表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
1/12

おひとりさま

コミュ障だから、おひとりさま。そう言われる事もある。

だが俺の場合は違う。

コミュ力はある。

でも基本的に人に合わせるのが面倒くさいのだ。

だから、おひとりさまで冒険者をしている。


パーティーには、よく誘ってもらう。

でもその度に断っている。

だいたい、高レベルダンジョンなんて行く必要がないじゃないか。

冒険者の、あの向上心は何なんだ?

俺はのんびりと生きたいのだ。


「おいおい。お前の言う事はわかる。でもな。パーティーは組んどけ、死ぬぞ」

ミルの声が聞こえる。


「うるさい。人と関わると、厄介事に巻き込まれるだろ」

俺は心の中で叫ぶ。


「ソロだし、怪我したら、即詰むだろ。バカかお前は?」


「バカって言う奴がバカだろ」


「俺の身にもなれよ。俺の身体だぞ」


「何を言っている。お前は死んだんだろ。早く出ていけよ」


「出ていきたくても、出ていけないんだよ」

ミルは言った。


ミルは、

俺の身体の元の持ち主だ。

半年の付き合いになる。


ミルは行商人だったが、盗賊に襲われ亡くなった。

そして、

俺がミルの身体を使うことになった。


どういう理由かはわからない。

俺にある前世の記憶は、

サラリーマンだった。

定年退職を迎えた。

独身だった。

そのくらい。

どこで死んだのかはわからない。

そして、

どういう経緯でミルの身体に入ったのか。


そういう事がまったくわからないのだ。


「あのさ。冒険者なんぞ、やめて、行商人になれよ」

ミルは言った。


「行商人は、儲かるかもしれない。でも盗賊に襲われて、お前も亡くなったじゃないか」


「それを言われると、痛いんだけどな」


「それに、お前も行商人で、おひとりさまだっただろ」


「まぁ、そうだけどな。でも冒険者は危険だろ」


「じゃあミル。何の仕事がある。農家か?」


「それも良いな」


「土地が必要だし、小作だと、搾取される」


「じゃあ、冒険者で稼いで、土地を買い、農家をすると良い」


「農家なんて大変だ。汗水垂らして働かなくてはいけない」


「本当にお前は、労働を嫌がるな」


「当たり前だ。ずっと働きづめだったからな。ゆっくりのんびりと生きたいんだ」

俺はそう言った。


……

『半年前』


「おい。おい。おい」

誰かの声が聞こえる。


目を開け、辺りを見渡すが、誰もいない。


ここはどこだ?

泉と、近くには森。

どこにいるんだ。


「気がついたようだな」

また声がする。


「誰だ?」


「俺か? 俺はミル。行商人だ」


「どこにいる?」


「どこにいるって……、説明しにくいな。

お前の中にいるというか、お前が俺の身体を使ってるんだよ」


「はっ? 何を言ってる」

俺は、そう言いながら、視線を落とす。

服装も体形も違う。

泉に近づき、覗き込む。


「これは誰だ」


「いや。だから、その身体は俺のだよ」


俺は身体のあちこちを触る。


「おいおい。やめろよ。そんなに触るなよ。恥ずかしいじゃねえか」


「どういう事なんだ」


「いや。だから、お前が俺の身体を使ってるんだよ」


「じゃあ、俺の身体は?」


「知るか、そんなもの。早く出ていけよ」


「いつでも、出ていってやるよ。俺は定年退職して……これからスローライフを……」


あれ?

記憶がない。


「どうした?」


「なぜ、こうなったのか、記憶がないんだ」


「そうなのか?」


「そうだ。お前はどうなんだ?」


「俺は記憶はあるぜ。さっきな、盗賊に襲われて……、

あれ。

なんでここにいるんだ?」


「盗賊に襲われたらどうなる?」


「荷物を奪われた挙句、殺されるわな」


「死んでいるのか?」


「いや……、身体は生きてるな。でも変だ」


「何が?」


「いや……、俺は旅人の石を持っていたんだ。あれがあれば、死からは一度だけ逃れられる」


「どういう事だ。身体は生きているが、俺と共有しているという事か?」


「わからない。でも俺の意思では、身体は動かせないんだ」


「俺は動かせるぞ」

俺は肩を回す。


「そうみたいだな。もしかして……」


「なんだ?」


「いや、実は旅人の石は、かなり高価なんだ。

でもある冒険者のような男に、半値で買わないかと持ち掛けられた。

商売の場合は、商業ギルドを通さないといけないんだが、旅人の石は装備品だ。売ることさえしなければ、商業ギルドを通す必要はない。だから買ったんだ」


「じゃあ、それがまがい物だったという事か?」


「いや。命が助かっているわけだから、まがい物ではないな。ただ完全な効果がない半端ものだったんだろう」


「なるほど。それでここはどこなんだ?」


「ここはフーシャー王国」


「フーシャー王国。聞いたことがないな……。日本から離れているのか?」


「日本?

どこだ、それは。

お前は外国人なのか」


「日本を知らないのか。

いや……。でも言葉は通じている。

お前は日本語を話しているじゃないか?」


「いや。これは我々の言語だ」


「そうか。身体が一体化しているから、言語の知識が共有されているのではないか?」


「わからん。お前の名前は?」


「俺の名前は……。すまん。わからない」


「お前は記憶喪失なのか」


「どうだろう。たしかに……。以前の記憶がおぼろげだ。定年退職したことまでは覚えているのだが」


「定年退職とは何なんだ?」


「仕事の年齢制限みたいなものだ。会社ではある一定の年齢になると、退職させられる」


「なんだ、その馬鹿げた制度は? 軍隊なのか」


「いや。軍隊ではない。私の国ではそれが常識だ」


「あぁ、なるほど。隣国で同じような制度を聞いたことがある。姥捨てと言って、特定の年齢に達した老人を山に捨てるという制度だ。口減らしだな。それだろ」


「いや、定年退職は姥捨て……ではない……」


「じゃあ、なんで定年退職させる?」


「歳を取ると判断力が落ちるし、年寄りがずっと上の地位にいては、若者たちが出世できない。組織の活性化のためにも、定年退職は必要だ」


「ほら、姥捨てじゃないか。完全に構造が姥捨てだ」


もし「続きを読んでみたい」と思っていただけたら、

ブックマークしていただけるととても励みになります。


本作はすべて完結済みで、安心して最後まで読めます。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ