え、その盾で体当たりをして右手に掴んだ棍棒を封じたトリスの指示でグィネとバストラルがオーガに槍を突き込み、真ん中のオーガは絶命した。


「ベク・ノス・ニムル・フォーン・サイズ・カ・ドレン!」


 ラルファがフレイムアローの呪文を唱えながら右側のオーガの棍棒を斧で叩くことで軌道を逸らして防いだ。

 同時に炎の矢が体勢を崩したオーガの顔面に当たる。

 たまらずオーガは叫び声を上げて両手で掴んでいた棍棒から右手を離すと、顔面を掻き毟って、左手に残された棍棒を闇雲に振り回した。


 その足元にゼノムが転がり込み、足のくるぶしに手斧《トマホーク》を叩き込んでオーガの機動力を奪った。

 オーガは思わず片膝をついたが、顔面を掻き毟っている右脇の下に潜り込んだエンゲラが段平《ブロードソード》で脇の腱を切り裂いた。

 腕がだらんと垂れる。

 しかし、エンゲラは盾の存在を忘れるな。

 向いてないんだろうなぁ。


 直後、どぼっ、という音とともにオーガの顎の下にストーンジャベリンが突き立った。ベルの魔法だろう。


 すべてのオーガが死んだことを確認し、魔石の採取を命じながら少し考えた。


 もう三匹を相手取ってもまず安心して見ていられる。

 今回も五匹の群れだったが最初に一匹を俺が遠距離から攻撃魔術で始末し、近づいて来る間に俺とミヅチで更に一匹を殺した。

 それでも近づいてきた三匹を全員で迎撃した形だ。


 接敵して早々にミヅチが左側のオーガの足を切り飛ばしたことでグィネが真ん中の援護に移り、真ん中の援護役のベルもすぐに右側の援護に切り替えた。

 援護の移行の判断もなかなかのタイミングだった。


 そろそろ四匹(二人で一匹)相手でも行けるかな?




・・・・・・・・・




 こうして五月が終わり、六月が過ぎ、すっかり暑くなった七月に入った頃だ。


 ズールー・エンゲラ・ギベルティをトリスに売った。


 ズールーは一千万Z。

 エンゲラは九百万Z。

 ギベルティは三百五十万Z。


 〆て二千二百五十万Zの売上だ。


 命名の儀式のため、バルドゥックの神社に出向くと噂の確認なのだろうか、冒険者風の奴らが数十人も居て、こちらを覗っていた。


 半分くらいは知った顔だった。


「本当にやるとはな……」

「大胆ね……」


 その後ヴィルハイマーとアンダーセンに誘われてしこたま飲んだ。


 ボイル亭の部屋も引き払い、カイルーグの宿に拠点を移した。


 明日から俺はソロの冒険者だ。

 グリード商会の方は従業員の登録などは王都なので急ぐ必要もない。

 っつか、冒険者と商会従業員は別物だ。

 俺は俺で個人で冒険者をやっていくのだ。


 寂しい。


 人肌が恋しい。


 ミヅチとも別れたし、娼館で遊んでも誰も文句言わないだろう……。

 いや、いちいち行かないけどさ。



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