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不思議な槍

箝口令が敷かれたのか……、

塩鉱山の件は、ギルド内で話題にもならなかった。


ただ、少しずつではあるが、

高レベルダンジョンに行くから、

パーティに参加してくれないかという声かけは出てきた。


もちろん、俺はその都度断った。

高レベルダンジョン。

なんでそんな所に行く。

俺にはまったく理解ができなかった。


「最近、パーティへのお誘いが多いのではないですか?

セルさんを誘ったが断られたと、愚痴っている人いましたよ」

受付嬢は言った。


「だって、高レベルダンジョンに行きましょうとか、誘われるんですよ」


「ゴブリンナイトを一人で討伐って、噂になってましたからね」


「本当ですか?あんなのまぐれなのに」


「まぐれでも、ゴブリンナイトを一人で討伐なんて、かなり上のクラスの冒険者と同等クラスの扱いですよ」


「とは言っても……」


「ダンジョンは行かないのですか?」


「行きませんよ。だってあの洞窟ですら、騎士団がいるから、入ったようなものですよ」


「そうなんですね。でもダンジョンとか、お宝があるかもしれないですよ」


「あんまり興味ないんですよね」


受付嬢は俺の装備をチラ見する。


「装備とかも、ぜんぜん変わってないのでは?」


「そうですね」


「近接用の武器。村長さんにもらったこん棒でしょ」


「そうですね」


「ゴブリンナイトを倒した強者の装備品が、こん棒って、逆に目立っちゃいますよ」


「逆にか……、近接用の武器で、怖くない。しかも覚えるのが早い武器ってあります?」


「槍ですね」


「槍ですか……、なんか難しそうだな」


「おぉセル。槍の話をしているのか」

ギルドマスターがやってきた。


「こん棒だと逆に目立っちゃうって言われて」


「たしかにそうだな。まぁ槍を覚えるのはすぐだぞ。極めようと思えば、時間はかかるけどな」


「そうなんですか?」


「俺はもともと槍を使ってたからな」


「あの大剣じゃないんですか」


「あの大剣はな。ダンジョンで見つけてな。あまりにもカッコいいから、槍をやめて大剣に変えたんだ。そうだ。槍を使うなら、俺のお古をやろう。ついでに教えてやる」


「えっ良いんですか?」


「あぁセルは他の冒険者が嫌がる業務を、積極的に引き受けてくれるからな。たまには礼をさせてくれ」


「そんな。十分稼がせてもらってますし。でも槍は頂きます。指導もお願いします」


「あぁじゃあ、ちょっと待て、今から指導をしてやる」


……


「まずこれが槍だ。これをやる」


「ありがとうございます」


見た目より軽い感じだ。

よく見ると、不思議な文様が入っている。


「なんか不思議な槍ですね」


「そうだろ。これはダンジョンで拾ったもので、近くに白骨死体があった」


「という事は、その人が持っていたものなのでは?」


「あぁそうだろうな」


「良いのですか?」


「お前も指輪を拾ってきただろう」


「たしかに……」


「しばらく使っていたがな。軽くて扱いやすいが、俺には軽すぎた。武器屋も引き取らないしな」


なるほど。

またなんか事情がありそうな槍だな。


俺は、

ギルドマスターの指導を受け、

槍のトレーニングを始めた。

ギルドマスターの指導は的確で、わかりやすかった。


それからは、

別のゴブリン討伐の依頼を受けた。

投石器で倒す討伐方法は変わっていない。

討伐するのは、一日一匹だけだ。

槍と投石の練習は続けている。

魚を気絶させる練習はやめにした。

槍はまだ実戦で使っていないが、

槍はずいぶんと使いこなせてきている気がする。


俺はいつものようにホークの店に行く。


「いらっしゃい」


「ホークさん。定食で」


「あいよ」


定食が届く。


「いただきます」


「そういえば、お前。槍を使い始めたのか?」


「槍はまだ実戦では使ってません。投石器のみです。近接戦の場合、こん棒だけだったのですが、逆に目立つぞと言われてしまい、槍を習うことになったのです」


「誰かに習っているのか?」


「ギルドマスターです」


「そうか。あいつにか……。教え方上手いだろ」


「はい。ご存じなのですか?」


「昔な。何度か臨時のパーティを組んだことがある」


「そうなんですか」


「あぁ。その槍をちょっと見せてくれ」


「はい」


「これをどこで手に入れた?」


「ギルドマスターから頂きました。この槍をご存じなのですか?」


「あぁうちの部族の槍だ。ギルドマスターはどこで手に入れたと言っていた?」


「ダンジョンで、白骨死体の近くにあったと……」


「そうか……。なぁこの槍は大事にしてくれ。どこかに売るなら、俺が買い取る。だから粗末には扱わないでくれ」


「武器として使うには?」


「それは構わない。武器も喜ぶだろう」


俺は槍の事を聞こうかと思ったが、やめておいた。

厄介ごとに巻き込まれるのは、

性に合わない。


「ホークは槍を使うのですか?」


「あぁ一応な。そうだ。この槍は使い方が少し特殊だ。教えておいてやろう」

ホークはそう言い、外に出た。

俺は後をついていく。


「この槍は穂先に微妙な返しがある。だからこの返しを使い、ダメージを増幅させることができる」


「おぉ、なるほど、でもあまり押し込むと、返しのせいで、抜けにくくもなりますよね」


「その通りだ。だから周りに敵が残っている場合、押し込まず、表面の数センチほどで留めて、素早く抜き、そぐように戦うほうが良いだろう」


「致命傷を与えるより、徐々に体力を削る感じですね」


「一頭だけなら、致命傷狙いでいいぞ」


「わかりました」


俺は食事を済ませ、店を出た。


それからも、俺はゴブリンを討伐し、投石と槍の練習をし、ホークの店で定食を食った。

蜂部屋で寝て、またゴブリンを討伐する。

時間が空くと、河原に出かけて、ボーっとした。


毎日、同じ作業の繰り返し、

サラリーマン時代と同じだ。

それでも、少しずつ成長はあり、

世界はゆっくりとだが、変化していく。


合理化した事で、仕事が異常に増える事もない。

槍の練習が増えたくらいだ。


多くはないが、ゴブリンの討伐報酬も入ってくる。

塩の報酬も毎月入ってくる。

利息も毎月入ってくる。


薄く薄く。

俺は変化している。


そのスローさがたまらなく心地よかった。


END


ここまで読んでいただき、ありがとうございました。


この作品は完結していますが、

反響があれば続編を書く可能性があります。

ブックマークしておくと、もし更新された場合に追いやすくなります。


■坂本クリア作品

異世界・現代・コメディなど様々な物語を書いています。

次に読む作品はこちらから探せます。


坂本クリアの小説まとめ|全作リンク集

https://mypage.syosetu.com/mypageblog/view/userid/2898515/blogkey/3591538/


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