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男なら一国一城の主を目指さなきゃね  作者: 三度笠
第二部 冒険者時代 -少年期~青年期-

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幕間 第二十五話 堀田弘樹(事故当時27)の場合

お気に入りや最新話から来た方へ。

本日この前にもう一話投稿済みです。そっちも幕間なので読まなくてもいいです。

(あー、腰が抜ける……。太陽が黄色……くない、曇ってる)


 昨夜からファンの女複数を自宅に連れ込んで淫らな行為に耽っていた弘樹はギターケースを肩にかけて駅のホームに立っていた。

 すぐ傍では若いサラリーマンが上司らしい年上の中年に小言を言われている。


(うるせーよ、腐れリーマン共が)


 弘樹はそこそこ人気のあるインディーズバンドのギタリスト兼サブボーカルだ。

 甘いマスクと相まってバンドでもボーカルと人気を二分している。

 今までの人生で金と女に困った事はない。

 昔から女は放っておいても傍に寄ってきたし、金は女に貢がせれば困らない程度には入ってきた。


 今日は渋谷のスタジオで録音がある。

 遅れたらまずいので少し早めにアパートを出ていた。

 ホームの時計を見て時間を確認すると、丁度良く急行が来るようだ。

 予定の時間の三〇分前には着く事が出来るだろう。


 ホームに滑り込んできた急行列車の先頭車両に乗ると、予想通り席は空いていた。


 空いた席に座ると電子音楽プレイヤーのボリュームを上げた。

 隣に座っている女が嫌そうな顔をしたが弘樹は気にせず股の間にギターを立て、それを抱き抱えるようにしていた。


(ここ、このメロディーがいいんだよな。やっぱロックはブリティッシュだわ)


 大音量でイヤホンから弘樹の耳に流れ込むビートに合わせてギターを抱いた指でリズムを取る。

 目を閉じ、自然と足でもリズムを刻んでいた。


 大きな衝撃を受けた時には自分のギターが下方に見えた。


(え? なんで俺、浮いて。あ、俺の体?)


 鋼材によって肩から上を切り飛ばされた弘樹の両耳に突っ込まれたイヤホンからは、そのケーブルも含めて奇跡的に無事だった電子音楽プレイヤーによって再生されるブリティッシュロックのビートがいつまでも流れ続けていた。




・・・・・・・・・




(ああ、クソッ! ついてねぇや)


 折れた鍬の柄を握り締めた堀田弘樹ことサージェス・バストラルは鍬の頭を拾い上げると代官の館を目指してトボトボと歩き出した。

 サージェスはロンベルト王国の王領の東部に猫人族《キャットピープル》の農奴として生まれた。

 転生範囲のほぼ北東に当たる。

 その後、まだサージェスが幼い頃に王領の南東部の開拓村へと家族と共に移住させられ、それ以来開拓に従事している。


 生まれ持った固有技能は【耐性(熱)】。


 昔会った神によると本来なら自分の体に害のあるレベルの温度でも火傷や凍傷になる事は無いという。

 尤も、感覚はそのままなので焼けた木炭を掴む事は可能だが、その熱さは感じるし、山中の冬の真夜中、吹雪いた中で一晩中外で裸で突っ立っていても魔力が続く限り何の害も無いが、寒い事には変わりはない。

 だが、思わぬ危険(間違えて灼けた石を掴むなど、殆ど有り得ないような出来事)から自動的に身を守ってくれるので、忘れた頃に役に立つ事も無い訳ではない。


「ご主人様、鍬の柄が折れてしまいました。申し訳ありません」


 代官の屋敷の脇の訓練場で戦技訓練に精を出す男の傍まで行くと頭を下げた。

 この三十代半ばの精人族《エルフ》の平民の男はサージェスの持ち主である。

 同時にこのロックフォル村を治めるベンクス士爵に仕える従士だった。


 従士は折れた柄を一瞥すると「しょうがないな、新しい柄を用意するまで奴隷頭に言って何か別の仕事しろ」と言って自分の訓練に戻った。


 仕方ないので奴隷頭に言われた畑の草むしりをして過ごした。


 鍬の柄は翌日木の棒を渡されたのでそれと交換した。

 鍬の頭の穴に入れる部分を削り過ぎて失敗した。

 奴隷頭に殴られたがこれは自分のミスだ。仕方ない。

 新しい棒を貰い、今度こそ失敗しないで修理(?)出来た。




・・・・・・・・・




 たまにロックフォル村を軍隊が通ることがある。


 戦場に向かうのか、帰るのか、それとも単に別の場所へ移動しているだけなのか。


 サージェスには全く解らないが、それもむべなるかな、サージェスは幼少期に生まれ育った村から強制的にこのロックフォル村に移住させられただけだ。

 従って、それ以降は村から一歩も出たことはなかったから、村の真ん中を通る街道をどっちに行けばどの街へ続き、その先にはどんな街があるのかなんて知識は全く持っていなかった。

 自分が暮らしているロンベルト王国の大体の形状すら知らない。


 この辺りが戦場になるなんて、余程の大戦争でも起きない限り有り得ないという事を知っているだけで充分だった。


 勿論、サージェスも子供の頃は色々知りたがったりもしたし、相応の好奇心も持っていた。

 しかし、移住して来る前の数年間で自分が家族ごと奴隷であることを知り、絶望したし、抜け出る条件や、金の価値を知ってからは完全に諦めた。


 既にステータスを見られる事は知っていたので逃亡したところですぐに見つかって連れ戻されるのがオチだと考えたからだ。


 だいたい、オースという新たに生を受けた世界について知れば知る程、奴隷もそう悪くはないと云う事を知り、すっかり諦めたと言えるだろう。

 もちろん表面上ではあるが。


 昨年からは新たに移住してきた別の奴隷の家の次女のキャサリンといい感じだ。

 キャットピープルにしてはかなり整った顔立ちで、気立てもいい。

 年も丁度良く同い年だった。


 サージェスは(キャシーと結婚して、ガキでもこさえながら畑仕事するのもそう悪くはないな)と思い始めていた。


 農作業の合間にちょっと会話をし、昼食を共にするようになるまで然程の時間はかからなかった。

 初めてキャサリンを抱き、キスをして彼女の腹の上に達したときはキャサリンが愛おしくて仕方なかった。

 こんな気持ちは前世を含めても生まれて初めてだった。


(ああ、俺は今まで大した人生を送ってきた感じはしなかったが、キャシーと一緒になるために生まれてきたんだな。こいつが俺の初めての「女」だ)


 キャサリンは持ち主が異なる。

 結婚するにはサージェスが「有用」で「使える」奴隷であるという証明をサージェスの持ち主の従士にしなくてはならない。

 別にキャサリンの持ち主の従士が「サージェスを欲しいな」と思ってくれても問題はない。

 家名や家督なんて次男のサージェスには元々どうでも良かった。


 サージェスは十六の秋にそう思い、見違えるように良く働いた。


 奴隷頭に言われる前に行動し、なんとなく覚えている千歯扱きを作り出しさえもした。

 それを知った従士からはたいそう褒められた。

 領主代官のベンクス士爵もサージェスの千歯扱きをこれはロックフォル村開闢(かいびゃく)以来の大手柄だと褒め称え、褒美に二五万Z(金朱一個)と番《つが》いの鶏まで賜った。

 同時にサージェスの持ち主であるエルフの従士には金貨も渡されていたようだ。


「サージェス、キャサリンの事は安心しろ。今回の報奨を合わせれば来年くらいには金も貯まるしなんとか交渉出来るだろう。その代わり、沢山子供を作れよ」


 持ち主の従士が笑いながら言ってくれた言葉を聞いたサージェスは感激して従士のブーツにキスをした。

 確か一昨年くらい、移動中に村で宿泊した軍隊から迷惑料の代わりだと言って村の従士に渡されたゴム底の超高級ブーツだ。


(俺は従士様方のように戦争になんかは行けないがロックフォル村に根を張り、この村を豊かにするんだ。キャシーとその子達の為に……)




・・・・・・・・・




 しかし、その年の瀬も迫った十一月の終わり頃、事態は急転する。


 村を二騎の騎馬が通り掛かった。


 一人は身なりの良い普人族の男で、もう一人は大柄な虎人族《タイガーマン》の男だ。

 二人共精悍な顔つきで目に希望の輝きが宿った若武者だった。


 通り掛かった時刻は夕暮れ間近に迫る十六時。

 二人は村内での宿泊の許可をベンクス士爵に取ると村の空き地で野営の準備を始めていた。


 そこに通り掛かったのがサージェスである。


 この空き地は軍隊の一部隊が駐屯することが可能なくらい広い。

 行商人が野営することも珍しくはない。


 サージェスは村の客人に失礼の無いように目を伏せて空き地の脇を通り抜けようとしたが、二人の若武者に声を掛けられた。

 水でも汲んで来いと言うのだろうか? 面倒だが仕方ない。


「お呼びでしょうか? 旅の騎士様」


 騎士かどうかなんてステータスも確認せずに判りっこないが、位《くらい》を高く言っておくに越した事はない。

 顔を見ないよう俯きながら傍に寄って畏まって頭を下げるサージェスを見た二人の若武者は驚いて声を上げた。


『『日本人か!?』』


 その言葉を聴いて驚いたのはサージェスも一緒だった。

 面《おもて》を上げてよくよく見れば二人共髪は黒く、瞳も黒かった。

 そして、見紛《みまご》う事なき日本人の血が流れているであろう面構え。


『あ、あ、ああ……』


 あまりに驚いて言葉に詰まるサージェス。


『日本語は解るな?』


 普人族の方の若武者がサージェスに身を乗り出して尋ねた。


『あ、ああ、ひ、久しぶりに喋るが、も、勿論、解る』


 どもりながらもこくこくと頷いて日本語で返答するサージェスを認める若武者達。


『失礼するよ……ステータスオープン』


 普人族の男が彼の手を掴んでステータスを見た。

 サージェスとて既に神に会っているからして、どこかに日本人が居る事くらいは知識として知っていたが、会えるなど思ってもいなかった。


『奴隷か……ノムさん、幾らありますか?』


『……ふっ、考えることは一緒か。俺は二〇〇万Z(金貨二枚)くらいは余裕が有る。江藤くん、君はどうだね?』


『ちぇっ、ファルエルガーズ伯爵家を舐めないでください。金ならあるんですよ』


 二人の若武者はおどけてそう言うとサージェスに向き直った。


『俺は野村幸吉。こいつは江藤昭二だ。あんた、名前は?』


 タイガーマンの方が先に質問した。


『あ、さー、サージェス・バストラルだ……あ、いや、ひ、ヒロキ・ホッタ、じゃない。堀田弘樹だ、です』


『堀田くんか。奴隷の身分から解放してやる事も出来ると思うが、どうだ? 勿論君を買い取ってから百倍寄越せなんて言いやしないから安心してくれ。自由民として解放する形になるが、買い取った分の代金を後で返してくれればそれでいい』


 野村が唇の端を釣り上げた男臭い笑みを浮かべて言った。


『俺たちはこれから王都ロンベルティアを目指すから、本当の解放は王都の神社まで行ってからになると思うがね。自由民になれば移動も可能だから何か商売でも始めれば金なんかすぐに返せるだろう。同郷の誼《よしみ》だ、資金だって幾らかは貸せると思うよ』


 江藤はいくぶん柔らかい表情を浮かべ、説明してくれた。


(な、ん、なんだって!? 俺を奴隷から解放する? そんな夢みたいな話をしているのか? 俺は確かに農奴だが、奴隷は高いぞ? 何百万Zもするんだ……ってさっき二〇〇万Zとか言っていたような……)


 青天の霹靂《へきれき》で降って湧いた話にサージェスはついていけない。

 目を白黒させるばかりだ。


『そ、そんな……うまい事言って……お、俺がどんな奴かも知らないでそんなこと言うなんて……信用出来るか』


『ああ、そうだな。俺たちはあんたがどんな奴か知らない。善人か、悪人か。そもそも罪でも犯して奴隷になったのか……。何も知らん。だが、同じ日本人だろう? それじゃ理由にならないか?』


 江藤はそう言うと微笑《ほほえ》みかけてきた。


『堀田くん。俺たちが信用出来んと言うなら、無理にとは言わんよ。好きにしたらいい』


『ノムさん、まぁたそんなこと言って……。彼だって奴隷で良いなんて思ってるはずないでしょうに……。堀田さん、いきなり現れた俺たちを信用出来ないという、その気持ちは理解出来る。しかし、チャンスの女神には前髪はあっても後ろに髪は無いと言うじゃないか。掴めるときに掴んだほうが利口だと思うよ。それとも、家族に未練があるかい?』


『家族に未練は……無い訳ないじゃないか。それに、来年には結婚を誓った女もいるんだ』

(そう、信用出来る訳ない。俺を買って解放する前にどこかに売る事だって可能だろう。そんな事になったら目も当てられない)


『女がいるのか……だが、女なぞ世の中には星の数程いるじゃないか。また探せばいいだろう? それに、もし未練があるなら自由民になってから儲けて買えばいいじゃないか? この辺りの農村の農奴なら女で二〇〇万Zを超える事もないだろう。君だって三〇〇万Zと言ったところじゃないのか?』


(こいつら……三〇〇万Zなんてよくも気軽に言ってくれるな)


 サージェスは呆れて物も言えなかった。彼の賃金は週に一一〇〇Z(銅貨十一枚)だ。年で七万Zに満たない。

 一銭も使わないとしても一生かかって三〇〇万Z貯められるかどうか、と言ったところだ。

 実際には昇給もあるし、この前貰った金朱もあるから若い頃からその気になって貯蓄すれば四十代の初めには自分を買い戻すことも一応可能ではある。

 だが、気が遠くなるほどの大金である事に間違いはない。


『そのくらいの金、日本人のあんたならすぐに稼げると思うがな……』


『堀田くん。君は読み書きは出来るかね?』


『出来ません』


『そうか。だが、文字なんかすぐに覚えられるから大した問題じゃない。計算なんかも早く出来るだろう? オースは文明レベルが低いから商売の種なんかゴロゴロ転がってるはずだ。……君は死んだとき幾つだった?』


『あ、に、二七です』


『それなら充分だ。小学生とかじゃなければまず問題ないだろう。金さえあればね。で、その金は君を買うくらいなら今の俺達なら用意出来る。解放した後できちんと返しては欲しいからちゃんと借用書は書いて貰うが、利子を取るつもりもないよ。って利子なんて文化は無かったな』


 正確には文化と言うより文明に近い考え方だ。

 金融文明の初歩である。

 ついでに、利子は大手の商会などではとっくの昔に認知されてもいる。

 この若武者《タイガーマン》が知らないだけだ。


『ほ、本当に……?』


『ああ、本当だ。ここで日本人と会ったのも何かの縁だろう。騙して君を買って、より高く誰かに売りつけることは心配しなくていい。と言っても、何の担保も無い発言だけどな』




・・・・・・・・・




 結局サージェスは二人の若武者、ロリックとフィオに三〇〇万Zで買われた。

 ロリックのファルエルガーズ伯爵家の長男のステータスによって強引に交渉した面が強かった。

 キャサリンには自由民になって商売で儲けて必ず買いに戻ると約束した。

 流石に二人はキャサリンまで買ってはくれなかったのである。

 固有技能についても聞かれたので、サージェスは素直に言った。

 隠していたところで意味がないと思ったからだ。


『ふーん、【耐性(熱)】か、俺の【耐性(ウィルス感染)】と似てるな』


『なんとなく思ってたが、【耐性】の固有技能は何種類かありそうだな』


『野村さんのはどんな固有技能なんですか?』


『俺のは【根性《ヴァリアンス》】って奴だ。一時的に火事場の馬鹿力が出せるような感じだな』


 このように、王都への道すがら、彼ら三人は今までの情報交換をした。


 それによると、ロリックたちとサージェスは同じ電車の先頭車両に乗っていたらしい。

 ロリックは三十、フィオはなんと九十の老人だったとのことだ。

 二人はファルエルガーズ伯爵領の郷士騎士団で正式に騎士の叙任を受け、退団してオースを旅し始めたばかりとのことだった。

 ロリックは伯爵家の家督も継がず、フィオを追うように家を出たらしい。

 なるほど、騎士なら金はあるだろうし、ロリックは伯爵家の長男だ。

 サージェスを買うくらいの金なんか持っていて当たり前だった。


 今まで奴隷として社会の底辺で生きてきたサージェスの目には彼ら二人が眩しく映った。

 同じ事故で生まれ変わったと言うのに彼らと俺の差はなんなのだろうとやるせない気持ちにもなったが、よく考えたら日本でも金持ちの家に生まれなかったことを呪った時期もあったことを思い出した。


『堀田くん。生まれの悪さを嘆いても始まらない。確かに俺も平民の家に生まれた事自体、神に感謝している。本当に運が良かった。江藤くんだってオースの頂点に近い生まれだ。だから奴隷の苦労を知らない。勿論俺も騎士団に入団する前は田舎の村だったから身近にはいたからそれなりに知ってはいるつもりだ。苦労も多かったろう。それも俺たちの想像を絶するような苦労もあったことだろう。だが、そこで不貞腐れては意味がない。どうやってのし上がるか、それが大事だろうな。俺たちはその手伝いを少しだけしているに過ぎない』


『そうだよ、堀田くん。俺も死んだときは君より少し年上でしかないけど、サラリーマンで女房も子供もいた。独身を続けていた君には判らない苦労だってしてた。そんな俺がいきなり貴族の息子になったんだ。勿論奴隷とは比ぶべくもないが、貴族にも苦労はあるんだ。生まれ変わっても騎士団に無理やりぶち込まれるまでは殆ど家から出た事も無かったくらいだ。何も心配せず、それなりに暮らしていける平民の次男以下が羨ましくて仕方なかった時もあったよ。……魔物が居るって聞いてからは怖くて貴族で良かったと思ったけどね』


 サージェスの目には二人は物凄く強く映った。

 一度だけ街道沿いでゴブリンの群れに襲撃を受けたことがある。

 二人は馬に騎乗したままあっという間にゴブリンを蹴散らしてしまっていたのだ。


(そうは言うがな……平民や貴族に生まれ、騎士団で訓練を受け、金もある。だから自信たっぷりなんだよ。俺なんか何にもねぇ……)


 サージェスの気持ちを読んだようにロリックが言った事がある。


『人の価値はね、直接的な強さとか、金を持っているとかじゃない。人生を楽しんでいるかどうかだ。こう言っちゃなんだが、俺たちと出会う前、君だって人生を楽しめていた事もあるんじゃないのかい? だって結婚を考えていた女がいたんだろう? 楽しんでいた時期もあったろう?』


(確かに楽しかった。それなりに希望や展望もあった。ただ生きてきただけの人生がすばらしいものに思えた)


『勿論、強さやお金は大切なものだ。それらは所有している範囲で、所属している社会において両方とも自分の自由を保証してくれる。ロックフォル村での農奴生活なら強さはともかく、多少の金銭を持っているだけで充分だったと思うよ。それなりに楽しめる人生を送れたかも知れないね。でも、世の中にはもっと楽しいことも多いと思うんだよね。日本人ならそれを知っているはずだ。だから無理矢理でも引っ張り出してあげたかった』


(俺に恩を売ったつもりか? ……って、恩だよな、どう考えても)


 サージェスとてやっと掴み掛けた小さな幸せ以上の楽しみがあることくらいは想像が付いていた。

 人それぞれ価値観が違うことは承知しているが、少し前までのサージェスは奴隷から抜け出すことに見切りを付け、小さな幸せを追い求めた結果、それに満足しそうになっていた。

 農奴として結婚し、子を成し、作物を育てる。そこに一片も恥じる要素はない。


(しかし、キャシーを「より」幸せにしてやりたい。フィオは女など星の数ほど居ると言うが、確かにその通り。星の数ほど居るだろう。だけど、俺の星はキャシーなんだ。可能なら今みたいなきつい畑仕事なんかさせたくない。美味い物を食い、安楽な生活を送らせてやりたい。子供だって生まれながら奴隷なんだ。意に沿わぬ売買の対象になるかもしれない。あのエルフの従士(ご主人様)の人柄から言ってそういうことは無いだろうけど、奴隷である限り可能性はゼロじゃない)


 ロリックの後ろで馬に揺られながらサージェスは考えを巡らせていた。人生に対する欲が生まれてきたのを実感した。




・・・・・・・・・




 ついに三人は王都ロンベルティアに到着した。

 7444年12月12日の夕方の事である。


 もう遅いのでサージェスの解放は翌日神社に行って行うことにして、まずは宿を取り、食事をすることにした。


 適当な飯屋に入り、酒と料理を注文する。

 王都までの食事の際、ロリックとフィオの二人は酒は飲まなかったが用心の為だったらしい。

 また、王都が一応の目的地でもあったらしく、暫くは王都に滞在してあちこち見て回りたいと言っていた。

 サージェスも酒を勧められ、生まれ変わってから初めて酒を口にした。

 酒も料理も舌が痺れる程美味かった。


(こんな美味い物を食ったのは初めてだ。キャシーにも食わせてやりたい……農奴のままじゃ死ぬまでに何回食えるかという料理だ……。最終的に彼らを信じて良かった。やはり同郷の人間というのは有難いものだな)


 翌朝、宿で目を覚ますと、神社に行く前にロリックは王城へ行くと言った。

 サージェスが驚いたことに、歳の離れた姉が国王陛下の第四夫人に収まっているとのことだった。

 王都に来て王妃である姉に挨拶もしないのは憚られるとロリックは笑っていた。

 ついでにフィオも王城を見てみたいとのことで同行するようだ。

 サージェスも誘われたが、王城に興味はあったものの、奴隷の自分が付いていく事によってロリックに迷惑が掛かる事を恐れ、宿で帰りを待つことにした。


 二時間後、ロリックとフィオが戻ってきた。

 二人共かなり興奮していた。

 非常に立派な城だったらしい。

 それを聞いたサージェスは「折角だから見ておけば良かったかな?」と思ったが、礼儀作法も知らないし、服だって安物のボロだ。

 やはり行かなくて正解だったのだろうと思う事にした。


 三人揃って王都の外れにある神社に行った。

 王城のそばにも大きな神社があるのだが、色々混んでいるらしく、諦めたのだ。


『二十万人を超える人口を抱える王都だからして、命名の儀式なんか毎日何十人もやっているだろうし、奴隷の解放なんかも当たり前のように行われているだろう。それに、聞く所によると貨幣も作っているらしいからなぁ。王都の外れに幾つか神社があるらしいからそっちに行こう』


 ロリックの意見が容れられた格好だ。

 神社に到着し、それでも数十分も待たされてやっと彼らの奴隷解放の儀の番になった。


 儀式の前にいろいろ確認される。

 サージェスの売買証明は勿論、自由民の人頭税の説明なども簡単にされる。

 ちゃんとした説明はこの後、行政府に行ってからされることになるが。


 儀式が終了するとサージェスは震える右手で、同様に震える左手を触りながら「ステータスオープン」と言って、ステータスを確認している。

 そんなサージェスをロリックとフィオが微笑みながら見ていた。


「ろ、ロンベルト王国ロンベルト公爵領登録自由民……確かに……うっ、うう……」


 奴隷身分から解放され、晴れて自由民となったサージェスは感極まって涙を浮かべていた。


「おめでとう、サージェス。これで君はもう奴隷じゃない。自由だ」

「サージェス、人生を楽しめ。もう誰も君に命令することはない。一つの土地に縛られる事もないんだ」


「あ、ああ、あり、ありがとう。『有難うございます』貴方たちに受けた御恩は一生忘れません!」


「ははっ。でも流石に奢りじゃないぞ。いつか返してくれ」

「忘れるならそれからにしてくれよ」


 これから三人で飯屋に行って昼食を取り、サージェスの借用書を作成した。

 サージェスの購入代金の三〇〇万Zは全額ロリックが払っている。

 ロリックは商売の種銭として更に二〇〇万Zをサージェスに貸し付けることについても同意していた。


 かなり早めの昼食を摂り、代書屋で借用書も作成して貰い、行政府に行って人頭税の説明と同時に正式な自由民として登録を済ませた。

 ステータスの日付から一週間以内に登録を済ませないとペナルティがあるから早めに済ませておくに越したことはない。


 フィオは行政府の職員と何やら話していたが、にんまりと笑みを浮かべてロリックにOKサインを出していた。

 ロリックもそれを見てニヤニヤとだらしなく笑っていた。サージェスには何の事やら全く不明だ。


 その後、サージェスの新しい人生の門出を祝うと言う名目で娼館に繰り出す事になった。


 先ほどの行政府でのフィオの行動が読めた。

 評判のいい娼館を紹介して貰ったのだろう。

 サージェスは自分にはキャシーがいると断ったが強引に連れて行かれた。

 本当はロリックとフィオが行きたかったのだろう。

 仕方ない、ロリックが奢ってくれると言うし、これも付き合いだ。




・・・・・・・・・




「おい、ロリック。最高だったな……二時間じゃなくて三時間にしとけば良かった……」


 最後に「エメラルド公爵クラブ迎賓館」の待合室に現れたフィオがだらしない顔で言った。


「ああ、本当に……俺、『コンドーム』の良さを思い知ったよ。あれ、どこで買えるんだ?」


「おお、俺も欲しい。聞くの忘れたな……」


「うう、良かった……あまりにも良かった……キャシー、ごめん……でも、良かった……ここは天国か?」


 ここ二週間以上、一緒に旅をして解った事だが、この二人は日本語で喋る時はロリックはフィオの事を立て、丁寧に接しているが、ラグダリオス語(コモン・ランゲージ)の時には対等に喋り、お互いの名もオースでの名前で呼び合っている。


 三人揃ったのでぞろぞろと出口に向かって歩いていた。


「あ、ちょっと……すまんが、あの『コンドーム』、どこで買えるんだ?」


 ロリックが出口の所で掃除をしていたボーイを呼びつけて尋ねていた。


「は? 『コンドーム』とは何でしょうか?」


 不思議そうな顔でボーイが答えた。


「え? 『コンドーム』っつったらあれしかないだろうが? ゴムの、豚の腸の代わりに使うやつだよ」


「ああ、鞘ですね。でしたら王都では製造元直販のグリード商会が独占して取り扱っていますよ」


 ロリックはグリード商会の場所を丁寧に聞いていた。

 サージェスは最初はその様子を黙って見守っていたが、すぐに何か閃いたような顔つきで真剣に考え込んでいた。


(あのコンドームは売れるだろう。価格も豚の腸の一・五倍程らしいから、売れない訳がない……と、すると豚や羊なんかの腸が余る訳で……コンドームのように処理は要らないから二束三文で買い叩けるんじゃないか? ……これは)


「でも、今は品切れが近い筈ですよ。先月買いに行ったときはもう殆ど在庫は残っていなくて、困ったと嘆いていましたからね。うちは契約しているから問題無いんですけどね。今じゃ紹介状か過去に購入した証明のゴム袋を持ったリピーターにしか売らないって話ですよ」


「ええっ、そりゃ困るな。なあ、この娼館では沢山使ってるだろ? ゴム袋を一つ分けてくれよ。買ってもいい」


 ロリックが食い下がった。フィオも頷いている。

 サージェスは無駄遣いになるからキャシーを解放して結婚した後、改めて買いに行こうと心に誓っていた。


「そりゃ無理です。最近はお客様も増えておりましてうちの分だってギリギリなんです」


「じゃあ、紹介状を書いてくれないか? こいつはファルエルガーズ伯爵の長男だ。紹介状を書くに値する身分だろう?」


 ボーイは丁寧に頭を下げて詫びる。


「申し訳ありませんがお客様、それは致しかねます。そういうお客様全てに紹介状を書いていたらグリード商会の在庫は瞬く間に無くなってしまいます。だいたい、あの鞘のおかげでうちは大儲けさせて貰ってるんですから。グリード商会を騙すような真似は出来ません。ですが、一つ良い事をお教えしましょう。国王陛下が主催するドッグレースの副賞には必ず鞘がありますよ。丁度今日も開催されている筈です。運試しに行かれては如何ですか?」


 早速ロリックとフィオはドッグレース場の場所を聞き、商会設立の手続きに行きたがるサージェスを引き摺ってそこに向かう事にした。




・・・・・・・・・



「うおー! ラビドリー来い! 来い!」

「ストライク! 来てくれ!」


「糞! 当たらねぇ!」

「俺も外した!」


「ブルーティッシュ! 来いやぁぁぁぁぁ!」

「マーシー! 根性見せろぉぉぉぉ!」


「ええい! 次だ!」

「まだだ、まだ終わらんよ!」


「アバランチ! 行けっ! 差せぇぇぇ!」

「バーグラリー! 頑張ってくれぇぇぇ!」


「ぐはっ、ダメだったか」

「難しいな、これ」


 八咫烏の紋と数字が焼き付けられた犬札を握り締めながらフィオとロリックが吠える。

 コンドームが副賞になっている札は一口一〇万Z(銀貨一〇枚)の高額犬札だ。

 単勝しかないが、払い戻しで一〇倍、一〇〇万Z(金貨一枚)以上の予想を的中させた場合に副賞として賞金とともにコンドームが一袋もらえる仕組みだ。


 因みにドッグレースのシステムは一人一レースあたり犬札は一枚しか購入出来ない規則になっている。

 少額の犬札はそういった規制は無視される事が多いが、高額の犬札は購入と換金の際にステータスを確認されるからどうしても複数買いたければ人数を集めて買う必要がある。

 但し、二十分に一回行われるレースの三時間前に販売は締め切られてしまう。

 大体の予想オッズは張り出されているが、締め切った後で売上を集計され、出走五分前に最新のオッズに掲示が切り替えられる。

 結局胴元が儲かる仕組みになっていた。


 販売締め切り後に犬札が欲しい場合、既に買った相手と相対交渉して通常の売値より高く買い取る必要がある。

 買取屋を生業にしている者がいて、その買取屋に手数料を払って欲しい犬札を購入している人を探して貰うのだ。


「なぁ、ロリックさん、フィオさん、お二人共もう五十万は突っ込んだろ? 諦めようや。また入荷したら売ってくれるらしいじゃないか」


 そう言うサージェスは固く倍率の低い犬札を二回だけ購入し、両方とも的中させていた。一つ一〇〇Z(銅貨一枚)の最低額の犬札だ(二・五倍と三・二倍の配当だったので三七〇Zの儲けだ)。仕方なく付き合いで購入しただけだ。


「う、うるへー! 負けた分も取り戻さにゃ!」

「ここで引いたら男がすたる!」


(ああ、この人ら、競馬で身を持ち崩すタイプか? パチンコとか好きだったのかな?)


「だいたいそんな倍率の犬札なんか当たりっこないでしょう? 『競馬』とかやったことあるんですか? 強い犬は倍率が低いのは当たり前ですよ」


「賭け事は初めてだ」

「俺もだ。昔は『会社』の命運を賭けたこともあるが、こういうのは初めてだ」


(典型的な初心者じゃねぇか……見てらんねぇよ)


「だが、十レースに一度は十倍以上の配当のが来るらしいじゃないか」

「おう、今日の最高配当は二三・五倍らしい。取ったら一気にひっくり返せる」

「なら確率から言って負けないんじゃないか?」

「そういう計算だ、ロリック、冴えてるな」


 サージェスは呆れて物も言えなかったが、二人は恩人である。

 だいたい、コンドームが欲しければ今まで注ぎ込んだ金で充分買えるはずだ。

 グリード商会とやらも一袋一五〇〇〇Zで販売しているらしいが、十倍出すと言えば売ってはくれるだろう。


「お二人共、いい加減にしましょう! こんなの無理ですよ!」


 十倍以上のオッズが付いている犬は勝てないから十倍以上なのだ。

 ふとサージェスは思い出す。


(そう言えば昔考えたことがあった。気持ちがすっかりガキに戻ってるんだろうな……)


 サージェスは二人の首根っこを掴むようにしてドッグレース会場を後にした。


「グリード商会まで行ってみるのが先でしょう。交渉したら売ってくれるかも知れませんし、何回か通って顔を覚えて貰うことも重要じゃないですか?」


「ああ、そうだな。最初に負けた時点でかぁっと熱くなって我を忘れてしまった」

「ロリック、お前もか……俺も最初に負けたとき、カッと来ちまった……」


 項垂れる二人を促し、グリード商会を目指して肩を落とす二人の背を押してサージェスも繁華街の隅っこをトボトボと歩いていた。


 その時だ。


「コラ、鞘が当たったぞ!」


 見るからにヤクザものと思しき獅人族《ライオス》の男が怒鳴り声をあげた。

 フィオの鞘がライオスの剣の鞘に当たったらしい。

 ライオスの取り巻きの数人の男達も気勢を上げてカサにかかって罵ってきた。


「ああ、すまんな」


 フィオは元気なく答えるが、ヤクザものは見逃してはくれなかった。

 幾らか払えと因縁を付けている。

 当然フィオもロリックもそんなわけのわからない金は払えないと答えているが、サージェスにしてみれば先ほどドッグレースでもっと大きく負けているんだし、素直に銀貨でも払えば見逃しくれそうなのにと心配していた。


「おい、天下の往来で何してる? 失せろ、チンピラ」


 やけに迫力のあるピンク色の髪と髭をした山人族《ドワーフ》の中年男が割り込んできた。

 男は長い金髪の普人族《ヒューム》の女と短い黄緑色の髪と黒い髭のドワーフの女を連れていた。

 女二人も不敵に薄い笑みを浮かべているが、サージェス達の方を向いてニコリと微笑んだ。


 その女の顔を見た三人は一瞬にして固まった。


 どう見ても三人にはこの割り込んできたドワーフは日本人に見えなかった。

 顔の造作が全く日本人と共通していない。

 基本的な顔のパーツ全てが「純粋なドワーフ」だと主張している。


 連れの女二人も金髪と黄緑色の髪をしているので、三人には一見してオースの人に見えたが、こちらに顔を向けて微笑んだ二人の女の顔には明らかに日本人の特徴があることに気付いたのだ。


『日本人よね? 助けてあげる』


 長い金髪の普人族《ヒューム》の女が日本語でそう言うとドワーフの斜め後ろで得物を構えた。


『この二人に任せておけば安心ですよ』


 ドワーフの女は武器は持っていないようだが、だらりと下げた手を握ったり開いたりしていた。


「抜きやがった……んま、間違いねぇ! あ、兄貴、こいつら……いや、この方々は殺戮者《スローターズ》ですぜ! あ、相手が悪い……」


「あ……お、俺も見たことがある。あの女、玉潰し(ボールクラッシャー)だ」


「じゃ、じゃあ、このピンクの髪のドワーフはファイアフリードさんか……?」


「おう、判ってるなら話が早いな。おい、ライオスの孺子《こぞう》、喧嘩しても良いが俺たちはバルドゥックの冒険者だ。いつも魔物を相手にしているからな。同じようにやっちまうから手加減できんぞ?」


 手斧《トマホーク》をくるくると回しながらドワーフが脅しつけるとヤクザもの達は顔色を変えた。


『に、日本人……?』

『今の、日本語だったよな?』

『私も聞きましたし、あの顔は……』

『しかし、女に助けられるってのもな……』

『うむ、締まらんな』

『そんな事言ってる場合ですか? 加勢しなくても?』

『あ、ああ』

『お、おう』


 三人がこんなことを話しているうちにドワーフと連れの女たちが更に何か言ったようで、チンピラどもは「さーせんしたっ」と言い放って人ごみの中に消えていった。




・・・・・・・・・




 目の前の飯屋に入った六人はテーブルを囲んでいた。


 一応自己紹介は最初に済ませている。三人が驚いたのは金髪の長い髪の普人族《ヒューム》の女があのドワーフの娘だと言った事だったが、捨て子であった彼女をドワーフが拾って育てたのだと聞いて納得した。


「ふーん、そうですか。でも私たちは納得してますので」


 長い髪を金色に染めたラルファと名乗った女が答えた。

 サージェスは可愛いと思ったが、今は関係ないので黙っていた。

 長年の間に染み付いた奴隷根性が許可を得ない発言を抑制させていた。


『そうは言うがな……その契約だと君たちはその男に騙されてる可能性があるぞ?』


 フィオが説得を続けていてる。


「あの、『日本語』だとゼノムさんがわからないのでラグダリオス語(コモン・ランゲージ)でお願いしますと言ってますよね……」


 黄緑色に髪を染めたドワーフの女、アクダムがフィオに注意した。

 三人は日本人の顔の女性に髭が生えている事について違和感を覚えているようで、できるだけアクダムの顔を見ないようにしていた。


『いや、君たちの問題だ。君たちももう大人だろう? 自分のことは自分で決めたまえ。日本語でいいだろう』


 構わずフィオは日本語で続ける。ラルファが嫌そうな顔で返事を口にする。


「ゼノムに隠し事なんてしませんし、必要もありません。これ以上『日本語』でしか話をしないのであれば私たちは帰ります」


 それを聞いて慌てたのはフィオとロリックだった。


「わ、わかった。もう『日本語』は使わない。話を聞いてくれ」

「落ち着いてくれ、俺たちは『日本人』の女性が騙されている可能性があるなら助けたいだけなんだ」


 黙っていたドワーフのゼノムがラルファに耳打ちした。


「話がよくわからんが、アルを呼んできた方が良くはないか?」


「ん……大丈夫よ。いちいちアルに頼らなくたって……」


 その様子を見たアクダムは三人に対して言う。


「すみません、ちょっと内密な話をしますので、向こうで少しだけ話してきますね」


 別のテーブルに移動した彼女たちは少しの間議論を繰り広げた。


「転生者は仲間に引き入れたほうが良いよ」

「それはわかるがな……」

「そうだよ、アルさんを呼んだ方が良いよ」

「でもさ、あの騎士みたいな二人は暫く居るらしいから良いとしても、あの……なんつったっけ? キャットピープルの元奴隷は早く商売を始めて奥さんになる人を買いたいって言ってたじゃん。騎士二人と比べると迷宮では役に立ちそうにないけど、グィネ、あんただって今じゃ立派にモンスターと戦えるようになってるからね、あの人だってそうなる可能性は高いと思うんだよね」

「それはそうだ。しかし、アルに交渉して貰った方が良いと思うがな」

「私もゼノムさんの言う通りだと思う。なんなら私が戻って呼んでこようか?」

「それはダメ。ゼノムは大人だから付いてて欲しいし、私とグィネも『日本人』だからね。交渉の場に居るべきだわ。それに、いつもいつもアルに任せっぱなしってのも癪に障るわ。私たちだけでも交渉出来るってところを見せてあげましょうよ」

「ふん、ならお前がアルに叱られろよ」

「私は反対したわよ」

「……最悪、交渉に手間取ってもアルなら明日には勝手に探しに来るわよ……。明日までもつれ込んだらグリード商会に場所を借りよう」

「結局……」

「アルさんのふんどしで……」

「大丈夫、さっさとカタ付けるわよ! ケツはアルが拭いてくれるわよ!」


 どうやら相談がまとまったらしい。


 フィオとロリックは唇を舐めて真剣な顔をしている。

 サージェスは興味ない振りをしながらも興味があった。

 彼らの仲間に商会経営者がいるらしいからだ。


 

すみません、明日の更新はお休みする可能性高いです。

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