第七十五話 ドゥゲイザー
7444年5月28日
俺たちは特徴のある角を持つ三〇㎝くらいの石を今まで休息していた壁際に置いて目印にすると、壁を右手にして歩き出した。
灯りの石はミヅチが持っている。
暫く歩くと壁の先に切れ目があり、中に続く通路になっていそうである事が見て取れた。
『いきなり近づくのは中に何かいた場合にまずいですね。一度戻って他にも中に入れる通路がないか確認してからにしませんか?』
ミヅチが言った。反対する理由はない。
『そうだな、大丈夫だとは思うが確かに中に何か居る可能性は高いな。一度反対から回りなおすか』
そう言って踵を返した。
先ほど休息を取った場所を通り過ぎ、更に壁を左手に見ながら進んでいく。
歩いた距離から考えてそろそろ柱を一周する頃だろう。
前方に先ほどの通路のようなものが見えてきた。
『戻ってきたようだな。他に行くべきところ、見るべきこともない。行くぞ』
『はい』
『基本的に迷宮の中心にある転移の水晶棒の部屋は三〇m四方くらいだ。だが、この柱は直径一〇〇mくらいはあるだろう。モンスターがいる可能性は捨てきれない。気を引き締めていけ』
『勿論です』
右手で歩兵用の剣を引き抜き、抜き身で持つと、左手にはライトの石を持っている。
俺もトリスの長剣を右手に持ったままだ。
用心して通路に足を踏み入れた。
通路の幅は約三m、天井の高さは約四mと言ったところだ。
通路自体の長さは一〇m程だろうか?
10m程先で両側の壁や天井が無くなっている。
床が広がっているようなので大きな部屋になっているのだろう。
『罠に気をつけろ』
『ええ』
ずりずりと摺足で進む。
途中で一度ライトが切れたのでもう一度ミヅチがかけ直した。
ついでに二つばかり余計にライトの石を作らせてそれを俺が持った。
部屋に足を踏み入れた。
円柱の中はドーナツ状の部屋になっていたのだろうか?
前方に今入ってきた柱より更に細い、外周の曲線具合から判断して直径四〇mくらいの柱がある。
この、直径一〇〇mくらいの柱の壁の厚さは通ってきた通路の長さから判断して約一〇m。
外径八〇m、内径四〇m程度という、幅二〇m程のドーナツ状の空間があり、更にその中に直径四〇mくらいの柱があるような構造なのだろう。
俺の勘がピンと来た。
ここは主の居る部屋だ!
そっとミヅチに囁く。
『俺の右後ろに居ろ。モンスターが見えたら何でもいいから魔法を叩き込め。いいな、俺の右後ろだ』
『はい』
俺もミヅチも右利きだ。
得物は右手で持っている。
なら俺はこいつの心臓側に居るべきだ。
と、そっとドーナツに足を踏み入れてすぐに、予め用意しておいたライトの掛かった石を左右二〇m程度の所に放り投げた。
それが落ちる音が聞こえたのだろうか。
右手の奥の方からドーナツ状の通路(?)の中央辺りを何か漂ってきた。
モンスターに違いあるまい。
咄嗟に【鑑定】しながら攻撃魔術を使う。
ライトニングボルトだ。
俺の左手から一瞬にして電撃が迸り、モンスターに届く手前、五〇~六〇㎝くらいで別方向に跳ね飛ばされた!
まさか、またかよ!?
【 】
【無性/25/7/6444・“デス=タイラント・キン”】
【状態:良好】
【年齢:999歳】
【レベル:25】
【HP:1114(1114) MP:347(347)】
【筋力:20】
【俊敏:27】
【器用:89】
【耐久:24】
【特殊技能:赤外線視力】
【特殊技能:魔法反射24】
【特殊技能:遅延光線】
【特殊技能:睡眠光線】
【特殊技能:魅了光線】
【特殊技能:浮揚光線】
【特殊技能:石化光線】
【特殊技能:挫傷光線】
【特殊技能:恐慌光線】
【特殊技能:分解光線】
【特殊技能:死亡光線】
【特殊技能:強毒光線】
『逃げろっ!!』
言うが早いか元来た道を走った。
こちらに向かって漂ってきた速度は大したことないと思われるが、あれが全速力かわかったもんじゃない。
ミヅチも俺と一緒に回れ右で一目散に逃げ出した。
来た時には二分近く掛けた通路を二秒とかからず走り抜け、『こっちだっ!』と言う俺の声に合わせて柱に来るときに最後に落としたままの長期ライトの石目掛けて猛ダッシュした。
所々適当な石にライトを掛けて逃げたので転んだり足がもつれるなどということはなかったのが不幸中の幸いだった。
柱の通路の入口から四〇〇m程は離れたろうか、転々と光を放つライトが夜の飛行場の誘導灯のように俺たちが走ってきた道筋を照らしている。
俺たちは灯りから外れた暗闇の中で息を潜めて様子を窺うしか出来ることはなかった。
『あっ、アルさん。今走りながら魔法使ってました?』
こんな時になんだよ、もう。
『ああ、出来るよ。練習したからな』
面倒くさそうに応えた。
『それも固有技能ですか?』
ああ、そういうことか。
『いや、こっちは真面目に何年も毎日練習した成果……!』
小声で話していたが俺はミヅチの頭の上(見えないのでこのあたりだろうと大体のあたりを付けたのだが、問題なかったようだ)に手をやって地面に押し付け、自分も横になった。
通路からゆっくりと出てきたモンスターは直径二mあまりの球体のようなゴツゴツとした赤黒い体で空中にふわふわと浮いていた。
球体の上部には何本か触手のようなものが生えているようだ。
それに……球体の真ん中には巨大な目玉のようなものが開いていた。
その下には凶悪そうな牙の生えた大きな口も見える。
通路の出入り口あたりで獲物を探すかのようにあっちこっちにふらふらと漂っている。
目があるくせに可視光線は見えないのだろうか?
『あっ! あれはビホ……』
知っているのか? ミヅチ。
流石は闇精人族か。
何が流石なんだかわからないけど。
『今、あいつを見てる。静かに……』
ミヅチは俺の固有技能を思い出したのだろう、静かに息を殺した。
『種族はデス=タイラント・キン、HPは一一一四、MPは三四七だ。年齢九九九歳、レベル二五……。特殊技能は、読み上げるのも面倒な程沢山ありやがる……』
小声で囁く。
『全部光線ですね?』
『え? ……ああ、全部、じゃないな。殆ど光線だ。よく知ってるな。ライトが切れる前に出来るだけ見ておく』
そう言うと俺は【鑑定】のサブウインドウを開く。
【デス=タイラント・キン:アイ=タイラント族の一種が不死になったもの。不死になる前に持っていた特殊能力の一つである魔法抵抗は魔法反射にまで弱体化され、レベルと同回数しか使用不可能になっている代わりに、加齢によるHP減衰は無くなっている。また、特徴である胴体中央部の大きな眼球は不死になった際にほぼ鉱物結晶と化しており、魔法無効化光線の能力も失われているが、同時に弱点でもなくなっている。なお、視覚も衰えており、レベルあたり一・五mにまで半減した赤外線視力しか残っていない。触手の先端の眼球も腐って濁っており、視力は中央部の眼球と同様に半減した赤外線視力しか残っていない。また、加えて脳も腐っているため知能も非常に衰えており、思考能力は野生動物並みかそれ以下にまで落ち込んでいる。そのため、会話や交渉は成立しないと思って良い。しかしながらいずれの能力もアンデッドになっている状態の長さなど当然個体差による誤差はある】
サブウインドウの二段階目も開いてみる。なにやら開けそうな場所は結構あるが、とりあえず元の種族だろうな。何か弱点があるといいんだが。
【アイ=タイラント:魔法生物。生殖能力を持たない。蟹の甲羅のようなキチン質に覆われた球状の体を持ち、中心に大きな目が一つある。この目からは前方上下左右約一五度に広がる円錐状の魔法無効化光線を放つ。大きな目は見ての通り弱点(この目に直接攻撃を受けると通常の三倍のダメージを受ける)ではあるが、瞼はある。また大きな口を持ち牙での噛み付きも得意である。球体に近い胴体の上部には眼球のついた十本の触手を持ち、それぞれ異なった効果を放つ魔法的な光線を直線状に放ってくる。光線の種類は遅延、睡眠、魅了、浮揚、石化、挫傷、恐慌、分解、死亡、強毒だが、いずれも魔法的な効果を持っている。そのため、魔法抵抗と各種視力以外のいずれの特殊技能も使用には通常の魔法行使同様に魔力を必要とする。射程は本体から放ってくる魔法無効化光線と同等で、レベル当たり二mである。非常に知能は高いがその性質は基本的に悪であり、非常に狡猾で直情的な行動はほぼ行わない。視覚は通常の可視光線を捉えるものと赤外線及び放射線、X線も捉えられる】
ああっ!
目玉野郎が通路に戻っていってしまった……これ以上の【鑑定】は無理だ。
特殊技能も見ておきたかった……。
『ふーっ……。あいつは……やばいぞ……』
今まで会ったことのあるどんなモンスターよりも強敵だ。
ヴァンパイアとかフランケンなんかあいつと比べたら赤子と一緒だ。
アンデッドと化して生前より弱体化している部分も多くなっているようだが安心出来るような相手ではない。
だが、今までと違ってしっかり【鑑定】出来たことは非常に大きい。
しかし、鉱物結晶か……。
ここは何としても入手したいところだ。
『アルさん、あいつはビホ……ドゥゲイザーです。do gaze で見つめるとかそういう意味ですね。それに er という接尾辞をつけて動作者名詞にしているんです。本物を見るなんて……感動です』
こいつはアホか?
どこの世界にモンスター見て感動する馬鹿が……目の前にいるし。
『それ英語じゃねぇか。しかも do なんて助動詞はいらねぇし。まぁ、完全に間違ってるとまでは言えねぇけど』
『do を付け加えているのは様式美です。英語なのは……って、あれ? 気が付いてなかったんですか? この世界のモンスターとかってゲームとか伝説とかに出てくるのばっかりですよ? 特徴も大体一致してます』
あ、それ、昔クローから聞いたことあるな。
まぁ、ステータスオープンや魔法がある時点でそんなこと聞かされてもちっとも驚かないが。
『人生の記憶は失ってましたが、こういった知識は失ってはいなかったので、私は今までモンスターと戦っても生き残れていたようなものです』
なんだ、こいつ、思った以上に役に立つな。
辞書みたいな奴だ。
そう言えばゲームが好きだって言ってたしなぁ……。
『お前、ポイントプラス一な』
少し感心して言った。
『もっと褒めてもいいんですよ』
自慢気に言うな。
だが、ナイスであることは間違いない。
『あいつの弱点は?』
『ありません。強いて挙げるなら中心の大きな目玉ですね』
……。
『やっぱポイントは取り消しだ。でもあいつ、アンデッドらしいぞ。アンデッドじゃない、生身の奴の方が総合的には強い感じだな。魔法の反射能力を持っているみたいだが、あと二四回しか使えないっぽいし、他の光線もアンチマジックフィールドで何とかなりそうだ。光線だから氷は論外としても魔法反射を使えなくさせてから土に埋めちまえばなんとかなりそうだな』
『ほほう、ところでさっきHPとかMPとか言ってましたけど、その数字って高いんですか?』
今までは能力値の解説なんてしてなかったから(話題の殆どはお互いの身の上話だった。戦闘の形跡のない餓死者だと思われる死体がちょこちょこ見られたのでモンスターが居そうにないと思われたし、自然と相互理解を深めるために、話題はそれまで過ごしてきた人生の内容になりがちだった)話していなかったが、当たり前の疑問だろう。
『HPは……千百……まぁ千百ちょいでいくつだっけな。はっきり言って無茶苦茶だ。普人族の場合、三〇歳くらいがピークなんだが、それで一一〇とか多い人でも一二〇とかそんなもんだ。歳の割にレベルが高いからだろう、お前は一一〇だ。それから、MPも三五〇近くあったし、これも規格外だ。一流の魔術師で五〇とか六〇とかそのくらいだしな。お前はなんでか知らないが二五二もあるけどな。まぁ、大方の予想は付くけどよ』
簡単に判り易いと思われる数値から話をした。
『うひゃ、そりゃあ大したものですね。でも、どうしましょう?』
『逃げるか戦うかしかないけど、あの柱の中が部屋になっていて、どうやらあいつが部屋の主らしいから選択不可能だ。あいつを躱して走り抜けたとして転移の水晶棒を掴むまで背中を向けるわけには行きそうにないからな。だから、戦うしかない』
俺ならMPを多少無駄にしても背中にもアンチマジックフィールドを張れるし、何より走りながら魔法が使えるから、躱して逃げるという選択もあるっちゃある。
しかし、鉱物結晶ってのが俺の心を惹きつける。
水晶とかなら最高だ。
水晶って鉱物だよな?
『ざっと作戦を立てた。二人しかいないから取れる作戦は基本的には二つだけ。一つは逃げながら奥にあるであろう転移の水晶棒を使って転移する。だが、これはあの奥に水晶棒が無かったら詰むから却下だ』
『そうですね』
弱点らしい弱点が無いとまで言い切った相手に対して、ちょっと意外だったがミヅチは素直に納得してくれた。
尤も、あの鑑定内容を見てなくて、こいつくらいのMPがあれば勝てるとは思っているのだろうが……そんな生易しい相手じゃないと思うけどな。
『で、残った選択肢である「戦って勝つ」ということしかないんだけど、ここでは作戦とも言えないような作戦しか立てられん。胴体の上の触手から……』
『光線出すんでしょ? 死ぬとか石になるとか塵にされちゃうとか凶悪なやつ』
本当にこいつ、よく知ってるな。
『よく知ってるな……。その通り。だが、これは魔法的なものらしいからアンチマジックフィールドで防げるはずだ。だから俺が盾になる。お前は俺の後ろから隙を見て魔法で攻撃しろ。二四回、最悪でも二五回当てりゃ魔法反射は使えなくなるはずだ。それから魔法で仕留める。いいか、くれぐれも魔力を切らすな。戦闘中に我を忘れたら死ぬぞ』
『わかってますよ、もう……でも、二〇回以上魔法を当てるとなると威力は望めませんよ?』
『威力は別に高くなくてもいいんじゃないか?』
『なら大丈夫だと思います』
『ああ、あと、多分中はドーナツみたいになってるはずだからその中をぐるぐる逃げながら戦うぞ。可能なら土壁を造って光線を避ける障害物も作るが、これはあんまり期待するな。いくらなんでもアンチマジックフィールドを使いながら別の魔法は使えない。万が一行き止まりになってたら仕方ない。俺がアンチマジックフィールドで奴を包み込むから、その時は……お前が殴り殺せ』
『その時は可能なら目玉の触手から切り落とすようにします。対ドゥゲイザー戦闘の常套手段です』
『そうか、わかった。じゃあ、一応長期で光るライトの石を四つ用意する。それは俺が持つ。ドーナツを移動中にばらまいて明かりにする。そうしながらお前はとにかく攻撃魔術を当てるようにしろ。最初だけは俺も攻撃魔術を使う。多分八発当てられる。わかったな?』
『……わかりました』
呆れたように返事が返ってきた。
俺のジャベリン系の攻撃魔術は八本同時の弾頭までは練習してあるのだ。
『よし、行くぞ』
立ち上がって言う。
魔法反射は既に一回使わせているが、どのくらいのタイムラグで回復するかわかったもんじゃない。
急がないとな。
土や氷で埋めようにも魔法反射がどういうふうに働くか想像も出来ない。
土塊や氷塊が撒き散らされたらこっちまで危ないかも知れない。
あくまで最後の手段だろう。
それに、短くなっているらしい視界外からの攻撃魔術の連射攻撃も考慮はしたが、どの程度の個体差で残っているのか不明だったので採用はしない。
触手の目玉ごとに赤外線視力の長さも異なっていると思った方がいい。
触手の向きによっては最長である七五mの距離を見通せる可能性があることを忘れてはいけない。
七五mという距離は中央の柱に隠れない限り必ず視界内に入る。
アンデッド化して視力範囲が最低に落ち込んでいると仮定しても、ドーナツの内側に張り付かれたらほぼ視界内だ。
・・・・・・・・・
再び柱の入口の通路の脇にまで用心しながら戻った。逃げる途中で使った誘導灯のようなライト自体はとっくに消えていたが、長期ライトの石の灯りが残されているうちにそこまで戻り、もう一度柱までたどり着いたのだ。
念のためもう一個長期ライトの石を作り、柱の根元に置いておく。
そして、計画通り更に四つ長期ライトの石を作るとそっと通路を覗き込んだ。
当然真っ暗に近く、よく見えない。
確か、既に可視光を感じることが出来ないようになっているから、ライトの光には反応しないだろうと思い、そこは安心していた。
そっと左手を伸ばし、手に持った長期ライトの石で通路を照らした。
やはり通路自体にはいないようだ。
通常の部屋の主のように獲物を見失って定位置(?)に戻ったのだろう。
一度後ろを振り返ってミヅチに頷き、意を決して通路に足を踏み入れた。
すぐにドーナツ状の部屋に入ると同時に長期ライトの石をひとつだけ放り投げる。
いた。
ドーナツの右方向の奥、六〇mくらいだろうか。
中心部の柱の影に隠れそうな位置だ。
球体の胴体中央部にある筈の大きな眼とでかい裂け目のような口は見えない。
相変わらずふわふわと浮いているようだが、石を投げた物音に反応したようでゆっくりと回転し始めている。
すかさずフレイムジャベリンを叩き込む。八本の火の投槍が一瞬にして目玉野郎に到達し、やはりその手前で八方向に弾け飛んで消えた。
俺は投槍が到達する前にアンチマジックフィールドに目玉野郎の魔力のほぼ倍、MPを七〇〇ばかり注ぎ込み板状のバリアーのような対魔法防御壁を作り上げる。
この魔力量と形状は昔、姉ちゃんの修行にさんざん付き合ってきたから、発動までは一秒とかからない。既に達人の域に達している。
そして【鑑定】で目玉野郎を見た。【特殊技能:魔法反射17】畜生、もたもたしているうちに使用回数が回復してやがった。
最長でも一〇分程度で回復するということか。まぁいいだろう。
ミヅチがフレイムアローを放ったようだ。俺の右脇一mくらいのところを火の矢が飛んでいった。
すぐにアンチマジックフィールドを変形させて右に伸ばす。
見事にフレイムアローは目玉野郎を貫きそうになるが、これも手前で弾かれて天井へと飛んでいって消えた。
あと一六回か。
完全に目玉野郎が振り返った。
さぁ、本番だ!
薄紫色のアンチマジックフィールドのバリアーに魔法を打ち消した証である小さな電光のような光が走った。
これが何らかの光線なのだろう。
目玉野郎のMPは三四七だったのが三三五になっている。
何ら圧力がある訳ではないが一歩後ろに下がる。
続いて赤い光が目玉野郎の上部の触手の先端にある腐って濁った感じの小さな眼球から発射された。
一瞬にして俺のアンチマジックフィールドに阻まれて消えたが、さっきは光が見えなかった。
無色の光線もあるのか……。
尤も有色だったとしても発射された光線を見て躱すなんてどう考えても出来そうにない。
これ……ミヅチが顔を出して攻撃魔術を発射する隙なんかないんじゃないか?
『おい、作戦変更だ。あ、いや、大丈夫だ。隙がないみたいだから攻撃はしなくていい。このまま少しづつ後ろに下がるぞ』
このままじゃまずいと思ってアンチマジックフィールドのバリアを展開したまま通路に戻ろうとした。
その間に五発ほど光線を受けたようだ。
目玉野郎のMPはあっという間に激減し、二七六になっている。
全部光線を受けてMPを切らしてやる。
目玉野郎は流石に野生動物並みの知能しかないからなのか、光線を連発してきているようだ。
目の前に張ったアンチマジックフィールドの表面に次々に電光が走った。
浮遊する移動速度も大人が早足で歩くくらいだ。
既に目玉野郎のMPは一五一だ。
俺たちは奴との距離を三〇m程度に保ったままゆっくりとドーナツの中で後退していった。
十歩ほど後退したときに、ついに光線を放つのを諦めたようだ。
しかし、まだ目玉のMPは六四も残っていた。
まずい。
野生動物だって闇雲に攻撃を続けるわけじゃないだろう。
無駄だと悟ったら、次はどうする?
……隙を狙うしかないだろうよ。
『どうします? 魔術を放ってみましょうか?』
『お前はミサイルが使えないからダメだ。俺のアンチマジックフィールドの影から出たら瞬間的にあの光線に食われるぞ……』
『しかし……』
にらみ合ったまま早足で後退を続ける。
やはり、このスピードがこいつの限界なんだろう。
そろそろドーナツ内部を四分の一周くらいしそうだ。
ああ、指向性対人地雷が欲しい。
地雷があればそれでダメージを与えられるだろう。
こいつが反射出来るのは魔法だけだろうし。
いつか遅延信管を含む電気信管や電気雷管の開発も考えるべきだ。
電気ならライトニングボルトで作れるんだしな……。
ライトニングボルトクラスの電流や電圧なら適当な金属線でも数百メートル程度電気流すことなんか訳ない筈だ。
今手に入らない物なんか考えても意味はない。
小康状態ではあるが、持久戦にはしたくない。
思い切ってドーナツの外壁に張り付き、目測だけで赤外線視力の射程外まで離れて攻撃するか?
光線イコール視線なんだろうし、視力はレベルの一・五倍しか残っていないみたいだから四〇mくらい離れれば……最初に考慮したが、誤差がないと仮定しても少し目測を誤っただけできっと簡単に死ねるよな。
やはり却下だろう。
ん……?
ミヅチはミサイルが使えない。俺は使える。
そしてミヅチは全元素の魔法の技能を持っている。
まだMPに二〇〇以上余裕も有る筈だ。
『おい。お前、アンチマジックフィールドは強力に使えるか?』
『そりゃ使えるとは思いますが、あんまり練習してませんから発動には時間がかかりますし、私、歩きながら魔法は使えませんよ』
……ダメか……。
あんまりやりたくなかったが、奴が近づいてくるのを待つか、こちらから接近してアンチマジックフィールドで包み込んで殴るしかないのだろうか?
魔法反射はアンチマジックフィールドにも効果があるのだろうか?
いや、待てよ……。
別に大したこと思いつたわけじゃないのであんまり期待しないでください。




