第六十四話 父親
7444年1月17日
突き出した左手から青白い電撃が迸る。
一瞬にして電撃は先頭の長剣と丸盾を装備した奴に命中し、瞬間的にそいつを青白い電気の檻に捕らえた後、すぐに二方向に分裂してその後ろから走ってきた二人に命中した。
そして再分裂したが、今度は四人に命中したのではなく、更に後方の二人に命中した。
単に目標が足りなかっただけだ。
そして更に分裂し、もっと後方にいる弓を構えて二射目を放とうとしていた四人に命中して目標を失い、分裂せずに消えた。
「アルさん!」
ベルの叫び声が響き渡った。
俺の使った連鎖電撃の音に気が付いて、同時に襲撃者たちがいることにも気が付いたのだろう。
ベルに構っている暇はないし、のんびり【鑑定】してウィンドウを読んでいる暇なんかもっとない。
先頭の長剣と丸盾装備の奴は分裂前の収束したチェインライトニングの直撃を受けたのだからまず死んでいる。
その後ろの二人もおそらく死んでいると見ていいだろう。
問題はその後ろの槍を装備している奴と段平の奴、そして更に後方にいる弓を使ってきた四人だ。
ファイアージャベリン!
フレイムジャベリン!
アイスコーン!
ウェッブ!
今は電撃を受け、筋収縮で痙攣しているようだが、いつ復活するか分かったものではない。
魔法の槍をそれぞれ槍を装備している奴と段平の奴にぶち込んで確実に殺し、弓の四人組には氷刃乱舞をまとめてお見舞いしてやった。
運が良ければギリギリ生きてはいるだろう。
その時は締め上げて襲撃の理由を吐かせるだけだから、数人残っていればいい。
吐かせた後はきっちりカタをつけるが。
仕上げに繭網の魔術で地に伏した状態で拘束もしたのでまず大丈夫だ。
右足の腿の裏と右の二の腕に矢が刺さったままだが、毒は中和済みだし、後で誰かに抜いてもらってから完全治癒二回で傷跡一つ残さずに治療可能だろうからまずはアイスモンスターをさっさと殺すのが先決だ。
再度振り返り、アイスモンスターの方に目をやる。
全員まだ動いている。
どうやら矢の目標にされたのは距離が近く、奴らの入口の正面に走り込んできた俺だけらしい。
視界の隅っこにベルが弓を放り投げ、歩兵用の剣を引き抜いて俺の傍に駆け寄って来ているのが見えた。
ファイアージャベリンミサイル。
今度こそ狙い違わず燃え盛る槍をアイスモンスターの背中にぶち込んだ。
よく見るとラルファが片足を引き摺るようにしていた。
エンゲラも左腕が肘の先から妙な方向に曲がっている。
ズールーは特に問題が無いようで、両手剣を尻尾に振り下ろしていた。
グィネはラルファを援護するように槍を突き出している。
トリスもアイスモンスターの向こう側でそれなりに敏捷に動いているのが見えた。
ゼノムは一人、頭のすぐ前に居て下から手斧でガンガン突き上げていた。
くそ、あのタイミングで援護出来なかった為に、エンゲラが尻尾か何かの攻撃を躱しきれずに食らったんだろう。
ラルファはそれに巻き込まれでもしたのか?
とにかくもう一度ファイアージャベリンミサイルを白いトカゲの首にぶち込んでやったら、ゼノムが狙いすました一撃を頭に叩き込んだ。
死んだようだ。
【】
【男性/14/6/7438・フロストリザード】
【状態:割創・切創・熱傷・挫傷・刺創】
【年齢:5歳】
【レベル:11】
【HP:-4(268) MP:11(11)】
【筋力:46】
【俊敏:12】
【器用:20】
【耐久:80】
【特殊技能:氷の息】
なんて奴だ。
HP無茶苦茶高ぇ。
まだ死んではいないがHPはマイナスだし、とりあえず放って置いて問題はない。
「トリス、ズールー! ラルファとエンゲラを連れて来い」
そう言って再度振り返る。
一人目、普人族の死体。ああ、ダメージが激しすぎたのか。南無。
二人目、ロックアルド・ベンクス、レベル一六【状態:死亡】ヘルメットを被っていない。
三人目、ジアルド・ロンゲール、レベル一六【状態:死亡】尻尾を鑑定した。
四人目、サマンサ・ラウグアイ、レベル一五【状態:死亡】傷口を鑑定した。
五人目、カーミアリス・ドングラヴス、レベル一六【状態:死亡】こいつも尻尾を鑑定した。
ふん、まぁいい。
「抜きますよ、我慢してください」
ベルが俺の腕の矢を引き抜いた。
「ぐっ」
痛ぇ。クソ。
「むっ」
続いて腿の裏の矢を抜いた。
マジ痛い。
すぐに矢の貫通したズボンと袖に指を突っ込んで治癒の魔術で傷を塞ぎ、治療をする。
痛みは残るが仕方ない。
「ごっ、ご主人様! こいつらは……」
「ご主人様! お怪我を!?」
エンゲラと彼女を連れてきたズールーが絶句している。
ああ、バルドゥックの迷宮に入ってから、うん、彼らを買ってから俺が負傷したのを見たのは初めてだろうしな。
ま、大して意識しなけりゃレベルアップに害はないだろうよ。多分だけど。
「ああ、まずエンゲラか。どれ」
「ひぐっ……」
エンゲラの腕を正常な位置に戻しながら袖を切り裂き患部に手を当てて治癒の魔術をかける。
エンゲラの顔が痛みに歪んだが、この程度の骨折、よくやってるだろ、我慢してくれ。
「アルさん! 大丈夫ですか!? あ! こいつら……」
「アル……」
ベルに矢を抜いて貰っている所を見たのだろう、右足を引き摺るラルファに肩を貸していたトリスが慌てたように喋っていたが、ガーゴイルの死体をはさんで祭壇の反対側に累々と倒れている死体を見て息を呑んだ。
ラルファは痛みに顔を顰めている。足かよ。面倒臭ぇな。
「ラルファ、打ち身か? 骨折か? どちらにしろ治してやるからズボン脱げ」
「……ん、骨折はしてないと思う。歩けるし。自分でやるからいいよ」
ならいいや。
別にこいつの足を触りたいわけじゃないし、ラルファも今更恥ずかしがっているわけでもないだろう。
今迄何度もやってるし。
だけど、痛みで青くなったラルファのHPは四割近く減っている。
死ぬような怪我じゃないから今はいいか。
事が済んでからまだもたついている様ならその時は強制だが。
「そうか、辛かったら言え」
そう言ってズールーを見て命じる。
「ズールー、入口に四人固めてる。死んでるならいいが、生きてるようならまだ殺すな……あ、いいや、やっぱ俺が行く、付いてこい。魔法使えたら厄介だ」
ズールーの返事を待たず、再度振り返り、声を上げる。
「ゼノム、グィネ、トカゲ野郎の始末だけしておいてくれ!」
「おう!」
「はい!」
返事するより前からゼノムもグィネも止めを刺すべく得物を振り下ろしている。
あ、グィネは振り下ろしてはいないか。力いっぱい突いている。硬そうだな。
「ベル、今のうちに弓を拾っておけ。トリスも付いて来てくれ」
そう言うとこちら側に頭を向けてうつ伏せに倒れながらウェッブで拘束されている二人を見た。
どちらも帽子のような金属プレートを嵌めた皮のヘルメットを被っているので【鑑定】は出来ない。
後の二人は頭がこちら側でないので傍まで行かないと【鑑定】は無理だ。
俺はトリスとズールーを従えてウェッブで拘束されている四人に向かって歩き出した。
銃剣を手に一応用心しながら近づく。
多分生きてるのは二人だろう。
微妙に動いている。
うつ伏せの一人と頭を向こうに向けている一人だ。
まずうつ伏せの動いてないやつの背中を銃剣で突き刺した。
傷口を【鑑定】する。
マーサルック・リンゴーン、レベル一四【状態:死亡】
次に頭が向こう側の奴を突き刺してその傷口を【鑑定】する。
ジョバンニ・ログミット、レベル一六【状態:電撃傷・切創・刺創】魔法の特殊技能のレベルは水と風魔法が二と無魔法の三だ。
こいつ、ギリギリ生きてるな。
HPはマイナスに突入しているからアイスコーンで切り裂かれた傷からの出血を治療しない限りあと十分くらいで死ぬ。
放っておこう。
さて、本番だ。
動いている奴を突き刺し、同様に傷口を【鑑定】する。
「ぎゃああああ!」
リムル・ヘイデンス、レベル一七【状態:電撃傷・切創・刺創】HP残り八。
魔法の特殊技能は地魔法が三と水魔法が四に無魔法も四だ。MP残り五。
もう一匹。
「ぐむっ!」
ジャンコート・デミトリダス、レベル一八【状態:電撃傷・切創・刺創】HP残り一一。
魔法の特殊技能は地と水が三、火魔法が四、無魔法が五だ。MP残り三。
とりあえずコイツの鑑定ウインドウを出しっ放しでいいか。
「おい、糞共。喋れるなら返事をして俺の質問に答えろ」
二人共返事をしない。
「ああ、返事が出来ないのか。気の毒にな。そんな大怪我なら生きてても仕方ないからひと思いに殺してやる」
俺がそう言うと、
「助けて、助けてください」
という弱々しい女の声と、
「糞……なんでまだ魔法が使えるんだ……見誤ったか」
という男の声がした。
「おい、輝く刃さんよ。あんた、リーダーのデミトリダスだよな?」
俺がそう言うと、
「それがどうしたよ、小僧……」
とか抜かしやがった。
「やっぱりか。噂通り他のパーティーを襲ってるんだな。本当だとは思わなかったぜ」
そう言って足の傷口を踏んでやった。
「グッ! ギッ!」
HPが一〇になった。
「ま、いいや。よう、おっさん。いきなり背中から矢を撃ち込んで来るとはどういう了見だ? おかげで俺のパーティーにも怪我人が出ちまったじゃねぇか。殺されても文句はねぇよな」
ベルとラルファ、エンゲラの女性陣も集まってきたようだ。ラルファはまだ顔色が悪い。こいつ……。
「おら、なんとか言え」
そう言ってまた乱暴に足の傷を踏みつける。
「グオッ!」
「しかも、ご丁寧に矢に毒まで塗ってやがったよな……」
俺の言葉を聞いてズールー達が色めき立ったようだ。
「毒だって?」
「ご主人様……」
「大丈夫ですか?」
「結構血が出てるね」
最後のは俺のズボンと腕に染まった血を見たラルファのセリフだろう。
「ああ、傷はもう治したし、毒は抜いたから心配ないよ。だけどさ、こいつらのおかげでエンゲラとラルファがいらん怪我をしたのは確かだ。もっと確かなのは戦闘中にこそこそと後ろから俺に毒矢を打ち込んできやがった事だけどな」
俺はズールーを見て命じた。
「おい、ズールー、取り敢えずこいつらの武装解除だな。身ぐるみひん剥け。まずこのおっさんのから行くぞ、みんな、用心しろよ。あ、武器を持っていないなら指でも折っておけ」
大丈夫、指の骨折分程度のHPは既に失ってるからそのくらいじゃ死にはしないだろう。
順々に剣を突きつけながらウェッブを解き、武装を解除していく。
デミトリダスとヘイデンスの二人を下着姿になるまでひん剥いて、改めてウェッブで拘束した。
残っている半死人と死体からも武器や鎧で使えそうなものは全部集めた。
その頃にはゼノムとグィネも集まってきた。
「よし、ウェッブはまだ当分保つから、取り敢えず魔石だな。悪魔石像とトカゲから魔石を採ろう。その後は……」
祭壇の上にある祠を見る。俺に釣られてみんなも祠を見た。あれは……おお! 宝石の原石じゃないか!? 素晴しいな!
マジックアイテムじゃないっぽいのが残念といえば残念だが、こればかりは運だしね。
「ゼノムとズールーはトカゲを頼む。トリス、グィネ、エンゲラは俺と一緒に悪魔石像の方だ。ベルとラルファは祭壇を調べてくれ」
俺はベルに目配せしながら言った。
多分ラルファは今更俺達の前でズボンを脱ぐ事くらいは抵抗がないんだろうが、輝く刃の奴らに見られたくなかったんだろうな。
死んでるかどうかなんて一目見たくらいじゃ解らないだろうし、俺がおっさんと話しているのもすぐにわかっただろうから生存者がいるのは確実だしな。
祭壇の裏に行けば大丈夫だろ。
俺達はそれぞれ魔石を採りに行く。
皆輝く刃の生き残りに注意を払い、用心を怠ってはいない。
「おい、魔法使ってもいいぞ。その時は殺すがな」
と俺が振り返って言った。
あとはさっさと魔石を採り、お宝を頂いて引き返すだけだ。
ついでに言うと、輝く刃のメンバーの死体の魔石も採るべきだろうと思っている。
魔石の採取には三〇分程かかった。
因みに死体の魔石はズールーとエンゲラに採らせた。
だって、やっぱ抵抗あるじゃんか。
途中で詳しい事情を聞いたのだろう、グィネの「ええっ? そんな……」という声とゼノムの「何だと!」という胴間声が響き渡った。
ベルは俺の目配せを正確に読み取ってくれたようで、祭壇の裏にラルファを引っ張っていってから二人で治癒の魔術を相当使ったようだ。
二人共MPがかなり減少していた。
そして、その手に握られた赤い原石。
ルビーだ。
【鑑定】だと価値は三九〇万くらい。Zに換算すると三九〇〇万Zか。
多分買取は半額くらいだろうから一九〇〇~二〇〇〇万Zってとこか。
こりゃすごい!
「さてと……。おい、おっさん。これ、なんだか判るよな? そう、お前らが俺に打ち込んでくれた毒が入っている瓶だ。で、今、お前さん達は体中に傷を負ってる。ああ、顔も切り傷だらけだな」
二人に見せつけるように瓶の蓋を取り、傾け始める。
「やめろっ!」
「ひっ!」
ものすごく怯えた表情だ。
傾けた瓶を戻す。
ちらっと全員の顔を見た。
全員、怒りの表情や、能面のような無表情が目立つが、グィネだけは一人怯えた表情をしている。
ふむ……。
「アル、俺に貸せ」
と言ってゼノムが横からさっと瓶をひったくると、どばどばと二人の顔に掛けてしまった。
あっという間だった。
「貴様ら、助かるなんて思ってないだろうな。ふざけるな。ラルファはしなくていい怪我をしたんだぞ!」
ああ、そう言う事っすか……。
ま、俺も殺すつもりだったから別にいいけどさ。
「うわ、うわぁぁぁぁぁ!」
「いやっ、いやぁぁぁぁぁ!」
ゼノムの台詞は途中でこいつらの恐怖に濁った叫び声に掻き消されそうになったが、しっかりと聞こえていた。
「死ね!」
ゼノムは続けて毒に苦しむ二人の頭に斧を振り下ろした。
脳漿が飛び散った。
顔を背けなかったのはゼノム本人と俺とラルファ、ズールーとエンゲラだけだった。
因みに今日の迷宮探索で俺とトリス、グィネのレベルが上昇した。
いっちゃん先頭で超高電流高電圧で黒焦げにしてやった奴の装備だけは一部溶融したりしていて使いもんにならんから放っておくしかないが、トップチームの一角だけあってこいつらの使っていた武器なんかそこそこ良いのがある。
交換出来るような品もあるだろう。
金属帯鎧みたいな高価な鎧まであるしな。
持って帰るのが骨だが、嬉しい苦労ってもんさ。
あ、瀕死だった奴(名前なんか忘れた)はきちんと死んでた。




